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せめて有りの侭の僕達で

せめて有りの侭の僕達で


登場人物
エイト(DQ8)、アリス(DQ3)、竜王アレン(DQ1)、マリア(DQ2)、アレフ(DQ1)、フォズ(DQ7)、ピサロ(DQ4)


勇者と竜王、二人を待つ一同はロトの生家で卓を囲んでいた。
飲み交わす茶はまだ用意されてはいないが、ようやく手にした安息と言える。
この大陸に取り残された、全ての命はここに集ったのだから。
エイト、マリアの両名は、本当に安堵していた。
もう奪われない、もう穢されない。
そして勝とう、決着を付けよう。
静かな闘志を温めて、椅子の背凭れに身体を預けていた。
命の輝きの呪文の効果があり、傷は癒えたと言えどもその精神疲労は尋常ではない。
鋭気を取り戻すためにも、ゆっくりとした時間が必要だった。
もちろんその点については、ピサロとアリスも考えてはいる。
ただ、この両者は加えて一つの不安も抱えていた。
それは、この死闘の世界での、確固たる規律。
アリスの心に不安の楔が生まれる。

『24時間死者が出ない場合─』

ピサロの心に暗雲が渦巻く。

『全員の首輪が発動し─』

そう、それは物語の終焉。
この惨劇は、『歴史』にも、『記録』にも、『冒険の書』にも刻まれない。
無念と悲哀の渦巻く、浮かばれぬ魂が握り締めた血塗られた記憶に、その断片を遺すのみ。
所謂『BAD END』という物だ。

『『─死ぬ』』

避けたい結末、いや、避けなければならない結末。
残された時間は、案外短いかもしれない。
勇者と魔王はほぼ同時に顔を上げる。
漆黒の瞳と紅い瞳。
二つの視線が、ぶつかった。
(─ああ、そういえばこの娘は……)

ピサロは思い出す。
今歩むこの道を、一度は断ち切った瞬間を。

─アリスは……彼女はけしてこのゲームには乗らない─

勇者を誰よりも信じていた女が、いた。
彼女を誰よりも、愛していた人が、いたのだ。

─だから彼女以外の全てを私が殺す必要があるのです!─

(……伝えるべきか、否か……)

殺戮に身を投じた、勇敢で、優しい魔法使いの話。
彼女が、アリスの名を言う度に感じた覚悟の念、慈愛の念。
全てが、彼女─サマンサが最期まで貫き通した信念を、あの場にいた皆の胸に刻んだ。
ピサロは、彼女の牙を一度は突きつけられたフォズを一瞥する。
フォズもまた、アリスを見つめた理由を察した。

(……アリスさんには、辛いことかもしれませんが……)

フォズは他人の心を見る仕事、大神官に就いている。
彼女の知る『勇者』はあらゆる可能性の中からほんの一握りの、頂点を極めたものを称えての称号。
かつて、全世界の希望であると英雄譚に謳われた者に準えて名づけられたそれであった。
だが、サマンサの守ろうとした勇者は、違う。
その『全世界の希望』である唯一無二の勇者だったのだ。
サマンサが生死を賭け守ろうとしたのも理解できる。
しかし。
彼女の『心』もフォズには理解できた。
大切な人に生きて欲しい、という心を。

(大切なひとが、自分の為に誰かを殺めたなんて……聞かされたくはないかもしれませんが……)

しかし、アリスは知らねばならない。
彼女の選択を。
彼女の最期の思いを。
フォズは、ピサロに頷いた。
それがサマンサとアリスへの、正しい選択だと信じる。
その小さな身体と無垢な眼に、皆の心を気遣ういたわりが溢れていた。
ピサロは、アリスに語り始める。

「─サマンサ、という名に覚えがあるな」
「!」

疲弊したエイトとマリアも、視線をこちらに向けた。
アリスの座る椅子が倒れ、音を上げたからだ。
その表情は、悲しみのような、驚きのような。
失った大切な仲間のぬくもりが、ふと懐かしく感じた。

「……はい」
「話しておくことがある」

サマンサの決断を、凶行を。
そして、その最期を。
紡がれる呪文、溢れる血。
─ピサロが投じた鎌は、死神のようにサマンサの命を刈り取ったこと。
それが、たった一人でもがいた、魔法使いの物語の結末だった。
全てを伝え終えた頃には、アリスはすっかり項垂れた。

