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それでも、君を友と呼びたい

それでも、君を友と呼びたい


登場人物
エイト、アリーナ、キーファ、ベリアル


 エイトは呪いに掛からない。
いや、正確には既に呪いに掛かっている、と言うべきか。
 幼き日の記憶と彼に流れる半竜の血を封じるそれを施し、彼を追い出した母の部族に正直いい印象は持っていない。
 だがエイトを心配してネズミに身をやつしてまでついて来てくれた祖父には戸惑いもあるものの素直に感謝しているし、
この呪いのお陰で彼には暗黒神の力が届かず、大恩ある王と姫を救うことが出来たのだから今ではこれも便利だと割り切っている。
 それでも、こうも続くと自分はやはり呪われているのではないかとも思えてくる。
 『決して間に合わない』という名の呪いに。
 
 
 
 目的地に定めたレーベの村から爆音が聞こえたのはしばらく歩いた頃だった。
既に遠くに村の姿が見えている――煙に気を取られず、そのまま村に向かっていたなら間に合っただろう距離。
 あまりの間の悪さに思わず唇を噛み締める。

 その視界の隅、ふわりと紺が広がった。
「行くわよ、エイト!」
 マントをなびかせ、真っ直ぐに前を見据えて迷い無く走り出すアリーナの背中。
ああ、それは僕が彼女に伝えたことだ。
「――はい!」
 短く応え、走り出す。
あの爆音が戦いが始まった合図だとしたら、駆けつけた時にはもう間に合わないかもしれない。それでも。
(立ち止まるもんか)
 今は、ただ前だけを見て、出来る限りのことを。

「エイト、人が!」
 村の入り口、力尽きたように倒れ伏す、二人とそう変わらぬ年頃の少年と、
牛のような頭部に蝙蝠の羽を持つ、小山ほどもある巨体の黄色い悪魔。
 エイトには馴染みの魔物だった。

「……ベリアル」
「知ってるの?……まさかまた『戦うな』なんて言わないわよね?」
「言いませんよ」

 あれはかつてエイトに手を貸してくれた者達や、三角谷に隠れ住んでいた者達のように澄んだ目をしているわけでもなければ、
暗黒神の闇に囚われ、狂わされてしまった哀れな者達とも違う。
 あれは、闇に忠誠を誓った者の眼だ。

「アリーナさん、先に」
「任せといて!」
 そもそもエイトはアリーナより足が遅い。
その上怪我を負っているとなればアリーナの全速力にはとてもついていきようがない。
ペースを合わせるのをやめ、足を速めればたちまち距離が開いていく。
 倒れ伏した少年はぴくりとも動かない。
(また、間に合わないの?)
 胸にわだかまる不安を振り払い、アリーナは毅然と胸を張る。
何もしないまま諦めるのは彼女の流儀ではなかったから。
(立ち止まるもんですか!)
 今は、少しでも早く辿り着くことを。

 なんだか全てがひどく曖昧だった。
ぼんやりと見開いた視線の先で、なにやら奇妙な形の兜に手を当て、魔物がぶつぶつと呟いている。
 その太い腕には二本の槍。一本はたった今キーファから奪われたものだ。
(俺は、このまま死ぬのか)
 そっと手を開き、閉じてみる。それだけのことが大変な重労働だった。
立ち上がって逃げ出すことなど出来そうにもない。
全身がバラバラにされたように痛い。
 不意に、魔物の口が紡いだ聞いたことのある言葉が耳に入る。

「――ルトリアの王子だ」
 サマルトリアの王子。
(ランド)
 キーファを庇い、妹を頼むと、仲間の名前を、言い残して事切れた少年。
 『リア』と『アレン』と『マリア』。
(俺は、まだ死ぬわけにはいかないのに!)

