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[No.45]
 少女と死を運びしもの
【登場人物】
クリフト、マルチェロ、フォズ

 子供の足では、やはり辛かった。
 息を弾ませて子蜥蜴と共にその飼い主目指して北を行く、年端も行かぬ少女。
だがその実態はダーマを治める大神官。
そこらの小娘とは背負うものが違い、この絶望の世界でも希望を捨てはしない。
 ただ、神殿から出た事が乏しいが故にその足腰には既に疲労が見えている。
やはりそこは十も行かぬ子供。仕方ないといえば仕方ないのだが。
歩けど歩けど、なかなかたどり着かない。
しばらく歩き、精一杯大またで進み続ける。
「…ふー…だいぶ近づいてきましたね、レオンさん」
 小さな同行者の乗る肩に、上気した顔を向けた。
肩の子蜥蜴がちろ、と舌を出した後口をぱっかり開けて大欠伸を一つ。
退屈そうな様子に、フォズは少しだけ子供らしさを含んだ顔に戻ってむぅ、と頬を膨らました。
天罰の杖に頼って歩みを進めるが、行けども行けども森の出口は見えてこない。
日が昇りかけた頃、フォズは近くの岩陰にもたれ掛かった。
「ちょっと…疲れちゃいましたね…休憩しますか」
 子蜥蜴に微笑みかけると、朝露でぬれていない所に腰を掛けた。
ザックを下ろして、奇妙な瓶詰めの水を一口飲む。
喉の渇きが潤され、はぁ、とため息を一つついた。
 そういえば、とレオンにも飲ませてあげようとして、掌に水を少し注いで口元に持っていってあげた。
舌でちろちろと舐めた後、飲んでいるようだがくすぐったくて笑みと雫が零れる。
ぼんやりと空を眺めると、自分の髪と同じ色の空が見えた。
元の世界とまったく変わらぬ空。

フォズはその大神官という立場が故に、以前ダーマ地下に幽閉されたことがある。
そのときもこのように孤独だった。
 誰も近寄れぬ結界の中、薄暗がりの中で、一人。
助けを待っている間、普段は言えない泣言と、涙が零れた。
自分はダーマを護る者、大神官だ。皆が自分を待っている、頼ってはいる。
 しかし、彼女は子供だ。本来頼る側の人間である。
だから、救いの手を差し伸べてくれるアルスたち一行が来たときは本当に、本当に嬉しかった。
涙をごしごしと拭って悟られないようにして、丁寧にお礼を言ったとき。
その実、縋って泣きじゃくりたい気持ちでいっぱいだったのだ。
しかし今…彼女に頼る相手は、いない。

はっとして、自らの頬を伝う涙に気づく。
頭をふるふると振って、袖で拭った。
やがて、すっくと立ち上がると法衣に付いた草を払ってまた歩き出す。
(今は、自分の足で行動して、自分の護りたいものを護るべきです)
確固たる意思を一つ抱え、少女は森を進んだ。

「…で、出口ですっ…や、やりました!」
それからもう半刻ほど経って。
森をふらふらと抜けた彼女は、つい大きな声で喜んでしまった。
慌てて口を両手で押さえる。近くに恐ろしい人でもいたら大変だ。
幸い、この周辺には誰もいなかったらしく安堵する。
森を抜け、まず眼に入ったのは王城。
さほど遠くない位置に建っている。まずは、あそこに向かうべきだろうか。
と、一瞬王城の上層部が輝いた。

「え…?」
刹那、轟音と共に爆発が起きる。
遥か離れたここにまで衝撃が伝わって草木がざわめいた。
一体、何が起こったのか。疲れも忘れ、フォズは駆け出していた。
落ちかけたレオンが、憮然とした瞳を向け顎を突き出しているのを見て、ごめんなさいと呟きながら。

