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この、偽りの世界の果てで

この、偽りの世界の果てで


登場人物
マルチェロ(DQ8)、竜王(DQ1)、マリア(DQ2)、キーファ(DQ7)、エイト(DQ8)


(悪くない)
マルチェロはドス黒い満足感を欲しいままにしていた。悪くない。いや、むしろ好調そのものだ。
短時間の戦闘で二人を死に至らしめた。しかも自分にはまだ十分に余力が残されている。
順調だ。開幕当初あれほど思惑通りにいかず、口惜しさに臍をかんだのが嘘のようである。
ここに来てようやくツキが回ってきたというのか。

否…運などという曖昧なものに頼ったのではない。自らの判断と実力による、当然の帰結だ。
そうとも、一貫して私は間違っていなかったのだと思い直し、己に対する信を深めた。
最初から、彼は一人で戦うことを選んだ。単身である以上、一時的とはいえ
結束した複数を相手にすれば、初手の段階において数的に不利となるのはある意味必然だった。
煮え湯はそれ故にもたらされたものだったが、しかし時を経て、組んだ徒党はやがて崩壊し
互いを喰いあい、数を減らし、生き残っている者も疲弊した。
なまじ目立つ動きをしたからこその自業自得と言うべきであろう…かたやこちらに足枷は少ない。
争いにおいて、初めから勝っている必要などない。最後の瞬間にさえ立っていればよかったのだ。
雌伏の時を経て、今は至福たる勝利の女神が眼前で横顔をちらつかせているように思える。
あとは如何にして、その首の根を押さえるか、だが…

(そういえば)
そこでマルチェロは不審を感じた。あの駄馬はどこへ消えた?
彼が姫君を抹殺すべく宿屋へ侵入しようと試みた時、あれほど煩くわめきたてたあの馬。
一太刀のもとに斬り伏せてしまってもよかったが、
幾人も載せて走る荷車を余裕でひきこなす獣の脚力は、あれでなかなか侮れないものがある。
かといって家畜ごときに魔力を使うのもそれこそ馬鹿馬鹿しく思えたので、
彼は生ける障害物を無視し、入口からではなく窓から侵入して目的を達成したのだった。

そして今こうして宿屋から離脱してきたわけだが…どこを見回してもあの馬がいない。
逃げたか?と思ったが、その答えとばかりに遠くから蹄の音が近づいてきた。
おまけに人間の声もついてくる。若い男と女か。「何があったんだ!?」と
答えが返ってくるはずもないのに尋ねている。男の声には、彼は聞き覚えがあった。
(…あの小僧か)
マルチェロは軽く舌打ちした。先だっての戦いで彼がトロデ王を抹殺しようとした時、
余計な横槍を入れてくれたあの青二才である。技量はそれほど脅威だとは思わなかったが…
『ふざ、けんな!』
その意志が、甚だ鬱陶しく思えてならない。

彼が自らの異母弟ククールを抹殺したと聞いた時、かの青年は怒り心頭に達したのだ。
『俺がこの世界で最初に出来たダチは……ランドはさ。
 自分が死にかけてたって、まず一番に妹のことを心配するようなヤツだったんだ。
 俺だって妹が、リーサがこんなもんに参加してたら、心配するに決まってる。探すに決まってる!
 ――――腹違いだろうがなんだろーが、きょーだいってのは、そういうもんじゃねぇのかよッ!
 なんで、弟を自分の手で殺して平気でいられるようなヤツがいるんだよ!』

――――俺は、こいつを一発ぶっとばさないと気がすまねえッ!――――

(…ふん)
改めてマルチェロは胸の内で一蹴した。
まったく、なにが『そういうもの』か。よく知りもしないで何を言う。
こういう時、いつだって事情も知らない余所様が、蒙昧にも偉そうに説教を垂れてくれるものなのだ。
…あのサヴェッラの法王もそうだった。命を落とす前、彼がその手にかける前、
『我が友人オディロが目をかけた者が闇に染まらぬよう、お前を手元に置いたのだ』
などと言っていた…本人は真心のつもりなのだろうが、つくづく余計なお世話というものだ。
それでいて当人たちは正しいと思っているのだから、尚更始末が悪い。

友のために?あるいは兄弟のために?正論ではあろう。それは認める。
だが、マルチェロは常に問いたい。『それがどうしたのだ』と。
一般論などどうでもよい。否、むしろ粉々に叩き潰してしまうべきだ。邪魔なものならば。
普通の考えに基づいて、普通に生きていただけでは、彼が芽を出すことはまずなかった。
自らを利することのない正論をうやうやしく持ち上げて、それが何になるというのか?
マルチェロの欲望が疼いた。あいつは、殺ってしまいたい。
そうだ、やってしまえと右手も喚きたててくる。

だが…結局彼は身を潜めることにした。
当初の目的を忘れるなと理性が厳しく自我を律した。そこはさすがに歴戦の勇士の趣である。
快調な時ほど警戒が必要であることを、彼は十分にわきまえていた。
餌を見つけたからつい飛びかかってしまうようでは、でかいだけで阿呆な魚と代わりない。
そんなことではいずれ釣り上げられるのがオチだ。ここまで耐え忍んだ甲斐もない。
今まで自分が生き延びてこられたのは何故か?機を窺い、危険を感じたらすぐに退く。
敵の死は望むが、それに執着しなかったからこそ、着実に成果を得つつあるのではないか?
そうとも…不利を承知で戦いに挑み、そして脆く沈んだあの愚弟とは、私は違うのだ。

青二才の隣にいる者が誰なのか?その力量はいかほどのものか?
取るに足らない者かもしれぬが、楽観できるほどこちらが万全というわけでもない。
増援の可能性もある…どちらにせよ、多勢に無勢なのは確実だ。
今更仲間が欲しいとは思わないが、わざわざ多対一の状況を望むほど酔狂に走ることもない。

(それに…)
誰だか知らないが、あの馬がかの宿屋まで引き連れていこうというのならむしろ好都合だ。
死体が二つと魔族の男。その現実を直視して、ただですむはずもない。
遠からず嵐となろう。勝手に数を減らしてくれるのならば願ったりだ。迂闊につつく必要もない。
(逆に、もしそれでも奴を信じるというのならば…)
彼は思う。それは信頼を通り越して、いっそ莫迦なだけだ、と。
このような殺伐とした環境で、一体誰が、どれほど信じられるものだというのか?
そこまで甘い莫迦ならば、容易に隙は生まれる。いくらでも分断できる機会もあろう…
(今は退避こそ賢明。潜むとすれば…やはりあそこか?)
マルチェロは顔を上げ、その行く手にある城に目をやった。
彼はこの地に招かれて以来、アリアハンを離れたことはない。
逆に言えば、(いるのかどうかは知らないが)この地出身の者を除けば、
誰よりも地の利を心得ているとも言えた。

アリアハンの城。彼が夜半から黎明にかけて文字通り根城にしていた場所である。
かの戦鬼の襲来に始まる早朝に繰り広げられた戦闘の余波を受け、
王城とは名ばかりの遠目から見ても無惨な様と成り果てていた。
城内は既にほとんど瓦礫と化しているであろうが、
ならばこそ自分ひとり身を潜めるくらい、やりようはいくらでもあるはずだ。
上の階に登って、全体の状況を見渡すことがかなえば、さらに立場は優位なものとなる。

敵も同じように考え、既に城へたどり着いている可能性もゼロではない。
しかし、それならば先だっての大通りでの自分とあの魔族との戦いに気づき、
加勢にしろ、漁夫の利を狙うにしろ、何らかのリアクションを起こしていたはずである。
したがって、あそこに敵はいない。いてもおよそ戦闘に堪えうるような状態ではない。
まったく問題はない。

