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孤独な剣の行先

孤独な剣の行先


登場人物
マルチェロ(DQ8)


昇りだした日の光はいよいよ速く、町を白く染め始める。
青の僧侶は民家の間を駆けていた。
可能な限り足音を抑え、物陰を選びながら慎重に進む。
軽やかに、しかし速く的確に疾走する。その姿はまさに暗殺者そのものだ。
彼――マルチェロはやがて戦場となった大通りに出て、顔をしかめた。

(間に合わなかった……か?)

おびただしい量の血痕。そして何かが焼け焦げたような濃い臭いが鼻につく。
余程激しい戦いだったのだろう、かなりの惨状だ。
だが肝心の死体が見当たらずマルチェロは困惑した。
すると戦闘の決着はまだついておらず、どこかに場所を移したのか?
マルチェロは考える。
そうであれば、戦況自体にはすでに優劣がついているはずだ。
劣勢な方がどこかに(そう、例えば損傷が激しくみえるあの城の方などに)逃げ込み、
優勢な方が止めを刺さんと追っていった――。そう考えるのが一番自然だろう。

(優勢なのは、あの怪物の方か。いや、違うな)

マルチェロの目的は当初より何一つ変わっていない。
自分以外の者を殺し生き残る――単純明快なこのゲームのルールに従い、己がその頂点に立つこと。
誰が勝利し誰が死んだのかそんなことはどうでもいい。
残った方を殺す。
それこそが、このゲームでの最も合理的な身の振り方だとマルチェロは考えていた。
だが、状況は自分が思っていた以上に切迫してきているのかもしれない。
 
 
 
マルチェロはひとまず瓦礫の陰に身を隠した。
「くそっ」
苦虫を噛み潰す。とんだ失敗だ。収穫は無く、さらにわざわざ生き証人を残してきてしまったのだ。
こうなることが分かっていたなら多少時間をかけてでもあの小僧らを始末していたものを。
どうする? 戻って始末しなおすか?
いや、ここで焦って動くのは危険だろう。今はまだ動かない方がよい。

マルチェロは配給された時計を取り出した。
ゲームが始まってからすでに一日が経過しようとしている。
もうすぐ二度目の放送が行われる時刻だ。一度ここで情報を整理しておいた方がいいかもしれない。

マルチェロは辺りを窺いながら地図と名簿を出した。
禁止エリア。マルチェロはゲーム開始以降このエリアから出ていない。
もし城の近辺が次の禁止エリアに指定されたらまずい。
そして参加者。一度目の放送から何人死んだ――いや、残っている?
残っている人数は少ない方がいい。多いと面倒だ。結束されるとこちらにとって脅威となりかねない。

(だが――力とは何だ?)
マルチェロは名簿の頁を繰りながら、自問した。
力とは、己が生き残り勝ち上がるためのものだ。
故に弱い者同士が結束するのは自然なことである。
表面では互いに協力しながら、状況を見計らい、裏切り、そして殺す。
元の世界でかつて教会の裏世界で暗躍していたマルチェロにとり、それは世界の道理ともいえた。

だが、宿屋に集まっていた連中の様子はどうだ。
それに先程の小僧。また、その口から聞いた異母弟の仲間だった男の名。
このゲームでは殺しあうことがたった一つのルールだ。
裏切りが前提の世界で、他人と真に頼りあう。そんな愚かなことは他にない。
脳裏によぎる彼らの姿は知らずマルチェロを苛つかせた。
 
 
 
「ぐ……っ?」
ふと頭に痛みが走る。
 
 
――つらくは ないか 孤独な 殺戮者よ?

「貴様か……」

――疲労しているようだな 頼れるものが 欲しくはないか?
――我の半身を 取り戻せば 汝に 強大な力を 与えようぞ?

「フン、くだらんな。黙っていろ」

――…………。

「そうやって徒党を組みたがる者ほど、弱者である証拠なのだ」
 
 
そうだ。マルチェロは独白する。私は何者の手も借りない。
頂点に座するものは一人のみ。そう、元の世界となんら変わりない、それは世界の道理。

私は常に一人で力を保ってきた。
不義の子として生を受け父親に追放されたときからずっと自身の力のみで己を培ってきた。
やがて頂点に立ち聖地で異母弟とその仲間に打ち倒されたその日までずっと一人の力で生きてきた。

失われた左目が熱く疼く。
 
 
 
まだだ。まだやれる。集中力はまだ途絶えていない。緊張感も維持できる。
チャンスはまた訪れる。必ずその時は来る。必ずだ。好機を見逃さない自信は、ある。
そうやって今までの人生を生き抜いてきたのだ。
恐れることはない。敵が結託するのであればそれ以上の力で滅せばよいだけ。

マルチェロは唇に得意の笑みを浮かべた。

ただ、もう失敗はできない。
重要なのは情報だ。残っている者の数、その顔ぶれ。
人数が多ければ連中の拠点である宿屋を壊滅させる必要性が格段に高まる。
また、新たにこのエリアに侵入してくるものがあればそれも殲滅せねばなるまい。
まずは放送だ。行動を最善なものにするためにはすべてを把握する必要がある。
 
 
時計の針は進む。
やがて鳴り響く鐘の音は福音となって孤独な僧侶に降りそそぐ。


【E-4/アリアハン城下町大通り付近/早朝(放送直前)】

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損(傷は治療) HPほぼ全快 MP1/3
[装備]:折れた皆殺しの剣(呪い克服)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾 発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:ゲームに乗る(ただし積極的に殺しに行かない) 宿屋組を優先的に警戒
     可能な限り情報の獲得を行う(喋らせてから殺す など)


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