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ふるさとに涙落ちるとき

ふるさとに涙落ちるとき


登場人物
キーファ(DQ7)、アリス(DQ3)、マリア(DQ2)、トロデ(DQ8)


丸く切り抜かれた明け方の空が、井戸の底を淡く照らしだしている。
死を告げる、鐘。
そして甘ったるい女の声が止み、辺りに静寂が訪れる。
井戸の二人は、死人のように硬直した。

(……嘘)
アリスの漆黒の瞳が、窄まる。
がくりと膝を折り、項垂れた。

(サマンサ)
確かに、聞こえた。
確かに、呼ばれた。
アリスの、かけがえの無い人の名が。

「……私」
誰に言うでもなく、小さく零す。
流れることの無い涙の代わりか、自然に言葉は零れ落ちる。

「……ひとりぼっちになってしまいました」
勇者の弱音は、か細く、消えてしまいそうな掠れ声で。
両拳がぐっと握られ。小刻みに震えている。

「……なあ、君」
「……」
キーファは、俯かない。
彼は望みを断たない。
上では命の瀬戸際だ。
なんとしても救うため、立ち止まることはできない。

「頼む、力を貸して欲しいんだ。回復呪文、使えないか?」
「……」
「なあ、おいっ!」
キーファが彼女の肩を掴み、頭を上げさせるがその瞳は彼を写してはいなかった。
吸い込まれそうな漆黒の瞳は虚空を見つめたまま、動かない。
その表情は、ひたすら"喪失"を表しているように見えた。
キーファの眉根がぐっと寄せられる。

(ああ、この子もか)
心の奥底で燻り続ける、抑え続けていた悲しみが決壊しそうになる。
(ともだちが、死んだんだ)
彼も─キーファもまたかけがいの無い親友を喪失した。
だが、彼はその事実に必要以上に頓着することも無く、ひたすら目の前の生命を救い、走り続けた。
それは、決して生命を軽んじているわけではない。
生命の大切さは誰よりも理解しているとも言えるだろう。
それ故、彼は知っている。
失われた命が戻らないという悲しい現実を。
死者に囚われ続けることは、自分の足を縫い付けるに等しい行為だと。
彼は、暖かく平和な島暮らしでは学べない、大切なことを学んだ。
親友との、旅と。
ユバールの民との、暮らしで。
そして。
生命の尊さを知る彼は、死に縛られる彼女を目覚めさせた。

─アリスの頬に、衝撃と暖かい感触が伝わった。
瞬間、痛みと共に目の前の光景が飛び込んでくる。

「……ぁ……」
「っ……!」
平手打ちをかましたキーファは、殴った手を抑えて跪いていた。
頬に触れると、ぬるりとした感触がている。
手袋は朱色がへばり付いていた。
そして、同じ朱色が彼のいたるところにも見える。
意識がしっかりと戻るまで、彼女はしばしぼーっとしていたが。

「……あ、ああっ!だ、大丈夫ですか、こんなに怪我をなさっていたんですね」
「あでで……や、やっと気づいてくれたたみたいだな」
勇者は狼狽した。
咄嗟にホイミを唱えかけたが、魔力は既に打ち止めだ。
何もできないのか、と不甲斐無さで唇を噛み締める。
しかしアリスの眼前に一つのリングが差し出されると、その思いはどこかに吹っ飛んだ。

「祈りの指輪!」
「ああ。コレ、使ってくれ!」
アリスは、少々大きめのその指輪を填め、双眸を伏せて祈り始めた。
環の宝石から光の粒が溢れ出で、アリスの体に降り注いでいく。

アリスの MPが かいふくした!

光が止むと、アリスの精神が何か、満たされたような感覚に包まれた。
精神集中をさせると、頭にくっきりと呪文のイメージが浮かぶ。
大丈夫だ、今なら使える。

「すいません、今すぐに呪文を……」
「おっ、俺はいいから……!上にトロデのおっさんがいるんだ、死んじまう!」
「ほ、ホントですか!?」
「今すぐ連れてくる、ちょっと待ってて!」
キーファは急ぎ足で井戸へ向かうと、重症とは思えないような動きでせかせかロープを上り始めた。
アリスの方も、大怪我人一人を抱えていることを思い出し、慌てて井戸屋敷に転がり込む。
潰えたとばかり思っていた希望は、繋がった。
アリスの中の暗闇は、少しずつ晴れていく。
 
 
 
