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敢然と立ち向かう

敢然と立ち向かう


登場人物
アレフ@DQ1、アリス@DQ3、エイト@DQ8、竜王@DQ1、ピサロ@DQ4、フォズ@DQ7、マリア@DQ2・・・・・・


暗い。
目の前に広がるのは、暗黒という表現が最も適した空間。
これと比べれば、夜の闇など明るく思えよう。
そこに光の存在は許されない。
一行にはそう思えた。

「……」

誰かの足が、頼りない足場の縁から小さな石塊を押し出す。
破壊神により食い散らかされた世界の、その狭間。
投げ出された小石が音も立てず遥か遥か、目に見えぬところにまで落ちてゆく。
消えたのか、それすらも知り得ることは叶わない。
飲み込まれれば、恐らく光ですらも存在できない。
巨大なる空虚を前に何も出来ずに。
それを人々は闇とは呼ばない。
敢えて表現するとしたら、そう。
混沌、と。

「覚悟……シドー」

彼らが還るのは何処か?
それを決めるために、彼らは剣を取る。
破滅へと誘われつつある、この運命に立ち向かう。
目の前の邪神を破壊する為に。

「行くぞっ!!!」

世界そのものを玉座にでもしたような振る舞いで、邪神は変わらず一同を見下ろしていた。
冥府の底より暗き口腔から、吐息のように暗闇が漏れ出でる。
その闇が纏わりつき、破壊神の身体を包む薄靄はより一層深き闇へと塗りつぶされていった。

 
 
*****

 
 
「せぁーーッ!!」

闇をも斬り裂くだろう、王者の閃き。
アレフが跳躍し、冴え渡った一撃を破壊神の右上腕に叩き込んだ。
幾多の魔物をたった一人で斬り尽くしたその太刀筋は、誰よりも洗練されている。
それがたとえ神の肉体だとしても、この雄々しき剣閃ならば打ち砕けよう。
その、はずだった。

「ぐッ!?」

誰もが信じる勇者の一撃は、破壊神の肉体に触れることすらできなかった。
王者の剣が、ギラつく鱗を纏う皮膚へ食い込むと思われたその刹那。
突然、闇色の障壁がそこに生じた。
それがアレフの剣を触れる前に弾き返したのだ。
先程の小石のように、その身は虚空へと投げ出される。

「アレフさん!!」
「ぐ……」

このまま落ちてなるものか、と歯を食いしばる。
落ちれば最後、どこまで落ちるのか誰も解らない。

「ギラッ!!」

アレフは閃光呪文を真下に放つ。
炸裂により生じた爆風でどうにか軌道を立て直し、最も大きな足場へと降り立った。

「くそっ!『また』だ…!!」
「なぜ、通用しない?」

先程から、この繰り返しだ。
誰かが挑めば、弾かれる。
何かを放てば、止められる。
邪神は彼らの振るった力を、尽く『破壊』し、無としている。

「一体なんだ、あれは……!」
「イオラッ!!」
「ベギラマ!」

何度目かの呪文を、アリスとエイトが立て続けに放つ。
閃熱と爆風により生じた煙が、破壊神の顔面を視界からかき消した。
どちらも直撃すれば、負傷は避けられないほどの一撃。

「……やはり、か」

だのに、変わらず低い唸り声が一行の耳に届く。
それは破壊神の無事を意味していた。
感情があるのかは解らないが、その顔は歪んだ笑みを崩すことはない。
やがてゆるりと、左の複椀を振り上げた。
隙だらけの動きではあるというのに、誰もが手を出せずにいる。

「避けろッ!!」

出たのはアレフの、危険を知らせる叫びのみ。
拳の矛先には、今しがたかき消された呪文の主二人がいた。
唸りを上げる拳に今しがた気づき、はっとした様子で身構える。

「ぐ、うわああっ!」
「エイトさん!」

直撃は免れたものの、振るわれた拳は足場を削る。
大部分を邪神の豪拳に砕かれ、崩壊しつつあった。
激しい震動に二人はその身を投げ出されそうになる。
アリス、エイトは力を合わせ立て直し、転げるように隣接する足場へ飛び移った。
追うように視線を動かす破壊神を、真空の渦が掠めて注意はそちらへと向く。
マリアがバギを放ち、エイト達を援護したのだ。

