トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

集いゆく欠片たち

集いゆく欠片たち


登場人物
アリス(DQ3)、トロデ(DQ8)、マリア(DQ2)、キーファ(DQ7)、りゅうおう(DQ1)、マルチェロ(DQ8)、エイト(DQ8)


再びの爆音がアリスたちの居る武器屋の屋内を揺るがせた。
トロデの食べ残したアンチョビサンドを頂こうか、いやそれは卑しいかなどと悩んでいたアリスは
突然の振動に思わずテーブルに手を突いてしまった。
その手に当たってアンチョビサンドが床に落ちてしまう。

「あ!」

たたらを踏んだアリスはサンドイッチを踏むまいとして逆にバランスを崩し……悲劇が起こった。

ぐにゅ

「――――ッッ!!?」

顔が蒼ざめ、両の掌が頬を掴む。
食べ物を大切に扱うように幼少の頃から母に叩き込まれてきたアリスにとって
これは悲劇以外の何者でもなかった。

「おのれッ……不覚です」

「なにをやっておるんじゃアリス!」

不安そうに窓際にて宿の方向を見ていたはずのトロデが血相を変えて駆け寄ってくる。

「今のは宿屋の方向からじゃ! 今しがた宿からどでかい竜が飛び立ちおった!
 しかも宿屋が崩壊してしもたぞい!!」

「なんですって!?」

「やはり戦いが起こっておるんじゃ! しかもかなり大規模じゃぞい」

衝撃と轟音からそれが建物が崩壊するなどのかなり大きな破壊音だということは容易に想像がついていた。
先刻、様子を見に行ったキーファたちも宿屋についた頃であったろう。
それに合わせたかのようなこの轟音、間違いなくかの地にて戦闘が起こっている。
宿から飛び立ったというその竜はあのアレンだろうか?
アリスはアレンが竜となったところを見たことはないが、
かつて竜王と呼ばれていたほどのものなら神竜に匹敵する巨大さを持っていてもおかしくはない。
それに他に該当する存在がないこともあってアリスはほぼ確信してしまった。

(最初の爆音からかなり時間が経ちました。そしてキーファさんたちが着いた頃であろう今、
 この時に宿から飛び立つ理由……しかも宿を崩壊させるほど余裕のない……)

単純に考え、単純な答えが一つ導きだされる。

(逃走?)

おそらくキーファたちと宿にいたアレンが接触し、「何か」があった。
そしてアレンは「余裕なく」その場から離れた。
これらの事象は「先刻起こった爆音」に関係しているのは間違いないところだ。

(考えたくはありません……いえ、信じたくない。でも、もしかするとマリアさんの疑惑は……)

アリスの命を救った幼い少女、リア。
そのリアと、恰幅のいい気さくな商人をを護るように付き添っていた寡黙な魔道士姿の魔族。
アリスの心はアレンを是という。だがアリスの理はアレンを否という。
彼女の脳裏を迷いが支配しかけた――その時、父オルテガの声が聞こえてきた。

――この道をいけばどうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
  踏み出せばその一歩が道となり その一足が道となる 迷わず行けよ 行けばわかるさ

偉大なる父オルテガがアリアハンの軍から引退し、一回の冒険者となった時の言葉である。
幼少の頃に旅に出てついに還ることのなかった父だが、その数々の言葉は常にアリスの胸に仕舞われているのだ。

(そうです。ここでいくら考えたところで答えなどではしません……行動こそが真実へと繋がる唯一の道!)

胸に当てていた手を強く握り締め、目を開ける。
その双眸にはもはや迷いはなかった。

「行きましょうトロデさん!」

「うむ、マリア王女も心配じゃ! 身体もまだ完全でないのに戦闘はやはり厳しいであろう」

腰に刺したイーグルダガーを確認し、トロデは勇む。
そして頷きあい、二人は駆け出していった。
目指すは竜が飛び立ったというアリアハン城。
アレンが本当に逃げたというのならキーファたちもそこへ向かうはず。
真実はそこにある。


崩れさった宿屋を前にして、彼――キーファは巨竜の飛び去った方向を見詰めていた。
何が起こったのかは解からない。
突然マリアの袋から毀れ出ていた毒瓶を掴み取ると一息に煽ったアレンと名のる魔族。
いきなりの自殺行為に面食らっていると、今度は巨大な竜へと変身しこの宿を崩壊させてしまった。
自分たちへの攻撃なのかと思いきや、そうではないらしい。
竜は自身の非を詫びると、トルネコの遺言という言葉を残してアリアハン城へ飛び去っていったのだ。