「さて」
 醜悪な顔に薄ら寒い笑みを浮かべ、魔物がこちらを見下ろす。
手はもう兜から離れ、メタルキングの槍を握り締めている。
「放っておいてもいずれ死ぬだろうが、やはり殺してやった方が後腐れがない」
 高々と槍を振り上げる。次にはそれが振り下ろされて、キーファを貫くのだろう。
そうして死ぬ。ランドとの約束も果たせないまま、彼と同じようにして。
「……くしょう……畜生……っ!」
「命乞いか?見苦しいな」
 槍が、振り下ろされる。
せめて最後まで目を逸らすまいと、じっと魔物を睨みつけ。

 最初、キーファはそれを風かと思った。
赤と濃紺、二色の風。

「はあああああああっ!」
 まさしく疾風のごとく横合いから飛び込んできたのは赤毛の少女。
たっぷりと助走をつけた飛び蹴りに、たまらず魔物の身体が地に沈む。
「……すっげえ」
 思わず零れた言葉に少女――アリーナは振り返り、片目を瞑った。
「間に合ったみたいね。よかった、大丈夫?」
 小走りに駆け寄り、微笑んで、
「へ?」
 やおらキーファの手首をむんずと掴むと自分の首の前で束ねて、荷物のように背に担ぎ上げる。
「ちょっ、おい!」
「ごめんね、今は自己紹介してる余裕はないのよ」
 一体この小柄な身体の何処にこんな力が秘められているものか。
人一人担いでいるというのにその足取りは一向に乱れない。
「アリーナさん!」
 荷物を抱え速度の緩んだアリーナにようやく追いついたエイトが叫ぶ。

「ひとまず村へ。相手はあの巨体ですから狭い方が有利かと」
「分かったわ。……エイト、あいつのこと知ってるのよね?強い?」
「はい、かなり」
 エイトの知るベリアルはこれほど強大な力を持ってはいなかったが、それでも強力な魔物だった。
 それが更に力をつけ、デーモンスピアにメタルキングの槍まで抱えているのだ。弱いはずがない。

「奴は呪文も使います。彼を連れて何処かに身を隠していて下さい」
「うん。エイトは?」
「僕は」
 とん、と雷神の槍を地面に突き刺す。
それはブレーキの役目を果たし、エイトはベリアルに向き直った。
 気付かず駆け抜けるアリーナとの距離が見る間に広がっていく。

「――食い止めます」
「エイト!」
「必ず後から行きますから」

 駆け戻りたい衝動を、口から飛び出しそうになる言葉をぐっと堪える。
どのみち怪我人がいては加勢どころか足手まといになることは目に見えているし、
折角助けた彼の身を危険に晒すことにもなりかねない。
「絶対よ!」
 だから、そう一言だけ言い残してアリーナは振り返ることなく走り出した。
少しでも早く、彼の邪魔にならない遠くへ。
 
 
 
 怒りに震える小山のような身体、血走った目がこちらを睨む。
だがその口はただひたすらに呪句を紡いでいた。
旅の途中、何度もゼシカが唱えていた聞き慣れた呪句。
 イオナズン。
エイトやアリーナはともかく、傷付いていた彼が喰らったら一たまりもないだろう。
(呪文は苦手なんだけどな)
 ゼシカやククールがいれば、と何度目になるか分からない溜め息が出るが、ぼやいたところでどうようもない。
此処に二人はいないのだから。
(僕がやらなくちゃ――いや、やるんだ)
 失敗は、即ち全員の死。
ベリアルの紡ぐ呪句に合わせてエイトもまた言葉を紡いだ。

「イオナ「マホトーン!」
 完成はほぼ同時。
異なる二つの魔力の行使にびりびりと空気が震え。
やがて一点に集束し、今にも爆発せんとばかりに膨れ上がっていた光球が萎み、四散した。

「小僧!邪魔をするな!」
 ベリアルが怒りに任せて槍を振るうが、そこは見るからに巨体の魔物と、小柄な少年。
刃が届くその前に、エイトは構えを終えていた。
 ぐるりと刃を回転させ、一気に下から上へと薙ぎ払う。
生じた風の刃がベリアルに襲い掛かる。が、
「その程度の技が通用するとでも思ったか!」
 あまりに弱く、ベリアルの強靭な皮膚を切り裂くには到底足りない。