「止まって戦うな、堕とされる!」

ピサロがマリアとフォズから注意を逸らすためか、別の足場へ移りながら叫んだ。
隻腕の身で軽やかに飛び移りつつ、何某か投げつけるような仕草で手を振り真空波を放つ。
マリアのバギに重ねられたそれもやはり、闇の衣に阻まれる。
アリス達はその隙に、広い足場へと移ることに成功した。
だがエイトは繰り出される各々の攻撃が蚊ほども効いていないことに歯噛みする。
これではじり貧だ。

「このままでは……足場を砕かれるのも時間の問題です」
「ええ……そうなる前に!」

練らなければ、打開策を。
奴を地に引きずり降ろす為の考えを。
勇者は焦燥に駆られ、思案した。
アリスは、深く思い出す。
偉大なる勇者である父の言葉を。

(勇者心得みっつ!勇者にとって経験値は過去にあらず、
 未来を切り開く剣であれ!そうでしたね……父上、母上)

かつての冒険で相対した、様々な敵を思い返す。
アリスが初めての"強敵"と認識した相手カンダタ。
ジパングで二度、そしてこの舞台で三度相対した異形やまたのおろち。
アリアハンを、アリスの世界を恐怖で震わせた魔王バラモス。
父の憎き仇である、キングヒドラ。
そして最後に思い出す。
彼女の旅路の終幕に控えた存在を。

(ゾーマ……そう、ゾーマ)

彼女がギアガの大穴を通じ来訪した異世界、アレフガルド。
今は、子孫であり心通わせた仲間、アレフたちの故郷。
その地をかつて、闇と絶望で覆った。
恐るべき強さを持った、大魔王。

(これは、あのときと同じ)

先の攻防でハーゴンが一瞬見せた、闇。
そして今しがたシドーが纏う闇。
これは、ひどく似ている。
絶望の魔王、ゾーマがその身に纏った力に。
全ての攻撃を物ともしない、あの─

「闇の衣!!そう……あれはゾーマの闇の衣!間違いありません!!」
「!……そうか、あれが!」
「闇の衣だと?」

闇の衣は、アレフガルドに伝承されし魔王ゾーマの恐るべき力。
ロトの勇気と同じくして、その恐怖の力は語り継がれていた。
アレン、アレフ、マリアもがその脅威の力が目の前にて行使されたと知り、顔色が変わる。

「……なんてこと……私の魔法……皆の剣も、これでは通用しない!」
「クッ!どうすればいい……」
「闇の衣……アリスさん、それは一体?」

ゾーマの力を知らぬエイトが、アリスと共に足場を移りながら問う。
アリスは視線を破壊神から逸らさないまま、悲痛な面持ちで返答する。

「闇の衣は……絶望を無限の力とする大魔王、ゾーマを守る最強の壁……
 あらゆる攻撃を物ともしません、端的に言えばなんでも防ぐバリアです」

エイトは合点がいくと共に、それと似た経験を自分がしていたことを思い出す。
自身も暗黒神ラプソーンとの戦いの折、全ての攻撃が通用しない結界を張られたことを。
そしてあれもまた、自分たちの力だけでは為す術も無かったことをも。
そのとき奇跡を呼んだ神鳥の杖はここにある、だが大賢者の魂が注がれることはもう無いだろう。
闇の衣には、綻びも、打開の糸口も存在しないというのだろうか。

「……でも、アリスさんはそのゾーマを」
「倒し、ました……ですが」

苦々しい顔でアリスは俯く。
掌を顔の前で開き弱々しく握る仕草は、強気なアリスでは無い。

「それは、竜の女王より賜った光の玉あってのこと。今の私では、闇の衣をどうすることも……」
「……っ!アリスさん、来ます」

破壊神が全員の攻撃を気にかける様子もなく、こちらに首だけを向け、紅き光を宿す眼を向けた。
身構える二人に放たれたのは、破壊神の『叫び』。
身も凍り付くようなおぞましい雄叫びが、二人の居る足場に嵐のように吹き抜ける。

「ぐうぅっ…!!」
「エイトさん!?」

そのとき、盾のようにエイトがアリスの前に立ちはだかった。
受け止められても、圧されて足場から落とされれば一巻の終わり。
踏ん張ってアリスの分まで耐えるが、この叫びは生命をも削るかのようエイトの力を奪っていく。

