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[No.48]
 ぬくもりがくれた強さ[2]
【登場人物】
リア、ビアンカ

 最初は、見に行くつもりなんてこれっぽっちもなかった。
ビアンカが気を変えたのは、悲鳴そのものでも、それが高い子供のものだったからでもなく、
ただそれが聞こえたのがリュカの遺体のある方角からだったからだ。
 例え彼がもう話し掛けても返事を返すことのない、ただの屍に成り果ててしまっていても、
それでもこれ以上リュカを傷付けられるのは嫌だった。
 それに、もしあの悲鳴を上げさせたのがリュカを殺した奴だったら。
(赦せない)
 リュカが勝てなかった相手に自分が勝てるとは思えないけれど、
彼がされたよりもっともっと酷い目に遭わせて、殺してやらないと気が済まない――この命に代えてでも。

(そしたら、あなたと同じところに逝けるかしら?)
 君の強さが好きだと、彼は言ってくれたけど。
(リュカ、私強くなんてないよ……あなたがいなくなっただけで、こんな)
 心にぽかりと虚が空いたようだった。

 物音を立てぬようそっと来た道を戻っていく。
やがてビアンカの目に飛び込んで来たのは、先程と変わらず投げ出されたままの彼の抜け殻と、
(……子供?)
もともと小さな身体を更に小さく丸めて啜り泣く少女の姿。
 もとはさぞかし上等な品だったのだろう、薄い絹を花びらのように何枚も重ねたデザインの可憐なドレスは所々が千切れ、ぼろぼろになっている。
(レックスやタバサと同じくらいかしら)
思い、リュカの死で頭が一杯だったとはいえ、今の今まで子供達のことを忘れていた自分に吐き気がした。

 レックスはこの大陸の何処にいるのだろう。
傷付いてはいないだろうか。震えてはいないだろうか。
 タバサは――あの怖がりで泣き虫の娘が大広間にいなかったことは救いだったけれど――
ようやく共に暮らせるようになった両親がまたも姿を消して、心配してはいないだろうか。
 生まれた時から片時も離れたことのない半身の兄と引き離されて、泣いてはいないだろうか。

 思い浮かべるだけで胸が痛んで、ビアンカは胸を押さえた。
よろめく身体を支えようと伸ばした手が枝を揺らして、視線の先の少女が金茶色の頭を上げる。
不安と寂しさに揺れる、途方に暮れたような目がこちらを見上げた。
 涙に濡れた、レックスとタバサと同じ空色の瞳――
何処かで泣いているだろう我が子と、少女が重なる。

「大丈夫!?怪我してない?」
 気付けばビアンカの身体は駆け出していた。
怯えて後退る少女を抱きしめて、強張る身体を解すように何度も、何度も背中を撫でる。
「怖かったでしょう?もう大丈夫よ、私が一緒にいてあげるから」
「……ほんと?」
おずおずとこちらを見上げる少女に頷き返す。と、少女はビアンカの肩口に顔を埋め鳴咽を漏らした。
 すがりつく小さな手がたまらなく愛しい。

(リュカ、私)
 レヌールの王と王妃のように、パパスとマーサのように、
今すぐ彼の後を追って、一緒にいられるならどんなにか楽だろう。けれど――
(ごめんね、私まだそっちには逝けない)

 腕の中ですすり泣く小さな、でも確かなぬくもり。
心の虚に染み渡るそれを失いたくないと思う。守ってやりたいと思う。

『お母さんになる前だって、ビアンカは強かった』
 記憶の中で、リュカの声が聞こえた。

『ゲレゲレのため、小さかった僕のため、そして今は子供たちのため。誰かのために、いつだって君は一生懸命だった』
『強いビアンカ。優しいビアンカ。僕は君が――』

(リュカ、私ちっとも強くなんてないよ。でも)
 彼を失った傷跡は、まだ心に生々しく刻まれているけれど。
(私、必ずこの子を守って、レックスを見つけて、グランバニアに帰るわ。
 それまではあなたが好きだと言ってくれた強いビアンカでいる。だから)

 どうか、見守っていて。

 祈りとともに閉じた瞳から一粒、涙が溢れ。
つうと涙が伝った頬を風が優しく撫でた。

『――大好きだよ』

 目を瞑れば、頬を染めて愛を囁いたいつかの彼がすぐそこにいた。
【E-2/岬の洞窟付近の森/昼】

【リア@DQ2サマルトリア王女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:風のマント 支給品一式(不明の品が1〜0個)
[思考]:泣く 泣き疲れたら眠る

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:祝福の杖 しあわせのくつ
[道具]:まほうのカガミ 引き寄せの杖(5) 飛びつきの杖(5) 場所替えの杖(5) 他1つ 支給品一式×3
[思考]:この子(リア)を守る レックスを捜し、守る ゲームを脱出する

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