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不死身の敵に挑む

不死身の敵に挑む


登場人物
アレフ@DQ1、アリス@DQ3、エイト@DQ8、竜王@DQ1、ピサロ@DQ4、フォズ@DQ7、マリア@DQ2・・・・・・


黒い風が、掻き集めた勇気を吹き散らす。

拳が、脚が、必死に見つけた希望を打ち砕く。

彼らには邪神官の全ての動きが、絶望を呼ぶ舞踏であるかのように見えた。

「……」
「はぁ……!!はぁッ……!!」

双方の初手は指し終え、ターンを終了。
その結果、ハーゴンに対して挟撃の形を取ることに成功している。
正面にエイト、アレフ。
右後方にアリス、そしてやや離れてアレンが油断無く構えている。
が、彼らは皆が皆確信していた。
『優勢なのはハーゴンのほうだ』と。

「エイト、立てるか」
「ぐっ、く……ええ、大丈夫、です」

全員の力を合わせたベギラマ。
ハーゴンの一瞬だけ纏う闇は、その膨大な量の炎を全て受け止めたらしい。
だが臆してはいられない。
初めに飛びかかったのはアリス、続いたのがエイトとアレフ。
アレンはその隙に回りこみ、横合いから突きを放つ。
それが各々の初手であった。
対するハーゴン、4つの刃をどう避ける。
その答えは─

「まさか……」

アレフは戦慄した。
自分の予想を二歩、三歩も上回る現実を知ったことで。

 
 
アリスのメタルキングの剣は全てを両断すべく鍛えあげられた魔法の金属で製造されている。
その鋭さで断ち切れぬ物は無い、はずだった。
しかし、阻まれた。
『闇』を纏った邪神の杖が、真正面から受け止めたのだ。
抑えこまれたまま、杖から放たれた暗黒の暴風が少女を大きく飛ばす。
だがしかし、後に続く剣、槍が必ずハーゴンの隙を突く、最初はそう考えていた。
否。
ハーゴンは手から杖をぱっ、と放る。
そして剣、槍ともに『打ち払った』。
目を見開いたアレフの視界に続いて飛び込んできたのは、ハーゴンの舞。
いや、舞と見紛うほどに洗練された体術だった。
そのステップは、気でも狂ったかのように素早くそして強く、身体を強かに打ち据える。
隣のアレフが吹き飛んだのに気を取られ、がら空きになったエイトの体勢。
そのまま滑るようにして、邪拳が鳩尾へと叩き込まれた。
なんとか着地に成功したアレフに対し、エイトの身体はゴロゴロと転がっていく……

「………『避けない』で『打ち払う』とはな」
「読み誤りました、戦い方が術師のそれではありません……!」

それから、ようやく二人は体勢を整えて、先程のやりとりを終えたというわけだ。
一行の最初の攻撃順序は実に3/4が失敗に終わっている。
が、まだ全ての攻撃が終わった訳ではない。
余りの早業にまだ落下の兆しすら見せていない杖をハーゴンが再び掴んだ。
そこに一行が振るう最後の刃、残された1/4─
アレンの竜神王の剣が風を切り、貫いた。

「ヌッ!」
「クックッ……」

血色の悪い互いの顔が忌まわしさと愉楽、対照的な歪みを見せる。
アレンが貫いたのは神官の纏う法衣の裾のみだった。
嗤うハーゴンの口から魔力が漏れ出でる。
アレンの身体に瘴気を帯びた息が浴びせかけられる。

「グオッ!!」
「アレンさん!!」

 
 
吐きつけられた妖かしの息に、袖で顔を抑えてアレンは大きく退いた。
激しく咳き込む様子にアリスが駆け寄った。
そんな二人に目もくれず、ハーゴンはエイト、アレンの方へ変わらず表情を向ける。

「う、おおおぉっ!!」
「だぁッ!」

アレフが剣を再び構え、飛び込んだ。
槍を握りなおし、エイトが続く。

(奴の戦術を知るのはマリアだけ、その話では術士だったはず)

アレフから見てハーゴンの肩の向こう、祭壇の上に未だ眠る少女を見ながらアレフは思う。
しかしあの身のこなし、術に加えて体術、恐らく杖術すらも極めている。
加えて闇を身に宿し、妖かしの術技でしか攻撃をしてこない。
その姿はまるで魔物。
アレフはどこか目の前の存在が歪に感じていた。

(奴はハーゴンに化けている何か、なのか?)

王者の剣を水平に構え突進する最中、そんな事を考えていた。
そしてハーゴンはそんな思考すら見透かしているかのように、杖とは逆の掌をアレフに突き出す。

(呪文ッ!)

ハーゴンを見ていると自分の考えを早くも否定したことで満悦の笑顔になっているようにも見えた。
アレフの心が苦々しい思いで満たされる。
火の玉が飛ぶか、氷の刃が舞うか。
そんな思いも虚しく反射的に盾を翳したアレフを襲ったのは。

「……!?」

意識が後ろから殴られたかのように混濁する。
歪む視界、崩れる膝。
剣を握る手の力が抜けかけるところに、エイトの高らかな声が響く。

「キアリク!!」

アレフの意識が頬を張られたときのように瞬時に覚醒する。
エイトの放った呪文のお陰で、アレフは意識をギリギリのところで失わなかった。
そして目の前に飛び込んできた光景は、ラリホーを放ったその時の格好で変わらぬ掌の上に収束する光。
それが今まさに解放されんとしている所だった。

 
 
「アレフさんッ、避け……ッ!!」

間に合わなかった。
エイトの助けが遅かったのでは無い。
あまりにアレフとハーゴンとの距離は近すぎた。

 
「イオナズン」

 
冥府から響く死刑宣告のように、その言葉は紡がれた。
極限まで圧縮された光球を、ハーゴンはそよ風にそっと乗せるように放る。
アレフの眼前へふわり、と躍り込んだ灼光が激しく光を放って─