「エイトさん、やめて下さい!」
「耐えきります!!回復をお願いできますか!」
「……!……すみません……!!」

エイトの、文字通り身体を張った大防御による盾。
その行為にアリスは感謝すると共に、弱気になり守られる立場となった今の自分を責め立てるのだった。

*****

「フォズさん、フォズさん!どうしたの!?」
「あぁ……ああ、ああ……!!」

ピサロが離脱し、祭壇がある広く頑丈そうな足場。
蹲り頭を抱えるフォズに、マリアは必死に呼びかけている。
大神官である少女の本音であろう、涙で満たされたその顔を見て彼女の胸は痛んでいた。

(シドーが姿を現してから……無理もないわ、私だって恐ろしい)

マリアは思っていた、フォズが恐怖し、絶望して泣き崩れているのだと。
アレフは、彼女もまた戦士である、と認めた。
戦う、と彼女自身もまた、先刻主張した。
だが、シドーの姿を見て彼女は戦意を喪失し、こうしているのでは、と。
自分とて、シドーの姿をかつて見たからこそこうして立ち向かえるのだと思う。
初めて対峙したその巨躯に自分が立ち竦まなかったのは、恐らく両隣に控えた頼もしき二人の存在が大きい。
今、その二人はここに居ないけれど。

(彼女を死なせたりしない、恐怖から救ってみせる)

怯えたりはできない、自分はロトの、親友の血を引く戦士の一人だから。
マリアはいかずちの杖を手に、フォズの前に立った。
エイトと同じく、盾として。
そして破壊神を打ち砕く、矛として。
─だが。

「こ……が…  えが…… こ、…え…」
「……?フォズさん」
「きこえる……聞こ、えるんです!!」

フォズの様子がおかしい。
これは破壊神に恐慌しているわけではなかった。
自分には認識できない、何かを破壊神から感じ取っている。
マリアにはそれだけ、認識できた。

「……フォズさん、それは一体……」
「はぁ、はぁっ、ぅ、ぁぁ……」

幸か不幸か、マリアが理解できたのはそれだけ。
暗い、闇の奥底から聞こえるそれぞれの声。
哀しみ、寂しさ、無念。
ただの言葉が、心を凍えさせるほどの冷たさに染まり、飛び交う。
マリアには届かない。
だがフォズにだけ聞こえたのは、そういった声の数々。

(……僕はまだ死ぬわけには……)
(……謝り…なさいよ……)
(なぜ救ってくださらない?……)

フォズはダーマ大神官の職に就いている。
それは決して血や、権力が与えた地位では無い。
彼女の持つ『ひと』の『こころ』を見聞きする力。
その素晴らしき力が彼女を大神官足らしめているのだ。
だがその力は今、彼女自身を苦しめる。
聞こえるのだ
心が、魂が、死してなお破壊神の掌から逃れられず、もがき苦しんでいる彼らの無念。
届かぬ声はこの場所でフォズにだけは届き、フォズだけが悼み、そして涙を流すことができた。

(う、ううっ)
(テリーッ!)

「たくさんの……たくさんの、声がッ!!」

(あなたは……誰にも愛されない)

頭の中が、胸の内が、負の感情で溢れかえる。
フォズは、破壊神が口から霧のように吐き出した『魂』の語りかけに、耳を傾けてしまった。
ひとたび聞き取れてからは、濁流のように残留した思念が流れこんでくる。
それがフォズの心をぎゅうぎゅうと締め付けるのだ。

(……わりィな……アレン……マリア……)
(畜生……俺は、何も……できないで……)

「声が……!!無念を抱えた彼らの、最後の思いが……届くんです!!」
「!!」

(悪い、先逝くわ)

命を落とし、魂を神に囚われたその瞬間から、時の止まった感情は前に歩むことは無い。
死んだその瞬間、一番強く感じた言葉、願った思いがぐるぐると巡るだけだ。
止める人もいなくなった、鳴りっ放しの自鳴琴のように。
悲しい永遠が、そこにあった。

(アリス……ごめん、ね)

「シドーが……!!纏う、あの…闇、は!!」

(……会いた、かっ)
(ネネ……ポポロ……ごめんよ……)

「死者、の魂を、もとに……っ!!破壊の神は力を……得た!!!」

(さらばじゃ……エイト)
(私、は――全てを掴――)

「こんなのって……」

唇をぎゅっと噛んだフォズが顔を上げる。
端正な顔は涙にぐちゃぐちゃになっていた。

「こんなのってない!!」

フォズは絶叫する。
彼女の涙ながらの叫びは、果てなど無い混沌の空間の中皆に響いた。
今、アレフが叩きつけた剣は、アリスの放った呪文は。
失われた『命』を盾に防がれていると。
フォズが告げたのはそういうことだった。

