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主は子羊を見捨て給ふ

主は子羊を見捨て給ふ


登場人物
クリフト、マルチェロ、フォズ


 立ち塞がる相手に視線を向ける。
そろそろ若い、とは呼べない年頃の黒髪の男。
青い僧衣に身を包み、片手には先程火炎を吐き出した、剣呑な大筒を抱え。
(では彼が)
ハッサンとかいった大男が言っていたマーダーだろうか、と思い至ってクリフトは歯噛みする。
 暫く放置して他の参加者を消してもらうつもりだったのだが。
(なかなか上手くはいかないものですね)
まあ、いい。まずは生き残ることだ。

 すぐに筒を構えないところからするに、あれはそうそう連射の効かぬ代物なのだろう。
服装と胸元に揺れる聖印からするに相手も自分と同じ聖職者。
あの筒の威力は脅威ではあるが、それさえ気を付ければさほど危険は無い。
 そのはずだった、が。

 男が動いた。
だが、銃を構えるわけでもなく、かといって他の武器を取り出すでもない。
まるで意図の見えぬ突進に、何かの罠だろうかとクリフトは眉を顰め――大気の流れにそれを察した。
 空気中の魔力が渦を巻き男の右手に収束していく。
ちりと火花が散って、燃え上がるは紅蓮の火球。

 クリフトが目を見開き、男が唇の端を吊り上げて笑う。
「――メラゾーマ」
 呪文の完成とともに放たれた火球は、咄嗟に路地に身を隠そうとしたクリフトの逃げ遅れた左足の膝下を焼く。
「うわあああああああああっ!」
 まるでステーキでも焼くように、じゅうじゅうと煙を出す自分の足。
胸がむかつくような悪臭と、生きたまま己の身体が焼かれていくおぞましい感触。
 こみ上げる吐き気を堪えて、必死に這いずりザックの口に手を伸ばした。

 呪文の遣い手が相手ではザキの呪句は気付かれ、警戒されてしまうだろう。
だが、この杖なら。

 自分を追って路地に飛び込んできた男の眼前にクリフトはまっすぐにザックから取り出したものを――サギの杖を、突き付けた。
薄い笑みが浮かぶ。
「死になさい」

 解き放たれた魔力の塊は外れることなく命中し、男の身体を通りの向こうまで吹っ飛ばした。
 唇に刻んだ笑みがますます深いものへと変わり――それが凍りつく。
「……何故」
 視線の先でよろよろと男が立ち上がるところだった。
焦ってもう一度杖の魔力を解き放つ。
再び男の身体が壁に叩きつけられ、だが呻き声を上げながらも男は身を起こす。
先程よりは幾分力無い動きだったが、それは明らかに死の道行きにある者のそれではなく。
 生命を消し飛ばすはずの呪文は、生命力の幾分かを削り取るだけに終わった。
不完全なザキの呪文にそのような効果があるとは聞いたこともないが、
(いや、そもそもザキではないのかもしれない)
 生命力を削り取る新しい呪文が込められた杖。
取扱説明書が間違っていた、もしくはそれが主催者側の仕込んだ罠、ということも十分に考えられる。

 ともかく、時間は稼げた。
ベルトに杖をねじ込み、ザックを引っ掛け走り出す。
 もともとあの男には暫く殺しを続けてもらうつもりだったのだ、痛み分けで丁度いい。
一歩踏み出すごとに焼け爛れた足が悲鳴を上げるが、今は治療を施す余裕は無い。
足を引き摺りながらも路地を駆け抜け、角を曲がり、

 どん、と軽い衝撃。
「あっ……」
 尻餅をついて此方を見上げているのは先程の少女。
恐怖に竦んで動けなかったのか、それとも逃げた先がたまたま同じだったのか。
どちらにしろ、間抜けな話だ。
折角なのだ、殺してやろうかとも思ったが、怪我の治療もある。なるべく魔力は温存しておきたい。
 ならば、こちらを試そうか。

