一覧 ▼下へ
[No.31]
 想いを背負い生者は歩む[2]
【登場人物】
エイト、アリーナ、ドランゴ

 骨が砕ける嫌な感触。
しかしアリーナが貫いたのは魔物の腹ではなく、
「……エイト?なんで」
アリーナを止めるため間に入った彼の左肩。
だらりと下がった左腕と滴り落ちる多量の赤に、アリーナはすぐに怪我の重さを悟る。

「拳を納めて下さい」
 その顔は血を失い蒼褪めていたが、声には微塵の震えもなかった。
「でも」
 ちらりと彼の背後へ目をやる。
今や魔物は起き上がり、油断なくこちらの様子を窺っている。

「大丈夫です。あの子は優しい目をしてる、襲ってきたりはしません」
「だって、魔物だわ」

――ダカラ殺シテモイイノ?

 いつだか仲間の王宮戦士が語っていた、友だったという心優しいホイミスライムを。
 天空人の娘と戯れていた無邪気な竜の仔を。
 恋人の亡骸を抱く銀の魔王を。

――人ジャナイカラ、殺シテモイイノ?

(そんなの)
「駄目に決まってるじゃない」
 小さく息をつく。どうやら思った以上にこのゲームは人の心を病ませるようだ。
アリーナが構えを解くのを見届けて、エイトはこの成り行きを見守っていた魔物に振り返る。

「……やっぱり人違い、か。痛い思いをさせてごめんよ、もう何もしないから」
(いいえ、私も悪いの。てっきりテリーだと思ったものだから、つい)
 魔物は――ドランゴは頭を伏せぐるると喉を鳴らす。
そしてようやく横たわるモノの正体に気付き、悲しげに鼻を鳴らした。
(ああ、やっぱりあのおじいさんだったのね)
「この人を知っているの?君の知り合いだったのかい?」
(そんなものね。私がちゃんと怪我を治してあげれば、こうはならなかったのかもしれないわ)

 溜め息をつい(たつもりになっ)て、ドランゴは今度はエイトに鼻面を寄せる。
途端、やわらかな光と共に、あたたかな力が傷口に流れ込んだ。
その光の心もとなさに、ドランゴは内心やれやれと首を振る。
(駄目ね、やっぱり効きが良くないわ)
「心配してくれるのかい?優しい子だね」
(半分は私のせいだもの。それにまたこのおじいさんみたいなことになったら嫌だものね)

 ドランゴに任せきりにするわけにもいかず、エイトも肩に手を当て治癒の呪文を唱える。
淡い光が肩を包む。先程のと変わらぬ心もとないそれに、歯噛みする。
(せめてククールがいてくれたら)
 回復呪文が弱められた中であっても、術者の技量は関係するはず。
自分より遥かに熟練した癒し手である彼の呪文ならもっと良く効くだろうに。
 肩の傷が大方塞がった所で治癒の手を止める。

「手当てをありがとう。もう一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」
(なあに?)
 首を傾げる。巨体にそぐわぬ可愛らしい仕草に、痛みを忘れてエイトは笑った。
「あのおじいさんのことなんだ。
 君の炎で送ってあげてくれないかな?僕は呪文は自信がなくて」
(あのまま獣の餌にするのじゃ可哀想だものね。分かったわ)

 一つ頷き、老人の遺体に向き直る。大きく吸い込み、吐く。
全てを焼き尽くす灼熱にあっという間に老人の遺体は飲み込まれ、見えなくなった。
「色々手伝わせてしまってごめん。気を付けてね」
(こちらこそ、庇ってくれてありがとう、優しいお兄さん。
 テリーがいなかったら好きになってたかも知れないわ。怪我、お大事にね)
 最後にそっとエイトの肩に鼻を摺り寄せ、背を向け歩き出した。
目指すは来たのとは逆の方角――南へ。

 ――エイトの言ったことは本当だった。
何もしないどころか、傷の手当てと火葬の手伝いまでして魔物は去っていく。
「――あのっ!」
 自然、声が出た。
「さっきはごめんね!あなたも気を付けて!」
 巨大な背中が動きをとめ、振り返り、唇の端をめくり牙を見せる。
普段ならこちらを威嚇しているとしか思わなかったろう。
だが、それが何故か笑みのように見えて――アリーナは少しだけ救われた気がした。

「……さて、僕らもそろそろ行きましょうか」
 立ち上がり、肩を回す。動かないことはないが引き攣るような痛み。
完全に普段通り、とはいきそうにない。
「そうね。――ごめんなさい、せめて荷物はあたしが持つね」
 言ってアリーナは二つのザックを持ち上げる。
一つは今しがた拾った、おそらくこの老人のものだ。
追い剥ぎのような真似は気が引けたが、死者には不要のものだ。有り難く使わせて貰うことにした。
 彼に倣って立ち上がり、不意に視界の隅に鈍く光るものを捉えて立ち止まる。

「どうなさいました?」
 怪訝そうなエイトの声。
(ごめんなさい、許してね)
 ようやく炎の消えつつある、今はただの黒い物体と化した老人の成れの果てにアリーナは手を突っ込む。
皮手袋に包まれた手はそれほど熱さを感じない。手探りで目的のものを掴み、軽く力を入れる。
呆気なくそれは外れた。

 自分たちの首についたものと同じ、黒光りする枷。
あれほどの炎に晒されたのに爆発もせず、大した損傷も無い。
「対火の呪文でもかかってるのかしら?あたしには分からないけど」
「僕も呪文は専門外なので、なんとも。
 僕が持たせて頂いても構いませんか?こういう道具に詳しい方には当てがあるので」
 アリーナは有り難くエイトの申し出を受け入れた。
どんなに強く豪胆でも、彼女も年頃の娘だ。死者の首についていた物を持つのは気が引けた。

 向かうは当初の目的地、レーベ。
【B-3/レーベ東の草原/午前〜昼】

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:左肩損傷(行動に支障有) MP2/3程度
[装備]:雷神の槍@DQ5
[道具]:支給品一式 首輪
[思考]:レーべの村へ 仲間(トロデ優先)を捜し、ゲームには乗らない。

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:パワーナックル@DQ3 くさりかたびら
[道具]:支給品一式(三つとも武器以外) メルビンの支給品一式(不明二つ)
[思考]:エイトに付き添う 仲間を捜し、ゲームには乗らない マーダーは倒す

【ドランゴ@DQ6】
[状態]:喉と腹部に軽い打ち身 MP消費(弱) 
[装備]:鋼鉄の斧
[道具]:M16ライフル M203グレネードランチャー
[思考]:南下 青い人(テリー)を捜す

[Next] [Back] □一覧 △▲上へ


想いを背負い生者は歩む[2]
について管理人にメールする
件名:(選択)
内容: