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ぬくもりがくれた強さ

ぬくもりがくれた強さ


登場人物
ビアンカ(DQ5)、リア(DQ2サマルトリア王女)


「すごーい、雲がこんな近くにある!」
 この一時、殺し合いの最中という苛酷な状況を忘れてリアは歓声を上げた。
普通に生活していては決して体験出来なかったであろうこの空中散歩は、兄と引き離されて不安だった彼女の心を浮き立たせた。
 殺し合いに乗った人間に出会うこともない。この空を飛ぶというのはなかなかに良い案ではあった。
実際、今まではさしたる危険もなく、順調に村へと近付いていた。
 だが、風を御するのは案外に難しい。

「……きゃあっ!」
 何の前触れもなく突如吹き寄せた北風に、風を孕んだマントがはためき、
ともすればもぎ取られそうになるマントの留め金を必死に握り締める。
 やがて風が弱まり、リアは墜落しなかったことに安堵した。が、
「やだ、そっちじゃないのにぃ!」
 風に押し流されたマントは目的地とは真逆の方――南へと進んでいく。
「こっちじゃないの!だめ、だめだってばっ」
 なんとか進行方向を修正しようとするも、マントは風に押し流されるばかり。
しかも無理に方向を変えようとしたのが祟ったか、高度までもがリアを裏切り徐々に下がっていく。そして、
「あっ」
 再びの強風。
煽られて膨らんだマントの端が大きく張り出した枝に引っ掛かり、

 浮遊感が、消えた。

「きゃあああああああ!」
 尖った枝葉に手足を引っ掻かれ、あちこちをぶつけながら落下した身体は、一際太い横枝に受け止められて止まった。
 零れそうになる鳴咽を堪えてリアはそろそろと身を起こした。
あちこちが痛んだが、幸い大した怪我はなさそうだった。
少なくとも何処かが動かない、ということはない。枝葉が緩衝材になってくれたおかげだろう。

 まずは命があったことを感謝して、
「あれ?」
マントが無いことに気付いた。
 慌てて辺りを見回せば、リアのいる枝からそう遠くない場所に揺れる、空を切り取ったような蒼。
 そう遠くはない。大人が手を伸ばせば届くほどの距離。
だが、この不安定な枝の上。小柄な彼女にとって、それは絶望的な距離だった。
(どうしよう……でも、取りに行かなきゃ)
 彼女にとってあのマントはにこの状況下で自分の生命を守る為、という以上の価値がある。
 あれは兄とアレンとマリアの、三人の旅の思い出なのだ。
(ちゃんとあたしからお兄ちゃん達に返してあげなきゃいけないんだから!)
――その三人のうち、既に二人がこの世に亡いなどとリアが知るはずもなく。
 なけなしの勇気を奮ってそろそろと手を伸ばす。
あと少し。あとほんのちょっと。
 リアの手が布の端を掴むのと、バランスを崩した身体が傾ぐのとほぼ同時。
今度は決して失くさないように、マントをしっかりと腕の中に抱き込む。
 今度の落下は短かった。
すぐさま茂みから這い出して、マントを広げてほぅと息をつく。
 蒼い布地はところどころ汚れてはいたが、綻び一つなかった。
 対象的にリアのドレスは鉤裂きだらけの惨憺たる有様だったが、
リアの心は一着ドレスが駄目になったことになど頓着せず、兄の大事な物を守れた充足感でいっぱいだった。
 マントを丁寧に折ってザックに仕舞い、立ち上がる。
 一体此処はどの辺りなのだろう。大分南に流されてしまったのは分かるのだが。
何か目印でもないだろうかときょろきょろと視線をさ迷わせ、視界の隅に何かが映った。
 自然のものでは決してない、鮮やかな紫。
(なんだろう?)

彼女は迷わずそちらに向かって駆け出して、それを見た。

無造作に投げ出された人形めいた白い腕。
頭蓋を割られて中身の飛び出したそれはまるで柘榴のような――

「……あ、あぁ」

 リアは、兄と兄の仲間たちを信じていた。
兄たちは必ず再びハーゴンを倒してくれる。そうすれば、誰も殺し合いなんてしなくて済む。
みんな無事に故郷に帰れるのだ、と。
――なのに、なんでこの人は殺されてしまったの?

