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鼻先には蜘蛛の糸

鼻先には蜘蛛の糸


登場人物
竜王アレン(DQ1)、マリア(DQ2)、ピサロ(DQ4)


 
心も身体も、僅かに満たされた勇者の生家の中。
その中で、やがてフォズがこくりこくりと船を漕ぎ出した。
皆、ここまでの疲労と腹が膨れたことも相成って、睡魔が舞い降りてきたようだ。
放送まであと四半刻と言ったところで、アレンが申し出る。

「放送は任せて、お主らも眠って構わん」
「え、でも……」
「人でないというのは、こういう時に役に立つものだな。遠慮はいらん」

皆、決戦目前として確かに休息は必要だと考える。
アレンの心遣いを有難く受け、ひとり、またひとりと眠りにつき始める。
エイトとアレフで眠ってしまったアリスとフォズを二階の寝台まで運び、寝かせる。
階下に降りたアレフは机に突っ伏した。
エイトは壁を背に、それぞれ寝息を立て始める。
起きているのは、アレン、ピサロ。
そしてマリア。

「眠らないのか?」
「ええ、気になっていて……」

マリアは傍らに積み上げた
呪文書をじっくりと読み解く。
ピサロとフォズを待つ最中にも読み進めていたものだった。
ペガサス覚醒の呪文のように、これらにもなんらかの手がかりがあるかもしれないとマリアは考えている。
もっとも、あの場合はファルシオンとの呼応により気づいただけだ。
暗号などの可能性もある、とマリアはアリスが持っていた眼鏡を借り、慎重に読み進める。
これを身に着けていると、冷静な思考が出来るような気分になるのだ。
アレンはそれを止めるでもなく、角灯を傍らに置き椅子に座り込む。
ありがとう、とマリアは笑顔で応えた。

「さて……放送までは……」
「四半刻弱だ」

今まで殆ど口を開かなかったピサロが応える。
死者の名を告げる鐘、出来れば耳を塞ぎたかった。
全ての死者をほぼ把握した今、忌々しいだけであったからだ。
だが、放送の直前の今、やらねばならないことがあった。

「─竜王、少し」
「?」
「水をくれないか」

ピサロが手で『こちらに来い』と示す。
手には、聊か量の増えたメモ。
一枚にさらさらと何か書き、翻す。

(首輪を本格的に外しにかかる)

アレンは紙とピサロの顔とを見、そして頷く。
放送が近い、いよいよ時が来た。
組み立ててきた理論が実証される時だ。
続けて書き記したのは、決断の可否を問う言葉。

(誰か一人の命を、この賭けの代価に支払う)
(百も承知よ。この首、賭ける気でいた)

アレンはピサロを見据え、お見通しだとばかりに鼻を鳴らす。
どうも彼から見れば、ピサロは若造の部類に入るようだ。
莫迦にしている訳ではない、似た性質の者としてどこか張り合っているのかもしれない。
 
 
─正気か。
無論。
 
 
筆談ではなく、瞳で会話を行う。
竜王アレンの決意の瞳に、ピサロは目を伏せ頭を僅かに下げた。

(すまない)
(切り札はワシではない、お前だ)
 
 
二人の心には僅かな望みが芽生えていた。
アレンは一度死んだ身、待つ者はいない。
在るのは贖罪の念のみ。
ピサロを待つ者は、もういない。
在るのは復讐の誓いのみ。
これらは必ず果たす、とそれぞれが心に誓った。
しかし若者には、彼らの『覚悟』とは違う『未来』があった。
我ら二人が、彼らを生きて帰さなければならない。
魔に属していた者らしからぬ、そんな光溢れる志が彼らを行動に駆り立てた。
ピサロの記したメモを素早く読み進める。
放送は、首輪解除にとって重要な一手のひとつであるが為に。
やがてメモを束ねて懐に仕舞いこむ。
二人はすっくと立ち上がった。

(気を引き締めて取り掛かろう)

二人での最後の筆談を終えて、二人は戸口へと向かった。
窓を見て、陽が落ちきっていないことを確認する。
マリアには少し外を見回ってくると言い残し、扉は静かに閉めて外へ向かった。
 
