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明けの空、朱の王都

明けの空、朱の王都


登場人物
アレフ(DQ1)、アレン(竜王)(DQ1)、トルネコ(DQ4)、アトラス(DQ2)、キーファ(DQ7)


 俗に、朝は希望の象徴であるという。
明けない夜などないように、どれほど長い闇の時代にも必ずや終わりは訪れる。
――闇は滅され、小さな光はいつか太陽となって大地を照らすだろう――
だが、現実はそう簡単にはいかないらしい。
 白みはじめた東の空を見遣って、アレフは拳を握り締めた。 
 
 

「バズズーーーーーーーーーッ!!!」
 薄明の王都に大音声が響き渡る。
当人はただそのバズズとやら――確か夕刻の放送で呼ばれたはずの名だ、
それを知らないということは、あの魔物もキーファやエイトと同じく
放送を聞き逃したくちなのだろう――を探しているだけなのだろうが、
人間の街は彼のような巨体が自由に歩き回ることを想定して作られてはいない。

 もともと半壊状態だった城の一角は、先程アトラスが肩をぶつけた衝撃でものの見事に崩れ去ってしまったし、
均一に敷き詰められた石畳は、一歩足を踏み出すごとに無残にもひび割れ、
無造作に手を振るうたび、通り沿いの家屋が紙のように引き千切られていく。
 裂かれた壁の隙間から覗く洗い立てのシーツや、住民の手製らしい素朴な柄の壁掛けからは、
ついさっきまでそこで暮らしていた人のぬくもりさえ感じられるようで、
この大陸には自分たちハーゴンに招かれた者しかいないらしいと分かってはいても、
誰か逃げ遅れた人が巻き込まれてはいないかと思うと、それだけでアレフは背中が粟立つのを感じた。

「全っ然、追いつけ、や、しねえ」
「ああ。実際そうなんだろうが……化け物か、奴は」
 毒付くキーファの言葉には荒い呼気が混じってひどく不明瞭で、
答えるアレフにもそう余裕はない。
アトラスの足跡を見つけてからこの方、ずっと走り続けた疲労は二人の身体に重くのし掛かっている。
  
 無論、それはアトラス自身も同じことのはずだが、二階建ての民家よりもなお背の高いアトラスと、
いくら鍛えたとはいえ結局のところ人間でしかないアレフたちには、如何ともし難い体格差がある。
はやてのリングと星降る腕輪の加護で速度こそ上がってはいるが、
アトラスが一歩で進む距離を十歩もかけて走らなければいけないことに変わりはない。
 そうして蓄積した疲労は足を鈍らせ、結果、未だにアトラスに追いつけずにいる。

(二手に分かれるべきか)
 このままずっと追いかけているだけでは、いつまで経っても進展は望めまい。
幸い、此処ではアトラスも平原でのように最短距離を突き進む事は出来ない。
また、家並みの中にあっても頭一つ大きい彼の巨体は十分目立つ。
適当なところで二手に別れ、片方はそのまま追跡を続け、
もう片方がアトラスの行く先を予測して前方に回る――単純な挟み撃ちだ。

 勿論、リスクは多々ある。
もしこの街に彼ら以外の人間がいたなら、この騒ぎに気付いていないはずがない。
その中にマーダーがいたとしたら、単独行動を取ることは死に繋がるかもしれない。
 だが、アレフとキーファの捜し人たちもこの王都にいる可能性がある以上、
いつまでも安全策ばかりを取っているわけにもいかない。

 今、此処で奴を止める。

アレフが心を決めた矢先、急に先行するアトラスが足を止めた。

「アレフさん!」
「よし、今のうちに――」
 距離を詰めよう。言いかけて、アレフはあってはならないものを見た。
   
 アトラスの足下に中年の男が一人、尻餅をついて座り込んでいる。
丁度出くわしてしまったのだろう。彼は慌てて立ち上がり、逃げ出そうとするが、
ふくよかを通り越してはっきりと丸い体型は、お世辞にも敏捷そうとは言えない。
見た目通り動きの遅い男の背を目掛けて、容赦なくアトラスの足が踏み下ろされる――

「のわっち!」

 ――が、響いたのは断末魔ではなく間の抜けた悲鳴だった。
男がつんのめって転んだことにより、狙いの外れたアトラスの足は深々と石畳を貫くだけに終わった。
 まさか避けられるとは思っていなかったのだろう、アトラスは一つしかない目を大きく見開いて、己が足と転がった男を見比べては不思議そうに首を傾げている。
半ば男の死を確信していたアレフとキーファもまた呆気に取られて立ち尽くし、
そんな場合ではないと気付いて慌てて走り出す。
 気を取り直したアトラスが再び足を上げたとき、アレフはその呪文を唱え終えていた。