「な、なん……て」
「なんてことだ……!」
「くっ……!!」

悔しかった。
悲しかった。
ひとは、誰かになれるのに。
このひとたちも、きっと誰かになれたはずなのに。
手を差し伸べることすら出来なかった。
過ちを正すことが出来なかった。
人の心に触れること『しか』できず、何が大神官か。
フォズは無力感に苛まれ、すっかり消沈し、虚脱していた。

「!いたっ……!」

項垂れていた彼女の指先に軽い痛みが走った。
顔を上げたフォズの目に飛び込んだのは、緑の小蜥蜴。

「レオン、さん……」

思えば、彼は最初から傍らにいた。
ずっと、ずっと彼女と共に生き延びたこの小蜥蜴。
懐に控え、時に彼女を支え、励ました存在。
ごく小さな命だが、今のフォズには翠玉のように眩しく見えた。
ぶら下がる小蜥蜴から、『生命の強さ』を感じたのだ。

「……私……」

今ここに生きる生命の中で、最も小さく、弱い存在であろうレオン。
破壊神という強大な存在を前に、フォズの衣の中から出てくるだけでも信じ難いことだ。
だが、彼は飛び出したのだ。
その真意を測ることは誰にもできない。
だがフォズはその無表情な、しかしどこか愛嬌のある顔から真意を理解する。
彼は、叱咤しに来てくれたのだ。
心から憧れるアルスがここにいたら、きっとそうしただろうから。
レオンもきっと、そのため彼女に初めて噛み付いたのだ。

「ありがとう、レオンさん」

フォズは、その手で小さな親友を優しく包みこむ。
その顔から恐怖は、そして躊躇いは消えていた。

「私は、私にできることを……!!」

フォズは、ザックから杖を抜き出す。
その瞳には、明らかに違った光が湛えられていた。

 
* * *

 
神の所業に怒り、狼狽え、あるいは嫌悪を一行は抱く。
今、破壊神が苦しめているのは剣を取り戦う彼らのみではない。
この舞台で散った多くの人々の魂をも、辱めているのだ。
嗤い、空を舞う神の姿をアリスはどこかぼんやりとした姿勢で眺めていた。

「アリスさん?」

やや離れた所で、彼女の回復で持ち直したエイトが呼びかける。
彼女はこんな呟きで、返した。

「……『血に狂った魂を喰らい糧にし、嘆き苦しんだ魂を浴びその身を清め』……例え話では、なかった」
「それは……」

エイトはどこか聞き覚えのある呟きを耳にし、再度アリスに呼びかけた。
そう、この一節は確か─

「本に隠されたメッセージです……ゾーマの闇の衣もまた……嘆き……苦しみ……そう『絶望』で出来ていたのですね」

アリスの震える拳が、怒りで握られた。
その眼差しはダークアイをも睨み殺せそうなほどに、怒りで燃え盛る。

「シドーが囚える彼らの魂は今……!!『絶望』しているんです!!この状況にッ!!」

エイトは力強い、そして悲しい叫びに視線を奪われた。
アリスが立ち止まっている。
勇者が、嘆いている。
これはどれほどの絶望だというのだろう。

「絶望に満ちた彼らに!!私は、勇者として……!!何か、出来ることが、無いのでしょうか……ッ!!!」

エイトも、アリスと気持ちは同じだ。
自分の無力感に頭を抱えることは容易い。
しかし、彼はひとつの結論を出した。

「それは……ひとつだけです」

エイトは聞き役であり、彼の仲間のように口が回る質では無い。
だが、彼は示した。
彼なりの答えを、少女の心が受け止められると信じ、投げかけた。

「『勇気』を出すことです」
「……ゆう、き」

エイトは、自らの内に秘めた光を信じていた。
闇に呑まれることのない、灯台のように行く手を照らす光を。

「わかるはずです、アリスさん」
「え?」
「僕はレーベで命の危機に瀕したとき、アレフさんに救われた……
 そしてアリアハンで、僕をアリスさん達は助けてくれました」

アリスはつい昨日の出来事である、アリアハンでの戦いを思い出す。
そう、あのとき多くの絶望を既に自分は抱えていた。
しかし、まだ誰かを救えるという希望を信じ、前へと踏み出したのではなかったか。
胸に勇気がわいていたのでは、なかったのか。

