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伸ばした腕は空を切り

伸ばした腕は空を切り


登場人物
ククール、マリア、トロデ、クリフト、マルチェロ


「お一人で行く、とおっしゃるのですか?」
 案の定、ククールの申し出にマリアは顔色を曇らせた。

「ああ、トロデ王は怪我人だし、いつ麻痺が解けるかも分からないしな。見張りが一人じゃ心もとない」
「でしたら、せめてこれはあなたがお持ちになった方が」
「いや。マリア王女にはトロデ王とあいつのお守りを頼まなきゃならないんだ。
 君が持っていた方がいい」
「でも」

 突き返されたいかづちの杖を抱き締め、 気遣わしげに眉を寄せたマリアの視線は一心にククールの左肩に注がれていた。
 その先に本来在るべきものはもうなく、二度と元に戻ることもない。
如何なる回復呪文でも一度失われたものを蘇らせることは叶わないのだから。
せめて千切れた腕があれば繋ぎ合わせることも出来たのかもしれないが、
あれはバーサーカーの死体と共にその場に放置されたままだし、どのみちもう時間切れだろう。
 隻腕の弓兵など話にならない。
マリアの不安はもっともなことではあるが、それでも魔力の枯渇した魔法使いと、片腕とはいえ多少なりとも体術の心得のある双兵ならば、
どちらに武器が必要なのかは火を見るより明らかだ。
 だからこそ、ククールはいつものようにその場にそぐわないへらへらとした笑みを浮かべてみせた。

「……しかし、腕も失くしてみるもんだね」
「え?」
「マリア王女に心配してもらえるなら、腕の一本くらい安いもんだってことさ」

 頭一つ低い顔を覗き込み、至近距離でぱちりと片目を瞑る。
たちまちマリアの頬が朱に染まった。
振り払われないのをいいことにその手をとり、次の台詞を言うべく口を開きかけ、

「――ってこの非常時に何をやっとんじゃおぬしは!」
 次いで何か硬いものが狙いを過たずククールの後頭部に激突する。
思わず手を離し、後頭部をさすりさすり不平がましくトロデ王を横目で見遣る。

「いってーな、何すんだよ」
「知れたこと!マリア王女に手を出そうとするからじゃ!」
「思ったことを素直に述べたまでだぜ?第一トロデ王には関係無いだろ」
「なんの、ミーティアと同じ年頃の姫君なら我が娘も同然じゃわい!」

 ここまでくるともう何がなんだか滅茶苦茶である。
溜息をつき、足下に転がったついさっき己を襲った飛び道具を拾い上げる。
床に落ちて少しばかり埃に塗れた硬パン。

「つーか貴重な食料をこんなことに使うなよ。あーあ、勿体ねー」
「ちゃんと後で埃を払って食べるからいいんじゃ!」
「いや、それも王族としてどうかと思うが」
「お二人とも喧嘩はそのくらいになさって下さい」

 見かねてマリアが声を上げた。

「おじさま、あまり興奮してはお体に障ります。
 それにククールさんだって怪我人なのですもの、パンをぶつけるなんてあんまりですわ」
「おお、本当にマリア王女は優しい娘御じゃのう。
 じゃがあれだけ軽口を叩く元気があるんじゃ、あやつのことは心配要らんよ」
「……ま、そういうこった」

 不器用に片目を瞑ったトロデの視線を受けて、ククールは肩を竦める。
それでもまだマリアの表情は硬い。
 何が彼女の心を占めているのかは容易に想像がついた。
日暮れの襲撃。失われた生命に、それを助けることが出来なかった自分。
また自分には何も出来ないのかと、そればかりを考えているのだろう。
 どうしたものかと首を捻って、やおらククールは手を打った。

「そうだ。一つ頼みごとを聞いてもらってもいいかな?」
「私に、ですか?何を」
「これ、預かっていてもらえないか?」

 ザックをマリアの方へ押し付ける。
怪訝そうに首を傾げた彼女に、親指で左肩を指してみせた。

「これで荷物があると手が塞がっちまうからさ、持って行っても弓も使えないしな。
 出来たら呪文書の方も頼みたいんだが」

 夕刻、城の図書室で見つけた呪文書。
その後の移動やら襲撃やらで今まで開く機会がなかったが、あの子供に掛けられた呪いを解く方法があるかもしれない。
それに、もしかしたらそれ以上に役に立つことも。
次にいつ時間が取れるか分からないのだから、腰を落ち着けられるうちに読んでおくべきだろう。
 合点がいったのか、マリアが頷き、僅かに口元を綻ばせた。