「べギラマ!」
 掌から躍り出た炎の帯が、真っ直ぐにアトラスの顔目掛けて襲い掛かる。
アレフの魔力では大した威力は望めないが、目的は相手を傷付けることではない。
顔を焼かれることを嫌ったアトラスが、空の腕を振るって炎を払いのける間に、
アレフは両者の間に身を滑り込ませていた。
――間に合った。

「キーファ、その人を」
「分かった!」
「あ、あなた方は!?いえ、ともかく助けていただいて――」
「いいから、今は逃げてくれ!」

 遠目に見てもそうだったが、こうして間近に見るアトラスはまた一段と巨大だった。
一人で戦うのには慣れているが、流石にこのでかぶつ相手に他人を庇って戦い続ける余裕はない。   
 
「早く、今のうちに!」
 アトラスの振り上げたハンマーがアレフに迫る。
こんなものを真っ向から受け止めるつもりはさらさらないが、
後ろに二人を庇っている以上、道を開けてやるわけにもいかない。
ぎりぎりまで引き付けてから剣で受け、刀身を傾け威力を逸らす。
それでも殺しきれない衝撃が刃を通して腕に伝わり、苦痛に奥歯を噛み締める。
 だが、凌いだ。我知らず小さく安堵の息をつき、

「……な、」
腕にかかる重みが不意に消滅し、たたらを踏む。
 そして次の瞬間、アレフは己が目を疑った。
あれだけの重い一撃を繰り出した直後とは思えぬ身軽さで、アトラスが動いている。
(馬鹿な、速過ぎる)
焦るアレフの頬をふわりと風が掠めて、それでようやくそのからくりに気付いた。
アトラスを取り巻くようにして風が流れている。
アレフとキーファがそうであるように、おそらくアトラスも風の加護を。
 気付いたのは、だが遅過ぎた。

 アレフの脇をすり抜けて、先程為し得なかったことを果たさんとばかりにアトラスがハンマーを振り上げる。
キーファはようやく男を助け起こしたばかりで、到底対応出来そうもない。

今からでは呪文は間に合わない。
追ったところで先程のように間に割り込むことも出来そうにない。
   
(いや、まだだ)
 追い縋って、アトラスの腕を斬り飛ばす。
二人を救うにはそれ以外に術がない。
今、アレフの手にあるのは己が半身とも言えるロトの剣ではなく、鋼鉄の剣。
悪くはないが、かの剣とは比べようもないくらい切れ味に劣るこの剣で出来るものかは分からないが。
(――諦めるものか!)
 しっかりと柄を握り締め、ようやく硬直の解けた足で地を蹴り――

「――いい。そこを動くな」

 指示に従おうと意識したわけではないが、
静かな、だがやけによく通る声にアレフは思わず足を止めた。
その眼前で轟音と共に光が閃く。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
白い世界にアトラスの苦悶の声だけが響き渡り、
やがて光が収まって目を開けたアレフの目に映ったのは五体満足な二人と、
がくりと片膝をついた巨人の姿だった。
 その皮膚の表面でばちりと火花が爆ぜるのが目に入った。
――雷。

「無事だったか、トルネコ」
 中年の男――トルネコは顔に喜色を滲ませて、キーファは目を丸くして声の方を振り返る。
ともすれば険しくなる表情を必死に抑えて、アレフはゆっくりとそちらを見遣る。
殊更荒げたわけでもないのに無視することを許さない、その力ある声には嫌というほど覚えがあった。
 果たして、視線の先に立っていたのは以前相対したときと寸分違わぬ姿の、剣をかざした黒衣の男。
大柄な老人の姿に擬態してはいるが、その本質は間違うことなき闇。
アレフガルドを恐怖に陥れた魔王にして、堕ちたる竜の末裔。
   
