[No.43]
えっちなのもたまにはイイとおもいます
【登場人物】
アレフ、ルーシア、ゼシカ
何気なく背後を見遣る。
一面の海。水平線の彼方まで延々と続く青に、時折ぶつかる白い波飛沫がアクセントをつける。
前を向く。
一面に広がるは砂の海。まるで地平線の彼方まで延々と続くかのような白、白、白――
「あーもうっ!一体どーしろっていうのよ!」
歩いても歩いても、ちっとも代わり映えのしない景色にゼシカは声を荒げた。
何処に殺人者がいるとも知れぬ状況下で、それは一見あまりにも軽率な行為だったが、
ゼシカのいるのは何の遮蔽物も無い砂地のど真ん中。
辺りに隠れ潜む者などいようはずもない。
また暫く黙々と歩き、額に滲む汗を拭う。
片手には神鳥の杖。武器としては何の役にも立たないそれは、今のところゼシカの歩行補助に大いに貢献している。
(レティスが知ったら泣くわね、きっと)
想像するとくすりと口元が緩んだ。
ゼシカはまたも足を止めた。
別に疲れたわけではない。魔法使いである彼女の体力は決して高くはないが、
彼女は小さな頃から兄と村を駆けずり回って服を汚しては、洗濯係を嘆かせていたお転婆だったし、
敵討ちの旅でそれなりに足腰は鍛えられている。
馬車こそあったが、それを牽くのはミーティア姫。
あまり無理をさせるわけもいかず、最低限の荷物しか載せていなかった。
(そのくせトロデ王はちゃっかり御者席に納まっていたりしたのだが)
足が止まりがちなのは、一重に彼女が賑やかな旅に慣れ過ぎたせいだ。
旅慣れていて、いつも何かしらの知識を披露するヤンガス。
体力の無い女の身を気遣い、さりげなく手を貸してくれたククール。
いつも賑やかなトロデ王に、自分から話題を提供することは少ないが、熱心な聞き手であったエイト。
(連れがいないと、時間ってこんなに長く感じるものなのね)
思わず溜め息が零れた。
見晴らしがよく、大陸の外れであるため人が寄り付かない安全な此処を離れる決心をしたのは、
少しでも早く仲間と合流したいからだった。
待っているだけでは何も手に入ろうはずもないし、それは彼女の性分ではない。
呪文の腕には自信があったが、やはり一人は心細いし、それに。
(サーベルト兄さん)
最初に集められた大広間でちらりと見えた後ろ姿。
似ていた。あの日、リーザス像の見回りに行き、帰ってこなかった兄の姿と。
(馬鹿ね、私。兄さんはもう死んだのに)
だが、ハーゴンは言ってなかったか?『死者を蘇らせることも可能だ』と。
相手はトロデ王の暗黒神の呪いをかけ直したほどの術者だ、実際それくらいの力はあるのだろうし――
(って、敵の言うことを真に受けてどーするのよ!)
頬をぴしゃりと叩いて気合いを入れる。
あいつは私達を拉致して無理矢理殺し合いをさせようとしている敵、それ以外の何者でもない。
こんなロクでもないことばかり考えてしまうのも、きっと一人だからだ。
遠くに兄の幻覚まで見えて、ゼシカは自分の心の弱さに呆れすら覚え、
(兄さん!?)
ぱちんと頬を張る。痛い。夢ではない。
今度はごしごし目を擦る。瞬きをして、もう一度そちらを見遣る。
確かに、いた。
房飾りのついた兜に赤いマントの青年。
隣には何か魔法の道具なのだろうか、大きな翼を背負った少女を連れて。
彼女がもう少し注意深く観察していれば、その兜が兄の物とはほん少し意匠が違うことに気付いただろう。
が、その姿が実物であると分かるや否や、ゼシカは駆け出していた。
「――兄さん!」
歓声をあげてゼシカが飛びつく。驚いたように青年が振り向き、そして。
青年の顔と、ゼシカ自慢のボンッキュッボーンの最初のボンが、真正面からぶつかる。
「あらあら」
凍りついた空気の中、一人のほほんと少女が笑った。
ゼシカの おいろけが スキルアップした!
