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想いを背負い生者は歩む

想いを背負い生者は歩む


登場人物
エイト(DQ8)、アリーナ(DQ4)、ドランゴ(DQ7)


 二人がそこに駆けつけた時、炎は既に鎮まっていた。
遠目にはぼろのようにも見える無造作に打ち捨てられたそれは、
土埃に汚れ、焼け焦げてはいたが、まだ十分に元の形を留めていた。

 胴に幾筋もの傷を負い、脇腹の爆ぜ、焼き爛れた老人――いや、老人『だったもの』。

 それを見てとって、エイトは父とも慕う大恩ある主君を、
アリーナは口やかましいがその実深い愛情をもって、
幼い頃から自分を見守っていてくれた老魔法使いを想い、目を逸らした。
 それほどに酷い有様だった。

「……なんで」
 拳を握り締めるアリーナの声は震えている。
「なんで!?誰が、なんでこんな酷いことを!」
「ゲームに乗って、生き残りたいからでしょう」
 淡々と答える声が腹立たしくて、アリーナはぶつける言葉を探しながら傍らの少年を睨みつけ――言葉を失って俯いた。
「勿論、だからと言ってこんなことが許されるとは思いませんが」
 冷静さを装って言葉を紡ぐエイトの瞳は、だが怒りと焦燥に燃えていた。
色を失うほど強く、唇を噛み締める。

(まただ)
 思い浮かぶのは、あと少しで手の届くところでみすみす殺させてしまった老婆の姿。

(いつも、あとほんの少しのところで、僕は間に合わない)

 やがて、どちらともなく埋葬の支度を始める。
だが胴の一部が半ば炭化し、抉られた遺体は下手に動かしては崩れてしまいそうで、
また二人の支給品には穴を掘るのに適した道具は無かった。
雷神の槍は優れた武器だが、当然ながら穴を掘るにはまるで向かない。
 埋葬は諦めるほかなかった。
せめて胸の上で強張った手を組ませ、断末魔の苦痛に見開かれた目を閉ざす。
 今出来る精一杯の弔いだった。

「……土の中で眠らせてあげる事も出来ないのね」
「土に還すことが出来なくとも、このまま放って置くよりは焼いて天に還した方がいいかも知れませんね。
 アリーナさん、火炎の呪文の心得は?」
 エイト自身は火炎呪文の心得があるが、いかんせん呪文は得手ではない。
自分一人で天へ届くほど強い炎を呼び起こすことが出来るかは疑問だった。
 アリーナは黙って首を振る。
何も出来ない歯痒さと怒りでどうにかなってしまいそうだった。
(息せき切って駆けつけたのに、助けることも、満足に弔うことも出来ないなんて)

「――『祈りなんて、ただの気休めだ』」
 不意に、ぽつりとエイトが呟く。
「え?」
「以前、僕の仲間が言っていたことです。
 祈りを捧げたところで誰が助かるわけでもない、こんなのは自分の気休めだ。けど」
 記憶の糸を手繰りながら、とつとつとエイトは語る。

 そう。今こうして名も知らぬ老人の弔いをしているのだって、ただの気休めだ。
そうしたところで老人が生き返るわけでも、間に合わなかった事実が変わるわけでも、
他の誰が救われるわけでもない。
 でも。

「何も出来なかったと、後悔に足をとられて立ち止まるよりはマシだから、
 何の役に立つでもない気休めでも、何かをして、前を向けるようにならなきゃいけないんだ、って」
 己に言い聞かせるかのような口調。
彼の唇が未だ固く噛み締められたままであることにアリーナはようやく気付いた。

(ああ、エイトも辛いんだ)
 自分の気持ちで手一杯だった時はそんなことにも気付けなかった。
(駄目ね、アリーナ。あなたの長所は前向きなところだって、いつも皆言ってくれたじゃないの!)
 胸を張って前を向いて、この馬鹿げたゲームを潰すために突き進まなければならない。
あたしはまだ生きてるんだから。
 それがきっとこの人が守りたかった誰かを助けることにも繋がるから。

「――いい台詞だけど、ちょっと罰当たりね?」
 軽口を叩く。まだぎこちなかったけれど笑うことが出来た。
 つられたようにぎこちなくエイトも笑う。老人の遺体のことだろう、何か言おうと口を開き、
 ――ずしん。
 大地が揺れた。
 草原の彼方、何か小山ほども大きなものが恐ろしい速度でこちらに向かって移動している。
 緑に溶け込む鱗に覆われた体、携えるのは巨大な戦斧。
いかにも恐ろしげな乱杭歯に、アンバランスな愛嬌のある丸い目――