 
決まりだ。そう急くな、としきりに血を吸いたがる右腕を、
まるで駄々っ子でもあやすかのようにあしらいながら、彼は休息地を求めて消えた。

 
 
 
…城の地下深き真の玉座に、王者は静かに座していた。
床には色鮮やかな赤煉瓦が敷き詰められ、澄んだ水が周囲を覆っている。
ここに至るまでの、さながら冥府へ繋がる道の如き有り様とは全く裏腹で、
それは王者の持つ権力を、音もなく物語っていた。

彼は、ずっと一人だった。自らも忘れてしまうほど遠い時から、そこにいた。
彼は、ずっと一人だった。そしてそれを苦痛だとは露ほどにも思わなかった。
むしろ心地よかった。このような権力を持つものはたった一人。そう、我だけで、よい…

王の力を脅かす者は、これもまたこの世におそらくたった一人だけであった。
その唯一無二の存在が近づいてきたことを知って、
王者は驚くどころか、むしろ面白そうに口元を緩ませたのだ。さながら遊具を得たかの如く。
不倶戴天の敵を前に、彼は言い放った。傲然と、かつごく自然に。

「よく来た、勇者よ。ワシが王の中の王、竜王だ」

自分がこの世で最も崇高な存在と信じて、疑わなかった。
神にさえ仇なす大逆を、自身のみにおいて完遂させうるほどの力を持つと自負していた。
そんな彼であったから、他者を己と肩を並べる同志にしようなどとは露ほどにも思うはずもない。
「ワシは待っておった。そなたのような若者があらわれることを…」
勿論、信を置く部下はいた。彼らは王に忠節を尽くすべく命を賭け、王もまた彼らに厚く報いた。
しかし、それはあくまでも主従としての関係であったはずだった。決して友誼などでは、なかった。

「もしワシの味方になれば、世界の半分をお前にやろう。どうじゃ?ワシの味方になるか?」
だから無論、これは偽り。あるいは遊び。
甘いにも程がある。王たる自分が他者に、ましてや人間などに
自身の権力の半分をくれてやるなどと、ありえることではなかったのだ。
…もし、相手がそんな道理もわきまえぬ愚か者にすぎぬなら、容赦の必要をかけらさえ認めまい。
武器を砕き、力を奪い、そして望み通りにこう言ってやるつもりだった。

「では!世界の半分、闇の世界を与えよう!そして…」

――――お前の旅は終わった!ゆっくりと休むがよい!――――

 
どこまでも続く魔王の哄笑の渦に飲み込まれ、勇者の姿が消えてゆく。
人生の最後の最後で愚かな決断を下し、今までの功績全てをふいにした哀れな、
もはや勇者と名乗るも恥ずかしき、一人の戦士が闇の中へ溶けていく。
自らの晩節を汚したことに気づく暇もなく。
こんな手にかかろうとは、脆いものだ…まったく愚かなことだ!人間というものは!

「フ…フハハハハ…フハハハハハハ!」
魔王は笑った。いつまでも笑っていた。まったく、こんな程度の輩が最後の敵だったとは!
もはや何人たりとも、我を阻むことはできないのだ…!

「フハハハハハハ!フワーッハッハッハッハッハ!!!!」

 
………それはありえたかもしれない一つの可能性。
今とは違う過去、あるいは未来を映した、おぼろげな幻影………
(…闇の、世界…か…)
あれから、果たしてどれほどの時間が経ったのだろうか。
かつて自らをして王の中の王とまで言わしめた竜の瞳は、未だ焦点が定まらなかった。
この頃、どこからか『聞こえるか?聞こえたら返事をしてくれ。トルネコさん、竜王』
という彼がよく知る、今まで生死を確認したかった宿敵の声が幾たびか送られてきたはずだったが、
優れた竜族の聴覚すら、この時は何の役割も果たそうとしなかった。茫然自失すること、甚だしい。

永劫の黒。そのようなものを闇の世界と言うのだと思っていたが、
案外、今自分がいる場所こそがそうなのかもしれないな、と自嘲した。
屍の中にただ一人。命の灯火は、もはやどこにも残されていない。元から一面の闇ならば、
初めからそこに何もないのならば、そういうものだと割り切って、いっそ諦めもついたであろう。
だが違う。確かにあった。確かにあったはずなのだ。今はもう、ない。
この湧き上がる寂寥感は何なのか。失うべからざるものを、竜は、失ってしまったのか。

(…何を世迷い言を。もともとワシは、常に一人だったではないか…
 何年も何十年も、何百年さえも…ずっと一人で佇んでいたのではなかったか…?
 …それが、何故、たかが三日にも満たぬような人との関わりに、
 ワシともあろうものが、ここまで心乱されなければならんのだ…?)

いつまでも、どこまでも一人だった。そうとも何を悩むことがある?本来の姿に戻っただけではないか。
むしろ安堵するべきだ。心地よき孤高を取り戻したことを。目障りなものが消えたことを喜ぶのだ。
さあ笑え、あの頃のように。さあ…高らかに、笑うのだ…さあ…
……何故だ?何故、そんな簡単なことが…できんのだ……?

『お願いです。僕たちに力を貸してください……人と……力を……』
(……アレンよ…)
『私はここで死ぬ。無念です、とても悔しい……とても、恐ろしい。
 でもアレンさんがここにいてくれる、それが私の救いです』
…………トルネコ

『信用するもしないも、するに決まっています。確かに、一度竜王さんは光の道を拒みました。
 でも、今のあなたは私を助けてくださいましたでしょう?私にはそれで十分です』
………………ロー……ラ……

 
悠久の時を生きた竜にとって、一日二日など、いや何年何十年さえもうたかたの夢に過ぎない。
もし彼の周囲をとりまく孤独の世界が、自らの手によってのみ完成されたものであったなら、
それこそ竜は、この惨劇が終わるまで、あるいは終わってからも、
ただ一人終演の事実に気づきもしないまま、澱んだ空間の中を彷徨っていたかもしれなかった。

しかし、やはりそうはならない。時は彼に沈黙を許さなかった。
それは福音か、あるいはさらなる破局への行進曲なのか。
蹄と共に近づく二つの足音が、彼の沈黙を今まさに打ち破ろうとしていたのだ。
 
 
 
(何かが…来る)
(一体、何があったっていうんだよ…?)
不測の事態に対応すべく、いつでも鞘から引き出せるようメタルキングの剣の柄をしかと握って、
横を走るマリアの心配そうな顔を見て、せめて自分は見た目だけでも平静を保とうと試みて、
しかしそれもどうも上手くいかないもどかしさを感じつつ、
キーファはファルシオンの先導を受けていた。『彼』の到着が図らずもさらなる不安を呼んだのだ。
ファルシオンは賢い馬だ。かつてあのマルチェロがトロデ王をまさに仕留めようとしたその瞬間に
キーファが駆けつけることに成功したのは、この名馬の賢明さによるところが大きかった。
しかしいかに賢くても、ファルシオンは馬だ。言葉を交わすことはかなわない。
こんな時、かつての世界で救い、一時期とはいえ共に戦った元・白い狼の少年ガボが傍にいれば、
あいつなら理解できたかもしれないと思ったりもしたが、ないものねだりをしても始まらなかった。

今は進むしかない。ならば行くだけだ。他に何がある?
教えてもらわずとも、どのみち答えはこの目と鼻の先にある。望むものかどうかはともかくとして。
守り手として、有りうる最悪のケースと、それに対する最低限己に課すべき仕事をキーファは考えた。
最悪とはすなわち…考えたくはないが、宿屋において仲間と呼べる人が既に皆殺しに遭い、
その加害者が返す刃でこちらを襲ってくることだろう。
それに対して、最低すべきことは…『何としても、マリアだけでも守ること』だ。
既に彼はリアを助けえず、その死を看取った彼女の兄との約束を果たすことはかなわなくなった。
その上、今度はマリアまで喪っては、ランドに対して合わせる顔がなさすぎるというものだった。