「思ってないさ」
 呟く。
そもそもエイトの狙いはベリアルではなく、その下――巨体が暴れ回ったことでえぐれ、露出した地面。
 風の刃が大地を穿ち、巻き上がった砂埃がたちまちエイトの姿を覆い隠す。
吹き付ける砂に思わずベリアルは目を閉じ、再び目を開いた時には無論エイトの姿は無かった。

「……小癪な真似を」
 呪文を封じられ、その上まんまと逃げ切られ。
あまりの屈辱にベリアルはぎりぎりと歯軋りをし、ふんと小さく息をつく。
「まあ、いい」
 少しばかり死期が延びただけのことだ。
あの小僧も、最初に邪魔をした小娘も、必ず喰らってくれよう。
 そしてベリアルもまた歩き出す。レーべの村へと。

「やっぱり、そう簡単には諦めてはくれないみたいね」
 ずしん、ずしん、と徐々に近付いてくる地響きに、淑女にあるまじき舌打ちを一つして、アリーナは振り返る。
「彼の治療は、まだ?」
「どうにも呪文の効きが悪くて」
 一度回復呪文で無理やり閉じた傷だ。
治りにくいのは仕方の無いことだが、ベリアルが迫っているのだと言われればどうにも気が急き、
ろくろく集中しないまま唱えた呪文は満足な効果をもたらさない。
 悪循環。
一向に塞がらない傷に溜め息をつき、何度目になるか分からないベホマを唱えだすエイトをキーファは慌てて押し留めた。

「もう大丈夫だって!そう血も出てないし、動けるし」
「そういうわけにもいきませんよ。もし傷口から悪い風でも入ったらと思うと」
「とにかく!まだ礼も言って無かったよな?ありがとう、あんたたちのおかげで助かったよ。俺はキーファだ」
 深々と頭を下げる。
傷付き、薄汚れてはいてもその堂々たる様子に、エイトは思わず居住まいを正した。
「僕はエイトと申します。……あの、貴方はもしや高貴な身分の方なのでは?」
「あー、確かに王子だったよ。もう城を出たから元、だけど。
 ……俺、そんな偉そうかな?」
 ぼそりと呟き、困ったように頭を掻く。
その情けない仕草にアリーナは思わず噴き出した。

「エイトはお城の近衛隊長さんだそうだからその辺鼻が利くのよ。
 あたしはアリーナ。一応現役のサントハイム王女よ。よろしくね、キーファ」
「ああ、よろしくな。エイト、アリーナ」
「いえ、こちらこそ。王太子殿下とは知らずとんだご無礼を――」
「そういう口調禁止な、エイト」
「……」
「あたしの時と同じこと言われてるじゃない。駄目ね、エイト」
 くすくすと笑みを漏らすアリーナの笑いがぴたりと止まった。
声のトーンを落とし、笑みの代わりに低く囁く。

「……来たみたい」
「そろそろ僕のマホトーンも切れる頃です。
 このまま隠れていたら村ごと焼き払われる恐れも」
「どうするんだ?」
「あっちが見逃してくれる気がないなら、戦うしかないでしょ?」

 手袋をはめ直し、その上から手甲を着ける。
拳を打ち合わせればぱしん、と小気味良い音。
「エイトはキーファの手当ての続きをお願い。今度はあたしが行くわ」
「そんな!姫君に――女性に、そんな危険なことをさせるわけには」
「そんなこと言っても、エイトもキーファも怪我人じゃない。
 あたしは大した怪我もしてないし、武道家だから相手の懐に飛び込んじゃえば向こうの呪文も封じられるし、槍だって届かない。
 一番適任だわ」
 正論でしょ?と返されてエイトは押し黙る。
自分と同じ得物を使う、力も体力も上の相手に万全でない状態で打ち合いを挑むことがどれほど馬鹿げたことかは分かりきっている。

「分かりました。……どうかお気を付けて」
「アリーナ!」
 戸口から飛び出しかけて、振り返る。
キーファの狂おしいほど真っ直ぐな目が彼女を見つめていた。
「死ぬなよ、絶対」
 それはとても短い言葉だったのに、ひどく重く響いた。
(もしかしてキーファの大事な人は、もう)
「勿論よ」
 重い空気を振り払い、アリーナは笑う。
「加勢に来るなら早い方がいいわよ?じゃなきゃあたし一人で倒しちゃうから!」
 軽口を叩き、一発頬を張って気合を入れて。
今度こそアリーナは駆け出して行く。