「ぅ、ああぁぁぁーーーッ!!!」

膨張し炸裂する魔力の爆発に真正面から呑まれ、アレフの身体が紙くずのように吹き飛ぶ。
爆心からやや離れていたエイトは、必死でその身を地に留める。
ハーゴン越しに見ていた二人ですらも身体を支え合わざるを得なかった。
対して放った本人であるハーゴンはどういう理屈か、涼しい顔だ。
まるで無感情に、『次はお前だ』とでも言いたいのかエイトのほうを見ていた。

「……!!」

ハーゴンから目をそらすことはできない、戦いの本能がそれを許さない。
光の中に呑まれた勇者の喪失を悔やむ声は、言葉にならなかった。
ラリホーをかけられたアレフを見て、咄嗟に呪文で覚醒させることは間に合った。
しかし、ハーゴンは『二度』魔法を使った。
先程の体術もそうだ、奴の挙動はこちらの想像する倍ほど速い。
立ち振る舞い、挙動が特に素早さに溢れているのではない、気づいたときには二度目が繰り出されている。
そう、その戦い方はかつてレーベの村で交えたアトラスの疾さを思い起こさせた。

 
「くッ!」

アレフの反応は無い、断末魔すらもこの世からかき消されてしまったのか。
エイトは気を抜けば折れてしまいそうなその両膝を奮わせ、油断無く槍を構えた。
姿は遮られて見えないが、アリス達は無事かと声を上げようとする。
その瞬間、エイトのすっかり襤褸切れになってしまったバンダナが、風に靡いた。
風の出所は、爆心地。
熱せられた空気は周囲を巻き込み上へと登るはず、風の流れが逆だ。
その風はやがて爆煙を晴らし、今も尚その両足で立つ勇者の姿を顕にした。

「ゲホッ、ゲホッ!!」
「!アレフさん!」
「……どうやら、死に損なったな」

その身を焦がされ、マントはほぼ焼失していた。
だが身体のどこを吹き飛ばされることもなく、五体満足で勇者アレフは立っていた。
左手で伝説の盾を翳し、首から下がったアミュレットからはその身を包むように風が放たれている。
盾の後ろから、未だに不敵な笑みを湛えてアレフの眼差しがハーゴンを射抜く。
ハーゴンの顔が、僅かに動いた。
動揺ではない。
楽しげに、笑んだ。

「笑ってる余裕が、お有りですか!?」

アレフが爆風に呑み込まれて、尚も黙っていたアリスの激情混じりの声が轟いた。
非情故では無い、彼女は信じていた。
子孫である勇者の強さを。
信じていたからこそ、この呪文の詠唱も途切れることなく完成させることができた。
魔を討ち、正義と人々を守る光の裁き。
その両手に、魔力と想いが収束した。
完成と共にアリスは高々と跳躍し、天にも舞わんばかりに空へと躍り出る。

 
「来たれ、正義の雷……ッ!!!『ラァイ、デイィィーーーーーーィン』ッ!!!!!」

 
空間全てを揺るがさん限りの声が、その場に響き渡る。
その大声にさしものハーゴンもエイトの方から視線をゆるりと動かした。
刹那、左右共々開いて構えられたアリスの量の掌から膨大な光が溢れ、光はやがて雷となる。
雷鳴が轟き、拡散して放たれた雷が瞬時に収束し、ハーゴンへと向かった。

「……愚か」

 
 
「駄目だ、避けられる……ッ!」

だが、真正面から、宙に跳び上がりオーバーモーション気味に放たれた雷。
ハーゴンが真っ向から受けてくれるわけもない。
勇者の放つ神雷呪文はハーゴンの脇を通り抜ける結果となった。
一瞬その身に纏われた闇を掠めるだけに留まる。
しかし雷の威力は凄まじい。
丸く削られたように闇が欠けている。
その結果に何故か満足したか、アリスを見つめハーゴンの口が歪む。
しかし勇者は微笑み返す。
子孫の不敵なそれと同じく。

「その、愚かさに……身を、焦がされろッ!!!」
「!?」

かわされたライデインの行く先に待ち構えるは、アレン。
瘴気を帯びた妖かしの息も、竜ならではの強靭な肉体にはさして通用していなかったのだ。
さざなみの剣を構え、迫り来る雷と睨み合う。
アレフは気でも違ったか、と止めに入りたかったがすぐにその思考を吹き飛ばすほどの轟音が響く。
アレンが凄まじい速度の勇者の雷と、真っ向から切り結んだ。

「なにっ……!?」
「グ……ウゥオォッ!」

稲光に圧されるが、力任せに斬り返す。
竜王アレンが、啼いた。
雷鳴を響かせ、激しく発光したアリスの雷。
それはアレンの衣の袖を焦がし、腕を、指を焼きつつも、まるで鏡に映されたかのように行く先を変えた。
剣に秘められたマホカンタの魔力を利用して、ライデインを反射させたのだ。
さらに、アレンの振るわれる剣は一つでは無い。
そのまま続くアレンの弐の太刀、それは竜の秘境にのみ伝わる宝剣・竜神王の剣。
そこから、追いかけるように巨大な雷撃が撃ち出された。
アリスの放った蒼雷に、新たに生み出された白雷が絡みつく。
その姿は恰も双竜の如く、雷鳴という名の咆哮を上げ勇者の雷はハーゴンの背を、射抜いた。

「……!」

ハーゴンが初めて、攻撃を食らった。
それは確かに、自分たちの攻撃が通用する確かな証拠。

 
 
