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[No.1]
 光と影
【出展元】
没ネタ投下スレッド>>212-217

 魔王バラモスなる者が、魔物たちを操りこの世界を支配しようとしている。
この噂が広まったのは、私がまだ幼い頃だった。
『アリアハンの勇者』の異名を持つ戦士オルテガおじ様が、まだ赤ん坊だったアリスを残して
旅立ったのは、それから間も無くの事だった。
 オルテガおじ様達は、近所に住んでいた私を実の娘のように可愛がってくれた。
娘のアリスが生まれた時も、ルイーダさんやお城の兵士よりも、誰よりも先に会わせてくれた。
目の前で元気良く寝息を立てる小さな命に目を輝かせていた私に、おじ様とおば様は言ってくれた。
「君の妹だよ、サマンサちゃん」
「これからこの娘…アリスに色々と教えてあげてね」
その言葉が嬉しくて、幼い私はとにかく夢中で勉強をした。苦手だった文字の勉強や、魔法の練習も
どんな遊びよりも楽しくなっていった。
 オルテガおじ様の旅立ちの日、アリアハン中の人々が彼を見送った。
おじ様は寂しさに泣き出しそうな私の頭に優しく手を置いて、こう言った。
「アリスの事をよろしく頼む」、と。
私はこぼれ落ちそうな涙をこらえて、大きくうなずいた。
 それ以来、私とアリスはずっと一緒だった。
好奇心のままに、ちょこまかと走り回る小さな背中を必死で追いかけたり、
小さなひざの上に、さらに小さな体を座らせ、様々なおとぎ話や武勇伝を聞かせた。

 そんな平穏な日々の中、突然の訃報が飛び込んできた。
―勇者オルテガ、火山の火口に落ちて没する―
その日を境に、アリスは勇者への道を歩む事を運命付けられた。
幼いアリスの手を引いて城から戻ってきたおば様は、町の皆や王様に気丈に振舞っていた。
アリスは何が起こったのか分からないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。
おじ様の死と、そんな二人の姿が幼い私の心を深く痛めさせた。
それと同時に、アリスも、おば様も、おじい様も守ってあげなくては、と思った。
でも、私はまだ子供だし、体も強いほうではない。ましてはオルテガおじ様の様な
力強い戦士になれるなど夢にも思ってはいなかった。
だからこれからも、たくさん、たくさん勉強をして、大人になったら誰にも負けないくらい
強力な魔法使いになろう。そして、アリスと一緒に旅をして、その背中を守ってあげよう。
一緒にバラモスを倒して、皆が平和に暮らせる世界にしよう。そう心に誓った。
 私がより一層、魔法や勉学に励みだした頃には、アリスもまた、小さな手にひのきの棒を握り締め
一生懸命素振りを始めていた。

 そして、アリスの16歳の誕生日。彼女が勇者として打倒バラモスの旅へと向かう日がやって来た。
魔法の修行を終えた私はルイーダの酒場で登録を済まし、一足先にアリスを待っていた。
「……サマンサ?どうして此処に!?」
酒場に入るなり私を見つけて目を丸くするアリス。彼女がこんなに驚いた表情は初めて見た。
まさにハトが豆鉄砲を喰らったような顔だった。そんなアリスに私は思わず笑ってしまった。
「何を言っているの、アリス。私はあなた先生、あなたのお姉さんですよ。
 私達はいつでも一緒。それはこれからも変わらないでしょう?」
「…サ………サマンサぁっ!」
強い意志を宿した瞳に感激の涙を浮かばせて、アリスが私に飛びついてきた。
「絶対!絶対に魔王バラモスを倒しましょう!!私とサマンサがいれば勇気100倍です!」
「ア…アリス…。く る し い〜!!」
今や、アリアハン一の熱血鉄腕少女の名の高いアリスに思い切り抱きつかれ、私は危うく窒息しそうになった。
 それからアリスは、聖職者とは思えない程金にがめつく抜け目のない僧侶フィオと
孤独を愛する一匹狼な女戦士デイジーを仲間に加え、あの長く過酷な旅路を歩み続けた。
 まるで引き絞られた矢のように、己が信じる正義への道を突き進んでいくアリス。
最初の頃は、そんな彼女の姿に不安を感じたし、実際危なっかしい事もよくあった。
私はその度にアドバイスをしていたが、死線を越えるごとにアリスは経験を重ね、確実に成長していった。
時には私よりも的確な判断力を発揮し、この一筋縄ではいかないパーティを見事に纏め上げていた。
 そして、世界に散らばる6つのオーブを集め不死鳥ラーミアを蘇らせ、魔王バラモスを討った。
大魔王を追いかけ、ギアガの大穴から闇の世界アレフガルドへ赴いた。精霊ルビスの封印を解き、大魔王ゾーマを倒し
絶望の渦巻いていた世界に光をもたらした。
 そしてラダトーム王から、真の勇者にのみ送られる『ロト』の称号を授かった。

