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[No.78]
 明星よ、見よ[2]
【登場人物】
エイト、キーファ、アリーナ、アトラス

一息遅れて、キーファもアリーナもその姿を確認した。
そして、悟る。
『勝てない』
パワー、スピード、タフネス、そのどれを取っても今の3人でどうにかなる相手には到底見えなかった。
仮に3人でバラバラに逃げ出したとして、
それでも一人ずつ、狩りの獲物のように順に殺されていくであろうことは目に見えた。

アリーナが窓から顔をそらし、そっとエイトを見つめる。
(戦わなくていい魔物じゃ……、ないよね?)
先のドランゴとの経験から来る物だ。言葉にせず視線で訴える。
が、エイトはそっと目を下に落とし首を横に振った。
(駄目です。邪悪に忠誠を誓った者でしょう)
(やっぱ…ね)
そうしている間にも巨人は迫る。

最初に覚悟を決めたのはキーファだった。
側に立てかけられたメタルキングの剣を手に取る。
友の形見を握り締めれば、勇気が湧いてきた。
「逃げられないんだろ?だったら、戦うさ。
 せめて、他の参加者の助けになる程度の手傷は負わせるぜ」
悲壮な決意が滲んでいた。それに促されエイトも手を伸ばす。
ランドを絶命せしめた忌むべき武器だが…、メタルキングの槍に。

が、その手は柔らかな物に阻まれる。
(?)
アリーナだった。アリーナがエイトと槍との間に割って入っていた。
「アリーナさん?」
アリーナは何も言わず無表情だった。そのまま思い詰めたようにエイトの首に手を伸ばす。
(!?)
それは丁度恋人がするような形で。
突然の出来事にエイトは困惑して、何か言おうとしたが言葉を発することは出来なかった。
「う……」
そうしようと思った矢先、後頭部に鈍く重い衝撃を感じ、そのまま意識を失った。
「アリーナ!?」
その様子を見て今度はキーファが狼狽する。何が何だかわからなかった。
が、真っ直ぐにアリーナはキーファに向かう。
瞬く間に当て身が放たれ、キーファの意識も暗転した。

(馬鹿ね……、何も3人で死ぬことないじゃない)

アリーナは気絶した二人をそっと寝かしつけた。
(本当は当て身で意識を失わせるなんて、よっぽど相手が隙だらけじゃないと出来ないんだけど)
すっくと立ち上がる。
(死ぬなら一人で十分よ。大丈夫。私が食い止めるから)
―せいぜい派手に暴れて注意をひきつける。
出来るだけ長い時間戦って、もうここで戦闘をしようと言う気は起こさせない。―
これなら二人を守れる気がした。
エイトであれ、キーファであれ、自分であれ、あの巨人の一撃を食らっては一たまりも無いであろう。
ならば、長く戦うにはなるたけ逃げ回るのが得意な奴の方がいい。逃げて逃げて消耗させる。
自分が行くしかなかった。
(大丈夫。お腹の痛みはひいた―……エイトのおかげで。
 アモールの水は飲んだし、私は戦える)
頬をピシャンと叩いた。

きぃぃぃぃと裏の木口を開ける音がやけに鮮明に聞こえた。
その時一緒にちょっとばかり後悔が浮かんだ。
(やっぱりキスぐらいしていけば良かった)
腹のことを思い、エイトのことを考えた時、
ふとそんなことが思い浮かんだが実行には移せなかったのだ。

「ハァーッハッハッハッハ!」
高らかに笑い上げる。声が届いたのか、破壊に明け暮れていた巨人の動きが止まる。
火の気があったか、瓦礫の一つから炎が上がった。
エイトが眠る方向とは逆、まだ無事な家屋の屋根にアリーナが屹立していた。
「随分騒がしいじゃないか、化け物ォ!」
マントを背中にはためかせ、睨み付ける。あくまで不敵な笑みを浮かべて。
だが、もちろんアリーナに余裕などない。
ジリジリとした危機感が膨れ上がる。全身の感覚が鋭敏になっていた。
背中に汗が生じ、それが大きくなり垂れて下着に染み込んでいく、その流れがわかった。
炎を受けてバサバサと風にはためくマントの動きも、まるで後ろに目がついてるかのようにわかった。
限界まで自分の全神経、全感覚が研ぎ澄まされているのを感じた。
―それが、死の予感を感じずにはいられなかったが。

ゆっくりと巨人が振り返る。
炎に照らされ赤黒く見える巨躯がこちらを向く。血走った目はアリーナを捉えた。
ぞっとするような深い悲しみと怒り、狂気。
(飲み込まれてたまるものか)負けずアリーナも睨み返す。
「ガオォォォォォォ!!!」
(おまえか!?ベリアル殺したの?アトラス、おまえ許さない!ベリアルの仇とる!!!)
アトラスはそう叫ぶつもりだったが、興奮して言葉にならずただの雄叫びにしかならない。
もう誰でも構わなかった。兄の死んだ地で不敵に自分に向かってくる奴!
殺して粉みじんに砕いてやる!!!

(先手は取らせない…!)
「たぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
叫びを上げてアリーナが屋根から踊りかかる。あまりにも愚直に、真っ直ぐに。
高くジャンプし飛びかかった。
(馬鹿にしやがって…!)
その無謀な飛び込みにアトラスは怒りを覚える。
(アトラスのパワー、おまえなんか粉みじんに打ち砕く!)
ジャンプの軌道を狙ってハンマーを引き絞り一気に振り上げた。
(!? 消えた!!)
ジャンプの頂点でアリーナが消えた。

アリーナのジャンプが、頂点へ達する直前である。
アリーナの右腕が左肩に伸びる。引きちぎるようにマントをはずした。
頂点へ達すると同時にマントを前へ翻す。同時に全身を丸める。
大きく空気抵抗を受けたことと、重心が移動したことでジャンプの軌道は大きく変わった。
また、小柄なアリーナが全身を丸めるとすっぽりとマントの影に覆われるため、
丁度アトラスからは消えたように見えたのである。

ぶうん、と遥かアリーナの頭上で風を切る音がした。
(かわした!)
全身を丸めたまま、すたり、と着地する。
と、同時に着地の反動を使って、さらに丸めた全身を一気にばねのように伸ばし
弾丸のような勢いで跳ねる!狙いは両腕を宙に放り出し、がら空きのボディー。
捻りを加えながら打つ!掌底!クリーンヒット!
いかに俊敏な巨人と言えど、上空を空振りしたハンマーを足元に振り降ろすにはいささか時間を要した。
(いける…!こいつと私とは相性がいい…!)
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明星よ、見よ[2]
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