 ざり、と背後で砂を踏む音一つ。
内心ほくそ笑み、ベリアルは振り返った。

「お前か、小娘。仲間はどうした?怖気づいて逃げたか?」
「おあいにくさま。あんたなんかあたし一人で充分だっていうのよ」

 見え透いた挑発だ、と鼻を鳴らす。
小僧のうち片方は重傷のはず。連れて遠くには行けまい。
魔封じも解けたことだし、じわじわと燻り出してくれようと呪句を唱え始めたその刹那、アリーナが地を蹴った。
 瞬きする間もあらばこそ、ベリアルの鼻面目掛けて拳を放つ。
すかさず構えたメタルキングの槍の柄がそれを防ぎ、じんと痺れが腕を伝う。
そのまま腕を絞め、アリーナを閉じ込めようとするその間をするりと抜け出して、再び跳んで距離を取り、また跳び込む。

 呪文詠唱の隙も、ベリアルの間合いに留まらないことで反撃の隙も与えない連続攻撃。

(だが)
 無数の拳に打たれながらも、ベリアルはにまりと笑みを浮かべた。

「……まずいな」
 ベッドのシーツを拝借し、裂いて包帯代わりにキーファの身体に巻きつけて当面の治療を終えて、エイトは拳を握り締めた。

「何がまずいんだ?押してるじゃないか」
「一撃が軽いんです」
 スピードも手数もアリーナの方が圧倒的に上回っている。が、いかんせん装備が悪い。
いくら数を当てたところで相手の防御を突き破れなければ意味がない。
いずれ疲れ、動きが鈍ったところで一撃をもらって終わりだろう。
 勿論、むざむざその予想を現実にさせるつもりはないが。

「キーファさんは此処にいて下さい!」
「なんでだよ!?俺も」
「ですが武器がありません。……キーファさんは呪文は?」
 聞かれて、俯き首を振る。
幼い頃から武芸には打ち込んできていたが、呪文の才はまるで無かった。
「……分かった。死ぬなよ」
 一つ頷き、駆け出していくエイトの後姿を見送って、キーファは無力感を噛み締めていた。
 武器が一つしかないなら、さっきまで半死人だった自分よりエイトが加勢に行った方がいいに決まっている。
 理性ではそう分かっていても、感情が追いつかない。
(俺はまた何も出来ず、庇われるだけなのか)
 脳裏にランドの死に顔がちらついて、きつく目を閉じ、
 気付いた。
「そうか……そうだ!」
 再び顔を上げたその時には、キーファの顔から綺麗に憂いが消え去っていた。
代わりに浮かぶのは一つの決意。

 そしてキーファもまた駆け出していく。
戦いの繰り広げられている場所ではなく、友の亡骸のあるところへと。

 ぶん、と槍の柄が宙を薙ぐ。
返す刃もひらりと跳んで避けきって、アリーナは頬を伝う汗を拭った。
朝から着ている、もうとっくに体温に馴染んだはずのくさりかたびらがやけに冷たい。
 この程度の防具ではベリアルの一撃を受け止めることは出来まい。
先程すぐ顔の横を貫いた槍の鋭さを思い出し、ぞくりと寒気がした。

(このままじゃ)
 いずれ足が鈍ったところを仕留められる。
相手もそれを狙っているのだと分かってはいる。が、攻撃を緩めることは出来ない。
 アリーナ目掛けて繰り出された槍の一撃を上体を反らして避け、振り下ろされた太い腕に跳び乗って、一気に肩まで駆け上がり――手が止まる。
(どうしよう)
 頭蓋を叩き割ってやろうにも、ベリアルの頭部は奇妙な形をした兜に守られている。
決定打が足りない。
 この絶好のチャンスを生かしきれない自分に歯噛みして、