「……」

嘘だ、と罵れたらよかった。
信じられない、と拒絶できればよかった。
しかしアリスは、勇者であり愚者ではない。
目の前の魔王が言うことが嘘か真かくらいの判断はつく。
フォズの言い分もあり、信用する材料は十分であった。
だが、やはり唇を噛み締めざるを得ない。

「……こちらにも事情があったとは言え、責める権利はある」
「……」
「流石に命まではやれんが、罵倒くらいなら受け取ってもいい」
「でも……ピサロさん、何もこんなときに……」
「いいえ」

マリアの制止はフォズに遮られる。
あどけない子どもの顔から、凛とした大神官の顔へと変化する。
心を、生き方を司るその力を以て。

「今、じゃなければいけないんです……認めたくはないけれど、私達の命は未だハーゴンの掌の内」
「……」
「……けれど、心までは奪われない……心だけは、蟠り一つ残さずありのままの自分でいたい」

フォズは、人の可能性を誰よりも信じていた。
誰より、人が変われることを理解していた。
それ故に恐れているのだ。
心が折れることを、心が朽ちることを。
この舞台は、人の心を揺るがす。

「だから…ありのままでいられる、大切な『今』…全てを清算しなくてはなりません」
「─そうですよね」

ピサロが語りだしてから、無言を貫いたアリスがフォズに同調する。
涙も憤怒も無い。
いつもの勇者の顔だった。

「うすうす、感づいてはいました……サマンサが、どうしていたか」
「……やはり、私が憎いか」

サマンサは冷静で、合理的に物を考える女性だった。
そしてアリスは、直情的で危ないことに首を突っ込む性質がある。
そんな自分でも可愛がってくれる、姉のような彼女が好きだった。
だから、ここに招かれて、あの大広間で再会したとき。
ハーゴンから、この血塗られたアリアハン大陸でのルールを伝えられたとき。
嫌な予感がしていたのだ。

「……彼女は大切な仲間でした、憎くないと言えば嘘になります」
「だろうな」
「でも……」

アリスは頭をピサロに下げる。
魔王に勇者が謝る、その光景にピサロは眼を僅かに見開いた。
続けて顔を上げ瞳を見据え、言葉での謝罪を繋ぐ。

「その傷のこと…先ずはごめんなさい」
「……それは、良い。この大傷は私が原因だ」

動かぬ右腕を顎で示したピサロに、フォズが僅かに悲しげな顔を見せる。
魔王の思わぬ優しさにアリスは目を細めるが、まだ伝えるべきことがあった。

「それから……」

少々言い澱むも、アリスは続ける言葉は決めている。
ああ、あの日の光景が眼に浮かぶようだ。
自分が突っ走って、彼女がいつも助けてくれた。
優しいサマンサ、大好きなサマンサ。
そんな彼女の悲しい牙を、折り砕いた目の前の魔王に伝えるのは憎しみではない、心からの─

「彼女を止めてくれて……ありがとう、ございます」

ありがとう。
仲間を救った魔王への、心からの礼だった。

「……まったく」

ピサロは驚いた。
あれほどまでアリスを想ったサマンサを、自分は殺めたのだ。
アリスも、並々ならぬ愛があったに違いない。
かつての自分のように復讐すら考えると考えていた、それがどうだろう。
許すばかりか、礼まで言われてしまった。
命を差し出せと言われようとも、力づくでも説き伏せる気で身構えていた自分がどうにも馬鹿に思えてきた。
彼の故郷の勇者にそっくりだ。
そして、先刻剣を交えたあの勇者にもそっくりだった。

「…つくづく、勇者という奴らは……まるで解せんな」

錆付いた錠前が崩れ落ちるように、彼らは蟠りに別れを告げていく。
ありのままで、在り続けるために。

 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 

話し声が、聞こえる。
この生気の欠片も感じられない荒れた街で、アレフとアレンが唯一感じた気配。
何人もの話声は、心地よかった。
たった一人戦い抜いた勇者に、竜に。
薄い戸を目の前に、勇者が一歩進み出て戸を叩く。
近くに立っていたフォズが、迎え入れた。

「アレフさん。お待ちしてました」
「……悪い、遅くなった」
「もう、集結していたのか」

卓を囲んだ皆の姿に、ようやく二人は安堵感を覚える。
もっとも、これからが本題だが。

「何を話していた?」
「……思い出話です」

アリスへのサマンサについての告白を皮切りに、皆は徐々に話を始めていた。
この忌々しき宴の中、出会った人々の話。
それぞれが、それぞれの仲間の生き様を伝える。
勇敢な姫や王子、騎士に武道家、果ては魔物や商人。
様々な物語が彼らにはあった。
短くとも、儚くとも、強く響く命の詩。
皆が皆、互いの心に刻みあった。
彼らの生きた、「冒険の書」を。
アレフ、アレンも皆に続き、それらを深く心に刻み込んだ。
 