一方マリアも、ひとかどの戦士として、やはり上手くいかないながらもつとめて冷静を保とうとし、
自分たちが向かっている先で起こっている可能性を幾つか頭に浮かべていた。
そこまでは隣のキーファと全く同じ思考の流れだったが、
彼女の頭に浮かべる『最悪のケース』は、彼とは微妙に異なるものだった。
『信じる』『信じない』『信じたい』『信じられない』
願望と疑念の割合が歩を進めるごとに目まぐるしく変貌し、とどまることを知らない。
不安の水量は膨張の一途をたどり、飽和の域すら軽く越えてしまいそうだった。
答えを知りたい。見極めなければならない…だけど、知るのはやはり、怖かった…
(…目的の場所だ。さて、どうする?マリア王女)
扉を前にして、最後の意思疎通を図るべく、キーファがマリアにささやきかけてくる。
幾らかの逡巡が心の裡をよぎったのは否めないが、王女は意を決してそれをふりほどこうとした。

(ここまで来て、今さら立ち止まっても意味はありません。
 まだ中に誰かいるのならば、一刻も早く援護なり手当てなりをすべきです。
 忍び寄ってきたわけでもありませんから、既に私たちの存在はバレているでしょうし)
(…だな。一気に踏み込むしか手はねえ。俺が先陣を切るから、援護を頼むぜ)
(わかっています、お願いしますキーファ。それから…ここまでありがとう、ファルシオン。
 もし私たちが無事に戻ってきたならば、歓迎してくださいね。
 私、一度あなたのその大きな背に乗ってみたいと思っていましたの)
(…縁起でもねぇこと言わないでくれよ。戻ってくるに決まってるじゃないか)
(…そう、ですわね…では…!)

言葉は通じなくとも、紛れもない立派な戦友にしばしの別れを告げると、
二人は中に向かって駆け出した。この時、ちょっとした『遭遇』があった。
宿屋へ赴くよりも前、武器屋でアンチョビサンドを取り出した際にマリアは自分のザックを開いたが、
急な出立にあたって荷物を慌ててしまいこんだものだから、
几帳面な彼女にしては珍しく、肩に提げたザックの口が開いていた。
人よりも一回りも二回りも大柄なファルシオンの視点から、宿屋へ駆け込む彼女の背中を見たとき、
そのザックの中に収まっていた不思議な手綱が目に入ったのだ。
それが何なのか、馬は知らない。知っていても答えようもない。
ただ何か奇妙な縁のようなものを感じたか、人知れずファルシオンは小さく唸った。
もちろんマリアもキーファも気づかなかった。
…二人とも、様々な事態を想定してはいた。
入った途端奇襲を受ける可能性、誰もいない可能性、既に終わっていた可能性。
希望的観測から最悪と呼べるものまで、可能な限りの事態を予想し、覚悟していたつもりだった。
しかし、それでも、それにしても、人の為す覚悟とか想定とかいうものが
現実の前に到底及びえぬものであることを彼らは痛感せざるをえなかった。
無情なる有様だった。薄暗い部屋の中を充満する血の臭い、重なるように倒れた複数の死体…
動揺のあまり、マリアは肩から力が抜け、ザックを落とす。開いた口から幾つかの道具が散らばる。
ある物は激しい音を立て、またある物はコロコロと床を転がった。

「トルネコさん!」
奇襲の可能性がないのを確かめた上で、まず駆け寄ったのはキーファだった。
無残な傷跡、暗がりでもわかる既に失われた血色。見た目だけでも判断できたし、
『それ』以外に理解しようもなかったが、それでも確認せずにはいられなかった。
確認して、そして落胆した。
「…畜生ッ!!」
キーファは拳を床に叩きつけた。彼自身は、トルネコのことをよく知っているわけではない。
直接言葉を交わしたのは、アトラスとの戦いの直前の、ほんのわずかに過ぎなかった。
しかし、彼は聞いていた。この人が、彼が救いたかったリアと道を共にした人だということを。
彼は聞かされていた。この人が、リアを殺めたクリフトと長くの付き合いであり、
道を誤った旧友を懸命に説得しようとしていたと。本来の彼にはそれだけの価値があったのだろうと。
キーファは、トルネコに話をしなければならなかった。リアのことを。
キーファは、トルネコから話を聞かなければならなかった。本来のクリフトがどんな男だったのかを。
クリフトの遺体を弔うことに一人躊躇いを見せた彼にとって、そうすることで、
ようやく事情を理解し、クリフトに対するわだかまりを清算できるかもしれないと思っていたのに。

なのに、その機会を与えてくれることもなく…この人もまた、逝ってしまった!
「…畜生ッ!!」
もう一度、さらに強く、キーファは拳を床に叩きつけていた。
…本当は、予想も覚悟もしていたはずだったのだ。トルネコが既に殺されているということは。
放送によって判明した生存者のうち、井戸にいた自分たちを除き、
さらにこのアリアハン周辺で見かけたことのない者を差し引き、場所が宿屋ということを踏まえれば、
一番襲撃を受けている可能性が高いのは、他ならぬ彼だったのだ。
予想していたはずだった。けれど、それでもなお生きていることを願わずにはいられなかった。
希望は儚く裏切られ、若者が必死で固めたはずの覚悟の堤防はあっさりと崩れてしまったのである。
(いつもそうだ…なんだって、いつもこうなるんだ!)
アルスもマリベルも、ランドも、アリーナ姫も、リアも、この人も!
どうして誰も待っていてくれなかった?なんで俺を置いて、一人勝手に行ってしまう!?
出会った時は飄々として、まるで殺しても死にそうにないぞって顔をしているくせに、
なのに、それなのに…こんなのって…ないだろう?

手の痛みなどまるで問題にならない。無念と自身への憤りが内側からこみ上げてくるばかりだった。

 
しかし、ここまでなら一つの悲劇の終焉で収まるところであったかもしれない。
ベルはまだ第二幕を、二人にとって明らかに予想外の死を用意して、己が鳴り響くのを待っていた。
キーファがトルネコのことで嘆いている間、一方のマリアはずっと沈黙しつづけていた。
温和な武器商人の死に加え、そちらから受けた衝撃があまりにも大きかったからだ。
(…?)
虚ろな瞳でずっと同じ方向ばかり見ているマリアに今更ながらに気づき、
キーファもそちらへ目を向けた。そこにあったのは、もう一つの、女性の死体。
大柄なトルネコとは対照的で、こちらは青年には全く見覚えのない人だった。

相変わらず動けないままのマリアに代わり、キーファはその遺体の身元を確認しようと顔を見た。
「…なっ!?」
そして『全く見覚えのない』を、彼は即座に撤回した。
実際、青年が死者の姿を見たのはこれが初めてだった。それだけは間違いなかった。
しかし髪の色こそ違えども、この顔は、明らかにある人物と重なりすぎている。
「ローラ姫…」
ようやく口を開いたその『生き写し』の呟きが、キーファに死者の名前を教えた。
彼女もまた直接の面識はなかったが、わからぬはずもない。
名簿でその人が召喚されていたことは既に確認していたし、死したる姫君の名は、
彼女の住む本来の世界の時代において、勇者ロト・勇者アレフに次ぐ知名度を誇っていたのである。
なにしろ彼女のムーンブルク・ランドのサマルトリアと並ぶ、アレフが建設した三国家の一つであり、
そのリーダー格であったアレンのローレシアは、ローラの名に由来するものであったのだから。

(ローラ姫…ローラ姫…聞いたことがあるぞ。確か…誰だ?誰がその名を呼んで…?)
身元を知らされて、キーファは記憶をにわかに掘り返した。そして…思い出した。
そうだ、レーベからアリアハンに向かってあのアトラスを追跡する道中で、
彼は道を共にした勇者から様々な話を聞かされたのだ。
昔から冒険に憧れていたキーファにとって、その夢の体現者とも言うべき男の語りは、
非常に興味深いものだったし、強い憧れともなって彼を惹きつけた。
その、尊敬すべき勇者の名は…そして、あの人がどうしても救いたいのだと願ってやまなかった、
その女性の名が、確か…!
(なんてことだ…なんてことなんだ…!)