 
「当たった……!」

エイト、アレフは息を呑む。
自分たちの攻撃が通じたことへの驚きだ。
数瞬前まで感じていた絶望を、勇気が上から塗りつぶす。
奴も傷つく、奴を滅ぼすことは不可能ではないと。

「……覚えておけ」

アレンはちら、とエイトと同じくこちらを見ているアレフを見て、続けた。

「冥府では違うだろうが、こちらでは強く生き抜く愚者を……勇者、と。そう呼ぶそうだ」
「心外ですね、強ち間違ってはいませんが」

アレンの言葉を続けたアリスは、身軽に着地する。
双剣を持つ竜は構え、勇者はマントを靡かせ腕を組んだ。

「……」

ハーゴンが杖を取り落とし、初めて直立以外の体勢を取る。
膝を突いたその姿に驚いたのは、他ならぬ傷つけたアリス自身だった。

(最初に集められた時に感じた奴の力、バトル・ロワイアルを企てるほどの際限無き魔力
 ……果たしてたかだか一撃で膝を突くでしょうか?)

アレフ、エイトが二人の攻撃によって跪いたハーゴンの動きを狭めるべく、包囲網を組む。
四方を囲まれたハーゴン、次にどう動く。
兆しだけの希望では、得体の知れなさを振り払うに至らない。

 
 
 
 
─かわく

 
 
 
 
そして走った緊張は、すぐさま破られた。
ハーゴンのたった一つの呟きと、異様な変質に。

 
 
(何が、起きた……)

アレフは一瞬意識を失いかけた。
未だ現状を理解し切れていない、だがここでこのまま微睡むようなマネをしていてはいけない。
必死で直前に見た光景を思い出す。
跪くハーゴンの背。
そこで何がしかが蠢いた。

(はね、が……)

鳥、猛禽類、否、もっと……何か。
もっとも、闇に包まれた『それ』は、何と表現すればいいのだろうか。
眩みそうな思考では頭から丁度いい単語が引き出せない。
やっと開いた思考の扉から出てきた言葉で、例えるなら、そう、蝙蝠のような。
そんな、ハネ。

(そうだ、奴、は)

眩んで覚束無い視界を頭を振りはっきりとさせる。
目に飛び込んだのは、四方に吹き飛ばされた一行。
エイトは槍を取り落とし大の字に倒れ、アレンは膝を折り。
最後に目を向けたアリスが、宙に拘束されていたところでアレフの目が見開かれた。

「ッぁ、ア、リス!!!」

咳き込みそうになりながら、ギリギリの声をアレフは搾り出す。
アリスを封じているのは、ハーゴンの腕。
だがそれは、腕と言っていいのかも既に分からない変容を見せていた。
ハーゴンの身体を取り巻く闇は、先程までとは比べ物にならないほど膨れ上がっている。
本人の腕は、空を掴んでいる。
しかし闇から伸びる数多の腕がその腕を模し、アリスの剣を、腕を、細い首を掴み上げ、宙へと縛り付けて

いるのだ。
ほんの少し捻り上げれば、その全てを逆に折り曲げてしまいそうにすら見えた。

「うっぐ、ぉぉォッ!!!」

身体の所々が痛むが気にはしていられない。
傍らの剣を取り、盾がどこへ行ったか探す暇も惜しかったアレフは駆ける。
蠢く腕は、アリスの肌に喰い込みつつあった。

 
 
「う、ァ、あァっ!!」

 
─見よ、ルビス
 そなたの子らが、泣いている

 
「はァ、な、せ……ッあぐッ!」

 
─来や、ルビス
 愛し子たちの死を見届けておくれ

 
ハーゴンは、いや、『死を運ぶ何か』は、謳うように言う。
だがその口は閉じたままだ。
もはやこの存在は、空気を震わせて声を伝えることを必要としていないらしい。
逆に、アレフの口は叫ぶ形を取っているというのに声も出ない。
乾いた叫びがひたすら呼気を排出するのみだ。
声にならない叫びと共に、アレフは王者の剣を叩きつけようとした。

 
─悔いよ、ルビス
 己と、己が子の弱さを

 
ハーゴンの生身の手に力が篭ったかと思うと、空を握りつぶす。
さながら鼓動のように闇の伸腕が脈動し、その内にて崩折れるアリスの小さな身体はいとも容易く─

 
 
 
 
 
 
「悔いるのは貴様だ」

 
 
その手に浮かぶのは憎悪の炎。
絶望を糧とする魔王、その身体をも焼き尽くす極大火球呪文。

「メラゾーマ」

闇夜に煌く恒星の如く、炎が輝いた。

 
 
 
 
 
背後からの獄炎は球体となり、異形と激突した。
ハーゴンの肉体が炎に飲み込まれ、伸びた闇の集合体もまた消されゆく。
灼かれた闇は、まるで灰のようにボロリと崩れ千切れゆく。
悍ましい断末魔を上げたのはハーゴンか、それとも。
ともかくその肉体は激しく燃焼しつつ、祭礼の間の壁まで飛翔するかのように吹き飛ばされた。

「……か、っ!けほ、げほっ……!!」

本体から腕が切り離され、解放されたアリスの身体は地に落ちた。
激しく咳き込むが、身体のどこを捻じ曲げられたわけでもない。
紛れもなく、生きていた。
勇者アリスは、生きていた。

「ぐっ……な、に……」

アリスの激しく咳込む声に反応したか、エイトが頭を振ってどうにか起き上がる。
どこかに打ち付けたか、バンダナに紅の滲みが浮き、顔には血の線がひとつ。
揺れた脳は状況を把握するのに、幾許かの時間を要した。