(正直、俺は混乱してる)

キーファは表面上、冷静にそれを認めた。
でもなにをすればいいのかは正確に理解していた。
真実を確かめるのだ。

(アイツを追うんだ。ここで追わなきゃ、絶対に後悔する……そうやって俺の心が叫んでるんだ)

だがアレンは城へと飛んでいった。

城は今現在橋が落ちてしまっているため、容易には向かうことができない。
ファルシオンに先導されて宿に向かう途中、キーファはそれを目撃していた。
アトラスとアレフたちの戦いの凄まじさを物語る光景に息を呑んだものだ。
ただ一刻も早く宿に向かうためその場は特に立ち止まることなく先へと進んでいた。
キーファは抱いていたトルネコの遺体を傍に寝かせると、瓦礫の中に目をやる。

(何か、何かないのか!)

あの堀を飛び越えられるような移動系のアイテムが欲しい。
いくつか瓦礫をどかせ、目に映ったのは鳥の翼を模した鍔を持つ精錬と輝く剣。
淡い光を称えた杖と熱を持つ宝石。そして……ボロボロのザック。
ザックの中にはトロデが持っていた錬金釜と鏡、ナイフ、一見して名刀と判る剣。
そして焼け焦げた首輪が二つ入っていた。
だがそれらはキーファの目的にかなうものではない。
乱暴に自分のザックへと突っ込むと焦り、地面へと拳を打ちつけた。

(駄目だ、もっと他に、他には……向こうに飛びつけるような――)

「!」

キーファは思い出した。
武器屋にてアイテムの確認を行ったときに見た、マリアの持つアイテムの存在を。

(灯台下暗しってかぁ? もう俺たちはそ道具を持ってたんだ!)

期待と共にキーファはマリアの方へ振り向く。
マリアはローラ姫の遺体を抱いて、静かにうな垂れていた。

「マリア!」

「ローラ姫……」

「え?」

それはキーファに向けられた言葉ではなかった。
マリアはローラを地に寝かせると恭しく手を胸に添えさせた。
その手に握られていた宿帳を取ると形見のつもりか大事そうに懐に入れる。
その儚げな雰囲気に不安になったが、マリアの瞳には弱さは映っていなかった。

「ローラ姫、今ここに置いていくことをお許しください。私は行かねばなりません、真実を……求めに。
 彼の真意を質し、そして……必ず戻ります」

決意の表情を浮かべ、マリアは立ち上がった。
彼女もまたキーファの方へと振り向いた。

「行こう、マリア」
「ええ、キーファさん。行きましょう」

頷き、微笑みあう。
これから先、立ち向かう真実。そこには辛い事実が待っているかもしれない。
地獄のような戦闘が待ち構えているかもしれない。
だからこそ今は笑っていたかった。
自らの行動に後悔がないと信じて。

「マリア、君は飛びつきの杖というアイテムを持っていたろう?
 あれを使えば堀を飛び越えて城に行けるはずだ」

「! そうでしたわ、堀の橋は落ちていましたね……でも……」

マリアは悔しそうに瓦礫へと視線を向けた。
彼女の持つザックは大きく口を開いていて―― キーファの記憶が蘇る。
宿屋にて彼女は自身の道具をいくつかばら撒いてしまっていたのだ。

「じ、冗談だろ?」

慌ててマリアのザックを借りると中身を確認する。
中に入っていたのは――引き寄せの杖、小さなメダル、5つの呪文書。
それだけだ。
呪文書は本来6つあったはずだが1つは落としたらしい。

「嘘だろ…じゃあこの瓦礫の中に……」

「ええ、そうなります。私はなんて失態を……」

「と、とにかく探そう!」

先ほど瓦礫の中からいくつか見つけたアイテムに飛びつきの杖は存在しなかった。
見つけられたそれらもある程度大きかったり、自然と発光していたから見つけられたにすぎない。
瓦礫の山の中から目的のアイテムを探すのはかなりの時間が必要に思われた。

(くそ、別の方法を探した方がいいのか?
 マリアの纏うマントは高い場所から飛び降りないと駄目だっていうし……)

教会か酒場の屋根に登ってそこから飛ぶか?
今からどちらかに移動して飛ぶのと、このままここで杖を探索する方のどちらが早く城へたどり着けるか?