「アリーナさん!これを!」
 背後で声。
 反射的に振り向くその鼻先を掠めたそれを――雷神の槍を咄嗟に掴み、心臓まで届けとばかりに振り下ろした。
全体重をかけ、刃を体内に押し込んでいく。
 回避が遅れたのはそのためだった。

「――っ調子に乗るな、小娘めが!」
 がむしゃらに振り回したベリアルの腕が偶然にもアリーナの脇腹を打つ。
その勢いのままに壁に叩きつけられ、それでも立ち上がろうともがくアリーナの口から赤いものが溢れる。
がくりとのけぞり動かなくなったその身体に止めを刺そうと歩き出し、思い直す。
弱った娘に止めを刺すのは容易いことだ。
それより今は槍を投じて丸腰になった小僧を始末する方がいい。
 悠然と振り返り――その目が見開かれた。

 呪を紡ぐ、エイトの周りで火花が爆ぜる。
「天よ、照覧あれ」
(馬鹿な)
 目の前の光景が信じられず、何度も瞬く。紡がれる言葉は今朝方聞いたばかりのもの。

「闇に育まれし魔の子らに、光の裁きを」
 バズズを襲った、のちにロトと呼ばれることになる小娘が放った呪文。
真の勇気持つ者、勇者にしか使えないはずのそれを。
(何故、この小僧が使える!?)

「来たれ、勇気の雷」
 指先が高々と天を指し、ついと下りた。

「――ライデイン!」

 天で一際大きな火花が弾け、一条の閃光が空を裂く。
それは違うことなくベリアルを――彼の肩に突き立つ避雷針の役目を果たした雷神の槍を撃ち。
「―――っぐああああああああ!!!」
 絶叫。
外から、内からベリアルの体内を雷撃が駆け抜け、手足ががくがくと痙攣し、だらりと開ききった口から下と唾液が零れる。
 だが、その眼は未だ確たる意思を失ってはいない。

 元々封じ込められていた魔力とライデインとが反発し、肩に突き刺さったままの雷神の槍がぷすぷすと煙を上げる。
(耐えた。耐え切った!)
 込み上げる笑いを必死に押さえ、もつれる舌をなだめて呪文を紡ぐ。
小僧が再び魔力を練り、呪文を紡ぐにはそれなりに時間がかかるはず。
 今度こそ魔封じは間に合わない。
(これで小僧を仕留めれば、ワシの勝ちだ!)
 怪我なぞ超万能ぐすりさえあれば後でいくらでも治せるのだから。

 哄笑を上げ――はたと凍りつく。
前方には立ち尽くす小僧。後方には横たわる娘。
(もう一人の死にかけの小僧は何処に行った!?)

 慌てて辺りに視線を走らせ、見つけた。
銀色の刃を引っさげて疾駆する、遠目にも目立つ金の髪。
 だが、遠い。それに負傷の身。
どうせ間に合うまい、と詠唱を続けるベリアルの予想を裏切りキーファは瞬く間にベリアルに肉薄する。
 何故、と少年の手元に視線をやれば、答えはすぐに知れた。
宝玉の埋め込まれた金縁の、華奢な細工の腕輪――星降る腕輪。

 素早さを身上とし、戦場を縦横無尽に駆ける剣士。
それはかつてのサマルトリアの王子にあまりにも似て。
(死して尚我らの邪魔をするか!ロトの子孫め!)
 危機を感じて詠唱を止め、槍を構えようと焦るが、もう遅い。

「ランドの、仇!」
 飛び込みざま、斬りつける刃に炎が生じる。
それは全く呪文の使えぬキーファが使える、数少ない不思議の技の一つ。

 本来ならキーファのまだ未熟な剣技がベリアルに届くことは無かっただろう。
油断と、予期せぬ装飾品と、そしてきっと故人の残した想いが為した、これは一つの奇跡。

 炎を纏った刃はベリアル本人ではなく、雷神の槍目掛けて振り下ろされた。

 槍に封じられた魔力と、雷撃と、火炎と。
三種の異なる力の衝突に、槍の器は耐え切れずに砕け散り、ベリアルの身体を突き破り、光が溢れた。

 熱された刃が体内を焼く。
回復呪文を唱えようと開いた口に舌が乾いて張り付き、
超万能ぐすりを求めてザックを探るも、焼けた指先は既に感覚がない。
(何故だ)
 かつてもハーゴンとシドーの為に命を懸け、再び得られた生をも彼らの為に費やそうというのに。
(何故救って下さらない?ハーゴン様、シドー様――)
 いつまで待っても応えはなく、やがて意識はぷつりと途切れた。
 
