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明星よ、見よ

明星よ、見よ


登場人物
アリーナ(DQ4)、アトラス(DQ2)、エイト(DQ8)、キーファ(DQ7)


ベリアルとの激戦から数刻後…、レーベの村。
エイトとアリーナは村内を探索していた。
一方、最後の一撃を放ったキーファはと言うと、ベリアルを倒したすぐ側でそのまま待っている。
キーファは先に到着して何もなかったことを知っているし、何より立って歩くのが億劫に感じたのだ。
なんとか呪文により傷こそ閉じたものの、失った血液、体力、疲労はどうしようもない物だった。
自身の状態はさておき、探索の結果は二人に伝えたが、それでも二人は自分の目で確認したかった。
もしかしたら、もしかしたら何か手がかりは無いものかと……。

しかし、確かに何もない。
人がいないこと、相次ぐ激戦のため施設のいくらかが倒壊していること、この二つを除けば
ごく普通のありふれた村そのものであった。
一応、家屋の中も確認したが、人っ子一人どころか獣の類すら見つけることは叶わなかった。
その異常に背筋が薄ら寒くなる。
家屋の中の様子は、まるで今しがたまで人がいたようで、
にもかかわらず、どこにも全く生き物の気配がしないというのはあまりに異常であった。
―これがハーゴンの魔力によるものなのか。
二人はこの事実に、不覚にも怒りより恐れを抱いてしまった。
それに気付いたのかお互いが顔を見合わせる。
その表情から、共に思ったことが同じであるということが伺い知れた。
―なんて弱気な。
そんな自分自身に憤る。
「戻りましょう」
エイトが口火を切った。
こんな風に感じてしまうのは、自分たちが消耗しているためだ。
そのためこんな弱気になるのだ、そう考えたからだ。

戻ってみると、キーファはうつらうつらとした様子であった。
先程まで力尽き気絶していたのだ、エイトもアリーナも無理もないことだと思う。
それでも、キーファは近くに二人を認めると目を覚まし明るく話しかけた。
「やぁ、わりぃわりぃ。つい陽射しもポカポカと気持ちいいもんだから、うっかりしてたよ」
と、誤魔化す。そして、
「村の様子はどうだった?」
と、続ける。その声にはいくらか良い答えを期待した、希望的な響きがあった。
『何もないから待つ』と言ったとはいえ、何かあればいい。そう思っているのはキーファも同じだった。
その様子に努めて明るくアリーナが答える。両手を上げたジェスチャーも加えながら、
「ダメね〜、ほんとに何もないわ」
やんなっちゃう、といった調子で答える。
「…そっか」
キーファも努めて暗くならず、はにかみながら答えた。
勝利を収めたとはいえ、全員が全員疲労しすぎていた。

ぽり、ぽりと乾物をかじる。
申し訳ないとは思いながら酒を咽喉に流し込む。
それで、ようやく生き返ったような気がした。
そういえば朝から歩き通しの戦い通しで、ろくに食事もしてなかったじゃないかとエイトは苦笑する。
出来れば、支給品だけで難をしのぎたかったが、
パンだけでは消耗した体力を回復するのにあまりに心許なかった。
そのため、村にあった備蓄の一部を拝借しているのである。
この時もうまくキーファが場をとりもった。
無論、キーファとてそんな野盗のような真似はしたくない。
しかし、蒼白な面持ちの二人の様子に、そうしなければいけないと感じたのだ。
道化を演じるのは苦手じゃない。
案外それは、普段からアルスとマリベルと、二人の兄貴分として面倒をみてきた経験からかもしれない。
(実は面倒を見ているつもりで見られていることも多かったが)

……ひょんなことから二人を思い出し、ふっと遠くをキーファは見やる。
過ぎたことは悔いても仕方が無い。
既に同郷の仲間二人がこの世にいないであろうこと、それは確信に変わっていた。
(しかし、お前達の無念は晴らすぞ。)
ランドのことも思い決意を改める。そして、キーファは語った。
このゲームに仕込まれた恐るべき陰謀を。

「私達みんなが生贄ですって!?」
「破壊神の復活……!」
会場内で見たあの男の邪悪な雰囲気。この狂気とも言えるゲームの内容。確かに全てが合点がいった。
エイトも、アリーナも、元よりこのゲームに乗る気は無かったが、それを聞いてはますますであった。
<<この危機を他の参加者にも知らせなければいけない!>>
一同の意見は一つにまとまった。