(ちっくしょう! わっかんねーよ、そんなの!)

だが、いつまでかかるか判らない杖の探索より、はっきりと行動手順が示せる
風のマントによる方法の方が良いかもしれない。
そう考え、それをマリアに伝えようとした時、いつの間にか近くまで寄ってきていたファルシオンが
瓦礫の中に鼻先を突っ込んでいることに気がついた。

「ファルシオン、いつの間に?」

「何かを探してるようなんです…… 一体」

ぶるるるる……

鼻を鳴らし、ファルシオンは何かを咥えてキーファたちのほうへとやってきた。
口に咥えられていたのは……

「手綱? おまえの、なのか?」

白い手綱がそこにあった。
ファルシオンはその手綱をキーファへと掲げる。

「付けろ、っていうのか?」

不審に思うキーファだが、ファルシオンが賢い馬だということは既に承知している。
これも何かの意味があるのかもしれなかった。
キーファは無言で白い手綱をファルシオンに繋げた。

「ファルシオン?」

マリアが驚きの声を上げる。
ファルシオンが青白い燐光を纏って輝きだしたのだ。

「こ、これは?」

その時瓦礫の中からも同質の輝きが漏れ出ていることに気がついた。
キーファよりも先に気づいていたマリアがそこへ駆け寄り、瓦礫をどかす。
そこには同様に青白く光る巻物があった。
マリアが落とした6つの呪文書のうちの一つに違いなかった。


(何故この呪文書がファルシオンと同じ光を? いったいこの現象はなんなの?)

ともかくこの現象の情報を求めてマリアは呪文書を開いた。
これを初めとした6つの呪文書はククールが城の図書室から持ち出してきたものだ。
ククールに何故これを選んだのか訊いても「なんとなく気になった」としか答えず、
今まで時間的余裕があった時に中を覗いても特に大したことは書いてなかった。
初心者用に呪文の初歩が綴られていただけだ。
既に高位の術者であるマリアやククール、アリスには無用の長物……のはずだった。
ククールは元々ある少年にかけられた呪いを解呪するための方法を探していた。
その時何者かの襲撃があり、探索半ばにして棚からいくつか適当に持ってきたという。

(そんなものが何故今ここで輝きなどするというの?)

中に綴られていたのはやはり呪文の初歩――などではなかった。
表面に書かれたインクがみるみるうちに剥げ落ち、下から新たに文字が浮かび上がってくる。

「こ、これは?」

――これを読むものは神官か、その仲間である事を我は切に願う
   この巻物は神官にしか見つけられないように術を施した
   神の祝福を受けし神官にしかこの呪文書を認識できないという術だ
   神官の力を持つ者は確認できるだけで参加者の内に四名存在する
   また神官ではないがその資質を持つ者も数名確認している
   か細き糸なれど我が目論み成る事を祈れり

   我は六つの巻物それぞれにこの闇の儀式を阻止する切り札を封じる
   この巻には天馬覚醒の呪文を記す
   本来は白馬に宿る魂とその失われし実態が融合した時に天馬は蘇るが
   今はその力は封印されて、二つを揃えただけでは復活はならぬ
   天馬の手綱もて唱えよ、「ペガラル・ドラゴル」と
   それにより白馬に美しき双翼うまれ天に舞う奇跡成るであろう
   この巻は核となりし白馬、手綱、巻物の三つが揃いし時封印が解かれるようになっている
   それと同時に他の巻物の封印も解かれる

   汝らの闘いに我が希望を託す 願わくば汝らによって破壊神復活阻止が成されることを祈る

まぎれもなくハーゴンの陣営内部の者からの記述だった。

(こ、これは本当のこと? それとも罠?)

「マ、マリアッ なんて書いてあったんだ!? ファルシオンを抑える方法は!?
 関係あるんだろ、それ!」

混乱しかけた頭をキーファの声が正気に戻した。
見ればキーファは興奮するファルシオンを必死に宥めているところであった。

「ごめんなさい、今行きます!」

(もう賭けるしかない!)