「……ドランゴ?」
 小さな呟きが漏れた。

 時は遡り。
 ふんふんと地面を検分し、時折鼻を差し上げ風の匂いを嗅ぎながら、どれくらい歩き続けた頃か。
ドランゴは悲しげに鼻を鳴らした。
(テリー、何処にいるの?)
 彼を捜し、歩き出したはいいものの、今に至るまで何の痕跡も発見出来ずにいる。

(こっちじゃなかったのかしら)
 そもそも最初に歩き出す方向を誤ったのかもしれない。
戻ろうか、どうしようか。
ドランゴは迷い、一先ず判断材料を増やそうと風に鼻を寄せ、
(あら?)
 彼女の敏感な鼻はそれに気付いた。
何かが――おそらく人が、焼ける匂い。
振り向くと遠くに煙がたなびいているのが見えた。
 それはちょうどドランゴが歩いて来た方角。
(誰かが戦っているの?……あのおじいさんは大丈夫かしら)
 よもやその煙がその老人から上っているものとは夢にも思わず。
迷った揚句にドランゴは戻る方を取った。
(テリーは最強を目指す剣士ですもの。戦いがあれば自ら赴くはずだわ)
 人の足には大分遠い距離だったが、人より身体が大きく、脚力もある彼女にはどうという距離でもない。
 立ち上る煙を目印に一目散に駆け戻る。小一時間も走った頃、目的のものが見えた。
 横たわる人間ほどの大きさのものと、人影二つ。
ドランゴのいる位置からはそれしか分からない。彼女はあまり目がよくなかった。
 片方はやけに頭が尖っていて、風が吹くと赤い髪がそよいで揺れる。
恋敵の小娘のことを思い出してドランゴはなんだか不機嫌になった。
 そしてもう一つ――
「……ドランゴ?」
 若い、響きのいい男の声。
(テリー?テリーなの!?)
 嬉しさのあまり口から炎を噴き出しながら、ドランゴは声の主に向かって突進した。

 脇目も振らず、こちらに向かって突進してくる魔物。
その携える巨大な刃と、口から吐いた炎を見、アリーナの疑いは確信に変わった。

 ぱくりと開いた幾筋もの切り傷と、焼け焦げた身体。

(こいつが、あのおじいさんをっ!)
 拳を固め、いつでも跳び出せるよう体勢を低くする。
「……!アリーナさん!?」
 突然現れた魔物に気を取られていたエイトが制止する間もあらばこそ、
魔物の喉下目掛けてアリーナ渾身の蹴りが飛ぶ。
 鱗の少ない柔い部分を狙われて、堪らず魔物は吹っ飛び、
苦悶に身を捩りながら、ぱちぱちと困惑に目を瞬いた。

「アリーナさん、突然何を!?」
「退きなさい、エイト!――とどめ!」
 狙うは身を捩ることで露出した腹。
とん、と大きく三つ後ろに跳んで距離をとり、アリーナは速度の乗った拳を繰り出し――

 骨が砕ける嫌な感触。
しかしアリーナが貫いたのは魔物の腹ではなく、
「……エイト?なんで」
アリーナを止めるため間に入った彼の左肩。
だらりと下がった左腕と滴り落ちる多量の赤に、アリーナはすぐに怪我の重さを悟る。

「拳を納めて下さい」
 その顔は血を失い蒼褪めていたが、声には微塵の震えもなかった。
「でも」
 ちらりと彼の背後へ目をやる。
今や魔物は起き上がり、油断なくこちらの様子を窺っている。

「大丈夫です。あの子は優しい目をしてる、襲ってきたりはしません」
「だって、魔物だわ」

――ダカラ殺シテモイイノ?

 いつだか仲間の王宮戦士が語っていた、友だったという心優しいホイミスライムを。
 天空人の娘と戯れていた無邪気な竜の仔を。
 恋人の亡骸を抱く銀の魔王を。

――人ジャナイカラ、殺シテモイイノ?

(そんなの)
「駄目に決まってるじゃない」
 小さく息をつく。どうやら思った以上にこのゲームは人の心を病ませるようだ。
アリーナが構えを解くのを見届けて、エイトはこの成り行きを見守っていた魔物に振り返る。

「……やっぱり人違い、か。痛い思いをさせてごめんよ、もう何もしないから」
(いいえ、私も悪いの。てっきりテリーだと思ったものだから、つい)
 魔物は――ドランゴは頭を伏せぐるると喉を鳴らす。
そしてようやく横たわるモノの正体に気付き、悲しげに鼻を鳴らした。
(ああ、やっぱりあのおじいさんだったのね)
「この人を知っているの?君の知り合いだったのかい?」
(そんなものね。私がちゃんと怪我を治してあげれば、こうはならなかったのかもしれないわ)

