[No.41]
相似形
【登場人物】
クリフト、ハッサン、テリー
出るべきか、出ざるべきか。
大樹の幹に身を寄せて、クリフトは一人思案する。
彼の視線の先には二人の男。
一人は南国の果実のように登頂部だけを剃り残した奇抜な髪形に、筋骨隆々とした、いかにも武道家然とした大男。
いま一人は大男よりは幾つか年下だろう、どこか色素の薄い印象を受ける銀髪痩躯の若者。
大男はその巨体には不釣合いな小さなナイフを腰帯に通し、
若者は腰にダガーを差し、ボウガンを携え、油断無く辺りを警戒している。
武道は苦手であるクリフトにも、その物腰からは二人ともかなりの腕達者であることが伺えた。
自分一人が生き残ることを選んだゲームに乗った者が他者と手を組むとは考えにくい。
複数で行動しているということはおそらく彼らはゲームに乗らなかった者達なのだろう。
ゲームが始まってからまだ半日。
時間が経てば経つほど人は集まり、結束を増す。仕掛けるなら早いうちがいい。
だが、仕掛けるにしてもどうするかが問題である。
支給品の杖はあるが、あれは奥の手。
祈りの指輪のように回数制限のある品なのかもしれないし、そう簡単には使えない。
なら殴りかかるか?――否。
幼い頃からアリーナに連れ回されて足だけは速くなったものの、腕力はいっこうに上がらず、
体力に関しては「ブライと大して変わらないんじゃない?」などと言われてしまう始末。
二対一であることを考慮せずとも真っ向勝負ではまず勝ち目は無い。
なら呪文は、というとただひたむきに神学だけを修めてきたクリフトは攻撃呪文はからきしだった。
クリフトの使える中で他者に危害を与えられるものはただ二つ。
ザキとザラキ。
生命を司る呪文の暗部。
アリーナのお付きとして、剣の扱いは習っていたがクリフトにそちらの才はなかった。
だが、アリーナには武道家としての天賦の才がある。
旅を続けるにつれ、近接戦闘におけるアリーナとクリフトの差は広がっていく一方だった。
彼の姫は強い。大抵の魔物には負けないだろう。
だが、もし彼女が勝てないほどの魔物が襲ってきたら?
回復呪文を唱えるばかりでは決して彼女を守ることは出来ない。
悩んだ挙句――クリフトは癒し為す神官には禁忌とも言える、致死の呪文に手を出した。
戦いに赴く時のいつもの癖で、つい神に祈りを捧げようとして――自嘲する。
今から人を殺そうという人間が一体何を祈ろうというのか?
祈りの代わりにぼそぼそと何かを小さく唱えて、クリフトは幹から背を離し、
「っ誰だ!?」
その拍子に触れた枝がかすかにざわめいたのを若者は聞き逃さなかった。
ボウガンを構え、引き金を引く、
「テリー!」
寸前、大男が若者――テリーの腕を叩き、わずかに照準のぶれた矢はクリフトの頭を掠め、弾かれた帽子が地面に落ちる。
「ハッサン、何故邪魔をした?」
テリーはそれだけで射殺せそうな視線をハッサンに向けた。
が、ハッサンと呼ばれた大男はさして気にした風でもなく、ぼりぼりと頭を掻いた。
「何故、って出会い頭に普通それはねえだろうよ?」
「他の参加者に会ったら殺すと言ったはずだ」
「なら俺はそれを止めるって言ったはずだぜ?
……第一、もしこの兄さんがミレーユの連れだったり、居場所を知ってたらどうする?
ミレーユを捜すにも情報は必要だろ?」
苦虫を噛み潰したような表情で黙り込むテリーにしてやったりと笑みを浮かべ、
ハッサンは腰を抜かしたクリフトに手を差し出した。
「済まなかったな、兄さん。立てるかい?」
(奇襲は出来ない、か)
差し出された手を笑顔で握り返し、クリフトは考える。
姿を見られた以上当初の案は変更せざるを得ないが、大丈夫。まだ策はある。
ハッサンの手を借り、片足を引き摺るようにして立ち上がる。
それを見咎めてハッサンは眉根を寄せた。
「どっか痛めたか?」
「ええ、少し足を……大丈夫です、私はこの通り神官ですから治せますし」
「悪いな。さっき襲われたばっかだからまだピリピリしててね。
どっかの制服みたいな青い服を着た黒髪の男だ。あんたも気を付けた方がいい」
「ご親切痛み入ります。私はまだ誰とも会っていないので何もお教え出来ないのですが」
前言撤回。
思いがけず他の殺人者の情報を得ることが出来た。
姿を見られたのもどうということはない、二人とも殺してしまえばいいだけの話なのだから。
「……あの、話の前に足の治療をしても?」
「ああ、勿論だ。済まねえな、気が利かなくって」
ハッサンは勿論のこと笑って頷く。
「では、失礼して」
足を痛めたなどというのは真っ赤な嘘だ。
小声で唱え始めた文句は、勿論治癒のそれではなく。
その策を考えたのは勇者と旅した道中、致死の呪文に倒れた姫の言葉を覚えていたからだ。
『――だって、あたしやライアンは呪文の心得が無いでしょ?