 
 
話は、やがてそれぞれの世界の話へと進展する。
7人中、4人の者に共通する大陸「アレフガルド」。
偶然の一致にしては出来過ぎている、やはり同じ大地に生を受けしものだ、と4人は思う。
地名、伝承、証明材料は幾らでもあった。
そしてその中に興味深い情報も度々垣間見えた。

「『ロトの伝説』……マリアよ、わかるな」
「ええ、よくお父様から聞かされました」
「俺のご先祖が女の子とはな……なんだか不思議な気分だ」
「み、皆さん…あまり見つめられるとちょっと緊張します」

アレフ・アレン・マリア3人に共通したのは『勇者ロト』の伝承。
特にマリアは、王女としての教育の一環で幾度と無くその名を耳にしていた。
暗闇に閉ざされたアレフガルドに太陽を取り戻した、その勇者。
目の前にし、その強さと心の煌きを眼にしたとは言え、やはり奇妙な感覚がする。
視線に耐えられなくなったところで、アリスがそういえば、と思い出して話し始める。

「…アレンさんは……アレフガルドの生まれでしょうか?」
「?いや……記録にも残されておらぬ、自分の出生は皆目検討もつかんのだ」
「だと、すれば…もしかしたら私は、あなたのことを知っているかもしれません」
「ほう、まことか?」
「…?どういうことですか?」

アリスが思い出すのは、自分の生まれし世界である『上の世界』の中でも最も新しい記憶。
不死鳥の助力を得て、険しき山に阻まれた謎の城へたどり着いたときのこと。

「そこで私は光の玉を『竜の女王』という方に授かりました……そしてすぐ、彼女は卵を残し、私の前から……」
「……卵、か……」
「……確信は持てませんが…おそらく。それに、どことなくあなたの纏う雰囲気は……似ています、あの女王に」

竜王の秘めたる謎に、僅かな兆しが差し込んだ。
まさか予想もしていなかった。
自分がアレフガルドではない、異世界からの来訪者であるなどと。
アレンは複雑な感情を抱き、頬杖を突いた。

「ご先祖も、ひょっとしたらお前も同じ異世界の生まれか……光の玉のこともあるし、もしそれが真実なら不思議な因縁だな」

竜王は、確かに光の玉を奪った過去がある。
その理由は奪った本人にも何か思うところがあるのか深く考え込んでいる様子だ。
アレフのほうは、自分には違う世界の血が流れているのかと不思議な感情を抱いた。
エイトやフォズといった、ロトに所縁の無い面々にもその運命めいた物語に関心を示す。

「伝説と呼ぶにふさわしい物語ですね」
「本当に不思議……私は16歳の誕生日に城で門前払いを食らった勇者の伝記しか知りませんよ」
「そりゃ、おかしな勇者もいたもんだ」

フォズが思い出したのは、書庫で見つけた勇者物語。
あのヘッポコ君の続きはどうなったのかなと、ちらりと考える。
16歳の誕生日、という考えにアリスが一瞬反応したが誰も気づかなかったようだ。

「それにしてもアリスさんは勇者の中の勇者とでも言いましょうか、話を聞いていると思います」
「私もそう思います、アレフさんもそうでしょう?」
「ああもちろん、尊敬しているし一歩でも近づきたいな」
「もしかしたらダーマ神殿に伝わる勇者の開祖は、あなたなのかもしれませんね?」

皆が一様に賛辞の言葉を贈る。
アリスはうれしくも、今までの不甲斐無かった自分が思い出されて畏まってしまう。

「そ、そんなことありません!私はまだまだ未熟な……」
「謙遜しないでくれよ、ご先祖様」
「ええアリス……私ますます、流れるこの血を誇りたくなりましたわ」

二人の子孫の言葉に狼狽し、すっかりアリスは縮こまる。
そんなところはやはり歳相応の少女らしく、皆は温かい眼で見守った。
傍らで微笑むマリアを見て、アレフは自分の胸がちくりと痛むのを感じ取る。
マリアは、似ていた。

(目元なんかは、そっくりだ。微笑んだ、その口元も似ている。)