「みなさん!!……ああっ!!いた!マリアさんっ!」
「……?フォズさん?」

 
鈴のように澄んだ少女の声が届く。
ずいぶんと久しぶりに聞いた気がするそれが、エイトの意識を定かとした。
こちらに来てはいけない、と言う間も無くフォズが祭壇を駆け上がる足音が聞こえる。
どうやら目覚めぬ眠り姫を、必死で揺り動かしているようだ。
無論、先程の火球の主はこの可憐な少女では無い。
術者は、同じ扉から現れた。

 
 
「……ハーゴン」

 
 
フォズのそれとは別、鈴に例えるには余りに低く怒りを孕んだ声。
カツカツ、と冷たい印象を受ける足音と共に、黒衣の男は現れた。

「……いや」

開け放たれた大扉から、周りの何を気にするでもない。
ただ見据えるは、邪悪の根源。

「もはやそう呼ぶ必要もあるまい」

静かな怒りを讃え、闇の血族の頂点に立つものは立っていた。
その身に滾る復讐の炎。
愛する者を奪われた、その元凶へ向ける憎悪。
やっと、矛先に相応しい相手をその目に捉えた。
長かった。
本当に、長かった。
迷い揺らぎ、一刻は身を委ねた。
だが、その選択は愚かだったと、思い知る。
魔王ピサロは感づいた。
自分は一行の中で最も"こいつ"に近い存在。
いや、愚かにも踏み込んでしまった存在だった。
だからこそ、感づいた。

 
 
「"死導"……破壊の神よ」
(シドー)

 
目の前の存在の真名を告げ、魔王は言う。
この下らないゲームの開始当初から願い続けた、一つの覚悟を。

「貴様を滅する」

それは、闇に堕ちてすぐ望んだハーゴンを八つ裂きにしたいという薄汚い欲望とは違う。
そして、かつてのように再び人間達に絶望し全ての命を絶やすという黒き野望ともまた、違う。
好いた女の仇を討つ、男としての矜持。
ただひとつの、愛の為。
神を超える理由は、それだけで十分にすぎた。

 
 
 
「……ピサロォッ!!」

と、ここでアレフが駆けつけた魔王に声を上げる。
アレン、エイトもようやく意識をはっきりとさせたようだ。
エイトがアリスに駆け寄って、回復を試みている。
救われたのは確かだが、一つ納得行かない点があった。

「焼き殺す気かッ!!!」

 
 
 
 
アリスを助けるべく剣を振りかぶった鼻先を、熱風が掠めて行った。
もう少し踏み込んでいたら、身体の前半分が焼き消されていたかもしれなかったところだ。
手荒い救援にアレフは感謝より先に文句が飛び出る。
きっとすぐ傍でなければ見逃してしまうだろう、それほど微かではあるがピサロの口元が、上がった。

「生きていたのか」
「おい!」

臆面も無く言い放つその姿にアレフは腹が立った。
だがその腹立ちすら、どこかありがたく感じた。
これが、これこそが『本来の自分』だ。
一欠片も出すことが叶わなかった出なかった大声が、出せた。
盾を拾い、剣を構え直すことができた。
邪悪に怯え、混沌たる闇に震える姿を誰が勇者と呼ぶだろうか。
アレフは持ち前の勇気を今再び取り戻した。
そこにアレンが、やや気怠そうに首を鳴らし、現れる。

「……声を張り上げるな、傷に響くだろう」
「!……無事か?」
「お前とは、身体の出来が違う」

誇らしげに剣を再び取り、気高き竜は勇者に意思を見せる。
未だ立ち上がる、ただあの姫に勝利を捧ぐ為だけに、と。
そう、この二人もまた同じ。
戦う理由、命を賭ける理由を、魔王と同じくしていた。

(挫けかけたが……また助けられたな。奴らにも、君にも)

アレフが剣を取る理由。
それもやはり。

(闇に慄く勇者は、格好がつかない……よな?だから、誓おう)

どこかで見ていてくれる愛する人に、そう語りかける。
彼の立つ理由も愛の為。
失われた願いを再び、繋ぐ為。

(必ず、勝つ!!)

 
 
その為ならばアレフは、いくらでも勇者になれた。
勇者アレフは、勇者たりえた。

 
 
「ご無事で」
「ああ」

エイトも駆けつける、この中で負傷が色濃い者はいないと見えて安堵の息を漏らしていた。
アリスはというと安堵する間も無く、おろおろと狼狽えている。

「……そうだ、マリア!フォズさん、マリアは……!!」
「今ベホイミを」

東西南北、四方に散らされた一行はピサロ、フォズと同じく祭壇まで集結する。
アリスは階段を、途中に立つピサロには目もくれずに転ぶのではないかという勢いで駆け抜けた。
心配そうにフォズと共にマリアの顔を覗き込んでいる。
ピサロは敵に背を晒すアリスに軽く眉を顰めた。

「勇者アリス、隙を晒すな。敵はまだそこだ」
「……そう言ってフォズも止めなかったじゃあないか、お優しいことで」
「フン……」

まあ、それをフォローするのが俺たち男だしな、とアレフは気楽に言ってのけた。
夜目の利くアレンは、闇と同化するほど炭化したハーゴンの肉体を油断無く警戒する。
今のうちに、とピサロがエイトと協力してベホマの呪文をかけ合った。

「奴は?」
「動いたな」

アレンの双眸が、僅かな身動ぎを捉えた。
近くに佇んでいれば、その度不快な骨の破砕音や筋肉の断裂する音が聞こえただろう。
誰もが思わないだろう、その襤褸屑のような男が世界を揺るがした等と。
もはや単なる焼死体と成り下がったそれは、だが二本の足で確かに立った。
ゆらりとこちらを向く。
足を引きずり、ずるり、ずるりと近づいて来る。
フォズは声を失い口を手で抑えた。
皆が戦慄し、各々武器を構えた。
警戒する理由、それは。

 
 