 若き神官クリフトは、驚愕の眼差しを城へと向けていた。
パラパラと小さな瓦礫の破片が自らの神官帽に当たり、音を立てる。
あんな恐ろしい力を秘めた人間…いや、人間ですらないのかもしれない。
あそこに、いる。…先ほどの男達から受けた傷はほぼ塞がったのだが、例え万全の状態でも正面からやり合っても勝てる気がしない。 
 クリフトは若干の恐怖を覚え、辺りを見回した後、街の南東部にある井戸に目をつけた。
(あそこに隠れ、様子を見よう)
 仮にイオ系の爆発呪文を使う奴なら、家を爆発して回る事も考えられる。
地下ならばそれも防げよう。そう思って、クリフトが井戸に駆け寄ると、街の南口に人影があることに気が付いた。
ぎょっとして、井戸に淵に片足を掛けたまま硬直する。

「すいません、何をなさっているのですか?井戸に、何か…?」
 街の入り口から顔を覗かせたのは少女。荒い呼吸をしているところを見ると駆けつけて来たのか。
十にも満ちていないだろうその少女は独特な形状の法衣を纏っていた。
 無用な緊張をしたクリフトはへなへなと力が抜けかけたが慌てて立ち上がる。
そうだ。今、ここで自分はこの少女までも殺めなければならないのだ。
(神よ…なんと残酷な試練を与えるのでしょう。しかし、これも…)
 例えそれが神の道に背く事であろうとも…容赦してはならないのだ。目的の、ために。姫の、為。
「みっともない所を見せてしまいましたね。私はクリフト、神の道を志す者です」
 温和な神官を演じて、隙を見る。まさか、神に仕えるものが殺す隙を狙っているとは思うまい。
少女と言えど油断は禁物であった。というよりさっきから少しビビっていた。

 そしてもう一人、ここに神に仕える者が潜んでいた。
残念ながらその者は神の御心とやらには背を向けていたのだが。

 マルチェロがなかなか癒えぬ傷口を、幾度目かのベホイミでやっと塞いだ頃。
耳を劈く爆音が聞こえたかと思うと激しい振動がやってきたのだ。
息を潜め、気配を探るが城内の様子はやはりわからない。
 何が起こったかはわからないが相当強力な何かが炸裂したのであろう。
下手にそいつには手を出せない、とマルチェロは思案して他の機会を待った。
 それから程なくして、一人のひょろりとした若造がやって来た。
どうも武装した様子が無く、また鍛え上げられた肉体などもやはり持ってはいなかった。
これならば、いける……マルチェロは確実なる死を与えられる、とほくそ笑んだ。
音を立てないように、そして悟られぬように無反動砲に弾丸を込める準備を始めた。
先ほどは狙いがずれ、痛手を負ってしまったが…今度こそは。
 榴弾を取り出したところで、ふと声が聞こえた。息を殺して、窓から覗くと。
「…子供、か?これはこれは…飛んで火にいる、なんとやら」
なにやら、先ほどの男を見て驚いているようだった。
まぁ、それはどうでもよいだろう。
 マルチェロは、ザックから対戦車弾を取り出した。
先ほどの物より、さらに威力が増しているという。一人目を始末したとしても、余波までは防げまい。
それに、仕留め損なった方をこの手で縊り殺すことも、造作も無いだろう。
何せ相手は子供と貧相な男だ。自分が、負けるはずが無い。
ザックに残った弾薬等を詰め、静かに家の入り口から狙う。
ちょうど、真正面の井戸付近で二人は話している。
真横から狙われていることには気が付いていないようだ。
よく、狙って……マルチェロは引き金を引いた。

クリフトは少女と先ほどの爆発の方角を向いていた。
不安気な表情をしている彼女を見て、クリフトは慈悲のように死の呪文を小さく、気づかれないように紡ぎだした。
神の元へ、誘う呪文。それは死の呪文。
「!?…今、なんと…」
「…迷える子羊よ、神に誘われよ」
「即死呪文…ッ!?まさかっ!?」