実際に眼にして、確信した。
こうも似た他人が存在し得るとは信じ難い。

(……間違い無いな。ローラの子孫だ、やはり)

マリアは、自分とローラの血を継いでいると、アレフは考える。
ローラが失われてしまった今、彼女は─

(ローラと、俺の……たった一つの、繋がりだ)

ローラは命を懸けて想いを届けてくれた。
ならば命を懸けて守りたい。
彼女は、自分が心から恋いた証なのだ。
ローラがいない今、彼女の存在がこれからどうなるかは全くわからない。
だが、だからこそ守るのだ。
目の前にいる今しか、彼女を守ることはできないから。
アレフは心の姫と目の前の王女を重ね、思う。
彼女の勇者で、在り続けることを。

 
 
一頻り程度話を進めたところで、エイトが徐に立ち上がって台所へ足を進める。
マリアも手伝う、と申し出て付き添った。
先の戦いもあり、皆の身体が栄養分と水分を欲しているのは明白である。
しかし皆はここまでで支給品の食料、水も徐々に消費してしまっていた。
そこで皆の支給品の食料・水と合わせ、アリスの家に残っている幾らかの貯蔵を使い、皆で休息としての軽食を取ろうと考えた。
手馴れた手つきで調理を始めるエイトとマリアに、フォズとアリスが続けて立ち上がる。

「お手伝いしましょうか?」
「ここは私の家ですし、エイトさんもマリアもお疲れでは……」
「大丈夫ですよ、お城の小間使いで慣れてますから」
「私も、旅の途中でよくやっていましたし」

実のところアリスはもともと台所仕事は得手としていなく、フォズは背が少々届かなかった。
ピサロ、アレンは言わずもがな、アレフは野営慣れはしていても調理技術はいまひとつ。
城勤めや長旅でのそういった仕事を任されていたエイト、マリアに任される結果となった。
二人とも嫌な顔一つせず、快く準備を始めている。
皆、その好意に甘えることにした。
とは言っても食料はそうたくさんは残されていないようだった。
ハーゴンが回収し損ねたものなのか、幾らか残った保存食と貯蔵水を見つけて安堵する。
塩漬けの固い干し肉を水を張った鍋に放り込み、火にかけて柔らかくする。
皆で持ち寄った固パンには、残っていた調味料が使えそうであった。
さらに、エイトが壁に下げられた袋の奥に眠っていた茶葉を見つけ出した。
そこでふと、何かを思いついたように纏めてあった荷物から何かを取り出す。

「それは?」
「皆さんで分けようかと思いまして」

取り出したエルフの飲み薬は、魔力を満たす神秘の薬。
分け合ってしまえば効力は減るだろうが、やはり公平に癒されなくてはならない。
そう考え、取り出した茶瓶の中身と煮立った湯を同時に注いだ。
湯気と共に舞い上がる微かな香りが鼻腔をくすぐっていく。

そうこうしているうちに軽食の方も出来上がり、間に合わせではあるが暖かな食事を卓へと運んだ。
フォズと共にレオンとじゃれ合っていたアリスは、待ってましたと立ち上がる。
アレフも空きっ腹をさすって椅子代わりに空樽を担いでやってきた。

「間に合わせですけど、調味料が大体残っていたのは運がよかったですね」
「さ、いただきましょう」

アレン、ピサロも招かれ、皆で一つの卓を囲んだ。
固く味気なかったパンも、輪切りにして表面を軽く炙り、残り少なかったバターを落とすだけでかなり満足できる。
フォズはスライスされた表面に蜂蜜を塗り、おいしそうに頬張っていた。
マリアがレオンに口に合うか判らないが魔物のエサを与えてみる。
味を占めたようで、くるくる回ってお代わりをせがむレオンに、マリアの顔はほころんだ。
壷の奥にあった痩せこけた根菜と固くなった塩漬け肉も、スープとして皆の身体を温める。
口の中に広がる味を噛み締めて、『ああ、生きているんだ』と皆が皆再確認した。
アリスがファルシオンの元へおすそ分けに赴こうとしたが、アリスの家の周りの草場がすっかり無くなっているのに気づく。
庭周りが綺麗になっているのに若干喜んでアリスはファルシオンの鼻を撫でた。
また、レオンに与えていた魔物のエサを食事の付け合せだと思ってアレンが一つ食べてしまい、アレフは大笑いする。
しかし『存外美味だった』らしい。
対してピサロは、二口三口も齧らぬ内に十分とばかりに賑やかな卓を離れた。
詰まれた荷物の傍らに腰を落とし、大きく息を吐いた。