「傷が……」
「どういう理屈だ、あれなら呪文を唱える喉も焼けてるはずだろう……」

誰もが言葉を失うだろう、それほどその姿は悍ましいものだった。
ボロボロと死んだ皮膚が崩れ落ちるが、その肉体を闇が覆っている。
そうすると、折れた骨が音を立てて繋がり、ズタズタの筋肉が蠢き繋がり合うのだ。
回復呪文で行うそれとはまた違う、これは悪魔の所業に近い。

「……凄まじい速度で肉体が修復されています」
「奴の正体が"破壊神"ならば道理だろう」

今まで出会ったどんな異形よりも禍々しい姿にエイトは戦慄する。
いち早くこの状態を何と称するかを感づいたピサロが、そう呟いた。
その顔はもはや闇の集合体と化した物体を、蔑むように顰めている。

「……破壊神、だと?じゃあ、やはりあれは……」
「ハーゴンは肉体を乗っ取られた、のでしょうか」

アレフは最初に感じていた違和感を飲み込めた気がした。
自らの肉体を用いる戦いは、邪神の力。
驚異的な呪文完成の速さは、神官の力。
そう、二つの強さを内包しているからこそ、強く、ちぐはぐに見えたのだと。
対してエイトは、ハーゴンのこの状態がとても過去と似通っていることに感づいていた。
かつての敵ドルマゲス。
暗黒神を封じる杖に魅入られたばかりに、その身を神の器として明け渡すことになってしまった。
今のハーゴンも哀れな"容れ物"としてシドーにその身体を、力を利用されているのでは、と思ったのだ。
しかし両者の考えの微妙な違和は、吹き飛ばされた。
巨大な爆発音によって。

「っ!!」
「う、わっ……!」

 
 
 
一瞬、光が走る。
大地を、踏み止まる身体を、ビリビリと大気の振動が叩いていった。
離れたところ、破壊神の身体を完膚無きまでに爆発が塗りつぶして行く。
先刻アレフを直撃したそれと同じく、破壊の槌が闇を刹那の輝きで満たした。

「攻撃、か……?」
「いえ、奴の攻撃では」

こちらを狙って放たれたわけでは無い。
自爆する前兆すら無かった。
あれはこちらから放たれた。
では、誰が。
その疑問の主は祭壇の上にいた。

「……乗っ取られた、というのは少し違うと思います」

生贄の台座から、すらりと白い足が降りる。
その掌は開かれている。
怨敵の顔面があったであろう方角へとしっかり向けられ、開かれていた。
忌々しきハーゴンに宛がわれた服などは、いつの間にか脱ぎ捨てている。
いつ着替えたのやら、親友アリスの偽りの故郷で得た布の服。
その、長めの裾が揺れていた。

「あれはハーゴンでした。……そして、シドーでもある、のだと……そう、思います」

伝説の証明たる紋章こそ無いものの、似合いの頭巾の紐を結ぶ。
宿敵との二度目の邂逅の戦衣は、やはりこれを選んだ。
フォズが預かっていた装備を再び自分の手で持つ。
誰よりも多くの悲しみ、怒り。
そして優しさを抱えた戦士。
王女マリアは、目覚めた。

 
 
「マリアさん!いきなりそんな呪文を……」
「大丈夫、フォズさん……ありがとう」

起き抜けのイオナズンに、起きるまで必死に介抱した少女は心配故の抗議をする。
だが女神の笑みをフォズへ向け、マリアは深い感謝を告げる。

「私もすぐに、行きます」
「えっ……」

言葉を失うフォズに大丈夫、と微笑みかける。
隣のアリスともまた、微笑み合う。
ここまでは可憐な花の如き少女そのもの。
しかし、ここから先は怨敵と戦う一人の戦姫。

「……あなたは、私が守ります」
「……私も貴女を、必ず守るわ」

二人の少女は戦地へと降りる。
戦姫、勇者、共に眼差しは祭壇の下へ控える彼らと同じく、研ぎ澄まされた刃の鋭さ。
フォズが法衣の裾をぎゅっと掴む。
震えの走る吐息を飲み込み、呼びかけた。

「わ、私も!」

少女の大きい決意の声に、マリアとアリスは振り向いた。
恐怖はある、手は微かに震えている。

(その気持ちを忘れない限り、君は俺たちと一緒に戦う戦士だ)

アレフからもらったなけなしの勇気を胸に抱きしめ、足は止めない。
恐れを封じ、二人の後へと続く。

「私も……戦います!!」
「……ありがとう、フォズさん」
「心強いです!」

三者三様の可憐な笑顔が、戦場に花を咲かせた。
だが、少女の時間はここで終わる。
かくして虹の架け橋で闇から逃れた七人の戦士達。
引き裂かれることなく、再び絆を辿り巡り会った。

 
「……再会を喜び合う暇は、あまりいただけんようだ」

マリアのイオナズンの威力は怒りを乗せたか凄まじい威力でハーゴンの肉体を粉砕した。
だが粉微塵になったかに見えたハーゴンの肉体が、地を這い結び付き合い、再び形作られようとしている。
例えばスライムを限界まで汚せばああなるのであろうか、ひどく醜い姿となり這いずるその姿が神などと、

誰が思うだろう。
皆その姿に一様に顔を顰めた。

「……マリア、目の前の"あれ"は……ハーゴンなのか?シドーなのか?」
「はっきりしません……いえ、でも……相対してわかりました、あれはハーゴンに間違いない……」
「……ふむ、そうか」

一人合点がいったかアレンが頷いた。
ピサロと同じく人では預かり知れぬ知識に富んだ身、かつてどこかで聞いたアレフガルドの外に伝わる邪神


その情報を思い起こす。
破壊の力、そしてその裏の力。

「ハーゴンの肉体は、シドーとこの空間を繋いだ"門"だった」
「え?」
「マリア、奴をハーゴンと断ずる理由はなんだ」
「……奴はハーゴンがかつて犯した罪を記憶していました。それに……」