が、ひとまず、しばらくはこの村を拠点として休息を取ることとなる。
キーファもアリーナも著しく体力を消耗していたし、
エイトも、体力の消耗こそ小さいものの立て続けに呪文を使い続け、精神力の限界であった。
移動をするにしても、今しばらくは時間が必要だった。
それに、自分達と同じようにここを目指して訪れる人を期待してでもある。
人の集いそうな拠点となる場所は、地図を確認すれば、あとはここ以外は遥か南東の城のみ。
移動をしては逆に会えなくなる可能性の方が高い。人と出会うにはここを動かない方が得策であった。
無論、先の魔物のように忌むべき訪問者も考えられたが、まさか今しがた戦ったばかりである。
立て続けにあのような魔物が訪れることは無いであろう。
それ程の者で無ければ、たとえ敵意のある者が襲ってきたとしてこちらは3人。
滅多なことが起こる筈が無い、そう踏んだのであるが……。

ウォオオオオオオオ!
ザックの中身を広げ回復していた(幸か不幸か武器に恵まれなかったアリーナの支給品は
回復用のアイテムだった)一行に雄叫びが聞こえる。
大地の震えはここまで届いた。
―近い!
一番窓の近くにいたのはエイトだった。ガッと窓に食いつき声のした方を見る。
爆発するかのように家屋が爆(は)ぜる!踏みつけられた地面が揺れた。
咆哮は空気を震わせ、エイトの頬をビリビリと振るわせた。
まるで炎、猛り狂う火炎。天変地異が舞い降りたのかとすら錯覚するその中心に、赤い巨人がいた。

アトラスは猛った、怒り狂った!悲しみに、親しんだ兄の死に!
レーベの村についてすぐ、横たわる黒い影を発見した。
しかし、それをそれとは認めたくなかった。
肩口から胸、腹まで裂け真っ黒に焼け焦げたそれ。余りに無惨に変わり果てた姿……。
だが、紛れもなく兄の姿そのものだった。
エイトに、アリーナに、キーファによって倒されたベリアルの骸だった。

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!

一息遅れて、キーファもアリーナもその姿を確認した。
そして、悟る。
『勝てない』
パワー、スピード、タフネス、そのどれを取っても今の3人でどうにかなる相手には到底見えなかった。
仮に3人でバラバラに逃げ出したとして、
それでも一人ずつ、狩りの獲物のように順に殺されていくであろうことは目に見えた。

アリーナが窓から顔をそらし、そっとエイトを見つめる。
(戦わなくていい魔物じゃ……、ないよね?)
先のドランゴとの経験から来る物だ。言葉にせず視線で訴える。
が、エイトはそっと目を下に落とし首を横に振った。
(駄目です。邪悪に忠誠を誓った者でしょう)
(やっぱ…ね)
そうしている間にも巨人は迫る。

最初に覚悟を決めたのはキーファだった。
側に立てかけられたメタルキングの剣を手に取る。
友の形見を握り締めれば、勇気が湧いてきた。
「逃げられないんだろ?だったら、戦うさ。
 せめて、他の参加者の助けになる程度の手傷は負わせるぜ」
悲壮な決意が滲んでいた。それに促されエイトも手を伸ばす。
ランドを絶命せしめた忌むべき武器だが…、メタルキングの槍に。

が、その手は柔らかな物に阻まれる。
(?)
アリーナだった。アリーナがエイトと槍との間に割って入っていた。
「アリーナさん?」
アリーナは何も言わず無表情だった。そのまま思い詰めたようにエイトの首に手を伸ばす。
(!?)
それは丁度恋人がするような形で。
突然の出来事にエイトは困惑して、何か言おうとしたが言葉を発することは出来なかった。
「う……」
そうしようと思った矢先、後頭部に鈍く重い衝撃を感じ、そのまま意識を失った。
「アリーナ!?」
その様子を見て今度はキーファが狼狽する。何が何だかわからなかった。
が、真っ直ぐにアリーナはキーファに向かう。
瞬く間に当て身が放たれ、キーファの意識も暗転した。

(馬鹿ね……、何も3人で死ぬことないじゃない)