「ピサロさん、もういいのですか?」
「ああ、良い」

座り込んだピサロの手元には、今まで書き溜めていたメモが握られている。
それらを見つめる顔がどこか渋かったため、フォズもそれ以上に食事を勧めはしない。
ただ、エイトの淹れたエルフの飲み薬入りの茶を杯に注いで渡すに留める。
喉は渇いていたようで、これは素直に受け取り一口啜った。
独特の香りを甘い茶で割って体内に注ぐと、どこか魔力を直接飲み込んでいるような錯覚に駆られる。
身体の芯まで温まり、疲れた身体に若干の余裕を取り戻させた。
 

だが、内心はやはり穏やかではない。
心配事は無論、この閉鎖された世界と自分たちのこれから。

(人間、道具……恐らく、ここにあるのはこの世界の全て。果たして突破口が見出せるか、否か……)

幾ら叡智があろうとも、いくら道具が揃っていても。
ハーゴンの掌から逃れきれるかはやはり未知。
不安は尽きることがない。
思案するピサロに、いつの間にかアレンが歩み寄っていた。
魔物を統べた竜の王、どこか自分に似た雰囲気の男の手元にピサロは目をやる。

「未だ優れぬようだな、顔が青いぞ?」

他愛も無い話の衣を被りつつ、その手で渡したのはくたびれた宿帳。
血の跡が点々と散るそれは、紛れも無くトルネコの遺した字が記されている。
皆が僅かな安息を手に入れた今、ピサロは余計な不安を気取られぬようにしたつもりであったが、見通されていたようだ。
見覚えのある字と、自分の書いた字とを両の手に持ち、ピサロはアレンに頷いた。

「ああ、少し……休む。お前達は話を続けて構わない」

それきり黙り、思考に没頭する。
ありとあらゆる説を頭の中で展開する智将ピサロを信頼したように見据え、アレンは無言で踵を返した。
 

「ふう、ようやくまともに腹が満たされた気がするよ」
「ありがとうございます、マリア、エイトさん」

味つきのパンを頬張り、暖かなスープを喉に通してようやく彼らの胃が温かさでいっぱいになった。
せめて後片付けは、とフォズとアリス、アレフも加わって手早く卓を空ける。
そしてそこには、この舞台で得た様々な道具類が置かれた。
杖、剣、本、盾、様々だ。
エイトの荷物から、女性用のものすごく大胆な下着が飛び出た際には、流石に皆驚いた。
女性は小さな悲鳴を漏らし、アレフはどこか先程の自分との近視感を覚え苦笑した。
卓が蚤市のように賑やかになったところで、アレフとアリスが何やら剣を押し付けあっている。

「でも、これはご先祖様の……」
「いいえ!お話は聞いていますよ!これは……この剣は……!ローラさんの気持ちがぁ……」

言い争いながらちょっと涙目になるアリスに、アレフは苦笑している。
エイトから『ローラ姫がこの剣を届けようとしていた』ことを耳にして、この剣を握るわけにはいかないと言い出したのだ。
ローラの余りに一途で献身的な愛に心打たれ『あなたはローラ姫様の想いを……』を涙を拭うアリス。
こうも言われては無下にもできず、先祖の愛剣はアレフに受け継がれることとなったのであった。
剣と盾は揃いで、と言う妙に説得力のある言葉に圧倒され、盾も受け取る。
ロトの装備を本人の前で使わせてもらうという、なんだか奇妙なことになってしまった。
アレフは認められたような、緊張するような、複雑な気持ちでふたたび苦笑いする。

「うぅ……大切に使ってくださいね」
「ははは……約束するよ、ご先祖様」

姫の手から、剣は勇者に。
竜王の手から、盾は勇者に。
そのどちらもが、勇者から、勇者へ。
力と血と、そして絆は、ここに継がれた。

「じゃあこの剣は、約束通りにお前に渡す」
「うむ」

竜神王の剣を手渡す。
思えば、この約束からいろいろなことがあったと、二人は改めて思った。
様々な戦いがあり、様々なものを失った。
そして、最後の戦いがこの後に控えている。
互いの剣が、ずしりと重く感じた。