「どういうことなの…?どうしてこんなことになっているの…?」
絶句したキーファの傍らで、今度はマリアが口を開く番だった。
昏迷を極めた瞳にようやく灯された光彩はあまりにも眩しく、そして鋭い。
「そこで、あなたは何をしているの…?何故、何も言わないの…!」
あたかも闇と同化してしまったかのごとく、ずっと沈黙を保ち続けた最後の存在を
自らでも抑えきれぬほどにぎらつく眼差しでもって、マリアは睨み付けた。そして、叫んだ。

「……竜王!!」

 
 
(…よくぞ、戻ってきた。待っていたぞ…というべきなのかな)
開け放たれた扉から現れた若者二人が、死者を前に呆然あるいは憤然としている様を
片言も口に乗せることもなく、竜王はただ黙って眺めていた。
これから二人がどう出るか、まだわからないが、どうやら助け舟とはなりえないだろうか。
(いや…完全に、『決まり』であろうな。これは…)
宿屋に三人、そのうち二人が殺されていて、残る一人が深手こそ負ってはいても命に別状のない、
『三者の中で一番厄介であろうに、何故か殺されずに済んでいる』魔王…
これで加害者が残った一人でないと言い切れる者がどこにいるだろうか。
まして駆けつけたうちの一人は、以前からこちらに深い疑いの目を向けていたというのに。

厳密に言えば、論破は不可能ではない。死した二人に残された斬撃の正体、さらには魔力の痕跡。
それらを一つ一つ丁寧に立証していけば、下手人が別にいることを理解させうるかもしれない。
しかし…弾劾を前に冤罪だと喚きたてて、自らの潔白を逐一並び立てるようなことは
竜族の長者たる彼の誇りが、決して許すべきことではなかった。退路などありえないのだ。
それに、自分が二人を死に至らしめたことに深い責任を持つこの事実は、否定しようもない。
(ここまで…か)
遠からず、あの王女はこちらに怒りの刃を向けるだろう。弁解する気になれない以上阻みようもない。
それもよいか…寂しく竜は納得した。今のこの酷く傷ついた身ならば、
下手に身を守る行為にさえ走らなければ、中位程度の呪文一つでも一息に死ねるだろう。
どうせ死ぬのなら、誰かの手にかかるなら…いっそ、この娘に殺されるのがよい。
我が宿敵アレフと、そしてローラ…あの二人の血脈を受け継ぐこの少女こそ、
ワシの命運を断ち切るに相応しかろう…

そう思って軽く息をついた後、自らの述懐に明らかな矛盾があることを
遅まきながらに気づいて、彼は大きく目を見開いた。
(アレフと…ローラの、子孫だとっ!?)
既に死んだローラの…子を産まぬままに逝ったはずの彼女の…末裔だと!?

(何故、まだ生きている?)
この者はあのアレフと、そしてローラの系譜に繋がる存在であるはずだ。
若くして散り、自らの傍で物言わぬ屍と成り果てた、このローラの。
ローラが死ねば、この娘は世に生を享ける命ではありえない。なのに何故、ここにいる!?
もしや、違うのか?と一瞬思ったが、それは真っ向から否定せざるをえない。
この容貌、この雰囲気…自分がよく知るあの二人から受け継がれたものでなくて、何だというのか?

消えるべきはずの存在が、今もなお生きている…そこでまた別の事実に気づき、さらに愕然とした。
(…では、ワシこそ一体、なんだというのだ?)
この儀式の完遂のために、様々な時代から戦士が召喚されてきたことは、最初からわかっていた。
だから、彼がナジミの塔において、ローレシア王子アレンと邂逅を果たすことも、
あるいは彼の宿敵アレフと、彼らの時代には既に故人であるはずの勇者ロト・アリスが
故人どころか子孫よりも年下にしか見えない姿で共存するような曲芸も為しえたのだ。
そこまではいい…しかしアレフも、そして自らも『竜王は一人の勇者の前に敗れた』歴史的事実を
その身を以ってはっきりと自覚している。ワシは確かに、アレフに、討たれたはずなのだ…
死んだはずの身が何故生きている?そして何故、この不具合な真実を、今まで疑いもしなかったのだ…?

『似てると思ったの。ロンダルキアのハーゴンの神殿に』
それはアリアハンに到着する寸前に、
『つまり…この世界も、それと同じハーゴンの作り出した幻影だと?』
やはり既に冥府の道をくぐったリアやトルネコたちも交えて行われた会話。
(幻影…まやかし…偽り…)
偽りの世界、偽りの命、偽りの関係、偽りの友誼。
(どこまでが幻なのだ…?それとも)
……どこまでも、偽り、なのか…?
これまでも、今目の前にある光景も、この胸のうちを侵しつづける寂寥も。この、自らの命さえも。

…………全ては、あのハーゴンが作り出したまやかしに過ぎんというのか…?

『もう一度言おう。貴様たちにはこれから殺し合いをしてもらう。だが悪いことばかりではない。
 このゲームに勝ち残り最後の一人となったものには私直々に褒美を取らせよう。
 元の世界に戻すのは当然、富も名誉も思いのままだ。そして……死者を甦らせることもな』

始まりの祭壇において、参加者全員の前で−とりわけピサロという名の魔族に対して−
ハーゴンは高らかに宣告してみせた。奴にはそれを為しうるだけの力量があるというのか。
他ならぬ、滅びた魔王である彼の存在がそれを裏付けるものであったのかもしれない。さらに、
『何故お前が生きている!?お前は僕たちが滅ぼしたはずだ!』
あの時のアレンの言葉が真実であるならば、否、かの青年が虚言を持ち出すような男でないことは
既にわかりきっているから、ハーゴン自身もまた、冥府より蘇りし者。
自身をも復活させたのだから、他人など造作もないというのか。

しかし、改めて思えば、そんなことは果たして可能であるのか?
死したばかりの、まだ遺体が保存された状態ならば、蘇生呪文を使うという手も確かにあるだろう。
だが時を経て既に朽ち果てた骸を、なおかつ次元をも越えて、
肉体・精神共に健全な形で再生するなどという荒業を、果たして誰にできるというのだろうか。
仮に蘇りえたとしても、魂の伴わぬ操り人形か、腐乱したゾンビに過ぎないのが関の山ではないか?
竜王にはできないことだ…いや、彼だけではない。
彼が君臨した時代より遥か昔、アレフガルドを支配した古の大魔王ゾーマでさえ、
その超魔力を以ってしても、自らの配下たるバラモスをバラモスゾンビとしてしか復活させえなかったのだ…
(おかしい…魔王にさえできぬのだ。いかに邪教とはいえ、その長にすぎぬ者が為せることではない。
 もし本当に可能だというのならば…奴は…ハーゴンは既に、『大神官ハーゴン』ではない)
全てはまやかしか…あるいは王をも越える『神』の業によるものだというのか…?
神…邪神?まさか、奴は…!
では、奴が欺いているのは、我々だけではなく…?