 祝賀パーティの夜、ラダトーム城のテラスで独り夜空を見上げるアリスを見掛けた。
その表情はどこか物悲し気で、声をかけずにはいられなかった。
「―どうしたのです、アリス?あなたらしくもない」
「サマンサ…。別に何でもありませんよ。今までの冒険を思い出していたんです。…父上の事とかを、ね」
 勇者オルテガ。ずっと亡くなっているとばかり思っていたアリスの実の父親。
彼の最期の勇姿、最期の言葉を深く心に刻み込み、私達は大魔王ゾーマとの死闘に挑んだ。
ゾーマの強力な攻撃の数々、度重なるいてつく波動、その圧倒的な威圧感に何度押し潰されそうになっても
それを支えにして戦い続けた。そして、私達は勝利を収める事が出来たのだ。
「…あなたのお父上には、本当に良くしていただきましたわ」
幼い頃の思い出と共に、おじ様の最期の壮絶な戦いが頭をよぎった。
 幼い頃から父の勇姿に憧れ、その背中を、面影を必死に追い続けてきたアリス。
ようやくその父とめぐり合えたと思ったら、死に別れてしまったアリス。
上の世界にいる掛け替えの無い家族とも二度と会えなくなってしまったアリス。
いくら二つの世界を救った救世主といえども、彼女はまだ16歳の少女である。
その心境はどのようなものであったのだろうか…?
「アリス……大丈夫?」
「はい、平気です!なんてったって私は勇者オルテガの娘、そしてアレフガルドの勇者ロトですから!」
アリスは元気に笑って自慢の力こぶを見せてくれた。
「あと!…私がこれからアレフガルドの人達の為に何が出来るのか、じっくり考えていくつもりです」
そう言ってアリスは再び夜空を見上げた。その瞳はいつものように揺ぎ無い情熱に燃えていた。
「そうですか。…立派になりましたねアリス」
アリアハンの街角で、私の背中を、私がその背中を、追いかけていた小さな少女は
いつしか私が思っていた以上に大きく、大きく成長していた。
私はそれをどんな事よりも嬉しく、誇りに思っていた。
「ありがとう、サマンサ。おやすみなさい!」
嬉しそうに笑って、アリスは足早に寝室へと向かっていった。私はその後姿が見えなくなるまで見守っていた。

―そして、それが彼女を見た最後になるなど夢にも思っていなかった―

 ―アレフガルドに太陽をもたらした勇者アリス・ロトが消えた―
翌朝、その重大事件にラダトーム中が大騒ぎとなった。
アリスが消えた…。私達にさえ何も一言も告げずに、独り去っていった。…何故?
昨夜、アリスは言った。『これから自分がアレフガルドの人々の為に何が出来るかを考える』、と。
まさか…これがあなたの出した答えなの?
 昔、子供の頃アリスによく訊かれて答えに迷った質問があった。おとぎ話を読み終えた後のこんな質問。
『ねぇサマンサ。このひとたちは そのあとどうなったの?どんなふうに しあわせになって どこへいったの?』
私は頭を悩ませて、こう答えた。
『きっと、この人たちは私たちの心の中で幸せに生きているはずですよ。私のなかにも、アリスのなかにも
 元気に生き続けているはずです』
あの日のおとぎ話の勇者達のように、彼女も人々の心の中でいき続けることを選んだのだろうか?
人々の前から姿を消す事によって…。
アレフガルドの民の心の太陽が、自ら『影』になる事を望んだのだろうか?
自らの栄光ある未来を犠牲にしてまで…。
 考えても、考えてもその答えが導かれる事は無かった。

 あれから数ヶ月が経った。私とフィオ、デイジーの三人はラダトーム城に仕え、世界を導く英雄として
忙しくも平和な毎日を過ごしている。
私達はあれ以来アリスに関する情報を求め続けてきたが、彼女の足取りは一切つかめていない。
ラダトームの宮廷魔術師として充実した日々を過ごしてはいるものの、私の心の中には
ぽっかりと風穴が開いたような空しさがあった。
それを感じるたびに、改めて私の中のアリスという存在の大きさを思い知らされる。
 ポン、と肩を叩かれた。突然の事に驚き、振り向くとデイジーとフィオが経っていた。
「………サマンサ。そんな暗い顔をしていたらアリスに笑われる」
「そうさね、サマンサ。きっとあの娘なりに何か考えがあっての事さね。元気を出しなよ。
 また魔王でも現われたら、その時はきっとラーミアにでも乗って颯爽とやって来てくれるさねぇ〜」
微笑みながら二人は言ってくれた。…そうだ。寂しいのは私だけではない。今の私には今の私の使命がある。
私とフィオとデイジーの三人で、ラダトームやアレフガルドの平和を守っていくという使命が。
きっとアリスもそれを望んでくれているはずだ。
「案外〜、旅の途中でどこかのイケメンに一目惚れして追っかけに行ったのかもしれないねぇ。
 それを言うのが恥ずかしくて私達に黙っていっちゃったとか」
「……………男。カンダタじゃああるまいな」
「もう…!二人ともからかわないで下さい」
悪ノリし始めている二人の方に向き直ると、急に目の前が暗くなった。
 顔を上げると、そこはラダトーム城ではなく、薄暗い大広間だった。どうやら私の他にも多くの人間や魔族、魔物が
集められているらしく所々からざわめきが聞こえている。
「…あれぇ?此処は一体何処さね…?」
聞き慣れた独特の口調。フィオだ。いつもマイペースで飄々としている彼女も動揺を隠し切れないらしい。
「フィオ!あなた、無事なのですね?」
私はフィオの存在を確認した。
「………フィオ。サマンサ…?」
―……………あぁ。まさかその声は…?―
「……アリス!?」
 その瞬間、背筋が凍りつくほどのおぞましい魔力があたりを包み込んだ。
その魔力にその場にいた全員が一斉に正面を向く。
そこにいたのは、醜悪な魔神と思しき巨大な像の前に立つ一人の男。
頭に竜の羽根を模した飾りのついた頭巾を被り、悪魔の刺繍を入ったローブを着た男。
明らかに怪しく、邪悪な存在だった。
「ようこそ、選ばれし勇者達よ」
その声は脳髄に絡みつくような癪に障る声だった。冷酷で残忍。そして何より、何者をも締め付けるような
圧倒的な威圧感があった。
 そして、その男は続けてこう言い放った。

「これから貴様等には殺し合いをしてもらう」
>to be continued
 DRAGON QUEST
 BATTLE ROYALE

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