「あなた方は勇敢だった、光を、希望をもたらした!!」
「!」
「僕も……あなた方のように輝ける……勇気の光になりたい!!」

それはエイトの望み。
誰かのため、何かのため。
自分以外の為に力を尽くすことが多かった、彼の夢。
父を、大切な人を守るためだけということではない。
彼の追い求めていたのは、勇敢なる魂を持ち、生きる事。
突き詰めれば、ただその一つ。

「だから今……」

すっかり手に馴染んだ槍を水平に構える。
勇者が踏み出せぬ一歩を、踏み出した。

「僕は往きます」

エイトは、走った。
彼はもともとは単なる一介の兵であった。
だが空を、海を、そして大地を駆け、知った。
人は誰かに、なれる。
何にでも、なれる。
チェルスや、メディ、教皇らのように、魔物を打ち滅ぼす力が無かったとしても。
そう、眩き光─彼が心から憧れるような『勇者』にすら。

(……アリス、何をねぼけているのです……!!)

今の今までの自分は、夢の中に居た。
心から、そう思う。
囚われし彼らの嘆きに心を痛め、その痛みに顔を歪め立ち止まる。
それが真の勇者の行いか、と彼女は自らに問う。

(違う!!)

頬が赤みを帯び、口の端から血が滲む。
自分の拳で、自分の頬を殴りつけたのだ。

(勇者よ、目覚めなさい)

アリスはまだまだ、幼気な少女である。
だが不器用で、まっすぐで、そして強く優しい勇者でもあった。
自分の中の繊細な少女の部分を、戦いの最中出したことを勇者は恥じた。
そして、彼女の中にある少女は眠る。
この戦いが、勇者の在るべきところに違いないのだから。

「私も往きます!!エイトさん、援護をッ!!」

勇者は再動する。
力強い歩みは、先を往くエイトにあっという間に並んだ。

* * *

破壊神の顎門が、ばっくりと裂けるように開かれた。
その奥、まるで暗黒の世界が爆ぜるかの如く、紅が輝く。
それを何かと認識する間も無く、破壊神は激しい地獄の業火を吐き出した。
破壊神の放つ業火が、アレフを包み込む。
メラゾーマ急の熱量を孕む炎に巻き込まれ、肺の奥まで炙られるような感覚がした。
ロトの盾があるとはいえ、それだけでは大量の炎を防ぎきれなく、動けずにいるアレフ。
このままでは焼死しかねないと断じ、賭けるように腰から氷の刃を抜いた。

「くッ……うぉおお!!」

ヒャダルコの魔力が乗った、凍てついた風がアレフの傍を吹き抜ける。
その威力はかつてクリフトが、キーファが振るった物を上回っていた。
業火を僅かに抑えた氷風の流れに乗るように、アレフは炎をなんとか潜り抜ける。
細かい火傷は負ったが、五体満足で立ち上がった。
同じ足場にいたマリアとフォズが、心配そうにこちらを見やる。
ベホイミの魔力が、すぐにアレフを包みこんでくれた。

「アレフさん!ご無事で」
「げほ。ああ、キーファと……こいつのおかげ、さ」

アレフは首から下がる翠の守りを持ち上げ、微笑んだ。
風を感じながら、剣を握る手に力を込めてみる。
その風は強く、そして魂のように温かみを帯びていた。
涙を流し、命を燃やし尽くした赤鬼のような。
と、破壊神の低い唸りが二人の耳に届く。
目を向ければ、エイトとアレンの、注意を向けるための猛攻が繰り広げられていた。
さざなみの剣が突き出された破壊の豪拳を斬る、エイトの槍が胴を突く。

「こちらです!!」

アリスの高らかな叫びが破壊神の注意を引く。
向けられた掌から、その顔面に呪文が放たれた。

「イオラァッ!!」

その一声で空気が灼け、爆ぜた。
だが、全ての攻撃は闇の衣の前に水泡と帰す。
爆炎が晴れて現れた表情は、涼しいものだった。

「くっ」

今、破壊神からの攻撃はそう激しくはない。
だがもし、本気を出して動き出したとしたら。
羽虫を払うように、紙屑を散らすように、吹き飛ばされてしまうだろう。
エイトは額を伝う血混じりの汗をぐいっ、と拭った。

「上だッ!!」
「!?」

ピサロの叫びに反応し、エイトが上を向く。
今まで鈍重な動きを続けていた破壊神が突如拳を振り上げた。
異形なる三本指の掌が開かれる。
そのまま平手を真っ直ぐ振り下ろした先には。

「エイトさんッ!」
「よけろ!!」

マリアとアレフも、たまらず声を上げた。
周囲に影が差したのを認識した瞬間、エイトの全身を掌が生んだ風圧が先に撫でていく。
視線いっぱいに広がっていたのは、全てを打ち砕く槌と見紛いそうな破壊神の掌だった。

「エイトさーーーーーんッ!!」

粉塵が散る。
破片が闇へ落ちる。
激しく岩の砕ける音が、辺りに響く。
破壊神が、いとも容易く『破壊』した結果である。
足場を砕き貫通した掌は、さらにその下に浮遊する足場に減り込む形で止まった。
軌道上に居たエイトは、陰も形も見えない。
彼の存在を、絶望が塗り潰してしまったかのように。

「……!!」
「く……!おのれシドー!!」
「!待つんだ」

剣を構え飛び出そうとしたアリスを、駆けつけたアレフは制する。
抗議するような眼を向けられるが、しかしアレフは笑んでいた。
彼の命を信じていた。

「大丈夫」
「しかし!!」
「……エイトは」

ずぶり、と掌の中央から白刃が突き出る。
押し付けられた掌がぶるぶると震えている、いや、震わせているのは破壊神の意に非ず。

「彼は、こんなもんじゃ砕けない」

覆い被せられた闇が徐々に持ち上がり、やがて姿を表した。
傷つきながらも、歯を食いしばりエイトは立ち上がる。

「だアぁああああああっ!!!」

次の瞬間、間欠泉の湧くが如くエイトが跳んだ。
薙いだ槍の閃きは旋風の如く唸り、そして荒れ狂う。

「!!!」

破壊神の掌が弾け、指が2本ばかし千切れ飛ぶ。
その光景を見たアレンが、ピサロが、傷つけた当人であるエイトまでもが眼を見開いた。
血肉の散る中手近な足場に着地し、自らが負わせた傷を見据える。

「効いたぞ!!」
「やった……!!」

アリスとアレフが歓びの声を上げる。
通用した。
破壊神の肉体を僅かながらではあるが、破壊したのだ。
痛みに声も上げず、動きもしない破壊神を不気味に思いながら、魔王二人は近くの足場に降り立った。
見上げるが、接近した彼らに反応すら見せない。
ピサロはこの行動、そして攻撃が通用したことに深い疑問を覚えた。

「何故……」
「闇の障壁が構築されなかった、か?」
「……ああ……いや、こうしている今も─」

ピサロの疑問は当然だった。
闇の衣の放つ力が、徐々に消滅している。
シドーから感じる魂を絡めとろうとする引力。
それが弱まったわけでは無い。
だが、エイトの槍は確かに身体を引き裂いた。
それは、何故か。
答えを握っているのは、小さな身体に聖なる祈りを宿した少女。

「あいつ……!!」
「フォズっ!」

破壊神の影が差す、その足場の中央。
小さな大神官が、杖を手に目を伏せ、祈っている。
掲げた杖は、神鳥の杖。
かつて暗黒神を封じる為、大賢者の魂の器として作られた物であった。
その周囲にぼんやりとした光が、廻っている。
同時に、破壊神の周囲を色濃く隠す常闇が薄れていく。
黒き霞のその奥、青白い光─彷徨える魂が、踊る。
彼らの目には、そう映った。

(神よ、もしこの願いが届くのならば)

フォズは目を伏せ、杖を天に掲げた姿勢のまま強く願う。
破壊神の鎖に繋がれた魂が、解き放たれることを。

(もしも、私の祈りが届くのであれば)

大神官、それは人々を導き未来を指し示す者。
そして差し伸べられるその手は生きる者だけに限ることはない。
死して尚、救いを求める彼らをどうして放っておけようか。

(お救い、下さい。彼らを、皆を)

今、此の場における力無き者であるフォズ。
そんな彼女に、フォズに『できること』はこれだけだった。

「おお、この世の全ての命をつかさどる神よ!!」

フォズの力強い叫びが、高らかに放たれる。
その声に共鳴するかのように、破壊神の傍に廻る光はより一層輝きを増した。
闇に囚われたか細い光は、徐々に輝きを増す。
その内なる光がやがて闇を掻き消し、動き始めた。
まるで、蛍のようにゆらゆらと。