「――何故、貴様が此処にいる。竜王」

「……王ではない」

 射殺すような視線を受けて答えた声は、何故か苦渋と自嘲に満ちていた。
その目にはかつての覇気は窺えず、アレフは違和感に眉を顰めた。

「もはや王とは名乗るまいよ。今のワシは、ただの――」
「アレンさん!」
 その空気に気付いているのかいないのか、トルネコが声を上げ、
アレンと呼ばった竜王の方へ文字通り転がるように駆け寄っていく。
その親しげな様子に、アレフはますます困惑を深くする。
 竜王は必ず殺す側に回るだろう、それを倒すことこそ己が使命と思ってきたが、
このトルネコという男は竜王がゲームを戦い抜くためのパートナーに選んだにしては、あまりに頼りなく思えた。
アレフと竜王の助けがなければ、既に今だけでも二回、トルネコは殺されている。
これが演技だとしたら大したものだが。
 アレフの思考をよそに、二人は会話を続ける。

「だが、何故宿を出てきたのだ?トロデはどうした」
「トロデさんはまだ宿屋に隠れてますよ。
 あの後、ピサロさん……いえ、私の元の世界の仲間から連絡がありまして、
 アリスさんのお知り合いらしい女性が『あの子を助けてやって』と――
 アレンさんこそ、アリスさんとマリアさんは?ご一緒だったのでは」
「先程別れた。あれの足止めが必要だろうでな。
 クリフトとリアは居場所はまだ掴んでいないが――」
「“リア”だって!?」

 捜し求めていた命の恩人の妹の名に、キーファがはっと顔を上げた。
間に立ち塞がるトルネコを押しのけて、肩を掴みがくがくと揺する。
   
「それは、ランドの妹のリアのことか!?
 その子は何処にいる?無事なのか?なあ、なぁ――」
「お、落ち着いて下さいよ!ええと、キーファさんでしたね?
 リアちゃんのお兄さんを知っているんですか?」
「知ってるも何も」
 くしゃりとキーファの顔が歪む。
「俺はランドに生かされて……約束したんだ」

 何を、とは聞かずとも明らかなことだった。
肩を落とし、だが強い決意を宿したその目にアレンは目を細めた。
 リアの兄。マリアや、アレンが名を継いだ青年の仲間である彼もまた想いを託し、人を庇って死んだという。
その関係に、知らず己とアレンの姿を重ね、瞠目する。

『人と、力を――』
 彼の最期の言葉は、今も耳に焼き付いている。
彼の命を賭した訴えに己が心動かされたように、
キーファもまたランドとの約束を必ずや果たそうと心に決めているのだろう。
不意にこの人間の青年に親しみが湧いた。

「リアは、今はクリフトという男に囚われている。
 アリスとマリアという娘たちが助けに向かったが、二人とも魔力が尽きかけている故
 苦戦を強いられているかもしれぬな」
 肩を掴むキーファの手が強張る。
その手を引き剥がしてアレンは言葉を続けた。

「その先を行ったところで別れたが、追いかけるなら早い方がよかろう。――行け」
「え、でもあなたは?」
「あれの相手が残っている」
   
 アレンの示す先、伏したアトラスの手がぴくと動いて、傍らに転がったハンマーの柄へと伸びる。
先程のギガデインで仕留めたものと思っていたが、気を失っていただけらしい。
おそらく直前で身を捻って被害を最小限で留めたのだろう。
きちんと確かめて止めを刺しておくべきだったかと思うが、今更遅い。
 アトラスは寝起きの子供のように大きな一つ目をぱちぱちと瞬かせて、悲しげに目を伏せた。

「……バズズ、アリアハン行く言ってたのに、いない。
 おまえたちが、バズズころした……?」
「なるほど、やはりおぬしはワシの相手らしい。
 バズズは自爆したが、そこまで奴を追い詰めたのはこのワシよ」

 挑発するように言い、アレンが前に進み出る。
その影がざわめき、質量を増していき――次の瞬間、そこに立っていたのは
アトラスよりは小柄だが、それでも人間よりは遥かに巨大な竜の姿だった。
「ソレヲ知ッテドウスル?アトラストヤラ」
「バズズのかたき……!」
 一つ目に怒りが灯る。

「バズズのかたき!ハーゴンさまのため、シドーさまのため、おまえたちころす!」
「――だそうだ」
 そのやり取りを聞き終えて、アレフが小さく肩を竦めた。
そしてなんら気負うことのない足取りで竜の隣に歩み出て、剣を正眼に構える。

「俺は残る。今のうちに行くんだ」
「アレフさん、でも、俺――」
 言いよどみ、アトラスとアレンが指した方との間で視線を彷徨わせる。
迷うのも無理はない。
“妹を守る”のがランドという死者との約束なら、
“アトラスを止める”のもまたアリーナという死者と交わした約束なのだ。
ランドとアリーナ。自分を庇って死んだ二人のどちらを優先すべきか、判断しかねている様子だった。
   