 
 
15分と少しで、二人は戻ってきた。
マリアは存外早い帰還に疑問を抱きつつも、おかえりなさいと言う。
二人はそれに軽く応じると、本を広げる彼女の元へ歩み寄った。
僅かな時間しか経っていないためか、まだ一冊目の途中のようだ。
ピサロが指で戸口を示し、アレンが手招きをする。
自分を呼びに来たのか、とマリアは本に栞を挟んで傍らに置いた。
眠った二人を起こさぬようそっと立ち上がり、服の埃を払って二人の後に付き添う。
玄関から外に出ると、ファルシオンも静かに眠っていた。
そのまま静かに傍を通り過ぎ、宿屋跡の方角へ三人は向かう。

「……?」

意図が掴めていないマリアが怪訝そうな顔で二人を見やった。
口を開こうとするが、アレンの右掌が向けられ制される。
続けて左手で、自分の首を示した。
冷たく輝く首枷は、そこにある。
続けてピサロが手元で筆を走らせた。

(【アバカム】【シャナク】若しくはそれに類する呪文の心得は?)
「……」

マリアは、開錠呪文アバカムの方を指で示す。
魔力を鍵穴に通すことで錠を無力化する呪文だ。
それを確認したアレンがサックから何やら取り出し、足元にそれを置く。
その鈍い光は、先程アレンの首に見たそれとまるで同じだった。

「……」

マリアは、開錠呪文アバカムの方を指で示す。
魔力を鍵穴に通すことで錠を無力化する呪文だ。
それを確認したアレンがサックから何やら取り出し、足元にそれを置く。
その鈍い光は、先程アレンの首に見たそれとまるで同じだった。

「……」

視線にアレンは頷く。
マリアは悟った。
いよいよ、このおぞましい儀式からの脱却への一歩を踏み出すのだと。
ひとつ大きく、深呼吸。
目を伏せ、ルビスへ祈りを捧げる。
そこで、マリアの目の前に何かが差し出された。
鉄製の杖を持っていたのはアレンで、使えと顎で示した。
意図に気づいてはっとして慌てて受け取る。
アバカムを唱えた瞬間に木っ端微塵に吹き飛ぶ可能性も考えられるのだ。
素手で唱えた場合、利き腕をむざむざ失ったかもしれない。
マリアは恐ろしさに冷や汗を流しそうになるも、再び大きく深呼吸をして鉄の杖を握り締めた。
元来掌や指先から呪文は放たれるのが基本ではあるが、場合によっては媒介、例えば杖のようなものを介しての発動も可能だ。
本来魔力の篭った武器などによる威力の上乗せなどのが理由だが、今回は『距離』を稼ぐために使用するわけだった。
鉄の杖の尻の位置に近いほうを両手で握り締め、足元の首輪に杖の先端を向ける。
この位置ならば爆風に煽られることはあれども、身体の一部を吹き飛ばされることまではないだろう。
マリアは目の前の二人に力強く頷いた。
ピサロが手順を書いたメモを渡す。
 
 
 
(1:ラーの鏡により呪詛の力を実体化させる
 2:『凍てつく波動』により呪詛、呪文無効化障壁を削る
 3:太陽の鏡により呪詛を根源から消滅させる 
 4:呪詛以外での首輪への介入を防ぐためアバカムで首輪から脱出
 これら全てをなるべく同時に行う。誤差は可能ならば1秒以内)
 
 
帳面の切れ端にここぞとばかりに書き込まれた情報の量に一瞬眩暈がした。
ちょっと待って、と書こうとするが筆記具も無いことに気づくと、アレンとピサロは既に準備に入っている。
取り出したのは鏡二枚、そして首輪を一つ。
夕日の仄かに赤みを帯びた陽光に照らされ、真実の鏡が光を帯びる。
 

「……ッ!」

─なんて

マリアの脳裏に閃いたのは絶望を飲み込まされたあの日の光景。
灰へと姿を変えた父。
美しかった城が炎と悲鳴に包まれる。

─なんて禍々しい

そして我が身を包み込む恐るべき呪い。
全身の毛が逆立ちそうだった。

(ハーゴン……ッ!!!)

