一覧 ▼下へ
[No.42]
 遭遇する闇
【登場人物】
レックス、ミレーユ

レックスはひりひり痛む身体を労わりながら、奪い取ったバーバラとアルスの支給品を
確認していた。
今一度ピサロのような強敵に出会ったときのために、使えるものを整理しておく必要がある。
棘の鞭、嫌な色をした小瓶(一目で猛毒とわかった。レックスはいずれ使おうと思った)、
これが元バーバラの物。
見失ったアサシンダガーはもうどうでもよい。
そしてアルスの持ち物を漁って出てきたのは三つとも同じ指輪だった。
神秘的な色持ちのこのアイテム、祈りの指輪である。
消耗した魔力を回復させることのできる一品だ。

(あーあ、さっきの男と戦う前に調べておくんだった)

もはや皆殺しの剣の誘惑に完全に屈したレックスは、殺人に良心の呵責とか
哀惜だとか、そういうものを感じなくなっていた。
完全にこれはゲームだと割り切ったのである。
(僕が必ず優勝するからね、誰ももう止められないよ)
腹に決めたレックスは立ち上がると、中庭から城内を闊歩し城門へと向かう。

同じ頃城へと向かう者がいた。ミレーユである。
彼女は初めアリアハン城下町の道具屋に潜んでいたが、
城の方で邪悪な気が渦巻くのを感じ、ここまで来ていた。
人気のない王城は、影のなかから誰かが襲い掛かってきそうな危険な雰囲気をもつ。
彼女は開いた城門から中を覗き、恐る恐る内部へ侵入する。

城に入って目に飛び込んできた豪華な刺繍入りの赤いじゅうたんは
そのまま二階への階段までつながっている。
その階段の脇に小さな人影があらわれて、ミレーユは身構えた。
(子供?)
ミレーユは近づくべきか迷った。
参加者の一人だろうが、とてもゲームに乗っているとは思えない。
ただ子供だからといって無条件で安心していいものではない。
実力というものはどんな小さな身体に秘められていてもおかしくはないのだ。
しかし、目の前の少年はどう見ても普通だった。
粗暴さや狡猾な印象は一切見受けられない。むしろ、気品さえ感じられる。

「あなた……一人だけなの?」
ある程度距離を置いたままのミレーユの問いにレックスは大きくうなずいた。
「そう。安心して、私はゲームに乗っていないわ。仲間を探しているの」
「仲間?」
「ハーゴンを倒してここから抜け出すための仲間よ。このゲームには
 私の良く知る人たちが参加しているわ。彼らとならきっと上手くいく」
ミレーユは諭すような口調で言った。
「あなたも殺し合いなんて嫌でしょう。私と一緒に行かない?」
段々と距離をつめて、もう少しで手と手が触れ合うくらいまで近づいた。
ミレーユは特に危険はないと判断したのだ。
事実、少年は何も変わるところはなかった。

「怪我はしていない?」
「うん、してないよ」
ミレーユが驚くぐらいの怯え声だった。うつむき加減のレックスの顔が見えるぐらいに
腰を下げる。
「名前は?」
「レックス」
「私はミレーユ。大丈夫よ、一緒にいれば怖くないから」
「本当?」
「ええ、私があなたを守ってあげるわ。これでも多少腕は立つのよ」
レックスは目を潤ませてミレーユを見た。
「本当に本当だね」
ミレーユは微笑んだ。レックスが可愛く見えたのである。
「本当よ」
レックスの肩に手を置いて励ますように言った。

「そうか、でもあいにくだね。僕が怖いのは僕自身だから」

その瞬間、ミレーユは光が弾けたような光景を見て、次には全身に鋭い痛みが走った。
後方に転がり、胸や頭を押えながら苦悶の声を洩らす。
彼女は一瞬で理解してしまった。
敵を敵だと認識できなかったのだと。

レックスはすっと立ち上がり、右手を前にかざした。
ベキラマの魔法が呪文の詠唱もなく発動し空気を焦がす。
「人を騙すのがうますぎて怖いよ。僕は悪党になっちゃった」
それはとても憎たらしい、醜悪な笑みに変わっていた。
レックスは指輪をはめた指からいくつもの魔法を飛ばして、ろくに回避できない
ミレーユを撃ち続けた。

「なんて……子供なのっ」
ミレーユは反撃に出ようとした。しかし身体が言うことをきかなかった。
めった打ちにされて呪文を唱えようにも精神が集中できない。
口元から出た言葉もかすんで消えてしまう。
肉弾で立ち向かうのも無理だった。彼女に武器は支給されていないのだ。
「う、ううっ」
レックスの呪文を放つ速度は尋常ではなく速かった。
通常、呪文の詠唱を始めてから体内の魔力が活性化して外に具現化されるまでに
若干のタイムロスが生じる。強力な魔法ほど長い呪文を必要とするのだが、
今のレックスはそれをショートカットして、必要最低限の呪文を唱え即座に魔法効果を
発生させていた。
それができるのは祈りの指輪の力だった。
本来消費した魔力を回復させる道具なのだが、もっと賢い使い方がある。
あらかじめマジックパワーが最大まで回復している状態で指輪から魔力の供給を要請すれば、
それは体内に蓄積せず、体の表面を覆いつくすように留まるのである。
さらに魔力は放出点(レックスの場合は指や掌)に溜まりやすく、いちいち体内から
魔力を取り出し一点に集中させる手間を省けるのだ。
レックスはベギラマもライデインも、彼が剣を自由自在に振りさばくのと同じくらい
円滑に使用できるようになったのだ。

ミレーユはそれの犠牲になった。
彼女は何も反撃に出ることなく命を落とした。
死の間際、脳裏にテリーやハッサンの映像が映ったにしても、レックスの呪文の連弾と
彼の勝利の笑顔のほうが数百倍強烈で印象に残ってしまい、ミレーユは穏やかなる表情で
目を閉じることはできなかった。
【E-4/アリアハン城内/昼】

【レックス@DQ5王子】
[状態]:呪われている 全身に軽度の火傷
[装備]:皆殺しの剣 王者のマント
[道具]:小さなメダル トゲの鞭 毒薬瓶 祈りの指輪×3 ミレーユの不明品3つ
[思考]:剣の意思に負け、ゲームに乗る

※ミレーユの所持品はレックスが奪ってます。三つありますが全て武器ではありません

【ミレーユ@DQ6 死亡】
【残り32人】

[Next] [Back] □一覧 △▲上へ


遭遇する闇
について管理人にメールする
件名:(選択)
内容: