トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

死を賭して

死を賭して


登場人物
アレフ@DQ1、アリス@DQ3、エイト@DQ8、竜王@DQ1、ピサロ@DQ4、フォズ@DQ7、マリア@DQ2・・・・・・


「……暗い、な……」
「何も聞こえません、ね」

暗く長い廊下には、勇者達の足音だけが響く。
その足音が余りに遠く響く事実は、ここの広さが計り知れないことを示していた。
彼らは、神殿の構造を把握していない。
故に先程から点在する部屋を地図でも無いかと探る為に、片っ端から探索することにした。
それに、この神殿には確かに内通者─脱出の切り札を忍び込ませた人物がいたことは確かだった。
ハーゴンの関係者との遭遇も、吝かではない。

「鍵はかかっていないようだが」
「!……これは」

先を行くアレフが先程そこで拝借した松明の灯りに、部屋が照らされる。
アリスが見つけたのは、机の上に映し出された見慣れた図。
帰れないと知ったその瞬間からずっと、求め恋いたふるさとだった。

「これはアリアハンの大陸図です……とすると、ここは」
「ええ、監視室でしょう。これが放送に使っていた道具ではないでしょうか」

歯車、発条、放送の合図であろう鐘。
ある程度見知った仕掛けもある。
しかし硝子の球面に浮かぶ赤い光点、喇叭を逆にしたような装置。
彼らの与り知らぬ物も沢山存在していた。

「……なるほど、インカムとやらに意匠が似ている……」
「どんな匠が作ったのかは知らないがな」

アレンとアレフは部屋の壁一面に広がる得体の知れない装置を見上げる。
アレフガルドではお目にかかれぬ代物だろう。

「……だめださっぱり分からん」
「我々の世界には恐らく存在せぬ品、解せぬも道理よ」
「絡繰の類の存在は知ってはいますが……それでもこれらはすごい技術かと」

一行が部屋を探索するも、内部の図は見当たらなかった。
先の見えない暗く長い廊下を、再び探索せざるを得ないだろう。
と、開かれたままの戸に、アリスが振り返った。

 
 
「……?何か、臭いますね」
「む、何を感じた?」
「なんだろ、この臭い……えと」
「手がかりも無いし、向かってみましょうか。アリスさんの感覚を信じましょう」

風の流れの先に向かうが、特に部屋らしい部屋も見当たらずに歩き続ける。
人の気配は皆感じていなかった。
しかし、徐々に他の3人も別の何かを感じていた。
感じていたのは、生命の欠片すらも感じられない神殿には異質な何か。

「……油、か?」
「血、いや……鉄の臭いも感じられるな」
「ですよね、やっぱりこれって……」
「っ、下がれ!」

アリスの言葉を遮ったのは、先頭を歩くアレフ。
そして、彼の足元に石畳に突き刺さった何か。
少々大型だが、戦い慣れた彼らにとっては見慣れた物。
それは矢だった。

「えっ?」
「何か来るぞ」

最も夜目の聞くアレンの声が、皆の警戒を更に強めた。
かすかに、金属音が聞こえてくる。
続いて、風切り音を孕んでさらに矢が数本飛来した。
アレフとアリスは盾を翳し、剣を振るい、矢を弾いて後方を守る。
漸く視界に捉えたのは、紅く光る単眼。

「なんだ、あいつは……?」
「人間では無い……!見たことも無い魔物です」
「あれは……」

金属と石畳が擦れる音。
ギラリと薄明かりの中でも鈍く光るその身体。
一行の中で、エイトだけがその正体を知っていた。
 
 
「キラーマシン……素早い動きと剣、弓を駆使する強敵です」
「ほう、知っていたのか。ワシも書物でしか目にした事は無かったが……」

アレンが顎に手を当てて、その奇妙な挙動に目を見張る。
徐々に近づいてくるその姿は、先頭を行くアレフ頭一つか二つ上回る体躯だった。

「こちらは剣を交えたことも、何度か。眼には注意してください」
「へ?」

エイトが言うが早いか、暗闇の中で光る単眼が3つに増えたかと思うとそれぞれから集中するように光の線が伸びた。
地面を焼き焦がしながら、一瞬で先頭を行くアレフの正面にまで伸びる。

「どわ!」
「っ、く!」

各々が左右に飛び退いて直撃は免れたものの、一行の中間に一瞬遅れて爆発が起きる。
一行の頬を、熱い風が撫ぜた。

「熱線を放ち、高熱により爆破……ギラ系統とイオ系統の複合呪文にも見えるが魔力は感じられぬ」
「冷静に分析している場合か」

自分の陰で興味深い古代遺産の挙動を確認するアレンに、アレフが嘆息を漏らす。
熱を孕む余波に、その攻撃を放った正体─キラーマシンA、B、Cの三体は怯む様子もなく接近してきた。
一時的に左右に分断された一行は、陣形が崩れたままでの迎撃を余儀なくされる。

「次同じ攻撃が来られたら、盾じゃあ防げんな」
「皆さん陣形を乱さないほうが得策かと…… 敵を視界から外さないように横一列になりましょう」
「ええ、落ち着いて対処すればきっとなんとかなります!」

槍を構え直し立ち上がったエイトが、爆風の向こう側に声を張る。
隣でアリスが、光輝くメタルキングの剣を鞘から抜き放った。
目の前の大きな敵を見上げ、二人は迎撃に入る。

「アリス!」
「アリスさん、作戦を!」
「へっ!?作戦!?」

彼女は戦略眼、判断力にも長け、戦闘の際細やかな『指示』を出してはいる。
だが一言で全員の行動指針を大まかに定める─『作戦』を立てるのは、アリスにとって未経験だった。

「え、えっと……」
「我らの相手は木偶では無い、特に魔力の消耗は避けたい所だ」
「え、えっとそれじゃあ」

アリスの言葉に、咄嗟に頭に浮かんだ作戦。
それは、たったひとつの単純な言葉だった。

「じゅもんつかうな!!」

各々の武器が、鳴った。

 
 
 
「う……」

どれだけの時間が経ったのかは解らない。
暗闇から目覚めても、また別の暗闇にいる。
彼女はそのことを認識し、初めてはっきりと覚醒した。

「……ここは」

マリアは、今まで自分が居た空間とはまた違う空気の臭いを感じた。
わずかに身じろぐと、首から下げたままのルビスの守りが冷たい煉瓦と擦れ、チリリと鳴る。
見えなくともマリアは覚えている。
この広く、暗い空間を。

「……最初に、喚ばれた……」

ここは謁見の間。
ハーゴンから死の宴を開催すると宣告されたその場であった。
あの時の恐怖は、そこに残存している。
肌を撫でる冷たい空気も。
戯れのように首をもがれた、哀れな少女の血の跡も。
部屋中の松明が、不意に灯った。

「賢しいな、亡国の王女よ」
「!!」

その威圧感は、かつて感じたもの。
その声は、かつて聞いたもの。
足音が聞こえる。
近づいてくる気配に、総毛立つ。
しかし……マリアは、その身を構えた。
もう、ただ涙を流す少女では、いられない。

(これは……!一体何が起こったのだ!?誰か、誰かおらぬかっ!)

身体が内側からチリチリと熱い。
マリアの脳裏には燃え盛る故郷と、民の悲鳴が蘇っていた。

(すぐに兵士達を集めよ!)

そして父の記憶、最期の思い出。
内側の熱さとは裏腹に、マリアの全身は冷え切っていた。
冷たい汗が、白い肌を流れていく。

 
「……!!」

かつての恐怖と今の状況に戦慄するマリアを迎えたのは、拍手だった。
徐々に影の輪郭が顕になり、青白い手、そして顔も灯りの下へ照らされる。

「優勝……おめでとう」
「……!!」

紛れもなく、故郷を、民を、父を奪った憎き仇。
そして仲間までもを奪った宿敵の顔が、そこにあった。

 
─父に、避難すべく地下へと手を引かれた。
その途中、幾度となく届く断末魔に耳を塞ぎたくなる。
端正な顔は涙でぐちゃぐちゃになった。
大事に育てていた花は焼け、美しく澄んだ池は赤く、そしてどす黒く濁る。

(よいか……マリア、お前はここに隠れているのだっ!)

優しかった父がこんな顔をしたのは、最初で最後だった。
こわばる手に、両肩を掴まれる。

(わしの身に何が起こっても、嘆くでないぞ)
(お、お父さま……!!)

マリアは、群がる魔物に必死に抗う父の背を見ていた。
見ていることしか、できなかった。
魔法使いとして持ち始めた杖も、今では震える身体を支える役にしか立たない。
無力さに、そして傷だらけの父の姿に、涙が溢れた。

(……!!)

そして霞む視界の中に、浮かんだ。
冷たい、青白い笑みが。
ハッとなって声をあげる暇も無く、父の身体は炎に包まれていた。

(ぎょえーーーっっ!!)
(お、お父さまーーーっっ!!)

─それから先の記憶は、あまり無い。
気がついたころには、自分は単なる薄汚れた犬となっていた。
腐った肉を食らい、泥水を啜り。
生き延びることだけで、必死だった。
仲間に救われる、その日まで。
あの日、あの時からの悔やむべき悲劇が、マリアの胸を幾度となく貫く。
目の前の顔は、マリアの全てを確かに刺激した。

(……でも)

憎き大神官の歩みは止まらない。
既に、互いの術者としての間合いに、既に入っている。
しかしマリアの頭に浮かんでいたのは、ひとつの疑念だった。

(奴は……自らを破壊神の贄としたはず……)

両の足は、ついている。
姿は実体影もそこに。
大神官ハーゴンは、そこに在る。
─しかし記憶が語る確たる死人、ならば今この光景、これは果たして現か?

 
「貴方は……本当に……?」
「……些か、不似合いだな」
「え?」

ハーゴンがパチン、と指を鳴らす。
呆気に取られてしまったが、マリアが瞬間的に違和を感じ取った。
─首周りが、涼しい。

「畜生のように戒めたこと、無礼が過ぎたな。そう『犬ではあるまいし』な……?」
「……っ!」

ハーゴンだ。
マリアは目の前に佇む男が『ハーゴンの記憶を確かに持っている』と認識した。
ねっとりと絡みつくようなこの視線、冥府から響くかのような低い声。
全てを記憶している。
ただ、少し違う。

(……あのときより更に!!)

禍々しい。
持ち合わせていた力は、ここまで常軌を逸した物だっただろうか?
─ハーゴンは、その手に首輪を弄んでいた。

「さて……」

一瞬呆けていたマリアがハーゴンの声に立ち直ったとき、すでにその手から首輪は消え果せていた。
計り知れない。
人が手を付けてはいけない、邪なる力。
ハーゴンの殺し合いを望む言葉から、ずっと行使されていた摩訶不思議な全て。
目の前にすればやはり、悍ましい。
早くもその邪気に呑まれつつあった。

「初めにこの場で説明した通り……だ。覚えていよう?」
(いけない、気圧されては)

そう、何のために自分達はここまで来たのか。
目の前の男に、今一度引導を渡すのだ。
近づくハーゴンの持つ杖が、カッと床を鳴らす。
マリアは杖を握る手に力を込め、隠しておいた聖なるナイフへともう片方の手を滑らせた。

「『最後の一人となったものには褒美を取らせる』とな」
「!!」

マリアの身体が、強張った。
ハーゴンの表情は変わらず、その真意も図れぬまま。

 
 
(このゲームに勝ち残り最後の一人となったものには私直々に褒美を取らせよう。
 元の世界に戻すのは当然、富も名誉も思いのままだ。そして……死者を甦らせることもな)

「……多くを、喪った……取り戻したいものもあろう」

あの日の父が。
アレン、ランド、そしてリアの笑顔が。
ずっと傍にいてくれた、トロデ王。
ククール、ハッサン、レックス、トルネコ……
バトル・ロワイアルの舞台から突き落とされた多くの人々が。
マリアの脳裏に浮かんでは、消えていく。

「何、『神』の力の前には……人の望みなど全て事足りよう」

ハーゴンの甘言が、マリアにはそれはそれは恐ろしく感じた。
その声は、本当に目の前の男の喉から出ているのだろうか?
もはや何がまやかしで、何が真実か、曖昧になっている。
胸のルビスの加護を握り締め、マリアは必死になって正気を逃すまいと抱え込んだ。

「……私……」

マリアはスッと歩み出る。
その足取りには、もはや迷いはなかった。

「望むわ」

ハーゴンが、手を差し伸べた。
マリアの手は─

「……貴様の命を!!!」

その青白い手に、重ねられることは無く。
いかづちの杖が風を切り裂き、大気を灼いた。

 
 
 
 
杖の先端から放たれた閃光にたじろぐ様子も見せず、佇まいを崩さぬままハーゴンの姿は光に紛れた。
爆炎が、黒煙が、続けて視界の全てを覆い隠す。
だがその気配は、消えてはいない。
マリアは怒りに震える声を、見えぬ怨敵へ投げかけた。

「多くを、喪った……?」

荒ぶる雷閃が呼んだ炎熱が、謁見の間の赤絨毯を炎に包む。
冷え切った空間は、一気に温度を上昇させた。

「奪ったのよ……あなたが……」

続けてマリアは、渾身の魔力を込めてバギを唱えた。
真空の渦は半ば暴走し、石畳を抉り瓦礫を撒き散らしながら憎き仇へと向かう。

「あなたが、全てをっ!!」

荒れ狂う大気の刃が、爆炎を切り裂き煙を晴らす。
風の流れに礫が舞い飛び、弾丸のようにその身に迫る。
現れた大神官の顔は。

 
「─愚策」

 
裂けんばかりに口元を綻ばせた。
その笑みは、余りに彼女がかつて見た破壊神のものに似ている。
掲げた邪神の杖が、暗黒の暴風を呼び起こした。

 
「……妙だ」

未だ土煙の晴れぬ廊下のど真ん中、アレンがぽつりと呟いた。
キラーマシンB(恐らく)の体当たりを盾で防いだアレフと、丁度背中合わせの形となる。

「?なんだ、考え事をしている暇は無いぞ」
「敵が挑んでくる可能性はあったが……こんな木偶にワシらを任せるというのに、な」
「……確かに、放送をしたのは人間……」

アレフは死者を告げる鐘、そして同時に流れる放送を思い出した。
一度目は腕の中のルーシアの死を知ったとき。
二度目は、怒りと失望に燃えるピサロの眼前で。
そのときの声は……