(頭を打ったみたいだし……息はあるけど、ゆっくり、ゆっくり……)
キーファは、血を流すトロデを抱えて慎重に慎重に井戸の底へ降りる。
先程の男に発見されなかったのも、トロデの呼吸が止まなかったのも幸運だった。
だが、痛む掌に全体重がかかり縄との摩擦で肉が薄く剥げ、抉れて行く。
ロープが真っ赤になりながらも、キーファは何とか降り立った。

(剣が握れなくなっちまうな、こりゃ)
肉がグズグズに爛れ、もう感覚も無くなってきた。
急いで術者であるアリスの下へ向かうと、そこにはもう一人の少女が横たわっていた。
キーファが思い当たったのは、二つの言葉。

"……わりィな……アレン……マリア……"
"アリスとマリアという娘たちが助けに向かったが─"

「……マリアさんか?」
「すいません、キーファさん。……マリアさんのほうも、危険な状態でして……」
「うん。……いいさ」
キーファの、マリアを見る目がどこか悲しげだった。
アリスは詮索することもなく、ひたすらベホマに集中する。

「あ、トロデさんを隣へ。私、術は専門では無いんですけど……多少の心得はありますから」
「ああ。……頼むよ」
小さな体をマリアの傍へ並べ、アリスは集中を始める。
マリアに、トロデに、それぞれ暖かな光が降り注いだ。
と、同時にアリスの体の内から流れ出る感覚が止む。

「あ……しまった、もう魔力が」
「え、もうか!?」
「回復量自体は大したことが無くて……次で、壊れてしまわなければいいのですが……」
祈りの指輪は、この暗黒の内に出でた希望よりもか細く脆い。
だが、二人の命に代えられる物などは無いだろう。
アリスは迷わず、祈りを捧げる。
 
 
 
「……う……」
「マリアさんっ!?」
「よかった、起きたか!」
マリアの紅色の眼が、開かれる。
青ざめた唇も、冷えた体も、キーファが起こした火に暖められ幾分回復した様だ。

「私……」
「あ、だ、ダメですまだ寝ていないと!」
「そうだ、傷が塞がっただけなんだから……」
半分眠った意識を頭を振って、覚醒させる。
自分の体を見ると、確かに傷は塞がってはいる。
だが失った体も、蓄積された疲労も然程回復してはいない。
旅装である白いローブもズタズタで…

「きゃっ」
「え、あ……ご、ごめん!」
「マリアさんこれ!」
マリアが落ち着いて見れば、見知らぬ男性と介抱された自分。
見れば、脇腹のぞっとするほど大きな傷はそこには無かったが白い肌が露に覗いている。
所々裂けたローブは、頼りない衣服となっていた。
アリスは風のマントを被せてやり、キーファの視線を遮る。
キーファがここまで来た経緯をマリアに掻い摘んで説明し、ようやくほっと息をついた。

「と、ともかく。まだ寝ていたほうがいいですよ。……アレンさんが心配ですが、今の私達ではどうにもなりません」
「あ、アリスさん……あの…………リア……ちゃんは……」
アリスの手が、虚空で固まる。
キーファともども、動かぬリアも見たし、先程の放送で聞いていた。
だが、彼女は知らない。
小さな王女が、堕ちた事を。
ぴたりと口を噤むことしかできない。
そんな二人を見て、マリアも悟ったようであった。

「……そんな」
「……私がついていながら……ごめんなさい……」
「……ランド……リアちゃん……すまねえ」
皆が皆、失われた命を悼み、悲しみ、悔やむ。
ここで倒れ伏すトロデも同じ気持ちだろう。
マリアは、声も立てずに包まったマントを抱いて涙を流した。

「…トロデさんの治療も、終わりました……意識はじき、戻ると思います」
どれくらいの沈黙が流れただろうか、アリスがその静寂を破り小さな声で二人に伝える。
と、キーファが人差し指を立て口の前に持っていった。
マリアは泣きつかれたのか、疲労がたまっていたのか、再びぐっすりと眠り込んだようだった。

(無理もありませんね)
ボロボロの体に、ボロボロの心。
自分も人のことは言えないが、勇者たるものこういうときにしっかりしなければ。
眼を覚ますまで私が守ると、焚き火の傍で寝かせた二人を見守った。

「なあ」
「えっ、あ、はい」
「俺、見てるから。家の中で休んでていいよ」
「えっ……」
キーファ、アリスともに治療は済み、傷は有る程度癒えている。
その代償として、祈りの指輪を多用してしまったために持ってあと1.2回だろう。
しかし、呪文で疲労までは癒せないし、先程までずっと駆け回っていたキーファが、休むのが筋というものだ。