映し出されたのは蠢く邪悪。
首輪に纏わりつくのは地獄か魔界かに住まう醜悪なそれらよりもさらにおぞましい外見をしていた。
その姿の余りの恐ろしさに、自分の首にもそれが嵌まっていることを踏まえマリアは総毛立った。
アレンは二度目ながら、改めて顔を顰めてしまう。
続けて、ピサロが左手を翳す。
指先から凍てつく波動が迸り、呪詛が僅かに揺らめきを見せた。
そしてアレンはもう一つの鏡を向ける。
呪詛が苦痛に慄いているようにも見え、揺らめきは大きくなり、やがて静かに霧散するように消えていった。
アバカムを唱えるのか、と詠唱に入ろうとしたがアレンは首を横に振る。
ピサロが手で、『離れろ』と示した。
指示に従い、二、三歩離れて首輪を見る。
冷たい輝きを放つそれは、沈黙を保ったままだ。
三秒、六秒、十二秒。
三十秒ほど経ったところで、ようやくアレンとピサロは息を吐いた。

「……?」

いったい何なのか、マリアには今ひとつ解りかねた。
声にはせずに口の形で『今だ、唱えろ』との指示が下される。
杖を手に開錠呪文アバカムを手早く詠唱すると、継ぎ目など無かった首輪に光が切り裂くように走った。
呪文の効力で、首輪は二つに分かれ、静寂が続いた。
と、丁度良く説明を書き込んだ紙がピサロの手から渡される。

(「首輪の爆破はこの呪詛の力により行われる」という証明だ)

マリアは目を見開いた。
それを見破ったということは、この首輪の完全無力化も夢ではないという事に他ならない。
微かな希望が現実となって目の前を過ぎり、思わず歓声を上げそうになる。
しかし、ピサロの顔は渋いままであった。
続けて書かれた文字は、消えかけた不安を煽るもの。

(但し『死者の首輪』に対しては監視をしていないからという可能性が考えられる
 生者に対して首輪への干渉を行い、呪詛以外の力で介入されれば最悪死ぬかもしれん)

マリアは理解した。
首輪からの脱却は、賭け。
その賭けの代償は、命に他ならない。
朽ちた天秤に硝子細工を載せるかのように、危険な道だった。
戸惑うマリアに、アレンの手から二枚の鏡が手渡される。
その顔には、微かに笑みが浮かんでいた。

(ああ)

彼の顔には迷いは、不安は無い。
アレフとともに皆の前に顔を出した、あのときの顔。
よく見なければわからない、けれどもとても満足そうな笑みだった。

(やはり……)

マリアは悲しみに満ちた予想が的中したと悟る。
アレンは命をチップに換えて、この賭けに挑むのだ。

「マリア」

アレンが閉ざしていた口を開く。
盗聴を恐れない、ということは他愛もない話なのだろうか。
こんな時に、と思うも続けて投げかけられた言葉がさらに芽生えた恐怖を色濃いものにする。

「ワシが『アレン』の名を宿し生きる理由…話してなかったな」
「!?」

他愛もない話であるはずが無かった。
それは、マリアが死を前にした彼の命を繋ぎとめた鎖。
アレンとの約。
彼がただ一匹の竜となった所以。

「ワシがアレンと出会ったのは、ここより西、塔の下だった」
「……」

アレンがこれから発しようとする言の葉一文字一文字が、マリアには頼りなさげな鎖の輪一つに値するように感じられた。
彼が大切なそれらを口にするたびに、鎖は一つ、また一つと空に広がる闇に飲み込まれる。
そしてその頼りない鎖にぶら下がるのは、アレンの命。
ずるり、ずるりと死に引き寄せられるようだった。
言い切ってしまわないで欲しい。
やり残しを清算してしまわないで欲しい。
この世から消えてしまう前触れのように感じられてならないから。