「……最後の決戦も、近い。装備を整えて置くとするか」
「それもそうだな、こんなにあるんだし」
「これは、どなたか使えますか?」

エイトが取り出したのは、赤色の燃え盛る炎のような刀身に蒼い輝石を備えたブーメラン。
アレフは扱ったことが無いが、相当の威力があると思われた。

「俺は使ったことが無いな、エイトはどうだ?」
「僕は一応使えますが、人並み程度ですね」
「あの、よかったら……それ、いただけませんか?」

申し出たのはアリス。
聞けばアリスが、カンダタから譲渡(という名の強奪)してもらったらしい。
それをアリアハン周辺で、やまたのおろちなる強敵と戦った際紛失したとのこと。
「カンダタの形見が見つかってよかった」と、アリスは胸にブーメランを抱いた。

「俺は、これを貰ってもいいかな」
「……氷の刃、ですか」

マリアの眉が、ほんの僅かだが歪む。
あの忌々しい出来事を思い起こさせる武器なのだ、その刃は。
アレンはどこか遠くを見るような眼で、その薄く青白い刃を眺める。

「さっき聞いたが、キーファは強いな。……追い求めていた人を殺めた武器で、戦い抜いたなんて」
「まこと、潔い男よ……葛藤もあったろう」

キーファの血が黒ずみ、蒼い刃の柄にはやはり跡が残っていた。
腰帯のいつでも取り出せる位置に引っ掛け、ぼろぼろのマントを正す。

「マリア、君にとっては辛いだろうが……すまない」
「……いえ」

アレフがマリアの表情を見て、気遣う。
この刃にその命を絶たれたリアは、マリアの大切な仲間の妹、というだけではない。
家族を失ったマリアは、本当の妹のように可愛がっていたとのこと。
王女であるマリアは、戦士としての考えをそう割り切れないだろうと考え、さぞ忌々しいのではとアレフは思った。
しかし、マリアは首を横に振る。

「もう迷いません。手段なんて選べるほど、私達は余裕がありませんもの」
「……そうか、君もやはり強いな。鼻が高いよ」
「ふふ、お互い様ですよ」

おおらかで、強く優しい心にアレフは嬉しかった。
ローラと、自分の心を継いでくれているのかと。
 
 
 

次に示されたのは巻物だろうか。
悟りの書みたいなものかな、とアリスは呟いた。

「お、これは……キーファが持っていた」
「何か聞いていますか?」
「いや、見覚えもないらしい」
「僕もわかりませんでしたね……いったいどなたの世界からの物でしょう」
「読ませていただけますか?」

フォズが紐解き、なにやら呟きながら読み解いていく。
真剣な表情で、やがて何か解ったかのように書物を巻きなおした。

「これは……『転職』の極意書とでも言いましょうか?私も始めて見ました」
「転職?」

説明がまだでしたね、とフォズが簡単に皆にその旨を説く。
人々の可能性を見出し、新たな道を示すという大神官。
アリスも知る『ダーマの神殿』の力に皆は驚き感心した。

「……なるほど、それでこれはどんな職業に?」
「はい、『ドラゴン』です」
「……ドラゴン?」
「はい!」
「ドラゴンって……竜、ですか?」
「ええ」
「……職業、でしょうかそれって」
「はい、そうですよ?」

まるで当たり前のようにフォズは頷いた。
そういえば、とフォズが付け加えると、この転職の力、モンスターの力をも得ることができるとか。
つまり、モンスターの気持ちになって祈ることで身も心も魔物と化し、その力を操れるとのことだ。
スライム、キメラ、果てはくさった死体に変貌したりも可能らしい。

「なるほど、単なる職種じゃあないってことか」
「でも……私くさった死体になるの想像すると……ちょっと、嫌です」
「ですよね……」
「で、でもドラゴンになら既になれる方もいらっしゃいますし、そんなに驚かれなくても」
「……エイト?」

エイトは思案していた。
自分の身体に流れる血の半分は、竜神族と呼ばれる一族の血だ。
この面々の中でも特に竜に近しいと言えるのではないだろうか。
その竜の血に、今一歩新しく踏み込める切っ掛けが転がり込み、僅かに悩む。

「……ああ、すみませんちょっと考えごとを」
「もしや、ドラゴンになるかどうかをか?」
「ええ」

冗談のつもりがそのまま肯定の返事を受け取ってアレフは驚いた。
隣のアレンをちらと見やるとアレンもまた思案の中にいる。
フォズは、彼らの魂になんらかの竜との繋がりを感じて、言葉を投げかけた。

