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[No.92]
 双竜激突――そして[3]
【登場人物】
サマンサ、ローラ、ゴン、ヒミコ、テリー

「ガァ!?」
完全に補足していたはずのサマンサが忽然と消え、彼女の腕を食い千切る筈だった牙は盛大に空振りした。
「なんじゃ? またレムオルか?」
消えたサマンサを探そうと周囲を見渡し、少しおろちは混乱する。
先程の森林とは全く場所が違う。

城のそびえる町の門、それもどうやら裏門の辺りに自分はいるらしい。
しばらく周囲を観察し、ようやくおろちは自分が転移したことを悟った。
「あの杖の力か。おのれ……今一歩のところで食い逃してしもうた。
 こうなら嬲るのではなかったわ。ええい、口惜しい!」
吐き捨て、おろちはその姿を人身ヒミコへと変える。
一息つき、とりあえず町に入るかと門に足を向けたとき、一つの視線に気付いた。
青いニット帽を被った青年が門の脇に立ち尽くし、こちらを見ている。
「そなた……見たのか」
「ああ、どうやらそのようだ」
ヒミコは考える。
この青年、腰に下げた剣、また物腰からしてかなり出来ると見た。
アリス達を喰らわぬうちは面倒ごとは避けたい。

「わらわの本当の姿を見た者はここではそなただけじゃ。
 黙っておとなしくしている限りそなたを殺しはせぬ。それでよいな?」

青年は答えない。
無駄か、と悟りヒミコが再びやまたのおろちへと変化しようとした時、青年は口を開いた。
「あんた、ゲームに乗っているのか」
「む?」
ヒミコは竜化を止め、青年を注視した。
「何故、そのようなことを問う?」
「答えてくれ」
ふむ、と頷きヒミコは考える。この青年に興味が出てきた。
少し付き合ってみることにする。
「乗っている、おらぬの二択ならばわらわは乗っておらぬ、ということになるであろ。
 しかしそれはわらわが今、別の目的を遂行しておるからであるからして、その後は……
 さあ、どうするかの」
「目的?」
「わらわの命を奪いおった三人の娘を生きたまま喰らうことよ。
 アリス、フィオ、サマンサ。心当たりは居らぬかえ?」
青年、テリーはゆっくりと首を横に振る。

「そうか、まあよいわ。それで今度はわらわが問おう。
 おぬしは何ゆえそのように問いかける? しかも化け物たるわらわにのう。
 おぬしの目的はなんじゃ?」
「俺は……姉さんを生き残らせたいと思っていた。その為にゲームに乗った。
 だけど俺は、殺せなかったんだ。何度も、誰と会っても俺は殺せなかった」
ヒミコは黙って聞く。
テリーもヒミコが聞いているかどうかはもう関係ないかのように告白を続ける。
「そして、姉さんの死を知った。その仇とも相対した。
 憎しみのままに剣を取り……そして俺は……殺せなかったんだ」
拳を握り締め、テリーは涙を零す。
「姉さんを殺した奴を俺は殺せなかった! 憎くて、憎くて堪らないのに殺せなかったんだ!
 姉さんが……止めるんだ。俺を、俺の殺意を止めてしまう」
テリーは己を抱きかかえ、震える身体を押さえつける。
「俺は姉さんを生き返らせるためにゲームに乗らなくちゃならない。殺さなくちゃならない。
 でも姉さんが耳元で囁くんだ。そんなことは止めてって……殺さないでって!」
「なるほどのう……二律背反、姉の意志と己の意志が反していることに苦しんでおるというわけか」
「俺は姉さんに生きていて欲しいんだ! でも、どうすればいいのかわからない。
 だから、城を出て……最初にあった奴に聞いてみようと思った。
 そんなことくらいしか思いつけなかった。それが、あんただ」
テリーはヒミコを見つめる。
随分と思いつめた、切羽詰った顔を見てヒミコはニヤリと哂う。
大声で哂いだしたかったがそれはかろうじて堪えた。
「よい物をやろう」
ヒミコは懐から一つの面を取り出す。手に入れたばかりの、般若の面。
「これは……」
「察したか。その通り、これは呪いの面。だがこの面の呪いはおぬしの迷いを消してくれるだろうよ。
 それどころかおぬしの望みを叶える為に大きな力となろうよ。さ、受け取れ」
般若の面を受け取り、テリーはじっとその面を見つめる。
「被るかどうかはおぬしに任せよう。そなたは面白い男であった。
 ささやかな一興となったわ」
そう言い残してヒミコは町の中へと入っていった。
振り向きもせずテリーはじっと面を見つめたままその場に立ち尽くしていた。

「さて、あの者どうするかの?」
門に入り、一人ごちてみる。
青年の気配を伺いながらしばらくじっと待ってみた。
そして…… 一つの雄叫びと黒い波動が門の外ではじける。
ヒミコが再び門の外に出ると青年は北に向かって走り去るところだった。
青年の周囲には黒い靄のようなオーラが纏わりついている。
般若の面を被ったことによる影響であった。
あの黒いオーラがあらゆる防壁となって青年を攻撃から護るだろう。
そしてその殺意のまま殺戮を繰り返すはずだ。
クク、と哂いを噛み殺しながらヒミコはゆっくりとテリーの後を歩き始めた。
「傷を癒すのに二、三人喰らいたかったところであるが、思いもよらぬところで
 思わぬ手駒が手に入ったものよ。これで労せずして栄養にありつけそうであるな」
ヒミコは気取られぬよう後を追い、テリーが斬った者たちを喰らうつもりであった。
また見境のなくなったテリーがアリス達を殺してしまわないように監督する意味もある。
そして何よりもヒミコがこのようなことをする訳は……。

そのほうが面白いから。

急ぐことはない。
あの面の邪気は同じく邪悪なる眷属たるヒミコにとっては大分遠くからでも感じ取れる。
戦いの気配も知れる。ゆっくりと後を付いていけばいいのだ。

気まぐれな竜の巫女は薄く笑みを浮かべ、ゆっくりと歩いていく。

――日は、落ちようとしていた。
【B-4/森林地帯/夕方(放送直前)】

【サマンサ@DQ3女魔法使い】
[状態]:気絶 HP1/8 MP1/5 全身に裂傷 貧血
[装備]:バシルーラの杖(5) 奇跡の石
[道具]:支給品一式 鉄兜
[思考]:勇者の血を守る

【ローラ@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:光のドレス
[道具]:ロトの剣 支給品一式
[思考]:目の前の女性を介抱する アレフを探す ゲームを脱出する

【ゴン@DQ1ドラゴン】
[状態]:左肩に銃創(浅い)
[装備]:メガンテの腕輪
[道具]:支給品一式(不明アイテム一つ所持)
[思考]:ローラを竜王の所に連れて行く それまでは護る

【E-4/アリアハン城下町、裏門の外→北へ/夕方(放送直前)】

【ヒミコ@DQ3】
[状態]:HP3/5 疲労
[装備]:なし
[道具]:きえさりそう ホットストーン
[思考]:テリーの後を追う 幾人か喰らい傷を癒す サマンサ、アリス、フィオを喰らう

【テリー@DQ6】
[状態]:呪いの効果により防御力が大幅に上昇
[装備]:さざなみの剣 般若の面
[道具]:ボウガン(鉄の矢×30)  イーグルダガー
[思考]:殺戮

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