「声は男女別々だった。奴らは複数の人間から成っている、まず間違いなく」
「然様、だが儀式から複数の人間が神殿に乗り込むという事態にこの対応……」

アレフがキラーマシンのサーベルをロトの剣で弾き返す。
アレンは左右に片刃剣を持ち、迎え撃つ。
二人の会話は、剣戟を途切れさせることもなく続いていた。

「……まあ、間違いなく神官が出られない理由があるな。儀式の最中とか」
「他にもいくつか考えられる」

アレンの脳裏に浮かんだのは、書物に秘められた暗号。
内通者の存在。

「……謀反が明らかになって全員拘束された……か?」
「それならばかわいいものよ。我々が最も恐れるべきは─」

アレンの二刀が、剣を抑える。
伝説となった勇者の剣が一閃、機兵の振るう蛮刀を根元から斬り砕いた。

「奴らも既に"神の餌"ということよ」
「……完全なる復活、阻止は手遅れ……確かに最悪だ」

敵の立ちふさがる暗闇のさらに向こう。
既に存在する"神"が万全の状態で待っているとすれば。
それは絶望という言葉以外では形容しきれなかった。

「だがまあ……」

だが、志を挫かれるわけにはいかなかった。
各々が負けられない理由がある。
神をも怖れぬ勇気を胸に、彼らの行進は止まらない。

「勇者、だからな……いつだって最悪の状況と戦ってきた。今回も、同じさ」
「クク、頼もしいことだ」

話を終えたのは、キラーマシンの頭がごろりと落ちたのとほぼ同時だった。

 
「せいっ!」
「だぁっ!」

鋼の王の名を冠す二つの武器が、装甲を貫いた。
甚大なダメージを受け、尚も機械の身体は標的に剣を振り上げる。
が、その剣が振り下ろされぬまま、ガクリと動きを止めた。
二人が剣、槍を抜くと同時に崩れるように倒れる。

「残りは一体!」
「やはり、簡単な命令しか与えられていないのでしょうか。動きが単調です」
「我々の相手には、少々役者不足ですねっ!ちなみにこの場合役不足では誤用ですよ!」

最後の一体が矢を乱射してくるも、流星の速度を得たアリスは造作もなく避ける。
その隙に接近したエイトが疾風のように突き出した槍が、手から剣を弾いた。
しかしカリカリ、と何らかの摩擦音を上げつつ首を向けたキラーマシンは、至近距離のエイトを見据える。
単眼が、ギラリと紅く光った。

「危ないっ!」
「!」

しかしエイトの判断は落ち着いていた、その場を開けるように後ろへ飛び退く。
無論背後に飛び退いただけではその光から逃れることは出来ない、盾をも貫通するであろう。
だが空いた空間を埋めるかの如く、一筋の雷が飛び込んできた。
鉄の身体に電撃を叩き込まれ、キラーマシンはまるで痙攣するかのようにその巨躯を震わせる。
そして、黒い煙を関節から上げ、完全に沈黙した。

「ふうっ」
「アレンさん、アレフ。そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない……それより、最初からそうすればよかったじゃあないか」

アレフも、一体を仕留めた直後にエイトの救援に向かうつもりでいた。
しかし一手早くに放たれたのはギガデイン。
かつてのアトラスのときの二の轍を踏んだようで、アレフは不平を漏らした。

「視界が悪かったのでな、同士討ちの可能性もあった」
「冷静だこと」

いたって真面目な顔で宿敵にそう言うアレフに、アレンがフ、と鼻を鳴らした。
各々が武器を収める。
ようやく撃退を果たしたものの、彼らを取り巻く状況はさして変わっていない。