「お二方、ごゆっくりお考えください。私はダーマの大神官、可能性を示しはしますが強いることは決して致しませんよ」
「ドラゴンか……」

アレフは、傍の魔王、竜王の巨躯を思い出す。
エイトも竜になってしまったりするのだろうか?
自分以外の男─アレン・ピサロ・エイトが皆して竜になって咆哮を上げる姿を想像して、身震いした。
 

続いて散らばっていた杖を集めなおす。
様々な物があれど、同じものは一つとして無い。

「しかし、杖は多いな」
「本当ですね、8本もありますよ」

もっとも、マリア、フォズ、アレフ、アレンが持つ武器として使う杖と違い、残り3本の杖は振ると光の弾が飛び出るとアレンは説明した。
それ故、打撃武器として使える代物ではないらしい。
投げつけるか降るかするのだと、トルネコからちらりと聞いたそうだ。
マリアは聖なるナイフを手にとり、鞘をくくりつけながら悩む。

「使いどころが難しそうですね……」
「もっとも、迫撃する我々が持っていても意味がない。後衛に持たせるが良かろう」
「じゃあ、マリア、フォズ。ピサロも持っておいてくれ」

3本の杖を分配し、残ったのは少々煤けた杖。
どうも、この杖の使いどころはわからなかった。
アリスが適当な布で杖の表面を綺麗に拭う。

「メガンテに耐え切った杖なんです、これは」
「それでこんなに汚れてたんですね……っと。綺麗になりました」
「これは…僕の世界のものですね」
「どうやって使うんです?」

エイトは、この杖は神鳥から託された『賢者の魂をその内に集め、暗黒神の結界すら打ち砕く杖』だと説明する。
結界、という言葉に何かの役に立つかと思われたが、アレフがもう一つのキーワードに食いつく。

「その、『神鳥』とはいったい?」
「『レティス』と名乗るその鳥は、いくつもの奇跡を僕たちにもたらした伝説の鳥です」

神鳥の雛が殺害され、その魂をエイトに託すことで自分達に翼をもたらした、とエイトは言う。
アリスは思い出す、かつての故郷のある世界の天空を駆けたあの鳥を。

「まるで、ラーミアみたい……」
「!ご存知でしたか?」
「え?」

驚いたような顔のエイトに、アリスは顔を見上げる。
エイトは語る、レティスのかつての名『ラーミア』を。
世界を飛び、その世界の境すら飛び越す奇跡の鳥に、皆は驚いた。
「世界を越える、ですか……」
「夢みたいな話ですが、こうして違う世界の人間と話していると……」
「有り得ないとは言えない話だなぁ」

皆が考えるのはひとつ。
『ああ、奇跡がもう一度起きてくれれば』と。
この暗き殺戮の世界に舞い降り、我らを救ってくれればと。
所謂『神頼み』である。
しかし魔王も竜王も、そんな甘い考えは捨てる。

「が、そう都合よくは行かぬだろうな」
「あまり夢は見るなよ、落胆が大きい」
「わかっているさ」

アレフは、ロトの剣に施された装飾を見る。
ロトと共に語り継がれた、不死鳥の名。
黄金の輝きが、蒼い装飾の中で際立つ、まさに碧空を駆ける奇跡の鳥だ。

「だけど、これを見てると……俺達の力でも奇跡を起こせる、そんな気にならないか?」

剣を翳すと、灯に閃いてなんとも神々しい輝きを見せる。
マリアやフォズは、感嘆の声を上げた。

「ええ、なんだか心強い……そんな気持ちになりますね」
「あの空を雄々しく駆ける姿を思い出しますね……あ」
「?」
「ラーミアって……メスだったんですねえ」

アリスの気の抜けた発言にエイトががくりと頭を落とし、アレフが椅子からずり落ちた。
隣の勇者を尻目にアレンがくつくつと笑いを含む。
マリアは二人の先祖に失礼だと一瞬堪えるが、やっぱり笑った。
つられてフォズもくすくすと笑うと、アリスがぱっと顔を赤らめる。

「だ、だって私の時代では生まれたばっかりの雛だったんですよ!?」
「ああ、やっぱり雛のときから飛べるんですね、レティスの雛もやっぱり飛べたみたいです」
「……そうですかか、ラーミアもおかあさんになったんですねえ……」
卵から孵ったばかりだと言うのに、つぶらな瞳にふわふわの羽を持った神鳥を思い出す。
アリスは初めて眼にしたときに、その可愛さのあまり思わず頬擦りをしてしまっていた。
それが、別世界ではさらに立派な成鳥になっていると聞き、懐かしいなあと思いを馳せた。