「剣を抜き襲い掛かるワシに、あやつは」
「やめて」

マリアは鏡を両手に抱えたまま、にこりと微笑んだ。
首を横に振り、彼の言葉を押しとどめる。

「……?」
「アレン」
彼女の求めたアレンのすべてを、今ここで制止されたことに疑問が浮かぶ。
これを逃せば墓に秘密を持ち逃げすることになってしまうかもしれないというのに。
彼女は拒んだ、愛した王子の最期を。
それは悲しさ故ではない。
竜への怒り故でもない。

「今は、いいから……また後で」
「!」
「今夜、寝る前にでも聞かせて……だから、『今』はいいの」

マリアの言葉はまるで、御伽話をせがむ子供のようにさえ聞こえた。
しかし、アレンは覆い隠されたその真意を汲み取る。
この命賭けの試練に、彼は後ろ向きで挑んでいた。
死を前にした人間の考え方を、無意識のうちにしていた。
『今、死んでもいいように』
その考えを、彼女は否定したのだ。
希望を持って挑んで欲しい、と。
元より、この方法がほぼ最後の手段であるとマリアも薄々わかっている。
ここで彼が死ぬことは、絶望の縁まで押しやられるということだ。
だから、彼女は拒む。
これから、絶望を打ち払った夜を迎えるために。
 
 
「……それもそう、だな」
(……用意を)

間を見計らい、ピサロが二人を促した。
マリアは瓦礫に、光がちょうどアレンの首を照らし出すようにラーの鏡を立てかけた。
賭けが、始まる。
 
 
息を呑む。

(これが最後の……)

汗が頬を伝う。
視界が白く霞む。

(希望……)

真実の鏡は、夕陽を浴びて紅く装飾を輝かせる。
鏡面に反射した光が、聖なる気を帯び、偽りを打ち砕く神々しい光と化した。
照らし出された呪詛の禍々しさに、顔を顰めた。
首から発せられるそれに、魔に近しき存在アレンでさえも思わず戦慄する。
間髪入れずに、ピサロが指先から凍てつく波動を放った。
呪詛が陽炎のように揺らぎ、僅かに薄らいだように見える。
浴びせられた波動に、もがき苦しむような表情を見せた呪詛から恐ろしい慄きの叫びがあがった。
マリアの口から微かに悲鳴が漏れる。
しかし強き王女は、歯を食い縛り堪えた。
その華奢な震える手が、確りと太陽の鏡を握り締める。

(ルビス様、ご加護を……!!!どうか、私達に希望を!!)

魔を散らす聖なる光が、放たれる。
悪意に満ちた呪術の産物目掛け、一直線に光が伸びる。
 
 
そして辺りには気が狂いそうな程の断末魔が響き渡った。
 
 
 
 
pipipipipipipipipi

─叫声の音域は高まり続け、いつの間にか広間で聞いたあの音へと変化していた。

pipipipipipipipipipipipi

死の足音とは、こんなにも奇妙だったのか。
無機質で耳障りな電子音が、アレンの首輪から響いていた。

pipipipipipipipipipipipipipi

その場にいた全員の表情が凍りつく。
だが、間もなく一人の表情が変わった。
いや、表情というものを認識できなくなった。
 
 
 
 
─bomb!
 
 
 
 
─ッ!!!

首が爆ぜ、頭は宙に舞ったかと思うと、ごろりとその場に転がる。

(声が出ない?)

上げようとした悲鳴は声にならない。
するのはただ、ひゅうひゅうと空気が漏れる音。
そして、ぽたりぽたりと液体が落ちる─落ちる音? これは 何の?

足元が血で染まっている。
これは誰の血?
そういえばさっきから喉に何か痞えたような奇妙な感覚がする。
目の前のピサロは、手をこちらに伸ばした様子で硬直したままだ。

熱い。
痛みと熱が狂おしいほどの奔流となって体の中を駆け抜けた。
そして理解した。
彼が─ピサロが投じたアサシンダガーが喉に突き刺さっていたのだと。

─……これまでのようだな

諦観、あるいは悲しみの入り混じったピサロの一声。
それが、この絶望の確かな証拠として薄れ行くマリアの意識に刻まれた。
力の入らなくなった膝はかくりと折れる。
どさりと音を立て、細い身体は倒れ臥した。
薄れ行く視界に、漆黒の衣を靡かせる銀髪の男の姿。
皆が寝息を立てる家に、その足は向いている。

(─だめ……!!)

