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[No.26]
 堕ちた夫人とグッドなおねーさん[1]
【登場人物】
フローラ、フィオ

最初に出会ったのはサラボナの町の入り口だった。
私以外に懐かなかったリリアンがあの方に懐き、とても驚いたことを覚えている。
物静かな瞳、落ち着いた雰囲気……この人は何か大きな事を背負っている人だと一目で解った。
全身が上気し、思わず名前を尋ねていた。もう……その時から私はリュカ様の虜だった……。
あの人が私の結婚相手に立候補してくれた時はとても嬉しかった。
父の出した課題はとても危険そうなものだったけれど彼は見事やり遂げた。
私を愛してくれているからだ……そう思いたかった。
でも、その時彼の隣には彼女がいた。彼の幼馴染だというビアンカという女性。
彼を、疑った。彼の生い立ちは聞いていた。天空の武具を探しているということも。
彼は私を愛していないのかもしれない。
天空の盾だけが目当てで彼が本当に愛しているのはビアンカさんの方かも知れない。
考え出すともう止まらなかった。

……だから、試すことにした。

「お待ちください! もしやビアンカさんはリュカさんをお好きなのでは…?
 それにリュカさんもビアンカさんのことを…。
 そのことに気づかず私と結婚してリュカさんが後悔することになっては…」

私を選んで欲しかった。私を愛しているのだと言って欲しかった。

……その夜、彼が訪れてきた時私は寝たふりをしていた。
彼の顔を見ると泣いてしまいそうだったから。
彼と話をするとすがりついてしまいそうだったから。
それでは駄目なのだ。私が欲しいのは同情ではなく真実の愛なのだから。

そして翌日……彼は私を選ばなかった。

世界が、壊れる音がした。

表面上は平静を装ったけど私の心は日々悲しみで削られていった。
彼と話すのが辛かった。そんな時慰めてくれたのがアンディだった。

私の幼馴染。傷心の私はそんな彼の不器用な慰めもありがたく、彼の熱意に負け結婚した。
でも……彼はとても私を愛していてくれたけれど……私は彼を愛せなかった。
ただ良き妻を演じるだけだ。彼はよく頑張っていたけれどリュカ様と比べると頼りなかった。

そんな時、彼の情報が飛び込んできた。彼は実はグランバニアの王族だったというのだ。
そしてグランバニア国王として即位した後、謎の失踪を遂げたという。
私の最初の直感は間違っていなかった。やはり彼はとても高貴なる存在だったのだ。
リュカさんとはもう呼べない。その時から私はリュカ様と読んでいた。……心の中で。
彼が再びサラボナを訪れた時、ビアンカさんの姿は見えなかった。
魔物に攫われてから未だに行方不明らしい。
その時ほど私はアンディと結婚した事を悔やんだことはなかった。
私なら彼を慰めてあげることが出来るのに。
ビアンカさんさえ……ビアンカさえいなければ私が彼に愛されていたのに。
石化されていたということで10ほども年が離れてしまったけれどそれがどれほどのものか。
私だ、私が彼に愛されるのだ。それから私はずっとその事を考えていた。
幸いにもアンディとの間に子供はない。アンディさえいなければ……。
私は慎重に準備を始めた。二年ほどの月日が経ち、全ての準備が整った。
そして……ビアンカが見つかった。
二人は勇者であった子供と共に世界を脅かしていた大魔王を倒し、世界には平和が訪れた。

私の人生は全て無駄だった。足掻いて足掻いて……どうにもならなかった。
ただ、彼と一緒にいることが望みだったのに。彼は私を愛してはくれない。
どうすれば……どうすれば彼の愛を得ることが出来るのか。
その答えを……このゲームは教えてくれた。
彼の愛するものが失くなれば……彼は私を愛するしかない。
でもこのゲームで生き残れるのは一人だけ。彼が生き残れば家族を甦らせるだろう。
それでは駄目だ。なら生き残るのは私しかいない。
私はハーゴンの力で若返り、そしてリュカ様を蘇生させてその愛を得る。
アンディにはその後、事故か病気でいなくなってもらおう。
それこそが私が夢みた理想の世界。完璧なる幸福の世界。

そうだ、彼は……私のものだ。

そこで目が覚めた。

「ん、気が付いたかい?」

目覚めると私の傍には僧衣を纏った女性がいた。
敵かと思い慌てて起き上がる。その瞬間右半身が引きつった。

「痛ッ」
「ん、まだ急に動かない方がいいよ。この世界じゃ回復呪文の効きが悪いからね。
 それだけ大きい火傷じゃ痛みを消すくらいしかできやしない」

そう、私の身体にはあの竜と女に浴びせかけられた洗礼の痕が色濃く刻まれていた。
しかし彼女の言ったとおり確かに大きく動かさない限りは痛みは薄い。
そこまで考えてようやく目の前の女性が自分を救ってくれたのだと理解した。

「私を救ってくださったのですね。どうもありがとうございます」
「ん、まぁ助かってよかった。私はフィオ、流れの僧侶さね」
「私はフローラと申します。……流れの?」

聞きなれない言葉に思わず聞き返す。僧侶なら解るが流れのとは一体?

「ん、まぁ辻ホイミや辻バシルーラが趣味のグッドなおねーさんかな」
「はぁ」

よくわからず曖昧に頷く。ようするにボランティアで人助けをするということだろうか。
そこでようやく私は自分の目的を思い出す。そうだ、私はこの人を殺さないと……。
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