「しかし……」
「どうしました」
「我々は既に奴の幻惑に落ちたのかもしれぬな」

アレンが広がる虚空へと視線を向け、眉をひそめる。
エイトとアレフはその言語に、二の句が継げない。

「そう、ですか?何の変哲も無い廊下ですけど……」

そう、広がるのは松明が規則的に並んだ驚異的に長い廊下。
ところどころに扉が見えるが、その先は見えない。

「あるいは延々と続く廊下の幻影なのかもしれません、僕も似た経験があります」
「無限回廊……とでも言うべきか?」
「終りがない?寒気のする話だな……」

エイトは暗黒魔城都市での出来事を思い出す。
至って普通の街並みが現れたときはぎょっとしたものだ。
そして同じところをぐるぐると廻っているはずが、街が徐々に惨状へと変わり行く。
あの時とまた同じく、趣味の良くない幻影では無いかと思ったのだ。

「だとしたら、俺たちはここから出られないのか?」
「そうとは限りませんが……」
「加護を持つマリアを欠いたが故、影響が出始めたのかもしれぬ……
 此奴等の出所も探って見るべきか、それとも一旦戻るか……」

転がるキラーマシンを示し、アレンが問う。
確かに、これまで進んで、機械兵の姿形は目にしていない。
だが、マリア達が追いついて来ないのも気にかかる。

「そう、だな……」
「まだそれほど時間が経ってはいないと思いますが……
 幻惑の中でその感覚すら鈍っている可能性も、どうすべきでしょう?」
「ここで退くのは、得策では無いと思います」

皆の迷いを、少女の一言はぷつりと途切らせる。
フォズの持つボウガンに使えるかもしれない、と散らばる矢をせっせと拾いあげるアリス。
この状況でも枯れぬ、花のような笑顔で向き直って皆に言った。

「奴らは我々が迷うのを望んでいるのかもしれない、
 思惑通りになるだなんて、シャクじゃないですか。それに……」

勇者心得、ふたつ。
迷いは勇気を鈍らせる、迷うことなかれ。
立ち上がって、握りこぶしを突き上げた。

「彼らは必ず追いつく、と約束しました。信じて、前に進みましょう」
「……そうだな」

一行は、再び歩みを進める。
決して緩める事無く、決して振り返る事無く。

 
 
マリアは自分の眼を疑った。
あるいはこれも、まやかしか。
しかし、自分の胸にはルビスの加護がある。
信じられないが、目の前には現実が広がっているのだ。
何が、起きたか。
ハーゴンが、見たこともない呪文で自分のバギを吹き消した。
まるで、蝋燭の火のように、容易く。
しかし大神官の力の全容など知らぬマリアが驚愕したのはそこではなかった。
飛び散る石片の中でも、巨大な物は吹き飛ばない。
そのままハーゴンの頭上へ振りかかり……

「!?」

マリアの眼が、再び大きく開かれた。
瓦礫が粉々に砕かれた。
しかし、ハーゴンは何一つ唱えてはいない。
砕いたのは─

「な……!!?」

拳、だった。
固めた拳を振り上げる、それはそれは粗野な行動。

「ああ……いかん、な」
「なっ……な、んっ……!!」

マリアは混乱した。
奴は古代呪文メダパニの使い手でもあったと言うのだろうか。
はたまたこれすらお得意のまやかしか。
それとも、本気を出せばあのハッサンに匹敵する武闘家だったとでもいうのか。
動揺は全身の汗腺を開かせ、頭の回転を停止させる。

「やはり仮初……比べてしまえば、脆い」

ぽたり、ぽたり。
流れ落ちる、どす黒い血。
いや、肉は抉れ指は非ぬ方向に曲がり、骨が露出している。
自分の大傷をまるで関わり事では無いことのように、空虚な眼差しのままハーゴンは見つめていた。
ピクリ、とだらし無くぶら下がった人差し指の先端が跳ねた。
メリメリ、と聞き及んだ事もない音が、ハーゴンの肉体を駆け巡っている。
隆起した肉体が、変形する骨格が、ハーゴンの右腕を大いなる異形と成し、そして再び異音と共に圧縮。
そこにはすっかり元の青白い手が存在していた。
マリアは慄くが、漸く合点が行く。

「貴様……既に……ッ!!」
「やはり……」

一歩、一歩。
ハーゴンが、無残に焼き千切れた赤絨毯を踏み越え、迫ってくる。
マリアは知っている、有り得なき破壊の力を。
そして、破壊の裏の力をもその手で操る、禍々しき邪神の記憶を。

「賢しいな?」
(既に『破壊神はここに居る』ッ!!)