アリーナは気絶した二人をそっと寝かしつけた。
(本当は当て身で意識を失わせるなんて、よっぽど相手が隙だらけじゃないと出来ないんだけど)
すっくと立ち上がる。
(死ぬなら一人で十分よ。大丈夫。私が食い止めるから)
―せいぜい派手に暴れて注意をひきつける。
出来るだけ長い時間戦って、もうここで戦闘をしようと言う気は起こさせない。―
これなら二人を守れる気がした。
エイトであれ、キーファであれ、自分であれ、あの巨人の一撃を食らっては一たまりも無いであろう。
ならば、長く戦うにはなるたけ逃げ回るのが得意な奴の方がいい。逃げて逃げて消耗させる。
自分が行くしかなかった。
(大丈夫。お腹の痛みはひいた―……エイトのおかげで。
 アモールの水は飲んだし、私は戦える)
頬をピシャンと叩いた。

きぃぃぃぃと裏の木口を開ける音がやけに鮮明に聞こえた。
その時一緒にちょっとばかり後悔が浮かんだ。
(やっぱりキスぐらいしていけば良かった)
腹のことを思い、エイトのことを考えた時、
ふとそんなことが思い浮かんだが実行には移せなかったのだ。

「ハァーッハッハッハッハ!」
高らかに笑い上げる。声が届いたのか、破壊に明け暮れていた巨人の動きが止まる。
火の気があったか、瓦礫の一つから炎が上がった。
エイトが眠る方向とは逆、まだ無事な家屋の屋根にアリーナが屹立していた。
「随分騒がしいじゃないか、化け物ォ!」
マントを背中にはためかせ、睨み付ける。あくまで不敵な笑みを浮かべて。
だが、もちろんアリーナに余裕などない。
ジリジリとした危機感が膨れ上がる。全身の感覚が鋭敏になっていた。
背中に汗が生じ、それが大きくなり垂れて下着に染み込んでいく、その流れがわかった。
炎を受けてバサバサと風にはためくマントの動きも、まるで後ろに目がついてるかのようにわかった。
限界まで自分の全神経、全感覚が研ぎ澄まされているのを感じた。
―それが、死の予感を感じずにはいられなかったが。

ゆっくりと巨人が振り返る。
炎に照らされ赤黒く見える巨躯がこちらを向く。血走った目はアリーナを捉えた。
ぞっとするような深い悲しみと怒り、狂気。
(飲み込まれてたまるものか)負けずアリーナも睨み返す。
「ガオォォォォォォ!!!」
(おまえか!?ベリアル殺したの?アトラス、おまえ許さない!ベリアルの仇とる!!!)
アトラスはそう叫ぶつもりだったが、興奮して言葉にならずただの雄叫びにしかならない。
もう誰でも構わなかった。兄の死んだ地で不敵に自分に向かってくる奴!
殺して粉みじんに砕いてやる!!!

(先手は取らせない…!)
「たぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
叫びを上げてアリーナが屋根から踊りかかる。あまりにも愚直に、真っ直ぐに。
高くジャンプし飛びかかった。
(馬鹿にしやがって…!)
その無謀な飛び込みにアトラスは怒りを覚える。
(アトラスのパワー、おまえなんか粉みじんに打ち砕く!)
ジャンプの軌道を狙ってハンマーを引き絞り一気に振り上げた。
(!? 消えた!!)
ジャンプの頂点でアリーナが消えた。

アリーナのジャンプが、頂点へ達する直前である。
アリーナの右腕が左肩に伸びる。引きちぎるようにマントをはずした。
頂点へ達すると同時にマントを前へ翻す。同時に全身を丸める。
大きく空気抵抗を受けたことと、重心が移動したことでジャンプの軌道は大きく変わった。
また、小柄なアリーナが全身を丸めるとすっぽりとマントの影に覆われるため、
丁度アトラスからは消えたように見えたのである。

ぶうん、と遥かアリーナの頭上で風を切る音がした。
(かわした!)
全身を丸めたまま、すたり、と着地する。
と、同時に着地の反動を使って、さらに丸めた全身を一気にばねのように伸ばし
弾丸のような勢いで跳ねる!狙いは両腕を宙に放り出し、がら空きのボディー。
捻りを加えながら打つ!掌底!クリーンヒット!
いかに俊敏な巨人と言えど、上空を空振りしたハンマーを足元に振り降ろすにはいささか時間を要した。
(いける…!こいつと私とは相性がいい…!)