マリアは思い出す、あの広間でハーゴンにたった一人立ち向かったことを。
間近に感じた、あの邪気は。

「……あれは奴です、こんな言い方では不信でしょうが……私は、覚えています」
「誰よりも奴を知るお前の言葉なら、疑うべくもなかろうよ」

アレンがあっさりと言ってのけたことに、アレフは可笑しそうに上を向いた。
じろりと見るだけを抗議とし、そのまま続ける。

「ハーゴンの肉体を足場とし再び降臨したシドーは、完全なる復活を遂げる為―
 『破壊の宴』を実行した。血に塗れた魂と、強き肉体をどちらも手に入れる、それが目的で」
 バトル・ロワイアル

立てられた青白い人差し指が、自壊と復元を繰り返し徐々に何かを象りつつある肉体を示した。
よくよく見れば、周りの塵、瓦礫、果ては術の行使により満ちた魔力をも食らっている。

 
 
「魂は"餌"、力を行使する為に贄が必要、だが勝者の肉体のほうは我々の反乱により可能性を捨てたか、
 必要ないと踏んだか……あれはハーゴンだった、と言ったな」

蠢く肉体が立ち上がる。
その姿が、元のハーゴンを無くしていく。
少しずつ、少しずつ。
破壊を伴い、質量は徐々に増大していく。

「破壊の神はハーゴンになりすまし信者を動かして儀式を行った。
 何、造作もないことだったろう。なにせ『破壊』は裏返せば『創造』だ」

アレンは言う、破壊神の真実を。
その力は表裏一体、壊さねば創ることもできないのだ。
時空を遡り、異世界へと介入し、狭き籠へ英傑、勇者、魔王等々を封じる。
神でなければ成せない奇跡を、『できない』という事実を『破壊』することで叶えたとでも言おうか。
ともかくシドーは、邪神とは言え神なのだ。
全てを超える強大な『力』を持っていた。

「そのうちに肉体に残った意志の残滓、ハーゴンの最期の思いを破壊の指針とし、
 我々が挑もうとしているのを知りつつ、それもまた佳しとした。
 ……というのは、どうかな」
「もっともらしいが、立証手段はあの様だ。だがその認識で構わない」

アレンのまとめをピサロは肯定する。
その間にも、異形はその形を増大していく。
全ての生者は、これを見れば戦慄するだろう。
相手は破壊神。
全てを壊す。

"概念""常識""法則""理屈"

果ては"勇気"を―

「……つまり、理屈が通じない相手だっていうのはよく解った……だが、な」

 
 
違う。

そんなはずは、ない。
彼らには譲れぬものがいくらでもある。
変わらぬ思いが、ここにある。

「俺たちのやることは変わらないさ」

破壊神にも、彼の勇気は揺るがせない。
誰かを愛する心は、壊せない。
未来を信じる、希望を滅ぼすことは叶わない。
一握りの心を砕くことは、できない。

「俺たちが砕けるか、奴が滅びるかだ」
「……それでいい」

勇者の決意に、最大の宿敵は大いに賛同した。
彼らのみでは無い、皆がその決意を同じくしていた。

「さあ、さっさと破壊神に本性を現してもらいましょうか!」
「おそらく奴は肉体を移し替えるプロセスを省略する為に、肉体を徐々に
 風化させつつ周囲の存在を取り込み、この空間で顕在できる肉体を
 ハーゴンを核として形成する……この反応は奴のこの空間での存在が
 希薄になればなるほど加速していくだろう」
「……つまりどういうことだ」

状況が状況だが一度にそんなに多くの単語を使われると理解が追いつけない。
言葉の濁流で脳を蹂躙されたように感じ、アレフは混乱した。
教鞭を振るう立場になったような気分がして、ピサロは珍しく粗野に頭を掻く。

「……今の奴は、言わば『第一形態』。シドーの本性、つまり『第二形態』にするには……」

ピサロは少々考えて、告げた。
誰にでも、それこそ子供にも解りやすいように。

「叩きのめす」

 
 
「おお」
「わかりやすいですね!」
「あ、あはは……」

アレフ、アリスが揃って手を叩いた。
やはり血の繋がりと言う奴は、とピサロは溜息を漏らす。
フォズまで苦笑し、二人の勇者は顔を見合わせた。
一同の緊張は、解れたようだ。
その証拠に、まだ、皆が笑い合える。

「……では、皆さん行きましょうか……コホン」

勿体ぶるかのように一つ咳払い。
勇者から、次の作戦が告げられた。

「"ガンガン行きましょう"!!」

一行は、力強く頷いた。

 
 
 
アレフ、アレンが疾風のように駆ける。
そこに、闇が飛んだ。
変形と崩壊を繰り返す破壊神の肉体は、大人しく攻撃を食らいはしないようだ。

「っ!」
「よっ……とぉ!」

暗黒の弾丸をアレンは身体を捻り、アレフは跳躍することで体よく回避。
竜王の持つ宝剣が腰だめに構えられた。

「ぬゥッ!!」

竜の刃が、横に一文字。
続く剣閃の主は、空に居た。

「でやあっ!!!」

王者の刃は、縦に一文字。
十字架のごとく切り裂かれ、分断された肉体が四散する。
じゅう、と音をあげ飛沫が飛び散り、撒き散らされる刺激臭。
肉体が収束、結合していく。
その速度はやはり徐々にではあるが速まっている。

「竜の吐息よ!!」
「この掌に宿れ……!」

させぬ、と二人が詠唱したのは奇しくも同じ呪文。
破壊と構築を繰り返す肉体を、閃熱が灼いた。

『ベギラマ!!』

 
 