 
「どういうことなの…?どうしてこんなことになっているの…?」
不意に引き戻された。明らかに不審の色に染まった姫の声が彼を呼ぶ。
「そこで、あなたは何をしているの…?何故、何も言わないの…!」

(…そうであったな)
竜王は息を吐いた。憶測に時間を費やしている暇などない。今はこの現実に…向き合わねば…

 
 
 
アリアハンから若干の距離を置いたナジミの塔。その中を一人の戦士が駆けていた。エイトだった。
アレフから同志としての誓いを、フォズからは命を懸けし者に捧げる祈りを、
そしてつい先ほどまでは敵であったはずのピサロからは貴重な切り札を貰い受け、
重責を担い、彼は一人ひた走る。

はやてのリングによって文字通りの疾風の力を得た彼は、迷わず数時間前に通った道を辿る。
ナジミの塔の最下層にたどり着き、さらにその下につながる階段へ。そこから先は地下回廊である。
ここを上手く抜ければアリアハン城まで行けるはずだったが…
その正確な道筋は未だ彼のあずかり知らぬところであった。
しかも地下に潜れば、方向感覚を掴むのは地上のそれよりずっと難しくなるだろう。
エイトは本来の世界での旅路の中で、塔や洞窟の内部を示した地図を手にしたことが幾度かあるが、
この、殺戮のためにのみ設定された舞台において、そこまで親切な用意などあるはずもない。
『そんなに複雑な道じゃなかった』というアレフの先達としての一言がせめてもの頼りだった。

とにかく、東だ。エイトは躊躇うことなく階段を降り、
続く先が本当に単調なものであることを願って、彼は回廊に至る。
道そのものは確かにシンプルだった。しかし間もなくはやる気持ちでいっぱいの彼をして、
立ち止まらせるものを発見した…アレンに引き続き、またしても、遺体だった。

大と小、戦鬼と淑女、紅と翠。何もかもが全く対極をいく二者が、
やはり色も違えど、共にかつては自らの命の雫であった流れを床に溜まらせ倒れている。
エイトはその二人を知っていた。既に滅び去ったレーベで、浅からぬ因縁を持ったのだ。
(アトラス…!それに、確かサマンサと言ったか…)
放送でこの二人が既に斃れたことを知っていた。
アレフからここが彼らの終焉の地であったことも聞いていたし、
自分が赴くのは勇者が通ったルートの巻き戻しである以上、道中で出くわすことも承知の上だった。
全て判りきっていながら、それでも彼は俄かに動揺を隠しがたかったのだ。
どちらも手強い敵だった。アトラスは何者にも勝る腕力を身につけた魔人だった。
かたやサマンサは、巧緻に長けた、言葉通りの魔女だった。
エイト自身も含めた仲間たちの前に立ちはだかり、その寿命を著しく削りとった彼らであったが、
そのつわものたるこの二人でさえ、死の呪縛から逃れることはできなかったというのか。
とりわけアトラスは全身至る所に傷を負い、視界を支える唯一の眼をも失っていた。
よほどの激戦をくぐりぬけてきた果てでのことだと容易に窺い知れた。
(…)
沈んだ仇敵を前に、エイトは無言だった。
正直、憎かった。もし再び合間見える機会があったならば、ぶん殴ってやりたいと思っていた。
しかし、彼らも死者となってここに横たわる身となった今に至っては、
遺体に鞭を打ったところで己の品性を代償にしてしまうだけで、何の意義もない。
握り締めた拳はもはや、叩きつける場所を見失ってしまったのだ。

思えばここに至るまでの時間は、長いようで短かった。遠いようで、あっという間だった。
実際、まだようやく一日を過ぎたばかりである。それなのに。
誰もが皆、駆け足で走り去り、エイトの前で生き急ぎ、そして死に急いでいったのだ。

『どうして…』
またしても、間に合わなかった、あの時。
『アリーナさんが死ぬことなんて、なかったんですよ…!』
彼が守ろうとして、逆に守られてしまった姫君も。その姫君の命を奪った戦鬼も。そして、
『兄ちゃん。そいつ連れて、逃げろ。あんな奴ら…俺一人で、充分だからよ。手前らは、邪魔だ』
傍にいたというのに、反論することができなかった、あの時。
『……ゴンさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんっ!!!!!!』
あの勇ましくも不器用な竜も、彼が最後の命を煌かせて守ろうとした人も、彼らを嵌めた女たちも。

みんなみんな、死んでしまった。

…二者のうち、エイトがアトラスと対峙したのは、既に奴がアリーナを斃した後のことだった。
『…ベリアルが死んだって聞いたとき、アトラスすごく悲しかった。
 この村でベリアルが死んでいるのを見たとき、
 すごく悲しくって、悔しくって、憎たらしくなって…何が何だかわからなくなった』
その弁明に、エイトは少なからぬ違和感を覚えた記憶がある。
接近を察知した時、一目見ただけで邪悪に忠誠を誓った者だと断じた相手と同一とは思えなかった。
勇敢な姫を殺した鬼は、武勲を掲げて愉悦に浸るでもなく、さらなる獲物を求めて駆け回るでもなく、
あたかも憑き物が落ちたかのような、穏やかな顔つきだった。
『でも、この女…アリーナが現われて、いっしょうけんめい闘っているのを見ているうちに
 悲しいとか、悔しいとか、憎たらしいこととかが、いつの間にか消えて…
 …アトラス…確かに楽しかった…ごめんな。
 アトラス、おまえを殺してしまった。おまえに止めをさしきれなかった』
その後のアトラスの行動、そして顛末を踏まえれば、奴が戦いを放棄したわけでは決してない。
しかし、エイトが見取ることさえできなかったアリーナの最期の戦いが、
復讐に燃える強靭な戦鬼をして、何か大きな心境の変化をもたらしたのは確かなようだった。

(楽しい…ものか。楽しいはずがないだろう。でも…)
殺戮者たる彼らを擁護する気にも、ベリアルを返り討ちにしたことを後悔する気にもなれなかったが、
仲間を失って哀しいというその一点だけは、エイトにも共通する思いだった。
人も魔物も、結局やっていることは同じなのか。戦えば人は死ぬ、魔物も死ぬ。皆傷ついてゆく。
戦いは、それ自体が大いなる悲劇だった。楽しいわけがない。
しかし、ならば何故戦うのか?何のために武器を手に取るというのか?

(哀しいだけじゃ、だめなんだ。でなければ、僕たちのやっていることはあまりにも虚しすぎる。
 そうだろう?…アトラス…)
争いを正当化しようとはエイトには思えない。しかしどのみち命を懸けなくてはならないのならば、
せめてその向こうにある未来を信じて戦いたい。守るべき人の笑顔を夢見て駆け抜けたい。
そうだ…きっと自分が進むべき道の先に、かすかでも掴める希望があることを胸に思い描いて…
…エイトはぐっと顔を上げて、行く手を睨んだ。
そこは四つの道に分かれた交差点。一つは彼が塔から下ってきた道で
あと三つのうちのどれが正解か?というところだったが、もはや悩む必要もなかった。
右折、左折、直進。三方の道筋の中で唯一、右に繋がる道だけが極端に荒れ果てている。
方角からして元々可能性の高い道だったが、その痕跡が確率を確実へと変えてみせたのだ。
眼が潰れているというのに、構わず疾走した結果であろう。鬼が来た道は、アレフが辿った道。すなわち
(アリアハンに繋がる…!)
まるでアトラスが、この時のために残してくれたかのようだった。かつての償いを果たすべく。
もちろん、冷然と言い放てばただの偶然に過ぎない。しかし、そう思っていたかった。
それは、ひいてはあのアトラスに、エイトが自身ではついに倒せなかったあの戦いの申し子に、
精神の上では勝ち得たあの勇ましき姫の導きのように思えてならなかった。

