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[No.108]
 月よ、月よ…!
【登場人物】
アトラス

アトラスは走る。走る、走る。
草を踏みしめ丸太のような足で薙ぎ、土を蹴り上げ駆ける、駆ける。
行くは南。南へ、南へひた走る。
しばらくで元来た森へ直面したが、日も落ち始め、暗く鬱蒼とした森はいかにも迷いそうであった。
アトラスは中へ踏み込むことは避け、森へ沿う形で南西にそれた。
さらに駆ける。駆ける、駆ける。今度は一直線に南西へ向かって駆け出した。
気がつけば無心であった。無我夢中、ただひたすらに駆けている自分がいた。

(何しにアトラス、今、走ってる?)
その疑問にふと気付いた時、アトラスは足を止めた。
戦いに行くはずであった。だが、行く先に当てはないのだ。気付けばただ夢中で走っていたのみ。
(何のために走ってた?)
戦いを求めるのであれば、レーベは拠点である。留まるのが正しかった。
まして、その場にいた参加者を殺さずにすらにいた。
南(アトラスは、自身の方角を南と認識していたわけではないが)には何がある?
何も無い。駆け出す先をアトラスは何も考えていなかった。
目的も無く駆け出す行為――それは獲物を求める奔走でなく、むしろ逃走と言えた。
アトラスは、それと知らず、
現実―ベリアルの死、アリーナの死、二人の死んだ地、戦い、殺戮、自らの使命―から、逃げ出していた。
(アトラス、どこに向かってる?)

辺りは一面の草原である。
森を避けたときから進みすぎたのだろう、木立は遠くにまばらにしかない。
ただただ遮る物もなく、草原。
空は漆黒と濃紺、群青を混ぜたような、夜が来る直前だけの不思議な色。
その中に浮いた花弁のように、ぽっかりと薄白の月が一つ。
月も星もさんさんと輝くにはまだ少し早かった。
あまりに物寂しい光景であった。

何もない。誰もいない。
後ろを振り返れば、レーベの村がまだ見えるだろう。だが、振り返りたくは無かった。
―虚無―
これから先に何も見出すことが出来ず、どうしたらいいかわからない。
道を示してくれるベリアルもいない。
これからの戦いに充実を感じることもないであろう。
ただただ虚ろ、空しさがアトラスの心を襲った。

だが、アトラスの心はそれを理解できない。何がなんだかわからない心のモヤモヤだった。
闇雲に駆け出す自分、殺さなかった自分、自分自身の行動も理解できなかった。
幼い子供と同程度か、それ以下のまま成長を止めた精神はそれらを理解するには幼すぎた。
 うぉぉーーーーん
アトラスは哭いた。ただどうしようもなく哭いた。
 うぉぉーーーーん うぉぉーーーーん… うぉぉーーーーん……
空には月一つ。何もない、何も無い。
 うぉぉーーーーん……… うぉぉーーーーん………
遠吠えする一匹狼のように哀切であった。

吼えながらアトラスは思い出していた、これまでのことを。一生懸命、沢山、沢山思い出した。
バズズ、ベリアル。一人果敢に挑んできた少女。
あれが最後になってしまったゼットスクリームアタック。
森で迷い途方にくれたこと。
……突然聞かされた訃報。怯えるバズズ。森で出会った竜。
確認したベリアルの死。激しい闘い……

(そうだ、あの男。エイト。)
アトラスの回想は、ようやくしばらく前まで追いついた。
ぴたと遠吠えが止んだ。
『もうこれ以上誰も死なせない!』
強い意志に燃え、向かってきた男。それが、力が敵わない者であっても。
こっぴどく打ちのめされ、身動きが取れないにも関わらず燃える瞳を向けてきた男。
―なぜ向かった?なぜ戦おうとする。
『もうこれ以上誰も死なせない!』
そのためだ。

駆け通しで汗の浮いた肌は夜気にすっかり冷えていた。
それが、再び力強く震え始めた。

―あの男は、あの男は、使命のために向かってきた!
アトラスは…?アトラスには?

ある!
戦う使命!

『参加者の中に混じり戦い、その魂を破壊神シドーの贄とせよ。』
―戦う者の魂こそ、破壊神の贄として相応しい。
 また、その命を散らせる戦いが激しければ激しいほど、贄として至上である―
アトラスは、その使命を負った"悪霊の神々(ジョーカー)"である。
バズズ、ベリアルも同じ命を負っていた。
だが、バズズは怯え切り(アトラスはトルネコの演技を信じきっている。放送も聞き逃している)、
ベリアルは死んだ。使命を遂行できるのは自分だけなのである。

右足を踏み出す。左足で地を踏み鳴らす。大地が揺れた。
両手と腹に力を入れる。
「ガォォォォーーーーーーン!」
咆哮、雄叫び。そこに弱々しさや哀しさは無かった。
(やるぞ、やるぞ!アトラス、戦う!)

モヤモヤ―空しさ―はあった。だが、どうでもよかった。ただ使命に準じるのみ。
アトラスは再び戦鬼となった。いつの間にか風が出始めていた。
アトラスは駆け始める。振り返りはしない、ただ前へ、前へ。
走っていけばいつか獲物に出会うだろう。
夜が迫り始め、また、眠りについた直後に起こされたばかりで本来なら眠気があるはずだがそれも無かった。
超万能ぐすりが眠気と疲労も取り去ったらしい。
ただ走る、走る。戦いと死を求め。
吹き荒ぶ風がよく似合っていた。
【C-2(南進中)/草原/夜】

【アトラス@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:メガトンハンマー 風のアミュレット
[道具]:支給品一式
[思考]:使命を全うする(出会った者と戦い、殺す)

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