「いえ……お疲れなのはキーファさんのほうでしょう。私は、構いませんから…」
「俺さ」
キーファの言葉に遮られ、アリスは漆黒の眼をきょとんとさせる。
だが、そんな仕草さえキーファには嘘っぱちに見えた。
とても優しい、嘘に見えた。

「わかるんだ」
「……」
「ともだち、みんな死んだから」
「!」
アリスの表情が一変する。
ああ、この人もそうなんだ、という共感。
全部悟られていたんだ、という気恥ずかしさ。
そして、圧し留めていた悲しみ。

「だから、さ」
「…っ」
「家ん中で寝てなよ。俺、ここにいっから」
「……!」
キーファの声を最後まで聞かずに、アリスは家の中に飛び込むように入り、ドアを乱暴に閉めた。
彼は、悲しい笑みを見せた。
自分は、慰めるのには向いてない。
奮い立たせることもできただろうが、強いとはいえ女の子には酷だ。
だから。
せめて、時間をあげたかった。
何もかも吐き出してしまう、ひとりきりの時間を。
 
 
ドアを後ろ手に閉めた後、アリスは力なく背を預けた。
ずるずると、足の力が抜けてその場に座り込む。
耳の先まで真っ赤に染めて、瞳は決壊してぽろぽろと熱いものが零れだす。
誰にも見せられない、世界の希望の光が流す涙だった。
彼女自身が、流すことを許さなかった涙だった。

「っ…ひっ、……ひぐ、うぇ……っく、ひぐっ………」
「……」
「うぇっ、ひっ、ひくっ…………うわ、ぁああぁぁん……」
「……」
彼女に涙を、許したのは何故だろう。
強いままで居させてあげてもよかった。
我慢をさせたくなかったから?
アリスが、女の子だから?
たぶん、どれもこれも違うだろう。

「…こんな顔……見せられねぇからな」
我慢できなかったから、だろう。
キーファは表情一つ変えていなかったが、泣いていた。
涙は止まらない。
今まで、一人ぼっちでの時間は無かったから。
親友の死を、親友の口から伝えられても、今まで流す涙を堪えていたのだった。
だが。
喪失に囚われかかった彼女を見て、自分を見ているようだった。
それが、最後の堤防の決壊。
涙は親友を想って、音も無く流れ続けた。

「おっさん、マリアさん…ごめん」
流す涙は、拭いはしない。
親友との最後のつながりを、拭い去るようなマネはしなかった。
それが、自分の足を縫い付ける行為に等しいとしても。
安らかに眠る親友への思いは、どうしても途切れはしない。
二人の枕元に座り込み、微かに聞こえる勇者の泣き声は聞こえないフリをする。
焚き火のパチパチと爆ぜる音は、心地よい暖かさと寂しさを紛らわす時間をくれた。
「悪いけど…起きるのは、ほんのちょっとゆっくりにしてくれな」
 
 
 
井戸の底、壁を挟んで二人の喪失者は涙を流し合う。
涙が止むとき。
それは、覚悟を掴むとき。
生者の務めを、果たすとき。


【E-4/アリアハン城下町井戸/朝】

【アリス@DQ3勇者】
[状態]:HP1/2 MP若干 左腕に痛み(後遺症) 疲労 深い悲しみ
[装備]:隼の剣 祈りの指輪(あと1.2回で破損)
[道具]:支給品一式×4 ロトのしるし(聖なる守り) まほうのカガミ 魔物のエサ 氷の刃
     イーグルダガー 祝福サギの杖[7] 引き寄せの杖(3) 飛びつきの杖(2) インテリ眼鏡
[思考]:気がすむまで泣く トロデとマリアが回復次第、脱出

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP3/5 両掌に火傷(治癒) 両頬、左膝下に裂傷(治癒) 疲労 深い悲しみ
[装備]:メタルキングの剣 星降る腕輪
[道具]:ドラゴンの悟り
[思考]:皆の回復を待つ 危機を参加者に伝える 深い罪悪感

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP3/5 MP1/5(回復中) 服はとてもボロボロ 脇腹に傷(治療済) 睡眠中 深い悲しみ
[装備]:いかずちの杖 風のマント
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1〜2?) 小さなメダル 毒薬瓶 ビッグボウガン(矢 0)
     天馬の手綱 アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
[思考]: 竜王(アレン)はまだ警戒

【トロデ@DQ8】
[状態]:HP3/5 頭部打撲 服はボロボロ 脳震盪・気絶
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1?)
[思考]:仲間たちの無事を祈る 打倒ハーゴン


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