放たれた閃光は表と裏から闇に炸裂する。
死体を焼いてもこうはいかないだろう、ひどい臭いが一気に拡散した。

「ぐぇっ、ひどいな……」
「……やはり倒しきることはできんようだな」

だが、恐るべき進化は止まらない。
周囲の全てを食らう力は強まるばかりである。
その毒牙は、ついに神殿の姿を構成する幻影に及びつつあった。
破壊神の周囲の景色だけが、まるで陽炎のように歪んでいる。
空間が途切れる、景色が引き千切られた。
そう、かつて最大規模のイオナズンがこの神殿で放たれた。
悪魔神官の反逆、そのときのように。
途切れた空間の隙間に詰まっていたのは、斑な色が広がる。
神すら手を差し伸べること叶わぬ、異空間であった。
彼らが虹の橋を創ったあの時、崩れ落ちる箱庭を取り囲んでいたのがこれだろう。
その中心で異形が見せるは、まるで世界を食らう化物のような成長。
肉体はさらに膨れ上がる。
大きさがベリアルを越え、アトラスの背丈に及ぶほどであった。
その巨塊の中心。
不意に、白銀が貫く。

「……雷ッ……」

ギリ、ギリと肉体から銀の輝きが伸びていく。
その正体はメタルキングの槍。
近衛兵エイトの渾身の突きは、続いている。

「……光ォ……!!」

肉体がメリメリと音を立てて軋む。
ふ、と音が一瞬収まったその次の瞬間。

「『一閃』突きッ!!!」

会心の一撃は、肉体を破砕しエイトに流星の勢いを与える。
宛ら弾丸のようにエイトの身体は飛び出し、肉体にトンネルを生みだした。

 
激しい声、と言っていいのだろうか、ともかく耳障りな悲鳴染みた音を闇の核から響かせる。
穴をどす黒い血肉が埋め尽くし、触手の如く闇の腕がエイトを取り囲む。

「ーーーーーーーーッ!!」
「くっ、ギラ!!」

周囲を取り囲まれ、エイトは咄嗟にギラの呪文で応戦する。
だが焼け石に水、相手には怯む様子は見られない。
退路を立たれたエイト、そこに後方から高速の光が飛び込んだ。

「!?」

その光は闇を打ち消し、弾き、そして焼き千切る。
弧を描いて再びエイトの視界から消えたそれは、炎の秘石が輝く炎のブーメラン。
アリスの正確無比なピッチングから放たれた一撃はさながら火の鳥。
ブーメランは投擲者の手元にぴたりと張り付くように戻っていった。

「あなたの相手はこちらです!」
「すみませんアリスさん!!」

その隙を突き、エイトは素早く触腕の攻撃範囲から離脱する。
退路を守るかのように、三本の矢が立て続けに撃ち込まれた。
アリスが先程フォズから譲り受けた、ビッグボウガンの矢だ。
無くなった矢は先程のキラーマシンから回収してある。

「弓術の嗜みはありませんが、なんとかなるものですね!!」

胸を張りまったくその身に似合わぬ巨大なボウガンを掲げた。
本来大の男が全力で弦を引くべき武器なのだが、アリスにとってはなんということもないらしい。
食らった方はと言えば、一度身体をバラバラに分解することで突き刺さった太い矢は抜け落ちる。
その矢すらも取り込む闇が、何かに感づいた。
同じく極上の栄養となる魔力の集中を感じ取っている。
ピサロ、マリアの両名が一行の最後尾に控えていた。
その掌を、重ねて。
その照準は、歪みの中央。
マリアが詠唱する声が聞こえる。

「天の精霊、歌え断罪の聖歌……」

贄を求め、闇が蠢いた。
アレフが盾を構え、アレンは剣を十字に組み、立ちふさがる。
しかし彼らの眼前で肉体は爆散する。
虚を突かれ二人はすぐさま次の行動に移る間も無い。

「大地の精霊、奏でよ破壊の旋律」

ピサロの淀みない詠唱が響く。
止める気は無いようだ。
周囲に散開した闇の一粒一粒が、マリアとピサロの頭上で結合する。
今の分散でさらに周囲の景色はぼんやりと歪む。
移動した痕跡のように、削り食われた空間の残骸、異空間が広がっていた。
巨体も天井を貫かんばかりの大きさとなっている。
そしてもう一つ、変化があった。

「羽がッ!」

アレフは出来損ないの肉団子に翼が生え、空を飛ぶ光景を見た。
その翼がマリアの眼を見開かせる、心当たりがあるのだろう。
だが考える暇も無く、羽が動きを止めた。
破壊神も、物体が下に落ちるという法則は破壊しなかったようだ。
自由落下を始め、巨大な質量を以て二人の身体を押し潰さんと迫る。
真下の彼らの姿は、そのままだ。
動かずしてその場から、消えた。

「!?」
「「掲げられし王錫の下、王に成り代わり我らは命ず」」

王女と魔王による、合体詠唱。
二つの呪文を重ねることで、その威力は二倍、果ては二乗。
意識が同調すればするほど、際限なく高まっていくという。
闇は消えた詠唱者の居場所をどう探ったか、地面に叩きつけられたような姿勢のまま飛び上がる。
二人は祭壇に居た。
その姿は、まるで大神官の眼前にて祈るかのよう。
―その大神官、フォズには懐かしいダーマが頭をよぎる。
祭壇ごと食らうつもりか、上方から飛びかかる巨大な蝙蝠のような肉塊。
エイトとアリスがようやく駆けつけるがそこは祭壇、手を出すには階段を駆ける時間が足りない。
しかし、間に合った。
詠唱は完成される。

