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[No.11]
 理知の結論
【登場人物】
サマンサ、マリベル

アリアハン大陸北東の森。
木々の鬱蒼と茂る森の中、赤いフードの少女は叫ぶ。
「…冗談じゃないわよッ!」
彼女は、轟音を立てて迫り来る炎の塊を、辛くもかわした。

彼女…マリベルがこの地に墜ちて幾秒も経たない。
だが、不運にも乗っている敵…しかも相当の術者と、幾らも離れてない場所に墜ちてしまったようだ。
マリベルの姿を確認するや否や、その敵は迷うことなく火球を放ってきたのである。

「冗談じゃないわよッ!」
もう一度、叫ぶ。
呪文の威力といい唱詠の早さと言い、かなり魔術を極めているようだ。
一歩も動くことなく、此方を冷たい視線で見つめている。

愛用の帽子の傾きを左手で修正すると、女魔法使いサマンサは相手の少女を見つめた。
――なかなかの術者のようですね。
彼女の魔力のオーラは、どこか自分と近いものがある。
魔術を主に得意としている者のそれだ。

「あんたは、あんなヤツの言いなりになって人を殺すのっ!?」
「仕方ないでしょう。ここはそういう所なのですから」
少女の悲鳴にも似た叫びを、サマンサは軽く嗤った。

恐らく彼女の考え方が普通なのだろうけれど。
そして勇者アリスもまた、そういう考え方をするのだろうけれど。
――だからこそ、私が、影の道を歩く。
アリスは正義を貫こうとするだろう。
決して勝者になろうとはしない。
綺麗事を、と嘲る訳ではない。それが正義であり、勇者の存在意義であるから。
しかし…勇者の血を絶やす事など、私は認めない。
決してアリスを親友だとか、また主君だとか思っている訳ではない。
これはプライドだ。使命を投げ出すことなど、プライドが許さない。
自らの使命、それは勇者を伝説へと繋ぐこと。
――勇者が光の下を進むために、私は影の道を歩く事など厭わない。
一魔法使いの限度などタカが知れている。
しかしそれでも、私は戦わなくてはならない。

きっと最期は罵られながら死ぬのだろう。
しかしそれも悪くない、と思う。
背負わされた自らの使命を、投げ出すわけにはいかないのだから。

「ベギラゴンッ!」
まるで地割れの予兆であるように大地が揺れ、炎の波がサマンサに襲い掛かる。
マリベルが反撃に出たようだ。
「ふふ、やるようですね…ヒャダルコ!」
サマンサの放った氷が、炎を相殺する。
「さぁ、それで終わりですか?」
「うるさいっ!」
マリベルは、木を背にして立った。

強気そうな小娘だ。ただではやられてくれないだろう。
「なかなかの術者のようですが…」
手の中で爆発呪文を紡ぎだし、彼女に狙いをつける。
彼女はそれを見て、慌てて対呪文の防御壁を作る呪文を紡ぐ。
「…生兵法は怪我の元とも言うのですよ…イオラ!」
本来全体呪文であるイオの魔力を、ある一点に集中して放つ。
放たれた閃光は、彼女の上に大きく逸れた。

「ま、マホカンタですかっ!」
場違いな大声で、サマンサは驚いたように叫ぶ。
「そうよ!ま、あんたの呪文はマホカンタの防御壁にすら当たらなかったけどね!」
マホカンタの防御壁に包まれたマリベルが叫び返す。
「う、うるさい!黙ってなさい!貴女に心配されたくはないわ!」
サマンサは慌てたように叫び返す。

しかしそれはサマンサの作戦。
相手が強気な少女だからこそ、咄嗟に思いついた事。
相手の意識を会話に集中させ、『ソレ』に気付くのを少しでも遅らせること。

サマンサが放ったイオラは、彼女の背後の木の幹を吹き飛ばしていた。
支えを失った木の上部が、騒々しい葉の擦れる音とともに、マリベルの頭上に倒れようとする。

それにマリベルが気付くと同時に、サマンサはもうひとつの呪文を完成させた。
「メラゾーマ!」
倒れようとしている木の上半身、緑に茂る枝葉に紅蓮の炎を浴びせる。
火の粉の燃え移った木の葉が、マリベルに降り注いだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ」

一瞬の出来事、マリベルは避ける術も知らず、炎に呑まれた。

「だから言ったでしょう…生兵法は怪我の元ですよ」
燃え上がる木の葉と枝の中で悶えるマリベルに、目を向ける。
「呪文は、相手に当てるだけではないのですよ…」
「…こんな目…にあわせて……謝り…なさいよ…」
少女の最期の強がりを、サマンサは表情一つ変えずに聞いて。
「では。苦しまないようにするのが、私の謝罪です」
支給品の鋼鉄の剣を、マリベルの首に突き刺した。

「…手間取り過ぎましたね。早く立ち去りますか」
自分に使いこなせる武器は支給されなかった。
しかし自分は魔学の徒。あまり気にはしていない。
それにここは自分のよく知る土地だ。知らぬ土地で戦うより多少は有利になるだろう。
他の参加者が土地に慣れる前に、殺さねば。

マリベルのアイテムを、中身を確認しないまま回収し、早足でその場を離れるサマンサ。
その瞳の中で、何者にも勝る理知が何よりも冷たく輝いていた。
【B-5/森/朝】

【サマンサ@DQ3女魔法使い】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:鋼鉄の剣、鉄兜、マリベルの支給品(多少焦げている可能性あり)
 [思考]:勇者の血を守る

【マリベル@DQ7 死亡】
【残り38人】

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