 
マリアは、竦み上がっている。
目の前には怨敵がいるというのに。
気味の悪い笑顔を湛えて、近づいてくるというのに。
その場を、一歩も動けない。
このまま自分は、屠られるのか。

(アリス……!!みんな!私に勇気を!!)
「うあああああぁぁぁァッ!!!」

手を伸ばせば抱き締め合うことも叶いそうな距離。
ハーゴンがそこへと踏み込んだ瞬間、マリアは吠える。
聖なるナイフが、閃いた。

 
 
 
「……何の」
「ぐっ……うっ……!!」

その刃が、血の華を開かせることは無かった。
虚空に阻まれたかのように、止まっている。

「心配も、要らん」

ハーゴンの手が、マリアの腕を確りと掴んでいた。
ピクリと動かすことも、叶わない。
力の抜けた手から、魔を祓い邪を討つ聖銀の短剣はかしゃん、と頼りない音と共に床へ落ちた。

(……この……ちか、らは……っ!)
「……今すぐにひどく傷つけることは、せん」

その細身からは大凡想像もつかないほどに、袖から除く腕は肥大化していた。
杖で床を突く。
倒れない、杖は石畳を貫き直立すていた。
空いた片手で空を握り、そして開く。
その行為だけで、マリアの足は震えた。

(み……んな……)

ハーゴンの節榑立った左の手が、マリアの眼前で開かれる。
眠りの呪文が、意識を深い闇へと誘った。

 
 
 
「ピサロさん、ずいぶん長い廊下ですね」
「ほぼ間違いなく、これはまやかしの中だろう。精霊の加護を欠いてすぐに取り込まれるとはな」
「そんな……ああ、マリアさん……どうか……」

天馬ファルシオンは石畳を蹄で鳴らしていた。
祈る少女と悔やむ魔王の二人乗りは、風を切って走り抜けている。
その走りはピオリムでもかけられたかのように速かったが、それでも先行した勇者達へ追いつくことが叶わない。
それもまた、神殿そのものにかけられた呪いのような物だろう。
部屋や窓など、辺りに一切の目印となるものが無いところを見るに、無限回廊と認識させないつもりらしい。
侵入者のみに反応するのであろう、この姑息と呼ぶべき手段にピサロは舌を鳴らす。

「この時間稼ぎ、予測はしていたが急がねばマリアの身が危険だ」
「え?」
「優勝者として招かれた……奴の言うことが"仮に"正しければマリアの願いが叶えられる」
「けれど……」
「そう、有り得はしない。これが単なる生贄を募る儀式であれば願いを聞くことも優勝者を呼び寄せる細工の必要も無い、
 そんな言葉は反故にして箱庭で用済みの優勝者が死ぬのを待てば良い」
「……けれど、マリアさんは誘われた」
「そう、これが意図的なものだとすれば……優勝者の存在を"奴も求めている"のでは無いかということだ」

ピサロが片腕で器用に手綱を操り、ファルシオンを進める。
今まで闇しか見えなかった廊下の先に、何かが光った。
松明の揺らめく灯火だ。
時間がかかったものの、漸く幻影の廊下を抜け出す兆しが見える。
そこまで来たところでやっと考えるところが思い当たり、フォズははっと目を見開いた。
「肉体……!依代ですね!」
「察しが良いな」

恐るべき事実が判明したものの、フォズははたと気づく。
ハーゴン=シドーならば、これほどの儀式が開ける力をすでに得ている。
それでも尚、完全なる復活と強き器が必要なのかと。
しかしピサロが続けて答える。

「マリアが話した破壊神の末路が正しければ、生贄がハーゴン一人での儀式……恐らく、不完全。
 そしてその時滅ぼされた破壊神の肉体を埋めるには、ハーゴンの肉体……死人では不十分」
「破壊の神自身が、そこまで現世に舞い戻ることを求めていると、いうことですか」
「敗北から学んだ、ということだろう……この儀式は、そのどちらもを求めるに相応しい手段だったということ」
「そ、それでは……」
「どんな『儀式』でも、時間はそれなりに必要だ。ハーゴンか神官ども遺した物かは知らんが、このまやかしで
 我々を足止めしているということがその証拠。勇者達も足止めを喰らっていれば、最悪の場合も考えられる」
「そんな……!」

フォズの悲痛な叫びに応えるかのように、ファルシオンは風のように駆けた。
ほどなくして長かった廊下が、やっとのことで突き当たる。
そこには、ひどく久しぶりに思える扉があった。
ファルシオンから降り、扉を潜るには些か巨体であったのでフォズがザックの中に招き入れる。
開けば、別の細い廊下が伸びていた。