 必死に後退る少女に、躊躇うことなく取り出したもう一方の杖を向けた。
念を込める。杖の先端に魔力が集中し――だが、それだけ。
 杖に封じられた力はその効力を発揮することなく四散した。

「何故」
(何故効かない?何故殺せない?)
愕然と手の中の杖を見下ろす。
手が震え、かたかたと音を立てた。
(私は姫様のために殺さなければならないのに!)
 焦りと、怒りと、苛立ちとが、心の内で渦巻いて。
「――くっ、退きなさい!」
 爆発した。

 腹立ち紛れに少女に向かって役立たずの杖を投げつけて、そのまま門に向かって駆け出す。
杖は過たず少女を打ったらしい。背後で小さな悲鳴。
だが、クリフトは振り向くことなくそのまま走り続けた。
 今は一刻も早く男を振り切り、怪我の治療を。

――だから、彼は背後で魔力が弾けたことにも、
  彼の投じた杖がもたらした思わぬ効力にも気付かなかった。

「あ、れ?」
 急に目の前がぐるぐると回り出して、フォズは目を瞬いた。
杖は彼女の頬を掠めて、そのまま朽ちた。何かの呪文でもかかっていたのだろうか?
とても怖かったし驚いたけど、なによりこうして自分は生きている。
だから、大丈夫だ。
――身体の感覚が薄れてきていることに、フォズはまだ気付かない。

 なんだか視界がひどく狭く、薄暗い。 
(……寒い)
 ダーマの地下に閉じ込められていた時のことを思い出した。
あそこもとても暗くて寒くて、彼女はとても心細かったけど。
(でも、平気です)
 だって彼女はその後何が起こるかを知っている。
暗くて狭くて冷たい結界の中から彼女を連れ出してくれた温かい手を知っている。
 緑の頭巾の少年を、信じていたから。

(だから、今度も大丈夫だって信じてます。
 アルスさんのこと、信じて待ってますから。
 ちゃんと迎えに来てくれますよね、アルスさん――)

 幼い心のうちに芽生えた淡い恋心にも、
その想い人が既にこの世にないことも、気付くことなく。

 神の御手ではなく、死神の腕に囚われて、
幼くも尊い魂は奪い去られていく。

「――運の無い子供だ」
 呟いて、マルチェロはスコープから目を離した。
相手に直接ぶつけることで効果を発揮する魔法の杖。
それほどの力ある道具をどうしてあの子供になど使ったのかは解せなかったが、
杖が崩れ去った今となってはどうでもいいことだ。
 子供のザックは持ち去られてしまっただろうか。
本当に絶命しているかともども確かめておきたいところではあったが、
「今は、無理だな」
 一体何の呪文が封じられていたものか、外傷こそないがどうにも身体がだるい。
これさえなければ確実に殺せたものを。

 一時の休息を求めて、襲い来る睡魔に身を委ねた。

 静寂を取り戻した城下町に取り残されたは幼子一人。
薄れゆく生命を留めようとでもするように、仔トカゲがその白い頬をちろりと舐めた。

  


【E-4/アリアハン城下町門外/真昼】

【クリフト@DQ4】
[状態]:左足に火傷(重度) 背中に火傷(ある程度治癒) MP1/2程度
[装備]:なし
[道具]:祝福サギの杖[7]
[思考]:安全な場所で怪我の治療を アリーナを優勝させ、復活させてもらって元の世界へ帰る

【E-4/アリアハン城下町/真昼】

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:HP3/5 MP3/5程度 
[装備]:なし
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ
    グスタフの弾(榴弾×1 対戦車榴弾×1 発煙弾×2 照明弾×2)
[思考]:近くの民家に潜み、体力の回復を待つ ゲームに乗る(ただし積極的に殺しにいかない)

【フォズ@DQ7】
[状態]:仮死状態 ※回復呪文で復活
[装備]:天罰の杖 アルスのトカゲ(レオン)
[道具]:炎の盾
[思考]:ゲームには乗らない アルス達を探す


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