マリアはファルシオンに飛び乗ってその手綱を握る。
ファルシオンは驚いたように大きく嘶いた。

「お、おい危ないぞ!」

「この書が真実というならば今こそ蘇りなさい天翔ける天馬よ!
 ペガラル・ドラゴル、ハァーーーッ!」

「ヒヒーーーーンッ」

呪文と共にファルシオンは大きく飛び上がった。
そしてマリアを背に乗せたまま燦然と輝く。
あまりのまぶしさにキーファは目を庇い、そして再び目を開いた時にはそこにマリアとファルシオンは居なかった。

「何処だ? マリア! ファルシオーーーン!!」

「ここです、キーファさーーん」

聞こえてきたのはキーファの頭上、はるか高く。
慌てて見上げたそこには白い翼を広げ空を走るファルシオンとその背に乗るマリアの姿があった。
あまりのことに全ての現状を忘れ、キーファは口をあんぐりと開けたまま黙って一匹と一人を見つめていた。

解放された歓びからか、しばらくファルシオンは興奮して飛び回っていたが
やがてマリアの手綱に導かれてキーファのもとへと降り立った。

「ま…マリア、これは一体どういうこと……なんだ?」

「詳しい話は後で。とにかくファルシオンはペガサスとして生まれ変わったんです。
 さあ、今はとにかく竜王を追いましょう!」

「あ、ああ……」

考えることは山ほどある。
呪文書の著者について。その真意について。その他の五つの呪文書の中身について。
だが今はその時ではないのだ。
マリアは並べて眠るローラとトルネコの遺体を眺めた。
彼女たちの表情は無念とは画一した微笑みが浮いていた。
まるで何かを成し遂げたかのように。
竜王に裏切られ、殺されたのならそのような表情を浮かべ逝くことができるだろうか。

(ローラ様……トルネコさん……あなたたちはどんな想いで最期を迎えたの?
 いいえ、それを確かめにいくのでしたね)

マリアはキーファに手綱を預け、身体を入れ替えるとしっかりとキーファの背を掴んだ。

「しっかり掴まってろよマリア! 俺も馬で空飛ぶのなんて初めてだから安全騎乗は保障できない」

「ええ、大丈夫です」

「よし、ハイヨー! ファル……いや、ペガサスか? ええい、とにかく行こう!」

彼らは城へむけて飛び立った。
真実を確かめるために。

(竜王、死になど逃げさせはしません……かならずや捕まえて真実を語ってもらいます。
 真にあなたに責があるというのならあなたは私が殺します! それまでは……それまでは絶対に死なせない!)


それはもはや飛行ではなく落下だった。
己の重量そのものを叩きつけるように猛るドラゴンは標的――マルチェロへと急降下する。

「う、おおおおおおッ!? け…剣よ!!」

マルチェロは驚愕に目を見開きながらも、皆殺しの剣を大地へと斜めに突き立てた。
黒炎が刀身を覆い、そして――伸びる。
伸びた刀身によってマルチェロの身体は持ち上げられ、高速でその場から離脱する。
剣の伸びる力を推進力へと変換する。彼が橋のない堀を渡るために使用した技だった。
目標を失いドラゴンは地面に激突するかと思われたが、その寸前ドラゴンの両翼が大きく羽ばたき空気を打った。
ほとんど減速せずにドラゴンの身体は滑るように方向を変え、マルチェロを追随する。
剣を移動手段として用いている今、マルチェロに迎撃手段はない。

「な、なんだとォ!?」

――グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ

竜の咆哮が大気を震わせ、そしてその爪がマルチェロの身体を引き裂いた。
地面へ叩きつけられ、そのまま地を何度もバウンドし城壁へと衝突してようやく彼の身体は停止した。

「ぐ……おお……かはっ、がふ」

彼の口腔から血が零れ落ち、鉄錆の匂いが鼻を突きぬける。
爪によって穿たれた傷痕はとっさに身を反らしたおかげで深くはない……が浅くもない。
衝突による全身にわたる打撲も深刻だ。息が詰まり、脳が酸素を急激に要求する。

「が、かひゅーっ かひゅーっ ごっ……」

なんとか意識が断ち切られるのは免れたが、戦闘を続行するには非常に不利なハンデを背負ってしまった。

(ま、まずい……計算違いではない、計算外だ! まさかこのような事態に陥ろうとは!)