しかし身体は動かない。
自分には何も止めることは叶わない。
結束は、脆くも崩れ去る。
ハーゴンの掌上で、彼らは鮮血を散らしながら踊ることしか許されないのだった。

(……ごめん……なさい……みん……な)

怒号が、爆音が、悲鳴が響く。
悲劇は誰にも止められはしないのだろうか。
瞼が自然に落ちていく。
僅かに、嗤うハーゴンの声が聞こえたような気がした……
 
 
─マリアたちは ぜんめつした
 
 
(あなたは しにました)
(そんな、ルビスさま!!どうか、どうか、お慈悲を!!)
(あなたは しにました)
(ああ、やり直せるとしたら…どうか、どうか最後に祈ったあのときから!!!)
(あなたは しにました)
(死んでしまうとは情けないでしょうが……、どうかもう一度機会を!!)
(あなたは しにました)
 
 
 

「……きろ   …起きろ」
「ひぁあっ!?」

死んだのに頭のなかがぐるぐると奇妙なやりとりで満たされている。
と思えば呼び声に目を覚まされた。
閉じた眼を、開くとそこには狂気に再び囚われた魔王が……
なんという事はなく、ピサロに頬を軽く叩かれていただけだった。
今自分は座り込んだ姿勢のままピサロに顔を覗き込まれている。
傍らには首を吹き飛ばされたはずのアレンが五体満足でいた。
眼を頻りに瞬かせ、メダパニ一色に染まった脳を落ち着かせようと尽力する。

(何?何なの、今のは?)

彼の首は繋がっている。
血は、足元を汚していない。

(─幻?)

一度はハーゴンの呪いを受けた身ではあるも、その恐ろしさは忘れられない。
余りにも激しい呪いの威力を目の前に、精神を中てられてしまったようだ。
気絶していた時間は僅かだったようで、陽の傾きはそのままだった。

(……よ)

なんて恐ろしい幻を見たのだろう。
なんという悲劇を想像していたのだろう。
現実を認識した途端、マリアは全身の力が抜けるのを感じた。

「よかったぁ……」

アレンの覚悟が悲観に満ちている、などとよく言えたものだった。
自分の頭の中がどれだけの悪い想像で満ちていたかを、強制的に気づかされた。
だけど、今彼の首輪はこうして……首輪?
自分は何をしに、ここに来たのだったか。

「あ、ああっ、あ、アバカムッ!!!」

握り締めたままだった杖から、魔力が形を成した鍵が一直線に首輪へと走る。
アレンの首輪に切れ目が走り、草がとさり、と優しく受け止めた。

「……」
「クク……」

堪えきれない笑いを、魔王は零した。
アレンも込み上げた笑いをかみ殺しつつ、口角が持ち上がる。
一生分の笑いを使い果たさんばかりだな、とまでアレンは思った。
この舞台で、本当に自分達は変わった。
心から、彼はそう思う。
マリアは覚めやらぬ混乱と自分が笑われていることに眼を白黒させていた。
笑う二人の顔をかわるがわる見やり、きょときょとと視線が落ち着かない。

「いや、よくやった」
「……うう……す、すみません」

ピサロの苦笑(とても珍しかった)を前にして、マリアはなんともばつが悪かった。
自分が気絶したことで隣のアレンの首は飛んでいたのかもしれないのだから。
アバカムが遅れても尚それが繋がっているのは運が良かったに過ぎない─そう、遅れても。

「少々面白いことも解った……よしとするか」
「え?」
「一度、戻るぞ」

ピサロがアレンの首輪を拾い、踵を返す。。
それを見て、マリアも慌てて鏡をザックにしまいこんだ。
アレンは音を極力立てないように、ついて来ている。

再びアリスの生家へ戻ると、皆が寝静まったままの室内は出て行ったときと変わらず静かなままである。
アレフは姿勢をすっかり崩し、鞘に収まった先祖の剣を枕にしている。
アリスは怒るだろうか、とマリアは思った。
彼女が起きてくる前に起こしてあげよう、と考えながら席に着く。
全員エイトの突っ伏す卓につき、やっと息をついた。
今だ整理できない状況を、マリアは問いただそうと口を開く。