 だから、アレフはその背を押してやる。

「心配しなくとも、君とエイトと、そのアリーナさんという女性の分も、俺が戦うよ」
 アリーナの名にトルネコがぴくりと分厚い肩を震わせたが、
それは視界の外でのことで、アレフは気付かなかった。

「――君の手で、リアちゃんを助け出してやれ」
 剣は、人の心を映す。
怒りや憎しみにかられた剣は、時にその限界を越えた力を生み出すこともあるが、
攻めに偏った剣は必ず守りに歪みを生む。
 まだキーファが剣を振るうところを見たわけではないが、
彼の良くも悪くも真っ直ぐな性格は、そのまま剣にも映るのではないかと思われた。
そうしてろくな防具もない今、アリーナの仇だというアトラス相手に怒りにかられた剣を振るえば、
それは彼の命を危険に晒すことになる。
そして、命を賭してキーファの命を救った、二人の想いを軽んずることにも。

 駄目押しの一言に、やがてキーファはゆっくりと頷いた。
頷き返し、アレフはザックから取り出したそれを彼の方へと放り投げた。
「受け取れ、キーファ!」
 見事な放物線を描いて宙を舞ったそれは、狙い違わずキーファの掌に収まった。
それが何かを認めて、キーファは目を見開いた。
中央に青い石が嵌め込まれた、シンプルな細工の指輪――祈りの指輪。

「貰えないよ、こんな貴重なもの」
「俺が持っているより、その魔力が尽きかけているという娘さんたちに渡した方が役立つだろう?」
 その少女たちがどれくらいの使い手かは分からないが、
此処まで生き残ってきた人物なのだし、一般に男性より女性の方が高位の術者が多い。
アレフの魔力にはまだ余裕がある。これが最善策のはずだった。
  
 と、そこでトルネコが思い出した、とばかりに顔を上げた。

「リアちゃんを助け出した後で構いませんが、一度宿屋の方を見てきていただけませんか?
 トロデさんという、本当は人間なのですが魔物の姿をした方がいるはずです」
「分かった、魔物のトロデさんだな?」

 祈りの指輪をザックへとしまい込み、復唱してキーファが頷く。
もう少し落ち着いて考えれば、それがエイトの身の上話で登場した人物の名であることに気付いたはずだが、
ようやく見つけた捜し人と、迫り来るアトラスのことで一杯の頭は、そこまで考えが回らなかった。

「君に女神ルビスの加護があらんことを」
「アレフさんたちも、無事で!」
 踵を返して駆け出したキーファの姿は、見る間に遠くなっていく。
そして、対照的に近付いてくる地響き。

「……まさかお前と肩を並べて戦うことになるとはな」
「ソレハワシモ同ジコト。戦イ二ナルモノトバカリ思ッテイタガ」
 憮然として呟くアレフに、竜の口からも苦笑めいたものが零れる。
なんともぎこちないやり取りに、トルネコは首を傾げた。

「はて、もしやアレフさんは元の世界でのアレンさんのお知り合いですかな?
 さっきも何か話しておられたようですが」
「知り合いと言えば知り合いには違いないな。
 奴は俺の故国の姫を攫った魔王で、俺が殺した」
 なんでもないことのように告げられた、とんでもない事実に思わずトルネコが凍りつく。
もっとも今は違うようだが、と付け加えると、竜は驚いたように目を見張る。   
 
「――ワシヲ、信ジルトイウノカ?」
「勘違いするな、別にお前を、というわけじゃない。
 まさかキーファの捜していたリアという女の子や、彼女を助けに向かった娘さんたち。
 宿屋のトロデさんに、そこのトルネコさんも、か。
 その全員がお前と組んでゲームに乗っているなんて考えたくもないからな」

 おどけるように小さく肩を竦める。
連れであるトルネコのついでだったのかもしれないが、あの雷にキーファが命を救われたことに変わりはない。
それに、“ランドとの約束”のことを告げたキーファを見る彼の目は、明らかに以前のものとは違っていた。
 だから、信じてみる気になったのだが――そこまで説明してやる義理はない。

「事情は、後でじっくり聞かせてもらうさ。
 トルネコさん、あなたも今のうちに何処かに隠れて」
「いえ、私も戦えます――戦いますよ」
 いつまでも逃げてばかりはいられませんから、と胸を張る――というよりは腹を突き出したトルネコが
ザックから取り出したのは鎖付きの鉄球。
見るからに凶悪そうな形をした巨大なそれは、持ち上げるだけでも相当な力を要するだろうものだった。