まさかこんな短時間でかの竜王が自分に追随、発見し、攻撃を敢行するとは全くの思慮外であった。
正面から闘えばまだマルチェロの勝機は高かっただろう。
竜王には浅くない傷を負わせていた確信はあったし、自分も完調でないとはいえ身体状態は良好だった。
しかし今の不意の一撃が天秤を大きく揺らし、戦いの趨勢は大きく竜王の方へ傾いたといえる。
胸の傷痕に手をかざし回復呪文をかける暇もあらばこそ、空を旋回し竜の牙が再びマルチェロへと迫る。

「おのれ、調子に乗るなよ……、さあ貴様の力を見せろ! 皆殺しの剣よ!」

マルチェロは剣の切っ先を肉迫する竜王に向ける。
そして間髪いれずに黒炎が矢の如く疾走した。

「!!」

竜王はその黒き矢を身をひねって回避するが、完全には回避しきれずに右の翼を切り裂かれてしまった。

――グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ

バランスを崩したその巨体は錐揉み状に回転しながらマルチェロのいる位置を逸れて城壁へと激突。
それによって半壊していたアリアハン城がさらに大きく崩壊し、多量の粉塵を巻き上げた。

「はぁ、はぁっ……! これでは奴も無事には済むまい……さあとどめを刺して……っ!?」

そこでマルチェロは己の思考の異常に気がついた。

(バ、バカな……何を考えている! まだ奴の意識があったらどうするのだ!
 奴はすでに死を覚悟した死兵……生と死の際で分があるのは向こうなのだ。ここは逃げの一手……)

少なくとも時間は稼がなければならない。あのダメージ、時間が経てば経つほど相手は死に近づくだろう。
自らの殺気を抑えようとマルチェロは剣を引こうとして――動かなかった。
まるで剣を握る右腕から先が自分のものでないかのように竜王のもとへと進もうとする。
マルチェロはそれをかろうじて抑えるのが精一杯だった。

―― ……せ ……せ ……ろせ

(な…何故だ! これは……剣の……!?)

―― ……ろせ ……殺せ ……皆殺しにしろ……

(な……ぜ、今になって! 私が完全に支配していたはず……!)

マルチェロは思い出す。
かつて暗黒神ラプソーンの杖を手にしていた時。
あの時も彼は暗黒神の呪いを寄せ付けず、逆にその力を支配した。
しかしエイトたちとの聖地ゴルドの決戦にて敗れた彼は逆に杖に支配されてしまったのだ。
これはあの時の状況に酷似している。
今はまだ均衡状態だが、これ以上のダメージを受ければ……

(おのれぇ……ダメージを受け過ぎたというのか……)

彼の大らかな額に玉の汗が無数に浮く。
顔が徐々に朱に染まり、対比するようにこめかみには青白い血管が浮き出た。

「舐めるなぁっっ!!」

気合一閃。
漏れ出ていた黒いオーラは一瞬にして吹き消され、剣は物言わぬただの凶器となる。
だが……時は遅し。

ゆらり、と粉塵の向こうに巨大な影が見えた。
それは土に塗れ、血に濡れ、誇りを汚されながらも尚健在なる竜の王の姿。

「許サヌ……貴様ダケハ……我ガ友トルネコ……我ガ光ローラ……我カラ全テを奪ッタ貴様ダケハ……」

マルチェロは完全に逃走する機を逃してしまった。
鬼相の如き竜の眼光に気圧され、マルチェロは後ずさる。

(闘うしか……ないのか?)


(出口、もう少しだ!)

エイトが駆け抜ける先、薄暗い地下回廊の先にまぶしい光が射しこんでいる場所がある。
近づくにつれてそこには上り階段があることが見て取れた。
本来は階段の行き着く先もまた地下だったのだが、天蓋たる城が半壊しているため
出口は直接青空の下に露出しているのだ。
もちろんそんなことエイトは知る由もないが、そのおかげで彼の意識は光射す出口へと集中した。
もうすぐ闇の中を抜け、主がいるはずのアリアハンへと辿りつくというこの時。
エイトの警戒意識が僅かに緩まったのは責められないことかもしれない。
しかしそれが彼に大きな災厄をもたらすこととなった。
ただでさえ度重なる戦闘の被害を受けて脆くなっていたところに加え、
今、超重量の生物がここに更なる破壊をもたらした。

―― 轟!