「フォズ、危ないっ!!」

手が一つ使い物にならなくなった破壊神。
その表情は変わらず、残酷な笑みを浮かべたままである。
感情というものが存在するのかは解らない、だがその視線は祈る少女へと注がれた。

「そこから離れてください!」

エイトの叫びが空間に響き渡る。
だが、彼女は動かなかった。
動き出した魂は、フォズを目がけて揺れ動いている。
祈りを中断し、彼らの導が無くなってしまえば、再び囚われてしまうだろう。
それだけは許されない、逃げることはできないとフォズは強く思った。
アレフが、ピサロが駆ける。
フォズの祈りを、守る為。

「エイト、アリス!電撃呪文を!」
「!はいっ」

アレンは叫んだ。
攻撃が通用すると解った以上、破壊神を叩くのは今しか無い。
竜の掌に、熱い魔力が蓄積されていく。
やがてベギラマの白炎が、顕在化した。

「来たれ……」

エイト、アリスは自らが持つ最強の呪文を紡いだ。
その心に、移ろいや迷いはもはや無かった。
仲間を守るために、そして、自分の思いを貫くために。

「正義の雷ッ!!」
「勇気の雷…!」
「放てっ!!!」
「「ギガデイン!!!」」

その手に裁きの力、ギガデインの天雷が舞い降りた。
凝縮された雷が、彼らの肉体を砲口とし放たれる。
アレンもまた、その手から火雷を放った。
三人の呪文は一筋の光となり、破壊神の左翼を根本から焼く。
バランスを崩した破壊神の身体が、初めて傾いだ。
しかし破壊神は片翼を羽ばたかせ自身の身体を宙に保つ。

「落ちよ……」

上空でもたつく破壊神。
マリアは、フォズを守るように進み出た。
その手元には、既に膨大な力を抑えつけるように留めている。

「万物を砕く、精霊の槌!」

周囲に魔力が充足し、マリアの杖が激しく発光した。
忌まわしき邪神に、全身全霊の裁きを下すために。
彼女は、全力を込めたその呪文を紡いだ。

「イオナズン!!!」

周囲の音を掻き消すかのように空間が一瞬、圧縮されたように歪む。
新星の誕生かの如く激しく光り─そして、爆発。
神殿の残骸が浮かぶ世界を、轟音が揺らす。
聖光が、破壊神の肉体を半ばまで飲み込んだ。

(ありがとうございます、みなさん)

目を伏せていても、彼女には聞こえた、届いた。
皆が力を惜しむこと無く振るい、自らを守っている事。
それが少し申し訳なく、そしてとても嬉しかった。
だからこそ、必ず報いる。
破壊神による、魂の虐げという愚行を止めることで。

「囚われし魂たちに……」

イオナズンの光に照らし出され、フォズがカッと目を見開く。
祈りは最高潮にまで高まり、皆はまるでその輝きはフォズ自身から放たれたような錯覚すら覚えた。

 
「おのれ自身の道を歩ませたまえ!!」

 
祈りが、響いた。

 
それは夢か、幻か。
吟遊詩人がそこにいれば、曲がいくつ書けるだろう。
それほどまでに、幻想的な光景が広がった。
闇を貫き現れた、儚き光。
その光は輝きを増し、意思を取り戻したかのように動く姿は、どこか儚くも美しく見えた。
数多くの魂が勢いを増し、流星の如く加速する。
天へ昇る事も叶わない、多くの哀れなる魂。
彼らは今、大神官フォズの慈悲深き祈りを受け、神鳥の杖へと導かれた。

「闇の衣が……消えてゆく」

アリスが感嘆混じりにつぶやいた。
竜の女王からの奇跡、光の玉の助力を借りてやっと為したこと。
あの幼い少女は、その奇跡を天への祈りだけで起こしたのだ。
だが、破壊神を中心に渦巻く、すべての魂がそうなったわけではない。
魂を導くフォズの祈る声に耳を貸さなかった者たちであろう。
どす黒い暗黒に、芯まで染まった魂。
しかし残った魂だけで、闇の衣は構築できそうもない。
破壊神は今、彼らの手の届く位置まで降りたのだ。

「シドーが確かに弱っています」
「このまま、一気に畳み掛けるぞ…!!」
「行きましょう、みなさん!!」

翼を失い、右半身は焼け落ち、剣戟により手や角が断たれている。
だが、破壊神は動きを止めることはない。
それどころか。

「……!!」

笑んだのだ。
情念を感じ取れない、歪んだ笑みのまま彼らと剣を交えた破壊神。
今、初めて表情を変化させた。
それも、『さらに』笑んだのだ。
悍ましい顔は、皆の心に嫌悪の影を落とす。
ややあって、破壊神が動いた。
周囲を旋回する、黒色に変化した魂。
ぎろりと睨めつけ、ばくりと暗黒の広がる口を開いた。