「私も、おかあさんになれるんでしょうか……」
「「え」」
ぽつりと呟いた言葉に、子孫二人が声を重ねた。
次に顔を見合わせて、苦笑する。

「俺達のためにも、なってもらいたいな」
「え」
「ええ、私達いなくなってしまいますもの」
「ま、マリア!もうっ」

自分が秘めていた女の子らしい夢を呟いてしまったことに狼狽し、からかわれたことに気づき赤面する。
アレンもエイトも、フォズも笑った。
会話から離れていたピサロですら、口元に僅かな笑みを浮かべてしまった。
穏やかな時の流れは、戦士達に大いなる休息を与えた。
確固たる団結と共に。
それから、話は弾む。
過去の旅の話や、死んでいった仲間達の話ばかりではない。
これからのこと。
帰還した先での夢、責務。
希望を捨てないために、先のことを考える。
目指す先がある、光がある。
ここで絶えない、その為に。


【E-4/勇者アリスの家一階/夕方】

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:健康 MP1/7
[装備]:メタルキングの槍 はやてのリング 布の服(アリス家から調達)
[道具]:イーグルダガー 支給品一式 無線インカム
[思考]:悲しみを乗り越え、戦う決意

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP5/6 MP4/5 左足に刺傷(治療済み)
[装備]:ロトの剣 ロトの盾 鉄兜 風のアミュレット
[道具]:支給品一式 氷の刃 消え去り草 無線インカム
[思考]:このゲームを止めるために全力を尽くす
    (爆破阻止方法は実践してみたいとひそかに考えている)
※左足の傷はとりあえず塞がりましたが、強い衝撃を受けると再び開く可能性があります。

【アリス@DQ3勇者】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:メタルキングの剣 王者のマント 星降る腕輪 
[道具]:支給品一式 ロトのしるし(聖なる守り)炎のブーメラン 
    祈りの指輪(あと1.2回で破損)
[思考]:仲間達を守る 『希望』として仲間を引っ張る

【フォズ@DQ7】
[状態]:HP4/5(回復中) MP4/5 内臓に軽症(治療済み)神秘のビキニの効果によって常時回復
[装備]:天罰の杖  神秘のビキニ(ローブの下) ルビスの守り(命の紋章)
[道具]:支給品一式  アルスのトカゲ(レオン)奇跡の石 脱いだ下着 ドラゴンの悟り
[思考]:ゲームには乗らない ピサロとともに生きる 5つの紋章についてマリアに話を聞く

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:いかずちの杖 布の服 風のマント 
[道具]:小さなメダル アリアハン城の呪文書×5(何か書いてある)天馬覚醒の呪文書  
[思考]:儀式の阻止 アリスを支えたい 最後の決戦の前に、アレンの最期のことを竜王本人に問う

【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP1/2 MP3/5 右腕粉砕骨折(固定、治療済み)軽い吐き気(回復中)
[装備]:鎖鎌 闇の衣 アサシンダガー
[道具]:支給品一式 首輪×5[首輪二個 首輪×2 首輪] ピサロメモ 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)
[思考]:ハーゴンへの復讐 脱出方法への模索 首輪解除への手がかりを掴んだ?
※ピサロの右腕は通常の治療では完治できません。
 また定期的な回復治療が必要であり、治療しないと半日後くらいからじわじわと痛みだし、悪化します。
 完治にはメガザル、超万能薬、世界樹の雫級の方法が必要です。

【竜王@DQ1】
[状態]:健康 MP1/3 人間形態
[装備]:竜神王の剣
[道具]:なし
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪

※ファルシオンは家の前にいます

※アリスの家内に以下のアイテムがあります

※以下の装備品類は、分配された可能性があります
プラチナソード 破壊の鉄球 さざなみの剣 鉄の杖 魔封じの杖
炎の盾 マジックシールド あぶないビスチェ インテリ眼鏡
84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×1 照明弾×1) ビッグボウガン(矢 0)
 
※以下の三つのアイテムが、フォズ・ピサロ・マリアの間で分配されました
引き寄せの杖(2) 祝福サギの杖[7] 飛びつきの杖(2)

雨雲の杖 太陽の石(ホットストーンから変異) 太陽のカガミ(まほうのカガミから変異)  
錬金釜 ラーの鏡 神鳥の杖

支給品一式×8
トルネコのザック キーファのザック トロデのザック ローラのザック マルチェロのザック


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