クリフトはもう、躊躇わなかった。
死を与える、理由が彼を突き動かす。
護りたい命の為に、皮肉にも多くの命を奪う決意が固められている。

「ザ「きゃぁぁぁぁっ!!!」
炸裂。
死の呪文の半分までを呟いた瞬間、クリフトの背中が灼熱のように熱くなった。
フォズは見た。猛烈な速さで飛んできて、井戸に着弾した『何か』が大爆発を起こした。
少女の小さな身体は宙に投げ出されて路地に転がる。
ザックに引っ込んでいたレオンが、びっくりして顔を出した。
「がっ…はっ……!?」
(ちぃっ……またしても、仕留め切れなかったか!?)
マルチェロは自身の失態に唇を強く噛み締めた。
もともとマルチェロが放ったのは対人には激しすぎる威力の弾丸。
思っていた以上の反動により狙いがぶれてしまうのはしょうがない、むしろ当たり前だ。
だが、そんなことは知る由も無かった。
慣れぬ武器などという言い訳も甚だしい。確実に、殺せると思ったというのに失敗するとは。
なんと、情けないことか。噛み締めたマルチェロの唇からすっ、と血が垂れる。
積極的には殺さず目立つ行動は控えると考えていたが、彼のプライドが仕留め損なった獲物を逃がす事の邪魔をした。
実行すると決めたからには、成功させる。
彼なりの歪んだけじめであった。
(もう良い…直接手を下そうではないか!!!)

「い、一体何が……ケホッ、ケホッ!」
「…ベホマベホマベホマベホマベホマ」

隣の男は、ただ治療をしているだけ…だというのに、フォズは身の毛がよだつのを身をもって感じた。
彼は先ほど死の呪文を私に唱えようとした。
つまり、彼もこの殺し合いに…
意識してしまうと迸る恐怖は止まらない。
背中から血を流す男が一心不乱に、呪いのように。
ベホマ、とザラキ。全く違う言霊なのに。それが死の呪文を紡ぐ姿と重なって。
フォズは目の前の神官にも謎の襲撃者にも、抵抗しようとは思わずに踵を返し逃げ出した。
幼き心には、衝撃的な事が連続した。
誰か、助けて。
悲痛な叫びは、声にもならなかった。

「………ぐっ、はぁっ…はぁっ」
クリフトは、漏れる荒い息を手で押さえ、ぐいっと汗を拭う。
相当数のベホマを連発した為、どっと疲労が来るが火傷はある程度癒えた。
今、自分には武器らしい武器は無い。
逃げる。脳裏に浮かんだのはそれだ。
子供は殺せなかったが仕方が無い、またいずれかに死を与える。
私は死んではならないのだ。
姫に勝利を、捧げる為に。
クリフトは、足の速さにはアリーナ姫には劣るものの昔から自信はあった。
逃げ足が速いとも、言う。
ここから離れようとアリアハン東門めがけ駆け出した。
そこに、コツコツと歩み寄り立ちはだかる男。
青い法衣に身を飾り、不適に笑むその姿にクリフトは舌打ちを一つ。
相手も、無装備。クリフトは必死で状況を打破すべく頭を働かせる。

二人の神に仕える者は、それぞれの思惑を抱えて対峙した。
【E-4/アリアハン城下町東門付近/昼】

【クリフト@DQ4】
[状態]:背中に火傷(ある程度治癒) MP1/2程度 (ハッサン達による怪我は治療)
[装備]:なし
[道具]:祝福サギの杖[7] 祝福ザキの杖[0]
[思考]:アリーナを守る
[第一行動方針]:目の前の男に対処
[基本行動方針]:アリーナを優勝させ、復活させてもらって元の世界へ帰る

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:健康(怪我はベホイミで治療) MP3/4程度 
[装備]:なし
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ、
   グスタフの弾(榴弾×1 対戦車榴弾×1 発煙弾×2 照明弾×2)
[第一行動方針]:狙った獲物(クリフト)を殺す事をなんとしても成功させる
[基本行動方針]:ゲームに乗る(ただし積極的に殺しにいかない)

【フォズ@DQ7】
[状態]:健康  若干恐怖
[装備]:天罰の杖 アルスのトカゲ(レオン)
[道具]:炎の盾
[第一行動方針]:アリアハンを離れ、助けを求める
[基本行動方針]:ゲームには乗らない アルス達を探す

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