「任せて下さい。……ククールさんも、どうかお気を付けて」
「勿論。マリア王女を悲しませるようなヘマはしないさ。
 ……美人は憂い顔も魅力的だが、やっぱ笑顔が一番――あたっ」
「だから口説いてないでちゃっちゃと行ってこんかい!」
「分かってるって。ったく、人遣い荒いんだから――」

 再び後頭部を叩かれて、しぶしぶククールは立ち上がり戸口へ向かい、

「……で、ちゃっちゃと戻ってくるんじゃぞ」

 ぼそりと付け加えられた言葉。
如実に心配が込められたそれが何だか妙にこそばゆくて、振り返らずに親指を立てる。

「――りょーかい」

 ドアの隙間をするりと銀色の後ろ頭が通り抜け、ぱたんと閉じた。

「さて、まずはこやつをどうにかせねばならんの」

 部屋の隅、未だ麻痺したままのクリフトを見遣ってトロデは呟いた。
今は麻痺しているとはいえ油断は出来ない。
眠ったふりをしていたレックスの時のようなこともある。同じ悲劇だけは避けなければなるまい。

「幸い此処は宿屋じゃし、シーツを裂くなりすれば縛る紐には事欠かなそうじゃな。
 彼には気の毒なことかもしれんが。
 ……マリア王女、疲れているなら休んでもいいんじゃぞ?」
「いいえ」

託されたザックを抱き締め、マリアはゆっくりと首を振る。

「大丈夫です。出来ることがあるのですもの、私だけ休んでなんていられませんわ」

 きっぱりと言い切ったその顔には毅然とした微笑が浮かんでいた。
そうか、とだけ答えて、愛し子を見るようにトロデは口元を綻ばせた。
 
 
 
 宿からしばらく離れた場所。
塀に身を隠すようにして、マルチェロは銃を構えていた。

 馬に警告を上げられるとは思わなかったが、それも逆に利用してしまえばいい。
あれほどの嘶き、ただ事ではない。きっと馬の持ち主も顔を出すはず。
そう決め込んだが、いざ待ち始めてみると時間はやけに長い。
肩に食い込むベルトの重みがひどく気に障る。

 まさかあの馬は乗り捨てられたのではあるまいか、などどいう考えがちらと脳裏を過ぎり始めた時、
夜の冷たい空気にぎいと軋んだ音が響き、宿の戸口から誰かの頭が覗いた。
 小走りに白馬に歩み寄る長身の影。
冴え冴えとした銀の髪。夜目にも鮮やかな赤の制服。
 それが己のよく知る人物であると確信するに至って、マルチェロはぎりと唇を噛んだ。

(……どうやら、私と貴様は何処までも相争う定めらしいな)

 半血の兄弟にして、母の仇の息子。
困惑ではなく、歓喜に震える指がゆっくりと引き金にかかる。
 
 
 
「おい、何があったんだ?……なんて聞いても答えるはずねぇか」

 ぶるると盛んに鼻を鳴らす白馬の首筋を撫で、ククールは一人ごちた。
その前足の蹄は絶えず石畳を引っかいていて、何かを訴えようとしていることくらいは分かるのだが、
残念ながらククールに馬語の心得は、無論ない。

(馬姫様なら分かるのかねー)

 トロデ王やエイトが聞いたら怒り狂いそうなことを考えて、馬の瞳を覗き込む。
畑仕事に使われるような駄馬とは違う、落ち着いた知性の光がそこにはあった。

(まさかこいつもどっかのお姫様だか王子様が姿を変えられてるってことはないよな)

 背中に乗せて運んできてもらった者として、それは非常に気分が悪い。
かつての道中、やんごとなき姫君に馬車を牽かせていたことはひとまず忘れることにして、
腕を組み、何の気なしに馬が向く方を見遣って、

 曲がり角、塀の影で何かが鈍く光った気がした。
慌てて瞬きをしてじっと目を凝らす。
うっすらと大きな、少しばかり角張った筒のようなシルエット。
 他の参加者がこちらの様子を窺っているのだろう。
だが、何故彼は微動だにせず、あれは真っ直ぐこちらに向けられているのだろう。

――飛び道具。
結論が出るのにはさほど時間はかからなかった。

 再び馬が激しく嘶き、前足を踏み鳴らす。
手早く手綱を解き、勢いのまま馬が駆け出したのを見届けて自らもまた地に伏せた。
その背中をちりと熱風が掠め、遅れて少し遠くで爆音。
 振り返れば疾駆する白馬より更に先、城壁の一部が崩れ、炎が爆ぜている。