 溜め息をつい(たつもりになっ)て、ドランゴは今度はエイトに鼻面を寄せる。
途端、やわらかな光と共に、あたたかな力が傷口に流れ込んだ。
その光の心もとなさに、ドランゴは内心やれやれと首を振る。
(駄目ね、やっぱり効きが良くないわ)
「心配してくれるのかい?優しい子だね」
(半分は私のせいだもの。それにまたこのおじいさんみたいなことになったら嫌だものね)

 ドランゴに任せきりにするわけにもいかず、エイトも肩に手を当て治癒の呪文を唱える。
淡い光が肩を包む。先程のと変わらぬ心もとないそれに、歯噛みする。
(せめてククールがいてくれたら)
 回復呪文が弱められた中であっても、術者の技量は関係するはず。
自分より遥かに熟練した癒し手である彼の呪文ならもっと良く効くだろうに。
 肩の傷が大方塞がった所で治癒の手を止める。

「手当てをありがとう。もう一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」
(なあに?)
 首を傾げる。巨体にそぐわぬ可愛らしい仕草に、痛みを忘れてエイトは笑った。
「あのおじいさんのことなんだ。
 君の炎で送ってあげてくれないかな?僕は呪文は自信がなくて」
(あのまま獣の餌にするのじゃ可哀想だものね。分かったわ)

 一つ頷き、老人の遺体に向き直る。大きく吸い込み、吐く。
全てを焼き尽くす灼熱にあっという間に老人の遺体は飲み込まれ、見えなくなった。
「色々手伝わせてしまってごめん。気を付けてね」
(こちらこそ、庇ってくれてありがとう、優しいお兄さん。
 テリーがいなかったら好きになってたかも知れないわ。怪我、お大事にね)
 最後にそっとエイトの肩に鼻を摺り寄せ、背を向け歩き出した。
目指すは来たのとは逆の方角――南へ。

 ――エイトの言ったことは本当だった。
何もしないどころか、傷の手当てと火葬の手伝いまでして魔物は去っていく。
「――あのっ!」
 自然、声が出た。
「さっきはごめんね!あなたも気を付けて!」
 巨大な背中が動きをとめ、振り返り、唇の端をめくり牙を見せる。
普段ならこちらを威嚇しているとしか思わなかったろう。
だが、それが何故か笑みのように見えて――アリーナは少しだけ救われた気がした。

「……さて、僕らもそろそろ行きましょうか」
 立ち上がり、肩を回す。動かないことはないが引き攣るような痛み。
完全に普段通り、とはいきそうにない。
「そうね。――ごめんなさい、せめて荷物はあたしが持つね」
 言ってアリーナは二つのザックを持ち上げる。
一つは今しがた拾った、おそらくこの老人のものだ。
追い剥ぎのような真似は気が引けたが、死者には不要のものだ。有り難く使わせて貰うことにした。
 彼に倣って立ち上がり、不意に視界の隅に鈍く光るものを捉えて立ち止まる。

「どうなさいました?」
 怪訝そうなエイトの声。
(ごめんなさい、許してね)
 ようやく炎の消えつつある、今はただの黒い物体と化した老人の成れの果てにアリーナは手を突っ込む。
皮手袋に包まれた手はそれほど熱さを感じない。手探りで目的のものを掴み、軽く力を入れる。
呆気なくそれは外れた。

 自分たちの首についたものと同じ、黒光りする枷。
あれほどの炎に晒されたのに爆発もせず、大した損傷も無い。
「対火の呪文でもかかってるのかしら?あたしには分からないけど」
「僕も呪文は専門外なので、なんとも。
 僕が持たせて頂いても構いませんか?こういう道具に詳しい方には当てがあるので」
 アリーナは有り難くエイトの申し出を受け入れた。
どんなに強く豪胆でも、彼女も年頃の娘だ。死者の首についていた物を持つのは気が引けた。

 向かうは当初の目的地、レーベ。
  


【B-3/レーベ東の草原/午前〜昼】

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:左肩損傷(行動に支障有) MP2/3程度
[装備]:雷神の槍@DQ5
[道具]:支給品一式 首輪
[思考]:レーべの村へ 仲間(トロデ優先)を捜し、ゲームには乗らない。

【アリーナ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:パワーナックル@DQ3 くさりかたびら
[道具]:支給品一式(三つとも武器以外) メルビンの支給品一式(不明二つ)
[思考]:エイトに付き添う 仲間を捜し、ゲームには乗らない マーダーは倒す

【ドランゴ@DQ6】
[状態]:喉と腹部に軽い打ち身 MP消費(弱) 
[装備]:鋼鉄の斧
[道具]:M16ライフル M203グレネードランチャー
[思考]:南下 青い人(テリー)を捜す


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