「!」
「……?」

しかし、ピサロはトルネコがやるように咄嗟に口を塞いだ。
少々驚いて眼をやると筆を滑らせている、まだ警戒は続くようだ。
マリアも筆記用具を渡され、しばし机の上での筆談が続く。

(これで『首輪の呪詛が爆破設備に相当する』はほぼ確定された。『現在、盗聴・監視はされてない』も色濃い)
(なぜ?)
(アバカムの発動までかかった時間およそ2分40秒)

いきなり見せられた自分の落ち度の具体的な時間を示されて、マリアはきょとんとする。
そして先程の自分の情けなさを見せ付けられているようで、少々むくれた。
意にも介さず、ピサロが続ける。

(首輪に介入して2分以上首輪をそのままにしても竜王の首輪が爆発しないということは
 爆破が手動、自動にせよ『爆発に必要な呪詛が消えていた』からと予想できる。お前の気絶が証明を確定的にしたな)

褒められたのかからかわれているのか、マリアはなにやら複雑な気分になる。
ピサロの筆は止まらない。
知将としての本領発揮だ。

(そして盗聴、監視の警戒だがトルネコが証明してくれた通りされていない可能性が高い。そして、それを確定づける方法がある)
(それは?)
(主催者が『介入せざるを得ない』イレギュラーを起こす)

それこそが、首輪解除。
己が掌に縛り付ける鎖を解き放ったのだ、黙ってはいないはず。
そしてマリアは意図のさらなる先に感づく。

(定時放送)
(正解だ。この放送で竜王が『死者』に入っていなければ盗聴は確実。入っていればこちらの動きは感づかれていない。
 あの状況で竜王が死んだと考えるほうが不自然だろう。  だが、感づいていてあえて死者として呼ばれたとすれば─)

ここまで書いてピサロは筆を止めた。
そして溜息と共に頭を左右に振る。

「最悪の状況ばかり想定していては、前に進めんな」

マリアはそれに笑顔で応える。
このひとも、変わったようだ。
心から、信じるようになった。
我々の目指す、希望という光を。

「ええ、前向きに考えましょう」

この放送が全ての勝負。
刻一刻、放送までの時間はすぐ傍まで迫っていた。
傍らの眠る仲間達を見やる。
彼らが目覚めたときには、きっと笑顔で全てを話そう。
マリアはあの幻のような絶望を振り払えることを信じて、放送を待った。
 
「─時間だ」

ピサロの言葉を待っていたかのように『鐘』が鳴る。
真実は、すぐそこだ。
久方ぶりに響く絡みつくような声は、何を伝えるのだろう。


【E-4/勇者アリスの家/夕方(放送直前)】

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:健康 MP2/5
[装備]:いかずちの杖 布の服 風のマント インテリ眼鏡 鉄の杖
[道具]:小さなメダル アリアハン城の呪文書×5(何か書いてある)天馬覚醒の呪文書  
[思考]:儀式の阻止 アリスを支えたい 最後の決戦の前に、アレンの最期のことを竜王本人に問う

【ピサロ@DQ4】
[状態]:HP1/2 MP5/3 右腕粉砕骨折(固定、治療済み)
[装備]:鎖鎌 闇の衣 アサシンダガー
[道具]:支給品一式 首輪×5[首輪二個 首輪(分解) 首輪×2] ピサロメモ 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)
[思考]:ハーゴンへの復讐 盗聴の可能性を振り払えたら、今度は世界からの脱出方法を模索
※ピサロの右腕は通常の治療では完治できません。
 また定期的な回復治療が必要であり、治療しないと半日後くらいからじわじわと痛みだし、悪化します。
 完治にはメガザル、超万能薬、世界樹の雫級の方法が必要です。

【竜王@DQ1】
[状態]:健康 MP1/3 人間形態 首輪なし
[装備]:竜神王の剣
[道具]:外れた首輪(竜王)
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪 脱出方法の模索

※ファルシオンは家の前にいます


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