だからだと思うの。敵が何か唱えてるな、って思っても、それが何だか分からない。
心構えが出来てないからつい死の呼び声を聞いちゃうのよ――』
若者の方は分からないが、大男は見るからに専業戦士の様子。
高確率で効くだろうと、クリフトはそう考えた。
彼の誤算はただ一つ。ダーマの存在。
彼の唱える呪文の文句に、そっぽを向いて知らん振りを決め込んでいたテリーが振り返り、ハッサンが目を見開く。
(気付かれた!?)
「死の腕に抱かれ眠れ――ザラキ!」
慌てて呪文を放つ。
辺りに呪詛の声が満ち、二人が顔を歪めて――だがそれだけだった。
「貴様っ!」
裂帛の気合。
翼を模った優美なダガーを引き抜き、斬りつける。
クリフトを斜めに引き裂くはずだったそれは、だが肩を浅く切り裂くだけに終わった。
まるで鱗の固い魔物を斬った時のような手ごたえに、テリーは顔を顰める。
「うおらぁぁぁっ!」
続いて放ったハッサンの正拳突き。
丸太のような腕が放つ渾身の一撃にクリフトの身体が吹っ飛ぶ。
が、やはり奇妙な固い手ごたえが拳を伝い、
吹っ飛ばされたクリフトはすぐさま起き上がるやザックと帽子を拾い、駆け出した。
ボウガンに持ち替えたテリーが矢を放とうと狙いをつける。が、
「……ち、逃がしたか」
クリフトの背中は既に木々の向こうへ消えていた。
「やはり最初に殺しておくべきだったな」
「面目ねえ。……まさか神官さんが人殺すとは思わなかったからなぁ」
たくましい身体を小さく丸めて、しゅんと肩を落とすハッサンを横目で見遣り、テリーは無愛想に呟いた。
「……まぁ、過ぎたことはしょうがないからな。
いつまでも落ち込んでいるな、気色悪い」
不器用過ぎる慰めの言葉。
ハッサンは腹を抱えて笑い、するとテリーは更にむっつりと顔を顰める。
それが可笑しくてハッサンはまた腹を捩って笑うのだった。
(失敗した、失敗した、失敗した)
ぶつぶつと呟きながら走り続ける。
暫く走ったところで追っ手の無いことを確認してクリフトは足を止めた。
恐る恐る肩と腹の怪我を探る。
どちらも命に関わるような怪我ではないが、かといって放って置いていいものでもない。
舌打ちして治癒を始める。
(あらかじめスカラをかけておいて正解でした)
そうでなければ命を盗られていたかもしれない。
神ではなく、彼の女神――アリーナに感謝の祈りを捧げ、治癒の傍らザックを開き地図を開く。
(城がありますね)
此処からそう遠くはない。
ハッサンとテリーと言ったか、あの二人組に自分がゲームに乗ったことを知られた以上、行動は早めに起こさなければならない。
治療を終えて、クリフトは一人王城へと向かう。 テリーとクリフト。
姉と想い人という違いこそあるものの、一人の女性の為に命を懸ける決意をした者同士。
よく似た二人の進む道を分けたのは信頼出来る仲間の存在、ただそれだけだった。
【D-4/アリアハン北部の森/真昼】
【クリフト@DQ4】
[状態]:肩に裂傷(微) 腹部に打ち身(微) MP3/4程度
[装備]:なし
[道具]:祝福サギの杖[7] 祝福ザキの杖[0]
[思考]:アリーナを守る
[基本行動方針]:アリアハン城下町へ/アリーナを優勝させ、復活させてもらって元の世界へ帰る
【ハッサン@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:聖なるナイフ
[所持]:まだらくも糸 魔物のエサ
[第一行動方針]:テリーと一緒にミレーユを探す
[第二行動方針]:テリーを説得
[基本行動方針]:打倒ハーゴン
【テリー@DQ6】
[状態]:健康
[装備]:イーグルダガー
[所持]:ボウガン(鉄の矢×28)
[第一行動方針]:ミレーユを探す
[第二行動方針]:他の参加者を殺す(ハッサンは殺せない)
[基本行動方針]:ミレーユを生き残らせる