「っ!!」
「う……!!」

闇の衣は完全に消え、残ったのは漆黒の魂。
その魂が、奈落より暗い口腔へと吸い込まれていく。
その時の表情たるや、地獄の鬼や悪しき死神と表現するのすらも生温い。
全てに恐怖を、"死"を連想させるほどの悍ましさだった。
破壊神は闇に染められた霊を愉悦の表情で食み、咀嚼する。
やがて嚥下を終えた口からは、薄黒い吐息が漏れた。

「あれが、破壊神の……」

破壊神の身体が、どす黒く染まっていく。
身体が、さらに脈動を始める。
闇そのものを肉体としたかのような暗き体躯に、二つの光。
それは血よりも紅くそして邪悪な光を宿した瞳だった。

「真の姿だ……!!」

皆の視線は、変容を始める破壊神に注がれる。
今ここに、更なる脅威を顕にした。
されど、勇無き者などもはやここには居ない。
彼らは、戦う。
敢然と立ち向かうのだ。

 
 


【???/世界の残骸/ゲーム終了後?時間経過】

 
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP8/10 MP7/10 火傷(軽度) 左足に刺傷(完治)   首輪なし
[装備]:ロトの剣 ロトの盾 鉄兜 風のアミュレット
[道具]:支給品一式 氷の刃 消え去り草 無線インカム
[思考]:このゲームを止めるために全力を尽くす

 
【アリス@DQ3勇者】
[状態]:HP8/10 身体に絞跡 MP8/10 首輪なし
[装備]:メタルキングの剣 王者のマント 炎の盾 星降る腕輪 
[道具]:支給品一式 ロトのしるし(聖なる守り)炎のブーメラン 
    祈りの指輪(あと1.2回で破損) ビッグボウガン キラーマシンの矢×17
[思考]:仲間達を守る 『希望』として仲間を引っ張る

 
【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP6/10 MP9/10 全身の打撲 首輪なし
[装備]:メタルキングの槍 布の服 マジックシールド はやてのリング
[道具]:支給品一式 イーグルダガー 無線インカム 
     84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×1 照明弾×1)
[思考]:悲しみを乗り越え、戦う決意

 
【竜王@DQ1】
[状態]:HP8/10 MP8/10 人間形態 首輪なし
[装備]:竜神王の剣 さざなみの剣
[道具]:首輪(竜王) 魔封じの杖 破壊の鉄球
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪

 
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HPほぼ全快 MP7/10 右腕使用不能 首輪なし
[装備]:鎖鎌 闇の衣 
[道具]:支給品一式 首輪×5[首輪二個 首輪(分解) 首輪×2]
     飛びつきの杖(2) アサシンダガー プラチナソード 奇跡の石
     ピサロメモ 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)   
[思考]:破壊神の破壊
※ピサロの右腕は通常の治療では完治できません。
 また定期的な回復治療が必要であり、治療しないと半日後くらいからじわじわと痛みだし、悪化します。
 完治にはメガザル、超万能薬、世界樹の雫級の方法が必要です。 

 
【フォズ@DQ7】
[状態]:HP健康(神秘のビキニの効果によって常時回復) MP9/10 首輪なし
[装備]:神鳥の杖(死者達の魂)  神秘のビキニ(ローブの下) 
[道具]:支給品一式  アルスのトカゲ(レオン) 天罰の杖
     祝福サギの杖[7] ドラゴンの悟り 
     あぶないビスチェ 脱いだ下着  引き寄せの杖(1) 
     太陽のカガミ(まほうのカガミから変異)錬金釜 ラーの鏡 
     天馬の手綱(ファルシオン)
[思考]:ゲームには乗らない ピサロとともに生きる

 
【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP健康 MP8/10 首輪なし
[装備]:いかずちの杖 布の服 
[道具]:小さなメダル 聖なるナイフ 鉄の杖
    ルビスの守り(紋章完成)インテリ眼鏡 風のマント
[思考]:全てを終わらせる

 
 
 
【破壊神シドー(真)@DQ2】
[状態]:HP??? MP??? 左翼焼失 右半身消失
[思考]:???


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