『落ちよ、万物を砕く精霊の槌!!』
「い、今です!!」

マリアから借り受け、ピサロに持たされた『引き寄せの杖』の力。
フォズのサポートがあってこそ、この詠唱は完成した。
二人が見せる、感謝の笑み。
それが大神官フォズの心を、共に戦う戦士たらしめる。
まるで祝福のように、爆光が祭壇に立つ三人をまるで太陽のように照らし出した。

 
『 イ オ ナ ズ ン !!』

 
重ねた掌が、輝いた。

 
 
 
 
―世界が、爆ぜた。
そこに人々が居たなら、こんな表現を後世に伝えるだろう。
それほど大規模に空間が揺らいだ。

「……なんて威力だ」
「やりおるわ」

アレンとアレフは、祭礼の間の一角だった場所にいた。
後方に入ってきた扉の残骸が、蝶番一つでぶら下がっている。
そして床が、壁が、異空間にふわふわと浮かぶ浮島。
そう表現するしかない場に立っていた。

「……ですが、これは……」
「始まりに、過ぎません」

エイトが、アリスが油断なく吹き飛んだ相手を警戒し見据える。
彼らは、祭壇と繋がる赤絨毯がまだ無事な浮島の床に立っている。
だが、四方どこにも壁が無い。
この空間に投げ出されれば、どうなってしまうのだろう。
及びもつかない恐怖だった。

バサッ。
バサッ、バサッ。

破滅が羽音を立てて、やってくる。

「……来る」
「あの時と……同じ……」
「……」

祭壇の上、ピサロは息を呑む。
マリアは眼を見開き、過去の戦いを回想した。
そしてフォズは、すっかり言葉をなくす。
神に仕える立場であるフォズ。
だが異教の神の恐ろしさに、少女は祈りを一瞬忘れた。
蝙蝠のような、巨大な羽。
その身をギラつかせる、鱗。
どこまで裂けているのか、どこまで深いのか、地割れを思わせる口。
どんな剣でも容易く餌食にできてしまいそうな、鋭い牙。
血を思わせる、深紅の輝きを放つ眼。
世界の断片が散らばる異空間。
彼らを見下す形で、破壊の神はそこに降臨した。

『グギャアアアアァァァァッ!!!』

 
 
「……」

交わす言葉は無い。
ハーゴンの面影もまた、無い。
彼らの戦いの前には口上、賛辞、前置きなど何一つ存在しない。
なぜなら、目の前の存在は死を導く者。
死の先には、何も―無い。

「……行こう」

誰が誰とも無く、そう呟いた。
奇しくも虹色と同じ数、七つの力。
破壊神を滅せんと、矛先を一つにする。
彼らは、不死身の敵に挑む。

 


【???/世界の残骸/ゲーム終了・最終戦闘開始】

 
【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP9/10 MP微消費 左足に刺傷(完治) 首輪なし
[装備]:ロトの剣 ロトの盾 鉄兜 風のアミュレット
[道具]:支給品一式 氷の刃 消え去り草 無線インカム
[思考]:このゲームを止めるために全力を尽くす

 
【アリス@DQ3勇者】
[状態]:HP8/10 身体に絞跡 MP微消費 首輪なし
[装備]:メタルキングの剣 王者のマント 炎の盾 星降る腕輪 
[道具]:支給品一式 ロトのしるし(聖なる守り)炎のブーメラン 
    祈りの指輪(あと1.2回で破損) ビッグボウガン キラーマシンの矢×17
[思考]:仲間達を守る 『希望』として仲間を引っ張る

 
【エイト@DQ8主人公】
[状態]:HP8/10 額から出血(治療済) MP微消費 首輪なし
[装備]:メタルキングの槍 布の服 マジックシールド はやてのリング
[道具]:支給品一式 イーグルダガー 無線インカム 
     84mm無反動砲カール・グスタフ(グスタフの弾→発煙弾×1 照明弾×1)
[思考]:悲しみを乗り越え、戦う決意

 
【竜王@DQ1】
[状態]:HP8/10 MP微消費 人間形態 首輪なし
[装備]:竜神王の剣 さざなみの剣
[道具]:外れた首輪(竜王) 魔封じの杖 破壊の鉄球
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪

 
【ピサロ@DQ4】
[状態]:HPほぼ全快 MP7/10 右腕使用不能 首輪なし
[装備]:鎖鎌 闇の衣 
[道具]:支給品一式 首輪×5[首輪二個 首輪(分解) 首輪×2]
     飛びつきの杖(2) アサシンダガー プラチナソード 奇跡の石
     ピサロメモ 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)   
[思考]:破壊神の破壊
※ピサロの右腕は通常の治療では完治できません。
 また定期的な回復治療が必要であり、治療しないと半日後くらいからじわじわと痛みだし、悪化します。
 完治にはメガザル、超万能薬、世界樹の雫級の方法が必要です。 

 
【フォズ@DQ7】
[状態]:HP健康(神秘のビキニの効果によって常時回復) MP9/10 首輪なし
[装備]:引き寄せの杖(1) 神秘のビキニ(ローブの下) 
[道具]:支給品一式  アルスのトカゲ(レオン) 天罰の杖
     神鳥の杖 祝福サギの杖[7] ドラゴンの悟り 
     あぶないビスチェ 脱いだ下着 
     太陽のカガミ(まほうのカガミから変異)錬金釜 ラーの鏡 
     天馬の手綱(ファルシオン)
[思考]:ゲームには乗らない ピサロとともに生きる

 
【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP健康 MP微消費 首輪なし
[装備]:いかずちの杖 布の服 
[道具]:小さなメダル 聖なるナイフ 鉄の杖
    ルビスの守り(紋章完成)インテリ眼鏡 風のマント
[思考]:全てを終わらせる

 
 
 
 
 
 
【破壊神シドー@DQ2】
[状態]:HP??? MP??? 
[思考]:死導  


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