「……気配が近い、そしてこちらの廊下はどうやら正常だ」
「身体が軽くなった気もします……」

進むとはたして、大きな両開きの扉がそこにあった。
ピサロの片腕、フォズが全身を使って二つを開けば、そこに広がっていたのは─

「ここは!」
「……」

 
乱れた飛んだ床石、焼けた絨毯。
様子が変わっていたものの、奥に見える壇上の玉座は忘れはしなかった。
謁見の間。
始まりの場所、であった。

「ここに我々は集められた……」
「で、でもこの争った跡は」

ピサロはここでハーゴンに刃向かい、そして全てを失ったと言っていい。
苦い記憶に眉を顰めながらも、部屋の惨状を中に入って調べる。

「……まだ、新しい」
「えっ……」
「……マリアは、奴に抗った……ようだな」
「そんな!!」

強大な力を持っていると、解っていたはずだった。
だが広がるこの惨状、無事で済まされるわけがない。
フォズの顔が色を失った。

「落ち着け」
「でも……でもっ!」
「我々は馬を使った、足止めもそれほど功を奏していない……儀式をされていたとしても、まだ間に合う」

大広間に残された物は他に無い、と認識しピサロは踵を返す。
珍しく焦る魔王の後を、フォズは慌てて追った。

「そ、そうですよね……!それに、マリアさんもうまく逃げ出してくれた、かも、しれません、し……」
「……そうであればいいが、な」

徐々に勢いを失うフォズの発言に自信はまるで見られない。
彼女も必死でマリアの無事を信じてたかった。
しかし、全ての状況が今、彼女の安否を脅かしているのだった。
と、ピサロの焦る足取りが、廊下の中程で足を止まる。

「ピサロさん?」
「……」

小部屋のようだが、いくつも並ぶ扉のうち一つが、わずかに開いている。
中に入ると質素な個室。
深部にあることからハーゴンにごく近い立場である神官の自室かと思われた。
簡素な本棚、机の上には転がる羽ペン。
皺の寄ったシーツが広がる寝台、その上には─

「……事態は深刻のようだな」

フォズが両手で口を抑え、息を呑む。
ピサロが片腕で示す寝台の上に広がっていたのは。
マリアの持っていたザック、抜き放たれた聖なるナイフ。
そして、着ていた布の服。
それだけが、残っていた。
ピサロが扉を押し退け廊下へ飛び出し、マリアの荷物を抱えたフォズもまた続いた。

 
***

 
「――ハーゴン……!!」

 
 
壇上に立ちはだかる影に向かい、アリスは声を上げた。
ゆらり、と青白い顔が振り向く。
それは皆が求め、憎んだ顔。
充満する邪悪な魔力の中、ハーゴンは表情一つ変えない。
天気の話でも持ちかけるようにあっさりと、口を開いた。

「─貴様らか?私の祈りを邪魔する者は」
「ああ、そうさ」

剣先を突きつけて、アレフが応える。
本当は語り合う言葉など持ちあわせていない。
今すぐにでも挑んでしまいたい。
勇者としての本能は焦燥していたが、戦士としての本能が危険を察知していた。
危険だ、と。

「愚か者め」

ゆっくりと、祭壇を降りる階段へと歩みを進める。
一段、一段降りる姿に、一行は誰も近づくことが出来ない。
纏う気配が、同じ空間に存在する全てを攻撃しているようだった。

「私を、大神官ハーゴンと知っての行いか?」
「っ、ふざけるな!!」

投げかけられたのは、かつてのロンダルキアと同じ言葉。
"ハーゴン"は、同じ台詞を言ってのけた。
知ってか知らずかエイトが似合わぬ激昂を見せる。
そうでもしなければ、先程までの勇気が全て吹き飛ばされてしまいそうだったから。
槍を握る手に、自然と力が入ってしまう。

「……まあ、今は良い。全てを赦そう」
「!?」

思いも寄らない言葉だった。
全員が肩透かしを食らったように、あっけに取られる。
ハーゴンが再び檀上の祭壇へと踵を返し、何か合図をした訳でもないのに、檀上の炎が灯った。
祭壇にはなにやら布が被さっていて、その膨らみは何かが隠されていることを物語っている。
ハーゴンはその端を掴みとった。

「儀式を続ける」

取り払われた下に居たのは─

 
 
 
『マリアッ!!!!?』

皆が皆、眼を疑った。
そこにいたのは、自分たちに必ず追いつくはずの人物。
再会を誓い、誰よりハーゴンへ報いることを望んだ強き王女。
しかし彼女は、そこにいた。
お伽話の眠り姫の如く。

「これより"優勝者"の望みを叶える儀式を執り行う!!」
「なんだと!?」

アレフは驚いた。
優勝すればどんな望みも思うがまま─
そんな甘言は儀式を進めるための単なる釣り餌に過ぎないと、考えていた。
しかし、マリアの望みを叶えるとハーゴンは言う。
どういうことかと、思わず剣先が下がる。

「この娘の望みは、本人からはっきりと聞いた。今ここにて─」

ハーゴンが刮目した。
表情、声、そして威圧感。
全てが変化した。
勇者たちを、圧倒するかのように。

「"我が生命"を与えよう」

その言葉の真意を、皆まで理解した訳ではない。
ただ、勇者は憤る。
目の前の男は、大切な仲間を捕らえたのだから。

「訳の分からない事を吐きやがって……」

アレフの言葉にも、やはり返さない。
眠れるマリアの額へと、手を伸ばそうとするだけだった。
そんなハーゴンの身体に"闇"が纏わり付くのを確かに一行は見た。
どこまでも深く、夜の闇よりなお暗い。
目の前に存在するのは、世界に間違いなく破滅と恐怖を呼ぶそれだった。
だが。
それでも。

『……させるかッ!!!』

4人の誰かが指示した訳では無い。
だが、皆が皆、同時に掌に握っていたのは、怒れる炎だった。

『ベギラマ』ァッ!!!

