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[No.88]
 ニアミス[1]
【登場人物】
トロデ、マリア、レックス、ハッサン、ククール、マルチェロ

日も暮れかけた王宮、窓から夕日が差し込んで来る。
図書室に行った男二人を待っている。そろそろ、『放送』が近い。

トロデは、幼少の頃より我が子のように可愛がっていたエイトの身を案じていた。
品行方正な彼、親と思ってくれても良かったのに近衛兵としての責務をきっちりと果たし自分を主君と呼ぶ。
いつか、本当の父にとも思っていた。

次に思い出したのはゼシカ、あの豊満ボディが忘れられない。
というのは置いておいて、大事な旅の仲間である。
以前ドルマゲスの杖に取り付かれいなくなった際もえらい騒ぎになった。
一人欠けただけで弊害がたちまち出てきて、彼女の大事さに気づかされたものだ。
ああ、どうか彼らの名が呼ばれぬようにと、トロデはいるのかわからぬ神に祈りを捧げた。

「…トロデおじさま」
「む、むう?」
「ご心配ですか、やはり…私も、同じ気持ちです」
「…そうじゃな。無事でいてほしい」
夕日に照らされる魔物の表情は、曇りがちであった。
と、キュルルと悲しい音をトロデの腹が鳴らした。
マリアがくす、と笑ってザックから大き目のパンを取り出して差し出した。
すまんの、と二人で半分こして頬張った。
考えれば朝から何も口にしていない。
腹が満たされて、トロデも少しだけ余裕ができた。
ふと、横に目をやると、開けられていないザックが目に留まる。

「おお、そういえば」
自分には少々高めな椅子から降り、ザックを手に取る。

「この子の持っておった物、ですね。…気が、咎めますが…」
「うむ…物取りじみた真似じゃが、事態が事態じゃからのう。改めさせてもらうとするか」
ザックをごそごそと短い手でまさぐるトロデ。
その手が思わぬものに触れた。

「む、むおっ!?」
「どうなさいました!?」
「こ、これじゃよ!」
トロデの手には鈍い光沢を放つ怪しげな壺のようなものが握られていた。
なにやら魔法の力を秘めてそうである。

「…これは…いったい?」
「これは我がトロデーン王国に伝わる…錬金釜じゃよ!」
嬉々として語るトロデであるが、マリアには事情がよく飲み込めない。
ただの高そうな壺にしか見えないからだ。

「それで…それはどういった?」
「錬金ができる釜じゃよ」
「いえ、だから…」
マリアは軽く混乱した。

「…という釜じゃよ。材料があれば加工できるじゃろう」
「なるほど、便利な物ですわね…」
やっと釜の本質を説明されたマリア。
確かにこれを使えば未知のアイテムを手にすることができる。
強力な武器や、脱出方法も得られる可能性ができたわけだ。
「ほかに何か材料となる物は、と…むう?これは…」
入っていたのはなにやら小さな袋。
サラサラと、砂のような音がしている。

「おお…聖者の灰じゃな。これこそ錬金の材料として使える物じゃ」
そしてもう一つ入っていたそれを引きずりだした瞬間。
「ぐおお!?」
「お、おじさまっ!?」
トロデはベッドの下敷きになった。

「…へぇ、あんたが元スーパースターだって?笑えない冗談だぜ」
「いや、そういう意味じゃなくて、『職』ってやつだ。わかんねぇかな〜」
なにやら話が弾んでいる。
双方長身の男であるが、片や筋骨隆々モヒカン、片や銀髪の長身痩躯なので対比も甚だしい。
二人並んでいると妙な画となった。

「とりあえず、あんたが歌って踊ってるトコなんざ想像できねぇや」
「そうか?一応得意なんだがな…そ〜れ、ハッスルハッスル!」
「ぶっ、ははっ、ぶははははははは!!!!」
腰をクイッ、と動かしお尻がギュッと締まったまま手をフリフリさせて踊る大男に、ククールは爆笑した。
まあ、わからないでもないが。

「ひー、やめてくれ、死にそう…ははは」
ゼシカが同名のダンスを踊ったときも笑ったが、破壊力が比でない。
色気のかけらもないからだ。

「元気出たか?傷も塞がるダンスだ」
「へ?」
見ると、腕の酷い火傷が軽くではあるが治癒されていく。
こんな所まで、ゼシカと同じとは。

「…あんたすげぇな」
「スーパースター、バトルマスター、レンジャーの経験を積んだからな。横文字ばかりでよくわからんが、技にゃ熟達よ」
改めてククールは感心する。
見た目によらず繊細で、器用な真似もこなす大男。
こういう奴はリーダーとかに向いているな、と感じた。

「おいっ!おぬしら!!」
「おっさんいつの間に!!!」
「どうした、トロデのおっさん。今必死に調べてる最中だろが」
ククールは白々しく本棚を漁っているが、トロデは意に介せずハッサンのまわしを引っ張る。

「ここを離れるぞい、こっちにくるんじゃ!」
「え、な?」
慌てた様子のトロデ王を見て、ククールも状況を悟った。
気になった呪文書を5,6個持ち出して学者の部屋を去る。

「いったいどうしたってんだ?」
「大方事情は飲み込めるぜ…襲撃ってとこか」
「ああ、そうじゃ!マリアちゃんが、武器を持った男が城へ入るのを見たそうじゃ!」
「なんだって!?」
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