地震とまごうかという衝撃が回廊を揺らす。
同時に床に、壁に、天井に幾条もの亀裂が疾走り――

「う、うわぁあああああああああ」

岩盤という名の雨が回廊へと降りそそいだ。
常ならばエイトはなんらかの防御行動を起こせたかもしれない。
しかし外に出るという期待に刹那心を奪われた彼は――一瞬、ほんの一瞬だけ反応を遅らせてしまう。

結果、落盤の真っ只中にエイトは飲み込まれてしまった。

――

―――

――――

しばらくの時が過ぎる。
時間にして1分もない。
地下回廊へと繋がる出入り口は完全に瓦礫で埋もれ、周囲には粉塵が満ちていた。
そんな中、瓦礫の一つが……カタン、とわずかに動いた。
瓦礫が動くことで生まれた隙間から垣間見えるのは……人の腕。
死体――ではない。
腕はその場の瓦礫を掴み上げ、払い除けた。
ガラガラ、と瓦礫の山が崩れ中から姿を見せたのはやはり――エイト。
トレードマークの紅いバンダナは無残に破れ、黒い短髪がはみ出ている。
頭から流血しているが、その瞳の色はまだ失われていなかった。
服もところどころが破れ、擦り傷だらけの肉を空気に晒している。
突然、エイトは左腕に掴んでいた白銀の槍をその場に取り落とした。

「ぐ、うう……」

見ると左の肩は完全に露出し、赤黒い大きな痣ができていた。
瓦礫が直撃したのだろう。
見るも無残なエイトの姿だが、これでも彼は運が良かったのだ。
一つは場所が天井の薄い出入り口近くであり、その出入り口が外に露出していたこと。
その為瓦礫となって落下したのは天井の厚さ、ほんの1,2m分ほどしかなかったのだ。
もし出入り口から遠い場所で崩落にあっていれば確実に助かってはいなかったろう。
もう一つはアレフから受け取ったはやてのリングの存在だった。
これによって寸でのところでエイトの硬直は解除され槍の特技「薙ぎ払い」を繰り出せたのだ。
迫る重塊をメタルキングの槍で薙ぎ払い、破砕し、そのダメージを軽減することができた。
だが、仮に彼に油断がなければ大防御を発動できていたかもしれない。
そうすればもっとダメージは少なく抑えられていただろう。
そのことを思い、右腕で槍を掴みあげるとエイトは歯噛みした。

(なんてことだ……だけどこんな小さな油断で……アレフさんたちの期待を裏切ってしまうわけにはいかない……!)

幸いにも最も大きなダメージ箇所は左肩のみ。
後は擦り傷、打撲は至るところにあれど行動不能なほどの痛手は負わなかった。
特に足に怪我を負わなかったことの意味するものは大きい。

(天は僕に先に進めと言っているんだ……)

無理やりにそう思い込むことで自分を奮い立たせ、彼は城外へと進んだ。
そこで彼が目にしたものは――かつての彼の仲間、その異母兄。
彼はどす黒いオーラを纏う剣を手にし、気合とともにそれを振るった。

(マルチェロ? 闘っている……のか。相手は――!!)

彼は見た。
辺りに漂う粉塵の中、血と泥に汚れてなお威風堂々とそびえる巨大な竜の姿を。
エイトにはその姿に見覚えがある。
忘れるはずもないあの威厳。威風。威容。

(りゅ、竜神王様!?)

彼のつい最近まで知りえなかった自身の真の故郷――竜神の里。
その里の長にして全ての竜種を統べる竜神王。
エイトたちはその竜神王の試練に幾度なく挑み、その最後の試練にて竜神王が見せた真の姿。
それが永遠の巨竜。
今、目の前にてマルチェロと相対しているのはまさにその永遠の巨竜だった。

(竜神王様はここには居られないはず……救いに来てくださったのか?)

そんな考えが頭をよぎる。
だがそれが大きな間違いであったことにすぐに気づかされた。
心へと突き立つ鋭利な刃と共に。

「許サヌ……貴様ダケハ……我ガ友トルネコ……我ガ光ローラ……我カラ全テを奪ッタ貴様ダケハ……」

本当にエイトの息が止まった。
呼吸も忘れ彼は竜の口から紡がれた言葉の意味を模索する。
声はもとより彼の知る竜神王の声とは似て非なるもの。
おそらく目の前の竜は竜神王ではない。該当するとすれば参加者の一人、竜王。
だがそれはいい。今はそれは重要な情報ではない。いや、優先順位が低いというべきか。
彼の脳奥でくり返し再生される言葉は……

……我ガ友トルネコ

それはピサロがかつての仲間といった者の名であり、アリアハンにてアレフと共に闘ったという商人の名前。
アレフが必死に呼びかけても応えがなかった答えがこれだ。

だがそれよりも何よりもエイトの心の臓を握りつぶさんばかりに締め付けるその名。

……我ガ光ローラ……我カラ全テを奪ッタ貴様ダケハ……

……我ガ光ローラ…

……ローラ

夜明けまでの僅かな間行動を共にしたお姫様。
アレフが探し続けた想い人。
あのドラゴンが命を賭けて護り抜いた――

あの笑顔が奪われた。

誰に?