4つの閃熱が、轟炎が渦となり、ハーゴンを直撃する。
彼らは抗う。
それは義によるものではない。
ましてや憎悪によるものでもなかった。
ただ、大切な人のため。
その炎は、許されざる者を焼き尽くすために放たれたのだ。
しかし。

 
 
「邪魔立て……するか……」

橙の閃光が、周囲の暗闇を照らし出した。
だが再び、青き炎の冷たい輝きが、その場の空間を支配する。
爆炎が散り煙が晴れても、そこには居た。
暗く、どこまでも深い常闇の化身の如く。
『闇の衣』を纏いし邪悪が。

「……ならば」

そして破壊をもたらす、邪神が。

 
─赦せぬ─

 
戦いが、始まった。
勇者達は挑む。
皆……死を賭して。

 
 


【???/聖杯の間(祭礼の間)/ゲーム終了直後】

 
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP健康 MP全快 左足に刺傷(完治) 首輪なし
[装備]:ロトの剣 ロトの盾 鉄兜 風のアミュレット
[道具]:支給品一式 氷の刃 消え去り草 無線インカム
[思考]:このゲームを止めるために全力を尽くす 

 
【アリス@DQ3勇者】
[状態]:HP健康 MP全快 首輪なし
[装備]:メタルキングの剣 王者のマント 炎の盾 星降る腕輪 
[道具]:支給品一式 ロトのしるし(聖なる守り)炎のブーメラン 
    祈りの指輪(あと1.2回で破損) キラーマシンの矢×20
[思考]:仲間達を守る 『希望』として仲間を引っ張る

 
【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP健康 MP全快 首輪なし
[装備]:メタルキングの槍 布の服 マジックシールド はやてのリング
[道具]:支給品一式 イーグルダガー 無線インカム 
     84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×1 照明弾×1)
[思考]:悲しみを乗り越え、戦う決意

 
【竜王@DQ1】
[状態]:HP健康 MP全快 人間形態 首輪なし
[装備]:竜神王の剣 さざなみの剣
[道具]:外れた首輪(竜王) 魔封じの杖 破壊の鉄球
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪

 
 
 
【???/ハーゴンの神殿深部/ゲーム終了直後】

 
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HPほぼ全快 MP4/5 右腕使用不能 首輪なし
[装備]:鎖鎌 闇の衣 
[道具]:支給品一式 首輪×5[首輪二個 首輪(分解) 首輪×2]
     飛びつきの杖(2) アサシンダガー プラチナソード 奇跡の石
     ピサロメモ 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)   
[思考]:ハーゴンへの復讐 体力・精神力の回復 最終決戦の戦略を練る
※ピサロの右腕は通常の治療では完治できません。
 また定期的な回復治療が必要であり、治療しないと半日後くらいからじわじわと痛みだし、悪化します。
 完治にはメガザル、超万能薬、世界樹の雫級の方法が必要です。 

 
【フォズ@DQ7】
[状態]:HP健康(神秘のビキニの効果によって常時回復) MP全快 首輪なし
[装備]:天罰の杖  神秘のビキニ(ローブの下) 
[道具]:支給品一式  アルスのトカゲ(レオン)
     神鳥の杖 祝福サギの杖[7] ドラゴンの悟り 
     あぶないビスチェ 脱いだ下着 ビッグボウガン(矢 0)
     太陽のカガミ(まほうのカガミから変異)錬金釜 ラーの鏡 
     天馬の手綱(ファルシオン)
     マリアの荷物(小さなメダル 聖なるナイフ 鉄の杖
     ルビスの守り(紋章完成)引き寄せの杖(2) インテリ眼鏡 風のマント)
[思考]:ゲームには乗らない ピサロとともに生きる

 
【???/聖杯の間(祭礼の間)中央の神殿の祭壇/ゲーム終了直後】

 
【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP健康 MP微消費 深い眠り?
[装備]:いかずちの杖 いけにえの服 
[道具]:なし
[思考]:???


<<BACK [ 本編一覧 ] NEXT>>


-Aqua System 2007-