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[No.35]
 人の誇り 竜の誇り[1]
【登場人物】
竜王、ククール、アレン

(ハーゴンが生きている……何故だ? 僕達は確かに……)
森の木々に囲まれながらローレシアの王子アレンは思い悩む。
確かに自分の剣はハーゴンの心の臓を貫いたはずだ。
そしてハーゴンの屍を生贄に現れた破壊神もランド、マリアと共に破壊した。
それで世界に平和が訪れたはずだ。なのに……。
「ハーゴンが死んでいなかったのなら……今この世界にいる人たちはみんな
 僕が巻き込んだようなものだ。だったら僕がなんとかしないと」
もうこれ以上ハーゴンたちの為に哀しむ人たちを増やしてたまるものか。
アレンは決意して立ち上がる。
すでに一人のエルフの少女が犠牲になってしまっている。
そして今一刻にも誰かが殺し合い、憎み合ってしまっているかも知れない。
それを放って生き延びようとすることは彼の矜持が許さなかった。
支給されたザックから自分の武器を確認してみた。
しかし中には武器が入っていなかった。代わりに入っていたのは――
「これは……ロトの盾じゃないか!」
不死鳥ラーミアの意匠が装飾された伝説の盾。
武器がないのは不安だが防御に関してはかなりの自信がついた。
「ハーゴンから支給されたっていうのが不安だけど贋物ってわけじゃないみたいだ。
 何を考えているのか知らないけど、余裕だとしたらつけこむチャンスかもしれない」
そして中に入っていたのはもう一つ。真実を映し出す魔力を秘めたラーの鏡。
かつてハーゴンの呪いからマリアを解放したことがある奇蹟のアイテムだ。
武器の確認を終えたアレンは今度は名簿を開く。
最初のホールで出会った仲間たちの名前が確認できた。
それにハーゴンと共に倒したはずの三体の悪魔たちも。
そして……アレフ、ローラ……竜王。ご先祖様とその宿敵の名前。
(まさか……いや、でもひょっとしたら)
あの会場には様々な者たちが集められていた。見たことのないモンスターも。
もしかしたら本当にハーゴンは時空を超えて呼び出してしまったのかもしれない。
しかしアレンはその事実に恐怖よりも好奇心が先に湧いた。
(もし本当にいるのなら……会ってみたい)
その願いはすぐに叶えられることになる。
森から出ると平原に出た。森の木々に遮られてわからなかったが、側には巨大な塔が立っていた。

塔の中を調べてみようかと思ったが、それより前に海岸に立っている一人の影に気が付く。
そのシルエットは……(竜王の曾孫?)
黒い角のあるフードに荘厳なローブ。杖を持って立っているその姿はアレンと友誼を結んだ
竜王の曾孫とそっくりだった。しかし名簿には曾孫の名前はない……ならば。
アレンの姿に向こうも気が付いたようだった。
警戒も怯みもなく、悠然とこちらに向かって歩いてくる。
「ほう……懐かしい、といっていいのか。馴染みの深い気配を持つ者と出会えたものよ」
「あなたは……まさか竜王……」
「いかにも。ワシが王の中の王、竜王だ。」
威厳あるその姿はまさに王と呼ぶに相応しい重圧を感じる。
(物凄い力を感じる。アレフ様はこんなのを相手に戦って勝ったのか……)
アレンは気圧され、ゴクリと唾を飲み込む。
しかし彼もまた王族の誇りがある。相手が名乗りを上げたからには自らも返すのが礼儀である。
「僕の名はアレンといいます。お気づきの通りロトの血に連なるものです」
「ほう」
途端凄まじいほどの殺気がアレンを襲い、アレンはその場を飛びずさる。
何か攻撃されたわけではない。しかし飛びのかなければ確実に死んでいたという確信があった。
竜王は小さく笑みを浮かべながら杖を仕舞うと一振りの剣を取り出す。
竜の装飾が施され、見るからに強大な魔力を秘めているとわかる。
「我が業敵の血族か。我と知り名乗ったならばこの場で殺されても文句はあるまい?」
「ま、待ってください。ハーゴンの思惑に乗るつもりですか!?」
アレンの言葉を竜王は鼻で哂う。
「フン、ハーゴンとやら。中々に小賢しい真似をしてくれるものよ。
 奴の玉座に飾られていた邪神像……あれには覚えがある。破壊の神シドーという古の邪神。
 此度の遊戯はその邪神復活の為の生贄の儀式であろうよ」
「そ、そこまで解っているのなら僕達が争い合う理由はない。協力して……」

ビシャァンッ!!

「うわぁあああ!!」
アレンの言葉が最後まで終わらぬうちに、竜王は剣を振りかざした。
無数の稲妻がアレンの周囲を焦がし尽くす。

しかしアレンそのものは全く無傷であった。意図的に稲妻が避けて落ちたようだ。
「人間と協力だと? 哂わせてくれる。人と魔物は相容れぬ。
 時代が、ワシの存在がそれを証明しておるわ」
竜王は憎悪に顔を歪ませ、アレンへと向けて一歩踏み出す。
気圧されアレンは一歩後退してしまった。
「この儀式は破壊する。されど人と、ましてロトと協力するなど有り得ぬ話よ。貴様はここで果てるがよい」
もう一歩竜王は歩を進める。しかし今度はアレンは退かなかった。
「嘘だ!」
「なんだと」
竜王の動きが止まる。
「僕はあなたが存在した時代……その世代のロト、アレフの時よりも遥かな未来の人間です。しかし確かに僕の時代も魔物と人の争いは続いています。でも…僕はあなたの子孫と出会った」
「……」
「竜王の城で僕はあなたの曾孫と友情を結んだ。彼は人間である僕たちを信じてくれたんだ。その時に僕は思った。人と魔物はわかりあえると。共に生きることができるんだと。僕達の知らない世界では人と魔物が仲間と呼び合えるような関係が生まれているかも知れない」
「それが真実というのなら我が子孫とは思えぬ惰弱さよ。人などに心を許すとは」
「あなたもなんじゃないんですか」
アレンの反論に竜王は眼光を鋭くする。
「ワシを愚弄するか」
「あなたは人間を愛した」
「ローラのことを言っているのか? あれは人間どもに敗北感と屈辱を味あわせるために攫ったのだ。支配をやりやすくするためにな。本気で后になどするものか」
「それならばローラ姫を隔離する必要はなかった。でもあなたは強力な魔物の蠢く居城から離しあなたの眷属によって護らせた。それはあなたが本当にローラ姫を傷つけたくなかったからだ! そうじゃないんですか!?」
「黙れ!」
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