 それは、王宮の奥で掌中の玉のように育てられてきたリアが初めて間近に嗅いだ『死』の匂いだった。
 引き攣った喉が遠くでひゅうひゅうと音を立てる。
一刻も早く此処を離れなければならないと理解してはいるが、恐怖に萎えた足はがくがくと震えるばかり。ただ焦りだけが募る。
「……お兄ちゃん」
 じわりと涙がにじむ。
(お兄ちゃん、アレンさん、マリアさん)
 一度泣き出してしまえば後から後から溢れる涙を止める術はなく、声を殺してリアは泣いた。
泣けば兄たちが助けに来てくれるなんて思っているわけではないけれど。
(怖いよぉ……ひとりは、やだよ)
 しゃくりあげた拍子、かさりと鳴った葉音にリアはのろのろと顔を上げた。

 最初は、見に行くつもりなんてこれっぽっちもなかった。
ビアンカが気を変えたのは、悲鳴そのものでも、それが高い子供のものだったからでもなく、
ただそれが聞こえたのがリュカの遺体のある方角からだったからだ。
 例え彼がもう話し掛けても返事を返すことのない、ただの屍に成り果ててしまっていても、
それでもこれ以上リュカを傷付けられるのは嫌だった。
 それに、もしあの悲鳴を上げさせたのがリュカを殺した奴だったら。
(赦せない)
 リュカが勝てなかった相手に自分が勝てるとは思えないけれど、
彼がされたよりもっともっと酷い目に遭わせて、殺してやらないと気が済まない――この命に代えてでも。

(そしたら、あなたと同じところに逝けるかしら?)
 君の強さが好きだと、彼は言ってくれたけど。
(リュカ、私強くなんてないよ……あなたがいなくなっただけで、こんな)
 心にぽかりと虚が空いたようだった。

 物音を立てぬようそっと来た道を戻っていく。
やがてビアンカの目に飛び込んで来たのは、先程と変わらず投げ出されたままの彼の抜け殻と、
(……子供?)
もともと小さな身体を更に小さく丸めて啜り泣く少女の姿。
 もとはさぞかし上等な品だったのだろう、薄い絹を花びらのように何枚も重ねたデザインの可憐なドレスは所々が千切れ、ぼろぼろになっている。
(レックスやタバサと同じくらいかしら)
思い、リュカの死で頭が一杯だったとはいえ、今の今まで子供達のことを忘れていた自分に吐き気がした。

 レックスはこの大陸の何処にいるのだろう。
傷付いてはいないだろうか。震えてはいないだろうか。
 タバサは――あの怖がりで泣き虫の娘が大広間にいなかったことは救いだったけれど――
ようやく共に暮らせるようになった両親がまたも姿を消して、心配してはいないだろうか。
 生まれた時から片時も離れたことのない半身の兄と引き離されて、泣いてはいないだろうか。

 思い浮かべるだけで胸が痛んで、ビアンカは胸を押さえた。
よろめく身体を支えようと伸ばした手が枝を揺らして、視線の先の少女が金茶色の頭を上げる。
不安と寂しさに揺れる、途方に暮れたような目がこちらを見上げた。
 涙に濡れた、レックスとタバサと同じ空色の瞳――
何処かで泣いているだろう我が子と、少女が重なる。

「大丈夫!?怪我してない?」
 気付けばビアンカの身体は駆け出していた。
怯えて後退る少女を抱きしめて、強張る身体を解すように何度も、何度も背中を撫でる。
「怖かったでしょう?もう大丈夫よ、私が一緒にいてあげるから」
「……ほんと?」
おずおずとこちらを見上げる少女に頷き返す。と、少女はビアンカの肩口に顔を埋め鳴咽を漏らした。
 すがりつく小さな手がたまらなく愛しい。

(リュカ、私)
 レヌールの王と王妃のように、パパスとマーサのように、
今すぐ彼の後を追って、一緒にいられるならどんなにか楽だろう。けれど――
(ごめんね、私まだそっちには逝けない)

 腕の中ですすり泣く小さな、でも確かなぬくもり。
心の虚に染み渡るそれを失いたくないと思う。守ってやりたいと思う。

『お母さんになる前だって、ビアンカは強かった』
 記憶の中で、リュカの声が聞こえた。

『ゲレゲレのため、小さかった僕のため、そして今は子供たちのため。
 誰かのために、いつだって君は一生懸命だった』
『強いビアンカ。優しいビアンカ。僕は君が――』

(リュカ、私ちっとも強くなんてないよ。でも)
 彼を失った傷跡は、まだ心に生々しく刻まれているけれど。
(私、必ずこの子を守って、レックスを見つけて、グランバニアに帰るわ。
 それまではあなたが好きだと言ってくれた強いビアンカでいる。だから)

 どうか、見守っていて。

 祈りとともに閉じた瞳から一粒、涙が溢れ。
つうと涙が伝った頬を風が優しく撫でた。

『――大好きだよ』

 目を瞑れば、頬を染めて愛を囁いたいつかの彼がすぐそこにいた。
 


【E-2/岬の洞窟付近の森/昼】

【リア@DQ2サマルトリア王女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:風のマント 支給品一式(不明の品が1〜0個)
[思考]:泣く 泣き疲れたら眠る

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:祝福の杖 しあわせのくつ
[道具]:まほうのカガミ 引き寄せの杖(5) 飛びつきの杖(5) 場所替えの杖(5) 他1つ 支給品一式×3
[思考]:この子(リア)を守る レックスを捜し、守る ゲームを脱出する


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