「何せ私はこの体型ですから、走り回ったりはてんで駄目ですが、
 力と体力には結構自信があるんですよ」
 確かに、あれを持ち上げられるトルネコの力は大したものだ。
全く戦えないというわけではなさそうだし、どのみちもう隠れる時間はありそうもない。

「――来ルゾ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!」
   
 雄叫びを上げ、突進を仕掛けるアトラスを、竜は真正面から受け止めた。
アトラスの腕と竜の腕とががしりとかみ合う。
竜も相当の巨体だが、アトラスはそれよりさらに一回りは大きい。
倒されこそしないものの、アトラスの重さを支えきれずに後足が石畳に沈む。
 その竜の膝を、肩を踏み台にして跳び上がり、組み合った腕を伝ってアレフが走る。
狙いは一つ目巨人族共通の弱点――目。

「はあぁぁぁっ!」
 肩まで駆け上がったアレフが振るう剣の先を、だがアトラスも予測していた。
薙いだ刃は直前でアトラスが首を捻ったことで額を切り裂くだけに終わり、
硬い頭蓋に阻まれて、きぃんと不吉な調べを奏でて真っ二つに折れた。
 思わずアレフは舌打ちを漏らす。

「このおおおぉぉぉぉぉ!」
 遅れて地上をトルネコが駆ける。
破壊の鉄球を振りかざし、雄叫びを上げるその姿はなかなかに勇猛だったが、
惜しむらくはでっぷりした腹の肉に阻まれて、足下が見えなかったことだろうか。
「おぉぉ――おおぅ!」
 巨体同士の取っ組み合いによって不自然に盛り上がった石畳の割れ目に蹴躓き、
またもトルネコがすっ転ぶ。
拍子に掌から柄がすっぽ抜け、トルネコの腕力と速度に転んだ時の勢いまで加えて宙を飛んだ鉄球は
なんと見事アトラスの膝を打った。
 たまらず倒れこむアトラスに、巻き添えを喰らわぬように腕を振り解いた竜は後ろに跳び、
突然揺らいだ足場によろめきながらもアレフも肩から飛び降りて、危うく下敷きにされるところを逃れた。
   
「いやはや、お恥ずかしいところを見せまして」
「いや、見事な会心の一撃だった」
「そうですか?いやね、実は私、
 『トルネコさんには、きっと幸運の銀の女神様の加護があるに違いないね』と元の世界でももっぱらの評判でして」

 語るトルネコに適当に相槌を打ちながら、アレフは折れた鋼鉄の剣を見つめて眉を顰めた。
 おそらく最初にアトラスの一撃を受けた時点でひびが入っていたのだろう。
一撃とはいえ、あの拳を受け止められたというだけでも、無銘の剣には十分な働きだったが、
あれと盾だけで渡り合え、というのは流石に辛い。と、
「使ウガイイ」
 声と同時にアレフの目の前に銀光と、次いでどさりと白い物が落ちて、
アレフは上を――それを落とした竜を仰ぎ見た。

「いいのか?」
「構ワヌ。コノ姿ニハ剣ハ不要」

 くつくつと喉を鳴らす竜には、なるほど自前の見事な牙と爪がある。
かつての仇敵に剣を譲り受けるというのはどうにも妙な気分だったが、
そんなことを気にしていられる状況でもないだろう。
   
「分かった。借り受ける」
 それでも決して“貰う”とは言わないアレフの頑迷さに、またも竜は愉しげに笑う。
構わずアレフは石畳に突き立つ剣の柄に手をかけた。

 それは先程トルネコとキーファの命を救った雷を放ったもので、
その見事な造りはロトの剣にも劣らない。
 これもまた使い手を選ぶ武器なのだろう、アレフが触れるとまるで不平でも言うように
ちりりと指先に痛みが走ったが、
(お前が元の主の下に帰るまで、すまないが力を貸してくれ)
宥めるようにそっと柄に手を這わせると、すぅと抵抗が消えアレフの手に収まった。
素直な、いい剣だ。
 続いて、何か使えるものはないかとザックを開き、