「……嘘だろ、おい」

 城壁でさえああなら、強度的には圧倒的に脆い人間が直撃を受けたらどうなるか、想像するのは難くない。
 一瞬惚けたように疾駆する白馬と、城壁とを見つめて――己を取り戻して走り出す。
ただし、その方角は白馬が向かうのとは逆。

(止めないと)

 もし次に宿が狙われたなら、トロデも、マリアも、どうでもいいがあの男も危ない。
飛び道具に対する対処法は一つ。懐に飛び込むこと。
 二撃目を撃たれる前にどうにかしなくてはならない。
行ったところで、片腕の上丸腰の自分に何が出来るかは分からないが、

(此処にいる間は臣下になってやってもいいって言っちまったからな。
 “主君の為には全力を尽くす”、だろ?エイト!)

 どうやら逃走する腹積もりらしい、飛び道具を引っ込めた相手を追い、通りを駆けて角を曲がり、
目に飛び込んできたのは己と良く似たデザインの、色彩だけが異なる青の制服。
 聖地を最後に姿を消した異母兄の姿が、そこにあった。
先程の武器はしまったのだろうか、その手にはなく、代わりに右腕にカタールのように刃が巻きつけられている。
 マルチェロが何事か呟いて天にかざした、その掌に火球が生まれる。
己目掛けて襲い来る火球を、ククールはひどく醒めた気分で見つめていた。

 聖地ゴルドで、もしまた馬鹿なことをしたら止めてやると約束した。
この世界に放り出されたとき、兄が殺し合いに乗ったのなら自分が止めると誓った。
 それでも、何処かで信じずにはいられなかったのだ。“兄は変わってくれたのでは”、と。

(……つくづく甘ちゃんだよな、俺も。救えねぇ)

 感傷は一瞬。瞠目し、痛みを無理やり押し込めて、頭を戦闘へと切り替える。
 相手は五体満足で、見たところ負傷らしい負傷もない。
向こうから仕掛けてきた辺りからして、精神力も十分なのだろう。
 対してこちらはというと、見ての通りの五体不満足。精神力も決して十分とはいえない。
 一つだけこちらの有利があるとすれば、以前の聖地ゴルドでの決戦。
4対1で、あちらは死力を尽くさなければならなかったのに対して、こちらには幾分かの余裕があったこと。
手札を全て使うしかなかったあちらに対し、こちらにはまだいくつかの伏せ札が残されているということ。
 例えば、これ。
迷わず右手を突き出し、高らかに叫ぶ。

「マホカンタ!」

 呼び声に応え、目の前の空間が一瞬歪み、不可視の盾が現れる。
火球がそれに触れるや否や、盾は火球を包むようにして大きくたわみ、ぱんと乾いた音がして元来た方へと跳ね返っていく。

 が、その火球はマルチェロの元に到達する前に、彼の振るった刃に叩き落され、弾けて消えた。
驚きに目を見開いて刃を見遣れば、背筋が粟立つような感覚。
ちょうどあの憎むべき道化が修道院を訪れた時や、あの呪われた子供が握る剣を見た時にも似た。――そういえば、あの剣は先端が欠けていてはいなかったか。

(暗黒神の杖の呪いに振り回されたことがあるくせに、懲りない奴だなあんたも!)

 内心毒づいて、ククールは踵を返した。
騒ぎに驚いたトロデやマリアが顔を出す前に、少しでも宿屋から離れた場所へ行かなければならない。
とはいえ土地感のない街でのこと、何処をどう走ればいいのかは全く見当もつかない。
ひとまず何処からでもよく目立つ王城を目指すことにして、足を速めた。
 追ってきてくれるかは賭けではあったが、プライドの高い兄のこと、仕留めそこなった相手の逃亡をみすみす見逃すはずはないとの確信はあった。
狙い通り、己の後を追う靴音に思わずほくそ笑む。

 長い鬼ごっこの末、ようやく城の入口が見えてククールは安堵の息を洩らした。
地下通路を抜けてからあの子供に出会うまでの散策と、ハッサンと二人図書室を探しに場内を歩き回った経験から、城内の間取りなら少しは心得ている。
 城内に飛び込んでさえしまえば、撒くなり策を練るなりどうとでもなる。
自然、疲れた足にも力が入る。入口まであと十数歩、というところで背後で魔力の収束する気配。
 ごうと火球が唸りを上げる。

「――メラゾーマ」
「だから効かないっての!」

 軽口を叩いて振り返り、ククールは眉を顰めた。
軌道がやけに高い。失敗して外してしまった、というにも離れて過ぎている。
火球はククールの頭上を大きく越えて飛んでいき、城の尖塔の一つを崩した。
 そして壊れた窓の硝子片が、光の雨となって降り注ぐ。