ゼシカは ボインアタックを おぼえた!…… …… ……。
「……すんませんしたーっ!」
広い砂地をようやく抜け出し、草地に腰を下ろし、各自簡単な自己紹介を済ませ。
ゼシカの第一声はそれだった。
(考えるより先に行動するのは私の悪い癖だって、よく兄さんに言われたけど)
今更思い出しても遅い。あまりの恥ずかしさに顔も上げられない。
「いや、その……気にしなくていい」
「そうそう、戦いとかにもならなかったし良かったですよ〜」
青年と翼の少女――アレフとルーシアが言う。
この微妙な空気に気付いているのかいないのか、ルーシアは終始にこにこ笑っているが、
アレフは目をあらぬ方向に泳がせたまま。
気にするなと言う本人が一番気にしている証拠である。
(それでこっちに気にするなって言う方が無理よ)
とにかく話題を変えて、この空気をなんとかしたくてゼシカは口を開いた。
「本当にごめんなさい。アレフさんが私の兄さんに似てたから、つい」
「そう、だったのか。……その、お兄さんというのは」
「あ、その……殺されたの。暫く前に」
再び会話が途切れる。先程とは種類が違うが、気まずさは変わらない。
ぼんやりしたルーシアにもこの空気の重さは理解したようで、おろおろと視線を彷徨わせ、
ゼシカのザックに目を留め、ぽんと手を打った。
「そうだ!お互いの役に立つ物があるかもしれないしー、ゼシカさんの支給品を見せてもらってもいいですか〜?」
「あ、ええ。いいわよ、私もまだ確かめてなかったし」
思わぬところから出された助け舟に、迷わずゼシカは頷き、アレフが安堵の息をついた。
しかし、ルーシアの手がザックから掴み上げたそれによって、辺りに三度目となる微妙な沈黙が満ちた。
(神よ、俺は何かあなたに嫌われるようなことをしましたか?)
アレフは思わず頭を抱えた。
ルーシアの水着など話にならないくらい、極端に布地の少ない服。しかも黒の総レース。
そう、それは――
「……下着ですねえ」
「やっぱりただの下着よねえ」
(言わないでくれ、頼むから)
何か特殊な力でもないかと真面目に下着を検分する女性陣から目を逸らす。
まあしかし、防御力も何も無いただの下着なら問題無いのだ、が。
「でも、これ、見た目以上に防御力ありそうですよ〜?力を感じます」
ぶっ。
ルーシアの言葉にアレフは思わず噴き出した。
(いや待て落ち着け俺。いくら防御力があろうと年頃のしかも結婚前の女性がこんな物を着ることに同意するわけが――)
「そうなの?なら着替えた方がいいかしら」
だがしかし。
踊り子の服に始まって、バニーやらビキニやら天使やらあぶない女王様ルックやらで
街中を歩き回っていたゼシカは今更下着くらいでは動じない。
(……ローラ)
着替えるかどうかについて会話に花を咲かせる二人の横で。
気が遠くなりかけながらアレフは小さく愛しの姫の名前を呟いた。
(決して浮気はしない、信じてくれ)
王女の愛が無いことがこれほど寂しく思えたことは無かった。
【D-5/草原/昼】
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]健康 [装備]マジックシールド@DQ5 鉄の杖@DQ6
[道具]消え去り草@DQ3
[思考]ローラに会うため、西(レーベ)を目指す
【ルーシア@DQ4】
[状態]健康
[道具]神秘のビキニ@DQ3 祈りの指輪
[思考]仲間(アリーナ・クリフト・トルネコ)に会うため、西(レーベ)を目指す
【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:神鳥の杖
[道具]:エッチなしたぎ 未確認の物(一つ) 支給品一式
[思考]:二人に同行 仲間を捜し、合流する