「――なんでお前がこんなものを持っているんだ」
「サテ、ナ」

 出て来たのは翼広げたラーミアを模した紋章を刻んだ盾。
アレフの知らないものではあるが、しっくりと手に馴染むこの感触からして
この盾もまた勇者ロトゆかりのものに違いない。
納得し難いところはあるが、ひとまず有難く使わせてもらうことにして盾を持ち替えた。
マジックシールドと、ついでに竜の取り落とした杖とをしまってザックの口を閉め、
自分のものとまとめて肩に引っ掛け、立ち上がる。

 静かに立つ竜と、今度こそは取り落とすまいと回収した鉄球の柄をしっかと握り締めたトルネコの見つめる先で、
しきりに目を擦りながら、アトラスもまた立ち上がる。
どうも、先程アレフが付けた額の傷から溢れた血が目に入り、視界が利かない様子だった。

 今が、好機。   
 
 片手に竜神王の剣を、片手にロトの盾とを携えたアレフを横目で見遣り、
竜はゆるゆると頭を振った。
彼を光の下へ引き摺り戻した青年に、おそらく勇者ロトその人だろう娘。
そしてローラの面影と、ロトの血筋の強い目を持った娘たち。
そして、一度目の生での因縁浅からぬこの男。

「――ドウニモ、ワシハロトト、ロトノ血族ニ縁ガ深イモノトミエル」
「?どういうことだ?」
「“事情は後で聞かせてもらう”ノダロウ?」
「……ああ、そうだったな。
 今の言葉の意味も後で聞かせてもらおう。それまでは死ぬなよ、竜王――いや、アレン」
「オヌシニ案ジラレルホド、落チブレテハオラヌヨ。アレフ」

 かつて勇者と呼ばれた男の言葉に、王であった竜はにぃと笑ったように見えた。
はらはらと二人のやり取りを見守っていたトルネコが、それでようやく緊張を解いて一つ頷く。

「……イイノカ、トルネコ?」
「アレンさんや、皆さんばかりに面倒事を押し付けるわけにはいきませんからね」

 笑うトルネコの顔は、だが少しばかり強張っていた。
今も、クリフトのことは気にかかる。出来れば助けてやりたいとも思う。
だが、今言った言葉も、ひとまず和解はした様子だが
どうも因縁あるらしい彼らを二人きりでは放っておけない、というのも偽りのない気持ちだった。
――それに。

「アリーナさんの仇だそうですから」
 彼女が生きてさえいれば、説得はもっと容易だったに違いない。
ある意味クリフトの命をも奪ったと言えるこの巨人を、許せないのはトルネコも同じだ。
鉄球の柄を握る手にも、自然と力がこもる。
   
 言葉を交わす二人の間に立ち、いつでも飛び出せるよう身構えて、
アレフは決して戦いのためだけではない高揚感を感じていた。
以前の旅では一人で戦うばかりだったが、隣に誰かがいるというのも。
(――仲間というのも、悪くない)
 微かに笑みを漏らして、柄を握る手に力を込める。
盾が、剣が、応えるようにぴたりとその掌に寄り添う。

 アトラスの咆哮を合図に、再び三人は地を蹴った。
 
 
 
 
 
 漆黒から薄藍へと、移ろい行く明けの空の下。
炎に、血に。アリアハンは朱に染まる。


【E-4/アリアハン城下町大通り/黎明】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP4/5 MP1/2弱 背中に火傷(軽) 疲労
[装備]:竜神王の剣 ロトの盾 はやてのリング
[道具]:鉄の杖 消え去り草 ルーシアのザック(神秘のビキニ)
    プラチナソード 折れた皆殺しの剣 ラーの鏡 マジックシールド 魔封じの杖 首輪×2
[思考]:アトラスを倒す ローラ姫を探し、守る このゲームを止める

【トルネコ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:無線インカム 破壊の鉄球
[道具]:ホットストーン 聖なるナイフ さざなみの剣
[思考]:アトラスを倒す
     他の参加者に危機を伝える ピサロといずれ合流

【アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP3/4 MP僅か 竜形態
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:アトラスを倒す この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

【アトラス@DQ2】
[状態]:HP2/3 細かな火傷 片膝負傷 必死
[装備]:メガトンハンマー 風のアミュレット
[道具]:支給品一式
[思考]:バズズの敵討ち

【E-4/アリアハン城下町井戸方面/黎明】

【キーファ@DQ7】
[状態]:全力疾走中 疲労
[装備]:メタルキングの剣 星降る腕輪
[道具]:ドラゴンの悟り 祈りの指輪
[思考]:ランドの妹(リア)を助け出す アトラスを止める 危機を参加者に伝える


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