「――っバギ!」

 咄嗟に頭上に向けて呪文を放つ。
巻き起こった真空の渦は硝子の多くを弾き飛ばしたが、いかんせん数が多過ぎた。
弾ききれなかった硝子の破片がざくりと頬を掠め、衣服を貫いて足に突き刺さる。
 舌打ちをして硝子を引き抜き、嫌な予感に背後を見遣って、
いつのまに取り出したのやら、先程炎を吐き出した筒が真っ直ぐこちらに向けられている。
 先程と同じようにククールは身を伏せ、マルチェロの指が引き金にかかる。
が、今度吐き出されたのは炎ではなく、光。
 眩いばかりの閃光が、そちらを見ていたククールの目をまともに灼く。

「っつぅ!」

 慌てて目を閉じるが、目を閉じてはずなのに目の前は白く明滅している。
ぎゅっときつく目を瞑り、ちりちりとした痛みが消え、目の前が黒く染まるまで耐えて、
ようやく視界が元に戻った時にはあと数歩のところまで刃を振りかざしたマルチェロが迫っていて。
 がむしゃらに拳を突き出す。

「マヌーサ」

 僅かにマルチェロが眉を顰めたように見えたが、幻惑が効いたかどうかは分からない。
あとはもう無我夢中で身体を捻った。
 
 
 
 ずぶ、と肉を貫く感触がした。
視界は霞がかかったようで、いくつもの像がぶれているが、いくら幻惑呪文でも感触ばかりは誤魔化しようがない。
 産まれてよりずっと人生に影を投げかけ続けていた疫病神を、ようやく己が手で殺せる。
暗い歓びにマルチェロは刃に力を込めて、

 不意に、視界の半分が赤く染まった。
続いて左目に灼熱が走る。――否、灼熱とも間違うばかりの激痛が。
思わず身を引くと、肩口に突き刺さった刃がずるりと抜け出て、赤い制服がなお赤く染まる。
鮮烈な痛みに幻惑が解け、半分になった視界で青褪めた顔をした異母弟が口の端だけを吊り上げる、マルチェロが最も嫌う類の笑い方をして見せた。
 ず、と眼窩から何かが引き抜かれるおぞましい感触がして、異母弟の手には赤黒いものが付着した硝子片が握られていた。
ちょうど掌に収まるほどの大きさの。
 からん、とその手から破片が落ちて、にぃと不愉快な笑みを浮かべる。

「……貴様、」
「――掌に切り札を隠しておくのは、イカサマの基本だぜ?」

 捨てたもんじゃねぇだろ、と嘯いて、その指先がつうと十字の軌跡を描く。
同じように印を切り、聖句を唱えながらマルチェロは唇を歪めた。
 悪しきものに下す裁きの十字。
それを人に向けても神は裁きを下さぬどころか、咎めさえしない。
 確か、自分たちに殺し合いをせよ、と命じた男も大神官などと名乗っていた。
ならば、神とは本来そのようなものなのかもしれぬ。
聖地で、女神と崇められていた像が暗黒神の器であったように、慈悲の顔をしながら裏では殺し合いを扇動するような。

「「――グランドクロス!」」

 呪が結び終えられたのは、ほぼ同時。
刹那、辺りに昼よりもなお明るい聖光が満ちた。
 
 
 
 
 
 ぼんやりと目を開けて、ククールはぱちりと瞬きをした。
驚いた。まだ生きているとは。
あのまま二度と目を覚ませなくてもおかしくないと思っていたのに。
 そろりと首を動かして己の身体を見下ろす。
気を失う前と同じ肩の負傷のほかには、服が多少焦げている程度で目立った外傷もなく、大した痛みもない。
全く同じタイミングで同じ技を放った結果、双方の効果が相殺されてしまったのだろう。

(なら、あいつも生きてるってことか)

 辺りを見遣れば、ただでさえ崩れかけていた城は更に崩落した瓦礫やら何やらが積み重なって散々な有様だった。
見た限り、青い制服姿は見当たらない。
 身を起こそうとして、力が入らないことに気付く。
身体の感覚が薄い。そう、考えてみればあれだけの負傷を負って痛みが無い方がおかしいのだ。
それでもなんとか起き上がろうと無理に腕に力を込めると、ぐらりと身体が傾いで目の前までもがぐるぐると回り始める。

 これはもう駄目だな、と他人事のように呟いた。
肩の傷からはなおも血が流れ続け、上着を重く濡らしている。
一度失くした腕が二度と生えてこないのと同じように、流れた血は回復呪文をもってしても創り直せない。
 左腕が斬り飛ばされた時と、今と。少し血が流れ過ぎた。

(でも、まあ上出来なんじゃねえの?)