あの人は、そう、まるで宵の明星。
日が落ちる寸前に、空を焦がす紅さえも色あせるほどに眩しく輝き、
夜の帳が下りる頃には、彼女もまた姿を消していた。
明るくて、激しくて、そして儚くて。この瞳に映った時の共有は、決して長くはないけれど、
死してなお、彼女は。輝き失せた今もなお、その勇姿は、その導きは心の奥で、
こんなにも強く、こんなにも熱く燃え盛っているではないか。

この光跡を無駄にしてはいけない。陳腐だけど、他に報いる手などありはしない。
「今行きますよ。絶対に、待っていてくださいね…!トロデ王――――――――――――!」
エイトは叫んだ。あの人のいる、アリアハンは近い。しかし道は決して平坦ではないだろう。
だけど、たとえいかな障害が目の前に立ちはだかろうとも、この雷光の一閃で打ち崩してみせる。

この、欺瞞と虚言と殺戮に渦巻く世界でなおも培いえた、確かな友誼を胸に。守るべき人を、守るために。
風のごとく、翔ぶがごとく、あるいは雷のごとく、流星のごとく…!
一人の戦士が駆けてゆく。恐れるものは、何もない…!

 
 
 
エイトが目指す先の城下町側では、今、ひとつの弾劾が始まっていた。
「答えて!ここで何があったの!?あなたは一体…何をしたの!」
大きな瞳を悲しみで震わせる告発者を前に、被告は沈黙を保ち続けていた。
(違うな…何をしたのか、ではない)
告発されし王は目をただ伏せている。
(何も、できなかったのだよ…何もな…)
ローラの時とはまた別の意味で、彼は姫君と目を合わせられる気がしなかった。

しかし、一方で彼女の怒りを嬉しく思う、奇妙な側面が自分にあるのを竜王は感じた。
先祖の死が、どうやら彼女の絶命までも意味するものでは、今のところないようだし、
何より、仮に矛先の向きは多少修正の必要があったとしても、この姫の怒り自体は至極正当なものだった。
自らの親友を殺め、さらに祖先、仲間の死にまで責任を持つべき男が目の前にいる。
怒って何がいけないというのか。まったくこの少女は正しいのだ。それが嬉しかった。
この偽りに満たされた、狂った世界の果てにおいても、どれほどの絶望が彼女を襲ったとしても、
姫の精神は未だ狂気に侵されることなく、毅然さを保っているではないか。
それは…そう、彼が欲し、傍に置きたいと願いながら、二度にわたって叶わなかった光の姫君と
重なるところである。やはりこの娘はあのローラの末裔なのだ、心からそう思うことができた。

勿論、先祖と子孫とでは光の質は違う。ローラがさしずめ北風に怯える旅人を柔らかく包み込む、
まばゆいばかりの太陽だとするならば…この少女の光は…『月』
夜の虚空に一人、寂しげに佇む。太陽と違って満ちる時もあれば暗く欠ける時もある。
しかし欠けてもいずれ満ちるのだ。今は泣いていても、いつかはきっと微笑むだろう。
彼女の心を照らしうる、一筋の光がそこにある限り。彼女もまた輝き満ちて誰かを導くに違いない。
神聖とも神秘とも言われ、魔を御する者にも尊ばれる夜の女王、月…
太陽同様、この手に届くことは決してなくとも、目に見える光彩は日ごとに変化すれども、
その無垢なる輝きそのものが朽ち果てることは、決してないのだ…

(この輝きを、穢してはならぬ…)
ある決意を秘めて彼が顔を上げた時、その目の前で、いかずちの杖の先端に象られた竜の両眼が彼を睨んでいた。
「ワシを、討つのか?」
「…」
王女は答えを返さなかった。しかしこの場合、無言は限りなく肯定に近いものだった。
もはや問答も意味がないと思ったのだろう。まだ完全には心を決めかねている様子だったが、
けれど、もし少しでも琴線に触れる何かが生じれば、少女はもはや処刑を躊躇わないに違いなかった。

「どうしても討ちたいか?ならばそれもよかろう。逃げも隠れもせぬ。
 だが、願わくば控えてもらいたいものだ。
 …命が惜しいからではない。無駄に魔力を浪費するだけだ。
 惜しむならば、ワシはお前の手がこの血で穢れることをこそ惜しむ。
 ワシは…お前の裁きに値せぬ男だ…」
「…?」
怪訝そうに眉をひそめるマリアを横目に、竜王は足元に転がる一つの物体を手に取った。
先ほどマリアがザックを落としたときに零れた、当の本人も気づいていなかったそれを拾い上げた。

「生きる価値もなければ、殺される価値もない。だから…」
その何かがどういう経緯によって、この少女の手に渡ったのかを彼は知る由もない。
自分に人殺しができるわけがないと嘆き、そして無情にも殺された魔女の無念。
彼女を殺し、次々と命を奪い、犯した罪の前に自分は呪われたままでなければならないと、
ただただ逃避することでしか自我を保ちえなかった幼き勇者の苦悩。
そして愛する人々を助けることも、見取ることもできず、無力に打ちひしがれた王女の嘆き。
それらを傍らで見守っていた、涙、というにはあまりにも禍々しき呪いの塊。
その液体が見つめてきたものを竜は知らない。だが物質としての本性は知っている。だから、

……ワシは…自らの手で、自らを…裁く……

それを、一息に飲み干した。

「!!」
「なっ!?」
キーファが声を張り上げた。マリアは片言すら発することも出来なかった。
「あんた!自分が何をしたのかわかっているのかっ!?それは…!」
「問われるまでもない…だからこそ…こうした、の、だ…っ」

言葉の後半が急速に乱れだした。本来の彼ならば毒如きに身を焼くことなどありえなかっただろう。
だが今は、死神を受け入れた喉が灼熱する。なのに手足は凍えるように冷えきっていく。
この全身を瞬く間に覆わんとする寒さが心臓をわし掴みにした時、彼の命は潰えるのだ。
かつては一睨みをきかせただけで、人も魔物も全てがひれ伏したであろう
その威厳に満ちたはずの瞳が、もはや色のないただの硝子玉へと変わろうとしている。
終わりだ。それが末期の呟きかと自覚した直後、
既に外界から切り離された聴覚を、何者かが刺激した。
生者のものでないのなら、答えは決まりきっていた。
死ぬのではない、戻るだけだ、元のところへ…そう心に決めた時、誰かが彼を呼んでいた。

その者は死ぬのは無念だと悔しいと、そして恐ろしいと言っていた。
しかし後に、彼に向かってこう付け加えたのだ。
『私はあなたに後を託すことが出来る。希望を託すことができる。
 そのことがどんなに私を安心させているか……』
それを聞いて彼は自嘲をした。ワシに託す?ワシが、希望だと?
そんなものはない。ワシは魔王…元から絶望を生む存在だったのだ。
お前はワシを知らぬ、ワシをよく見ていなかったのだ。真実のワシは、
『竜王さんは元々悪い方ではありませんわ』
また別の声が聞こえる…お前もか。
よりにもよってお前もそのようなことを。ワシは…ワシという男は…
『あなたは…』