目の前には――青い騎士服を纏った男と永遠の巨竜。

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ……!!」

意識が真っ白に染まり――
エイトは咆哮をあげた。


全ての想いはこのアリアハンの城を中心にして集いはじめる。
それはまるで大きな渦のように。
翻弄される者たちの哀惜などはお構い無しに――物語はただ、紡がれる。


【E-4/アリアハン城前(堀の向こう側)/真昼】

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP1/8 MP微量 左肩に重度の打撲(動かせない)
     全身に軽度の打撲と擦り傷  火傷 頭から少量の出血
[装備]:メタルキングの槍 はやてのリング
[道具]:支給品一式 首輪 あぶないビスチェ エルフの飲み薬(満タン)
[思考]:怒り、哀しみ、後悔入り混じった複雑な衝動 竜王を警戒? マルチェロを質す

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/10 MP微量 竜形態 毒 血と泥に塗れている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪 マルチェロとの決着をつける
*竜王はマリアの所持していた毒薬によって、じわじわと消耗していきます。
 適切な解毒処置を施さなければ、遅くとも夕方(放送前)までに死亡すると思われます。

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:HP1/8 MP1/5 左目欠損(傷は治療) 胸に大きな爪傷 全身に裂傷 軽度の火傷
    消耗による精神衰弱
[装備]:皆殺しの剣(呪)  魔封じの杖
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:この場を切りぬける、逃走を最優先 (皆殺し?)
※皆殺しの剣の呪縛がマルチェロの精神衰弱のため復活しかけています

【E-4/アリアハン城下町宿屋→アリアハン城へ /真昼】

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP4/5 MP1/3 脇腹に傷(治療済)  天馬ファルシオンに騎乗
[装備]:いかずちの杖 布の服 風のマント 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)
[道具]:支給品一式  引き寄せの杖(3) 小さなメダル アリアハン城の呪文書×5(何か書いてある) 天馬覚醒の呪文書  
[思考]:竜王を追い真実を問い質す アリスを支えたい 一段落した後宿に戻りローラたちを弔う

【キーファ@DQ7】
[状態]:HP4/5 両掌に火傷(治療済) 左膝下に裂傷(治療済) 両頬に裂傷(治癒) 天馬ファルシオンに騎乗
[装備]:メタルキングの剣 氷の刃 星降る腕輪
[道具]:支給品一式 ドラゴンの悟り 太陽の石(ホットストーンから変異) 雨雲の杖 ロトの剣 
    トルネコのザック(聖なるナイフ 錬金釜 プラチナソード ラーの鏡 首輪×2)
[思考]:竜王を追い真実を問い質す マルチェロを探す?

*ファルシオンは天馬ペガサスへと変化しました。
*アリアハン城からの地下への出入り口が崩壊しました。
*以下のアイテムが宿屋の瓦礫に埋もれています。
 ・破壊の鉄球 ・マジックシールド ・ローラのザック(炎のブーメラン 支給品一式) ・祝福サギの杖[7] ・飛びつきの杖(2) ・さざなみの剣

【E-4/アリアハン城下町武器屋→アリアハン城へ /真昼】

【アリス@DQ3勇者】
[状態]:HP2/3 MP1/2 左腕に痛み(後遺症)
[装備]:隼の剣 王者のマント 祈りの指輪(あと1.2回で破損)
[道具]:支給品一式×4 ロトのしるし(聖なる守り) まほうのカガミ ビッグボウガン(矢 0) 魔物のエサ インテリ眼鏡
[思考]:キーファたちの加勢に行く トロデを守る 『希望』として仲間を引っ張る

【トロデ@DQ8】
[状態]:HP2/3 頭部打撲(処置済)
[装備]:イーグルダガー 布の服 メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式×2
[思考]:キーファたちの加勢に行く 打倒ハーゴン メガザルに対する考察


<<BACK [ 本編一覧 ] NEXT>>


-Aqua System 2007-