 ひとまず宿からマルチェロを引き離すことは出来た。負傷も負わせた。
二人が大人しくしている限り、鉢合わせすることはないはずだ。
 足である白馬を逃がしてしまったことは気になったが、あのまま繋いでおいては巻き添えを食って殺されてしまっていただろうし、
そもそも馬というのは賢い動物だ。騒ぎが収まったら自分で戻ってくるなり、元の持ち主の下へ行くなりするだろう。

 マリアと彼女の仲間を殺したあの魔物のことは気になったが、もう自分にはどうしようもない。
だが、きっとトロデ王が上手くやってくれるだろう。マリアは彼を父とも慕っているようだから。

 最後まで出会えずじまいだった、もう一人の仲間のことはそう心配してはいない。
年下のくせに自分以上に腕の立つ男だったし、呪文もそこそこ使えた。
ただ、馬鹿がつくほど真面目な奴だったから、悪意のある参加者に騙されていないかだけが少し不安ではあったが。

 上出来だ、と繰り返す。
戻るという約束も、止めるという誓いも果たせなかったけれど。

(届いたと思ったんだけど、な)

 “いつか時間が解決してくれる”と、いつも老院長は繰り返していた。
そして自分も、旅の末にその溝は埋まったものと、そう思い込んでいた。

 あの日、暗闇の淵から兄を引き上げた左腕はもう無い。

 視界の隅で、青いものがふらりと立ち上がったのが見えた。
止めでも刺そうというのか。いかにも用心深いあの男らしいとは思うが、どうやらその必要はありそうもない。
 どうやら時間切れらしい、急激に視界が狭くなっていく。

(悪い、先逝くわ)

 あんたなんか呼んでない、と眉を吊り上げる仲間の少女の顔が眼に浮かぶようで、ククールはほんの少し、笑った。

 だらしなく転がった異母弟の身体はぴくりとも動かない。
騙し討ちをするつもりでもないらしいと分かって、マルチェロは鼻を鳴らした。

 戦闘中に気付いていたことだが、何処にもザックはない。
何処かで落としたか、それとも仲間に預けたか。
こちらを宿から遠ざけようとする動きからして、おそらくは後者だろうとは見当がついた。
 思惑通りになるのは癪ではあったが、まだ左目はじりじりと熱を孕んでいる。
傷の手当てが終わらぬうちに襲撃を受けるのは分が悪い。

 落とした銃を拾い上げ、それきり遺体には目もくれず歩き出す。
魂の抜けた器などには何の興味も執着も無かった。
 
 
 
 そしてモノクロームの世界には、ぽつりと一つ、赤だけが取り残された。


【E-4/アリアハン城下町宿屋/夜中〜真夜中】

【トロデ@DQ8】
[状態]:HP3/5 腹部に深い裂傷(止血) 服はボロボロ 全身に軽度の切り傷(ほぼ回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(不明の品が1?) 大錬金釜 ミレーユの通常支給品
[思考]:クリフトを見張る レックスの呪いを解く方法を探す 打倒ハーゴン

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP4/5 MP0 服はボロボロ 全身に軽度の切り傷(ほぼ回復)
[装備]:いかずちの杖
[道具]:支給品一式×2(不明の品が1〜2?) ※小さなメダル 毒薬瓶 ビッグボウガン(矢 0)
    天馬の手綱 インテリめがね アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
[思考]:呪文書を読み解く 打倒ハーゴン 竜王(アレン)を倒す

【クリフト@DQ4】
[状態]:左足に火傷(ある程度治癒) 背中に火傷(ある程度治癒) 麻痺している MP0
[装備]:なし
[道具]:祝福サギの杖[7]
[思考]:マリアたちと同行し、油断させて殺す
    自分が優勝し、アリーナを復活させてもらって元の世界へ帰る

【E-4/アリアハン王城前/夜中〜真夜中】

【マルチェロ@DQ8】
[状態]:左目欠損 HP3/4 MP3/4
[装備]:折れた皆殺しの剣(呪い克服)
[道具]:84mm無反動砲カール・グスタフ
    グスタフの弾(対戦車榴弾×1 発煙弾×2 照明弾×1)
[思考]:この場を離れ、左目の治療を ゲームに乗る(ただし積極的に殺しに行かない)

※ファルシオンは騒ぎが収まった頃に宿屋(トロデらのいる場所)に戻るか
  アリス(D-4)の元へ向かいます

【ククール@DQ8 死亡】
【残り18名】


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