――――――――人間を、愛した――――――――

(…ッツ!!)
「ウオオオオオォォオオオオ!!!!」

 
(…!)
目覚めた時、頭上に青空が広がっていた。しかし決して天国でもなければ地獄でもなかった。
足元には家屋の瓦礫がうず高く積み重なっている。そこはまだ…アリアハンだった。
竜王は生きていた。毒をあおり、死んだはずの身を未だ生きながらえさせていた。
自身が望んでいなかった姿へと、変貌を遂げて。
(これは…)
自らの意思ではなかった。生身では如何ともしがたい危機に瀕して、防衛本能が、彼を竜にしたのか。
(…情けない…これが、我の為すことなのか…?)
竜王はさらに自嘲を深めた。数多の命を見殺しにしておきながら、
己自身はそこまで生に執着しようというのか…死ぬことすら、できんのか?
(それとも…死ぬことなど許さないというのか…?なあ、そのなのか?皆よ…)
そうか…そうよな…ここで死んだところで、ただの逃げにすぎぬよな。
お前たちの勇敢さに比べれば、足元にさえ遠く及ばぬよ…ああ、そうだな…そうだろう?皆よ…

 
竜王が寂しく足元を見下ろした時、瓦礫が二箇所、大きく動いた。彼は大きく息をついた。
(おお…)
中からマリアとキーファが姿を見せた。それぞれが一人ずつ、竜王にとってかけがえなき者を抱えて。
マルチェロが示唆したように、宿は竜の圧倒的な力に耐えられるものではなかった。
そのままでは皆をまとめて、少なくともトルネコとローラは死後の悲劇を免れなかっただろう。
しかしマリアとキーファがとっさの判断で、死体を損壊させる憂き目を防いだのだった。

 
 
「…礼を言おう。その者らの遺骸を無下にしては、ワシは謝ることすらできぬところだった」
頭上から声をかけられて、マリアは最初睨み返そうとした。
どう考えても、彼の行為は、死者もろともこちらを道連れにする狙いとしか思えなかった。
つまりは、やはり彼は、いや奴は、自分が悪であることを露呈させたのだと彼女は考えたのだ。

しかし、巨大化して全身を見渡せなくなったことで、
かえってその瞳だけを注視することになったマリアは、竜王の心に灯された光を確かに見た。
「素直に、感謝しよう…やはり、お前たちのような若者を待ち続けて、よかった…」
そこに、死者に対する憎しみはない。こちらに向けられるべき殺意もない。
あるのはただ、純粋な感謝と、哀しみだけ…マリアの中で、それは確かに誰かと重なった。
彼女が知る限り、誰よりも力強く、誰よりも頼もしく、それでいて誰よりも不器用で愚直だった彼。
誰よりも多くの敵を討ち倒す腕前を持ちながら、願わくば共に分かり合える道はないかと捜し求めた彼。
…そして、それがおよそ現実において果たしえぬ絵空事に過ぎないことを、寂しげに語った、彼…

『人と魔物はきっと、わかりあえる。共に生きることができるはずなんだ。
 今はこうして剣を取らなければならないけれど、いつかきっとそんな時代も訪れる。そう信じたい。
 …そうすれば、きっと、君のような悲しみを背負う人もいなくなる。
 そして…僕のような何かを殺める力も、必要でなくなるに違いないんだ…』
『ワシは死ぬわけにはいかん。アレンの…友の名と、使命を継いだワシが死んだら…』
(…あ)
『アレンは、真に死んでしまうからな…』
(…あ、ああ…ああ……!)
彼女は…ついに、悟りえた。

「竜王、あなたは…あなたは…!」
「王ではない」
かつて宿敵にもそう呼ばれ、訂正した呼称を、その時と同じように彼は修正した。
「ワシは王ではない。神でもなければ人でもない。そして誇り高き竜でもない。
 無論…もはや『アレン』でもない」
竜は寂しげに唸った。人と共に手を携える誓いを果たしえなかった自分に、
誰一人として守りきることのできなかった男に、
そして『彼の名を穢さないで』と、胸の奥に沸き立つ怒りを抑えて、
静かに、切実に願ったこの少女の祈りを違えた者に、もはやその名を名乗る資格など、なかった。

 
…ワシは、アレンではない…ただ一匹の…しがない、何か…だ…

「トルネコからの遺言だ。かつてはこの首輪を通して
 ハーゴンたちが我々の言動を逐一窺っていたというが、今はそれもないらしい。
 もちろん信じるも信じないもお前たちの自由だ…
 だが願わくば、ワシはともかく、あの男の最期の言葉は、どうか信じて受け取ってやって欲しい。
 これは、あやつの命をかけた商いの、最後の報酬なのだ…」
もう一度、竜はローラを、そしてトルネコの顔を見た。
思えば、ローラもさることながら、この純朴な武器商人に彼はどれほど助けられてきたことか。
ただ機転が利くから、というだけではない。意外に戦力になるということのみでもない。
アレンの名を継ごうと決め、ナジミの塔から敵を倒すべく赴いた直後、
バズズのメガンテに耐えるべく、今と同じように竜化してみせた直後、
魔王の正体という、本来なら畏怖すべき姿を目の当たりにしながら、
トルネコはこともなげに言ってのけたのだ…『ああ、あの魔族の方ですか』と。

勿論全てを知った上での発言ではなかったろう。しかし、魔をも容易く受け入れたこの男の言動、
そしてそれが口先だけではない数々の行動による証明が、竜にここまで人を信じさせてしまった。
いかにアレンとの誓いがあったとはいえ、もし先で出会った人間が彼のようでなかったら、
竜王の歩んだ道は、今とは大きく異なったものになっていたに違いなかった。
「ワシの生き方を、たった一日でこれ程までに変えてしまった。
 心あらば、手厚く葬ってやってくれ。ワシ如きには、もったいなさすぎる者たちだったのだ…」

そう告げた後、竜王は自分をじっと見つめているマリアと再び視線を合わせた。
その瞳が何を語りたがっているのか、知悉することはできない。
だから、竜王は一言『すまぬ』と言い、そして『さらばだ』と残して彼女の前から姿を消した。
もはや二度と会うことはないだろうと、互いに確認するまでもなく悟ったかのように。

竜は静かに飛び去った。あたかも宿命の荒波に翻弄される彼女を象徴するかのごとく、
豊かな葡萄色の髪が竜の生み出した風に煽られ、なびき、とどまることを知らなかった。
(…りゅう…おう…)

 
 
既に日は高く、正午の頃を迎えようとしている。
まだ目的の場所に、マルチェロはたどり着いてはいない。
放送によると生存者は12名。そこから自らが奪った分を差し引くと丁度10。
さらに自分と宿屋周辺で確認した者も間引けば6…まだ油断のできる数ではない。
全てがアリアハンにいるとも思えないが、禁止エリアとして今後増設される区域を鑑みると
この周辺に向かっている可能性は極めて高い。城にいないのであれば、
消去法からしてこの街中に潜んでいる恐れがあると踏んだため、移動には慎重だった。
様子を窺いながら、ようやく彼は城へと繋がる跳ね橋の前まで来た。
「随分とまあ派手にやってくれたものだ」
それを橋と言ってよいのならば、だが。

あの鬼が倒れた痕、なのだろう。橋は完璧に叩き潰されていた。周りを堀で囲まれた城へ渡るための
唯一の道であり、これがなければ向こう側への侵入はひどく困難なものとなる。
(だが、問題はない)
前方に広がる惨状を目にしても、マルチェロは露ほどの不安も感じなかった。
彼にしてみれば多少厄介なだけで、不可能でも何でもない。武器を持つ右手を一瞥して薄く笑った。
先だっての宿屋での戦いにおいて、この剣の射程距離の長大さを彼は既に知っている。
そのリーチを活かせば、この程度の堀を越えることなぞ造作もないことだ…

