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[No.32]
 アリス爆発![1]
【登場人物】
アリス、カンダタ、バズズ、ベリアル、アトラス

森の中でハーゴンのしもべたるベリアルたちと勇者アリスは対峙していた。

「フン、覚悟しろだと? そんな棒切れでワシらを倒そうというのか?」

ベリアルの言葉にアリスはハッとして自分の手にある武器を見る。
(そうでした……私の武器はひのきのぼうだったのです……)
悪の存在にカッとなり何も考えずに飛び出してきてしまったがこれは不味かったかもしれない。
(呪文と体術だけで彼らを倒せるでしょうか……)
見れば金色の悪魔―ベリアルは黒い長槍を携えている。見るからに危険な能力を秘めていそうだ。
そう、アリスの勘は正しかった。それこそ必殺の能力を持つデーモンスピア。
アリスはバズズとアトラスにも視線を送る。
バズズは右手に炎の装飾を赤い施された手甲爪と氷のように冷たい妖気を放つ短剣を持っている。
それは炎の魔力を内在した炎の爪と氷の魔力を内在した氷の刃だった。
そしてアトラス。その巨体に相応しい重厚なハンマーを構えていた。
それは全てを打ち砕くメガトンハンマー。喰らえばおそらく一撃でアリスは肉塊となるだろう。
それに加え彼ら三大悪魔自身が放つ妖気に押され、アリスは動けないでいた。
(うう、父さん。偉大なる勇者オルテガ……こんな時どうすればいいのですか?
 戦わなくちゃいけないのに……足が竦んで動けないのです……)
圧倒的な戦力差にアリスは弱音を吐く。父ならばどうしただだろう……。
そう思ったとき、脳裏で父の声が聞こえた……気がした。

――なに、敵に囲まれて動けない? ハハ、それは弱い考えを持っているからだよ。
 逆に考えるんだ。悪を一網打尽にするチャンスだと考えるんだ――

アリスは天啓を受けた。

(そうです! 敵に囲まれているのではない、敵を殲滅するチャンスなのです!
 ありがとう父さん! アリスは吹っ切れました!)

アリスはひのきのぼうをベリアル達に向かってビシッと指す。
「あなたたちなどこれで充分! さぁかかってきなさい!!」
「キィ、ふざけやがって! 俺様が身の程って奴を教えてやらぁ!!」

アリスの挑発にバズズが乗り、炎の爪を振って火球を放った!
(メラミ!)
アリスは炎の性質を瞬時に見切り、前へ飛び出てかわす。
メラミが着弾した爆風を背に受け、一気に加速してまずはアトラスへと迫った。
「ア、アトラス……て、敵は殺す!」
アトラスはメガトンハンマーを振りかぶり、アリス目掛けて振り下ろす。
アリスはそれを転がり込んで回避すると、アトラスに手を翳した。
「メラ!」
小さな火の玉はアトラスの顔面に炸裂し、その顔を焼く。
しかしアトラスは意にも介さず再びハンマーを振り上げた。
「キキキキ、我らにそんな小技が通用するか!」
その隙にバズズが襲い掛かってきた。
「そうでしょうね」
アリスは否定せずに、涼しい顔でバズズの攻撃をかわす。
「でも目晦ましにはなるでしょう?」
そう言うとバランスを崩したバズズに蹴りを食らわせ、ある地点へと飛ばす。
「キ、この程度で!」
バズズは一瞬倒れたものの、すぐに起き上がりアリスを睨む。
言うとおりダメージはない。しかし……。

ドゴォンッ!

その直後、アトラスのハンマーがバズズを直撃した。
「ぎゃばらばらばあぁ!」
「あ、ああ、バ、バズズゥ!?」
メラの炎によって一時的に視界を失ったアトラスは闇雲にハンマーを振るったが
アリスはそのハンマーの軌道上にバズズを誘導させたのだ。
「よしっ」
作戦の成功に小さくガッツポーズを取ったアリスの背筋を悪寒が走る。
咄嗟にその場に倒れ付すと、先刻まで自分の頭があった場所をデーモンスピアの穂先が
高速で通り過ぎた。
ベリアルはかわされたと知るとすぐさま地面のアリスを蹴飛ばす。

「きゃあ!」
すぐに身体を浮かせて防御し、威力の何割かは殺したものの骨がきしむほどの衝撃を受ける。
「イオラ!」
アリスは追撃に移ろうとしていたベリアルの手前で爆発がおこし、足止めする。
その隙にアリスは体勢を立て直し、再び三悪魔と対峙した。

(つ、強い。あのバズズやアトラスという魔物は普通に強いという印象ですが
 あのベリアルという輩は頭一つ抜きん出ている。……バラモスに匹敵するかも知れません……)
戦慄を覚えアリスは汗を拭う。
その時、ようやくバズズが起き上がるところだった。
畳み掛けたいがベリアルがアリスの動きを牽制し、それもままならない。
「バズズ、大丈夫か」
「バ、バズズ、ごめぇん」
ベリアル、アトラスの呼びかけにバズズは答えず、ゆっくりと立ち上がりアリスを見据える。
「殺す……キキキ……殺す、ぶっ殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ぶっ殺す!」
バズズは吼えた。
今にも飛び出しそうなバズズを制し、ベリアルは宣する。
「あのアリスとかいう者、只者ではないぞ。
 アトラス! バズズ! 奴にゼット・スクリーム・アタックを掛けるぞ」
それを聞いてバズズは激昂する。
「ああ? あんな奴に三人がかりで行くってのか!? バカバカしい!
 俺は一人でやるぞ! あのメス餓鬼に思い知らせてやる!」
食って掛かるバズズをベリアルはギロリ、と睨む。
「バズズ、俺の言うことが聞けんのか」
その眼光にバズズの意気は瞬時に萎み、バズズは声を震わせた。
「す、すまねぇ……つい調子に乗っちまって……」
「フン、行くぞ」
そしてアトラスを先頭に三体は縦列に並ぶ。

「なに、あの隊形は? 何か……来る!」
アリスは迎え撃つべく猫足立ちの姿勢をとり、ひのきのぼうを下段に構えた。
ゼットとは人間の使う文字の一番最後の文字。文字通り、終焉を表す。
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