 
 
 どうやら気を失っていたらしい。
意識を取り戻し、慌てて起き上がったキーファの目の前には火炎を吹き上げ燃える、巨大な黒ずんだ物体。

「倒せた……のか?」
「自分のやったことじゃない」
 呆れたような笑い声。
振り返れば少し顔色が悪いながらもくすくすと声をたてて笑うアリーナと、その腹部に治癒の光を当てるエイトの姿。

「そうだ、アリーナ!お前怪我は」
「あんなの大したことないわよ」
 こんな防具でも無いよりマシってことね、とくさりかたびらの裾を摘まむ。
鎖の網目に阻まれてベリアルの爪が身体に届かなかったのは幸運だった。
その代わりに身体に刻まれた鎖型の鬱血の痕を思い出し、ふるふると頭を振った。

「それより、水臭いわよ?こんないい武器持ってたなら最初から言ってくれれば良かったのに」
「いや、違うんだ。これは俺のじゃなくて」
「……ランド、という方のですか?」
 言われて、キーファは黙り込む。
助けてくれた相手から装備を奪うなんて、野盗じみた真似をしたことを責められた気がして。
 そう聞こえるのは自分が罪悪感を抱いているせいなのだとは分かっているけど。

「その人、キーファの仲間だったの?」
「……どうなんだろうな」

 天を仰ぐ。
突然襲い掛かられて、半ば無理強いされたような道連れ。
つい数時間前に出会ったばかりの、ほとんど何も知らない相手をランドは命懸けで庇い、妹のことを託しすらした。
(俺はまだ、あいつのこと完全に信用すらしてなかったのに)

「変な、奴だったよ。朝会ったばっかりなのにさ?俺のこと、庇って」
 礼も、謝罪も届かないところへ彼は逝ってしまった。
出来ることなら生きている間に伝えたかった。
「でも」

(今更言ったところでもう遅いのかもしれないけど。
 それでも、お前を)

「ダチ、だったよ。あいつは、俺の」

 友と呼んでも、いいだろうか。

 空を見上げるキーファの目から溢れる涙から、二人はそっと目を背けた。
 
 
 
 地図上に灯る無数の星。その一つが激しく明滅し、消えた。
「忠義者よな、ベリアル。サマルトリアの王子を仕留め、自らもまたシドー様の贄となるとは」
 闇の中、玉座に座り男が笑う。
「殺し合い、磨きあうがいい。それでこそあの方に相応しい器が生まれるというもの」
 くつくつと喉を鳴らし、地図をなぞる。一つ一つの星を愛でるように撫ぜながら。

 星たちは何も知らずに瞬き続ける。強く、弱く、時に互いを傷付けあって。


【B-2/レーべの村/真昼〜午後】

【エイト@DQ8】
[状態]:左肩損傷(行動に支障有) MP1/4程度
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 首輪
[思考]:仲間(トロデ優先)を捜し、ゲームには乗らない

【アリーナ@DQ4】
[状態]:HP1/2程度
[装備]:パワーナックル@DQ3 くさりかたびら
[道具]:支給品一式(三つとも武器以外) メルビンの支給品一式(不明二つ)
[思考]:仲間を捜し、ゲームには乗らない マーダーは倒す

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP1/4程度
[装備]:メタルキングの剣 星降る腕輪
[道具]:ランドの物を含め、不明2
[思考]:ランドの妹(リア)を守る 仲間の死を悟る

※雷神の槍は大破しました。
 ベリアルの所持品(支給品一式 超万能ぐすり 不明1)は本人と一緒に燃えています。
 インカムは耐水、対魔、対衝撃らしいので残るかもしれません。

【ベリアル 死亡】
【残り31名】


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