『皆殺し』などという物騒なことこの上ない冠詞を戴いた、呪われし魔剣からすれば
そのような足がかりの道具に利用されるなど、不愉快なことこの上なかろうが、
そんなことは問題にもならない。『奴』に、拒否権はない。
奴は戦いたい、血を吸いたいのだ。その血が強者であれば、高貴であればさらによい。
だが、自らの意志で他者を襲うことはできない。己を振るってくれる人材が必要なのだ。
今、この場に置いて…そのような人材は、このマルチェロしかいない。
嫌だからと言って、手放されるわけにはいかない。だから、渋々でも従うしかない。

聖堂とは名ばかりの、邪念に満ちあふれた世界の中で生きてきた彼からすれば、
このような打算に基づいて行動する俗物は理解しやすく、そして御しやすいものだった。

思惑通りに易々と堀を突破した頃、マルチェロは後方から爆音を聞いた。
ここからでは様子を見ることはできないが、言わずと知れた宿屋の方角である。
背を向けたまま、彼はほくそ笑んだ。どうやらやはり嵐は吹き荒れたようだ。
共倒れで全滅と相成ってくれていれば重畳この上ないが、さすがにそこまでは望めないだろう。
しかし、どう転んでいたとしても、自分にとってはさらに有利な状況となったに違いなかった。
これでいい。さて、後はどう攻め立てるか?彼が次なる思案に身を委ねようとしたその時、

―――――ミ、ツ、ケ、タ…ゾ!!!!―――――

その頭上を影が覆った。

 
「なんだと!?」
この上ない強い危険を感じ、身を翻した後、マルチェロは目を大きく見開いた。
空から舞い降りてくる相手が誰だか彼は知っている。
その者が竜に変化する力を持っていたことも知っている。
だが彼は、奴が深く傷ついていたことを知っていた。
自らの既知を立て続けに二人も失ったことも知っていた。そしてさきほどの爆音…

何もかもを知っていた。故に、以上のことからして…この男が、今、ここへ来るはずがないのだ!?

(バカな…!)
心がざわめく。ありえないと言ってしまいたかった。だが彼にはわかっていたはずだった。
この世の全ての事象において、ありえないことなど一つとして存在しないのだということを。
リアリストたる彼にとって、この目の前に映る現実こそが真実であり、全てであった。
眼前に広がる光景を無視して喚きたてたところで無意味であり、愚の骨頂だというしかない。
彼はずっとそう思っていたし、これからもそうであるはずだった。
だが、しかし…それにしても…それにしても…!

因縁の敵を前にして、竜は冷静に状況を分析していた。
はっきりと言えば、劣勢である。相手の意表をつき、心理的には先手を取ることに成功したものの、
肉体的には完全に分が悪い。マルチェロが睨んだ通り、今の彼には魔力もなければ体力もない。
大体、彼は飛来してここまでたどり着いたわけだが、竜の姿をもってしても本来飛ぶことは彼の本領ではなかった。
それを得意とするものなら、アリアハンに向かう際、わざわざナジミの塔にキメラの翼で移動してから
風のマントで舞い降りるというような、まわりくどい手を用いる必要もなかったし、
そもそも居城を、空の舞台を生かしえない地下深くに構えることもなかったであろう。
飛ぶよりも、巨大な質量を持つ竜の体を支える意味合いの強いその翼であえて飛んでみせたのは、
まだその方が体の負担が少ないからという理由に他ならなかった。
そして、それに加えて、先ほどあおったあの毒…
強靭な竜に姿を変えたことで、その進行は確かに抑えられたが、
克服したわけでは決してなかった。今も緩やかに、しかし確実にその体内を蝕んでいる。
勝敗の如何に関わらず、残された時間があと僅かであることを、彼は自覚していた。

(構わぬ…どうせ、これより行き着く先は、同じなのだ…)
死ねば当然終わり。また、たとえ生きながらえて、この殺戮の終焉を見届けえたところで
辿るべきは元の世界、すなわち勇者アレフに討たれた後、叩き落とされた獄界でしかない。
行こうが戻ろうが、どちらにせよ、彼に未来はないのだ。
守るべき者も、同胞も、皆逝ってしまった。
失うものは最早ない。惜しむべきなにものもない。
強いて言えば、唯一戻らぬ宿敵だけが心残りだったが…それももう、過ぎた話だ。
振り返るな。今は抗うのだ、最後まで。
この身に残った灯火を炎に変えて、我が死の瞬間まで燃やし尽くすのだ。
たとえ迷っても、幾度打ち倒されても、どれほど自らを見失いかけたとしても、
それでもなお、己を突き動かし続けた『竜の誇り』
その全てをかけて、彼は…竜は、最期の舞台へと躍り出たのだ。

この偽りの世界の果てで、確かに存在するもの。
それは我が身、我が心。何人たりとも否定などさせぬ。誰に、まやかしなどと言わせようか。
恐れるものは何もない。全てはこの身の赴くままに、ただ、心のゆくままに。

(怒れば…よいのだ…!)


【E-4/アリアハン城前(堀の向こう側)/昼】
【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/8 MP微量 竜形態 毒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪 マルチェロとの決着をつける
*竜王はマリアの所持していた毒薬によって、じわじわと消耗していきます。
 適切な解毒処置を施さなければ、遅くとも夕方(放送前)までに死亡すると思われます。

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療) 全身に裂傷 軽度の火傷 HP1/3 MP1/5
[装備]:皆殺しの剣(呪)  魔封じの杖
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:休息後皆殺しのために動き始めるはずだったが、竜王の奇襲に意表を突かれる

【E-4/アリアハン城下町宿屋/昼】
【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP4/5 MP1/3 脇腹に傷(治療済)
[装備]:いかずちの杖 布の服 風のマント
[道具]:支給品一式  ???
[思考]:竜王の行動に困惑 竜王を追う? アリスを支えたい

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP4/5 両掌に火傷(治療済) 左膝下に裂傷(治療済) 両頬に裂傷(治癒)
[装備]:メタルキングの剣 氷の刃 星降る腕輪
[道具]:支給品一式 ドラゴンの悟り
[思考]:竜王の行動に困惑 マルチェロを探す?

*竜王の竜化によって、宿屋がほぼ全壊しました。
 マリアたちがかばったため、ローラ・トルネコの遺体は無事です。
*宿帳(トルネコの考察がまとめられている)はローラの遺体の腕に握られています。
*トルネコのザックに入っています。(聖なるナイフ 錬金釜 プラチナソード ラーの鏡 首輪×2)
*光のドレスはローラが、無線インカムはトルネコが装備したままです。

*以下のアイテムが宿屋の瓦礫に埋もれています。
 ・太陽の石(ホットストーンから変異)・破壊の鉄球 ・マジックシールド
 ・雨雲の杖 ・ロトの剣 ・ローラのザック(炎のブーメラン 支給品一式)・さざなみの剣
*マリアがザックを落とした際、中のものを幾つか散乱させてしまいました。
 ・祝福サギの杖[7] ・引き寄せの杖(3) ・飛びつきの杖(2)
 ・小さなメダル ・天馬の手綱 ・アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
 ザックの中に残っていなければ、やはり宿屋の瓦礫に埋もれています。

*ファルシオンはマリア・キーファを連れてきた後、再び宿屋の表口にいました。
 手綱は繋がれていませんが、マリアの所持品(天馬の手綱)に興味深そうな反応を示しました。

【E-3/岬の洞窟・地下回廊→アリアハン城へ/昼】
【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP1/4 MP微量 左肩・背中・腹部にダメージ 火傷 全力疾走中 
[装備]:メタルキングの槍 はやてのリング
[道具]:支給品一式 首輪 あぶないビスチェ エルフの飲み薬(満タン)
[思考]:アリアハンへ向かい、仲間(トロデ優先)を探す なんとしても守りたい
    竜王を警戒?(今はアレフの判断を信用) マルチェロを質す


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