アリーナは勢いそのままバク中するようにアトラスを蹴り上げ距離をとる。
(これは挨拶代わり。無駄打ちしてスタミナを消費したくないの)
アリーナの着地と、ずうん、とはずしたハンマーが地を叩くのが同時だった。
が、間髪置かず、そのハンマーが横に凪ぐ。
(まさか!速い!!)
運動物には慣性というものがある。まして重量のあるハンマーなら尚更。
打ち下ろしたハンマーがこんなにも速く軌道を変えるなどと信じられないことだった。
咄嗟に踏む、バックステップ!かわす!
ほっと一息をつく。が、さらにもう一撃が迫る。
―アトラスは一呼吸に二度攻撃できる。
(そんな……!)
「うっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ぎりぎり反射神経だけで大きく身をのけぞらし、かわす。シュン、という音があごの下でした。
衣擦れの音。ハンマーがアリーナの衣服を掠めていったのだ。
なんとか肉体には触れずに済んだ、というすれすれの回避。
ハンマーが通り過ぎると、のけぞらせた身をそのまま倒し、ブリッジのような姿勢で両手をつき跳ねる。
空中でくるりと一回転し、体勢を立て直した。
同時に跳ねる。跳ねる、跳ねる!ダン!ダン!ダン!後ろへ!
(距離を…!速すぎる!)
瞬く間に三間の距離が開く。と、異変に気付く。
(い痛……っ!)
帷子の一部が異様に折れ曲がり鎖が外れていた。
(鎖帷子じゃ…、何の役にも立たない…!)
わずかに掠めただけでこの有り様なのだ、何の気休めにもならない。
むしろ、邪魔。回避をとるための重荷にしかならない。
アリーナはさっと鎖帷子を脱ぎ捨てた。さっきよりか幾分か体が軽い。
(チ…、最初から脱いでおけば良かったな)
汗の浮く肌を風が凪いだ。

それを見咎めるとアトラスもハンマーを捨てた。
三度も自分の攻撃をかわされた。まして、重りを脱ぎ捨てた相手はさらに素早くなるだろう。
この素早い相手にメガトンハンマーの動きは大きすぎる。
素手の方が速く、正確だ。

バシンと拳を打ち鳴らし丸腰のアリーナとアトラスが向かい合う。
(武闘家らしく、生身と生身のぶつかり合いなんて結構じゃないの!)
それは死の恐怖、兄の死による怒りと悲しみ、そのどちらでもない感情だった。
だが、それには二人とも気付かない。
「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
叫ぶ。走り寄る。今度はアトラスから拳を繰り出した。
ドシュン、ドシュンと聞いたこともないような風切り音を立てて拳がアリーナに迫る。
右…!左…!かわす、かわす!
まるでアトラスの両腕に引っ付くような紙一重でアリーナは連続攻撃をかわした。
最小限の動きでなければ、この間断ない連続攻撃をかわすことは不可能だった。
もしも一打目の回避に大きく動いてしまっては、それだけ二打目の反応に遅れる。
(三打目!来ない……?
 見切った!速いのは2回だけ!)
タタン、と伸びた関節を狙い打ち据える。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

声こそ上げないが、アトラスの顔に痛みの苦悶が浮かぶ。
巨人族のアトラスの体力から言えば、ダメージではない。
だが、痛い。まるでむき出しの神経をナイフで突付かれる様な鋭さだった。
隙を見てアリーナがもう一撃を加えようと飛び上がる。
(そう何度もやらせるか!)
ぶんとなぎ払う。しかし、空中でアリーナが水平になると、
まるで高飛びの棒を越えるようにくるりとかわされた。
(まさか!しかし……!)
着地を狙い、さらにもう一撃を加える。が、これもわずかに身をよじっただけでかわされる。

アリーナのすぐ脇でアトラスの拳が打ち下ろされた。アリーナはアトラスの拳の内側にいる。
今度はアトラスはその腕を引き込み、内にいるアリーナを襲う。
が、既にアリーナはその腕の逆側にいるのだ。

くるくると回転するようにアリーナは攻撃をかわす。
何十発、いや何百発ものパンチをアトラスは繰り出した。蹴りも頭突きもタックルも繰り出した。
だが、一発も命中することが無い。全てかわされる。それも皆が皆紙一重で。
まるでその光景は、―我々の馴染みのある日常で例えるなら―
静電気を帯びたビニール片が腕にまとわりついて離れない状態に似ていた。
だがアトラスは攻撃の手を休めない。休めるわけにいかなかった。
少しでも隙が生じれば、アリーナの突きが寸分たがわず急所めがけて飛ぶからだ。
一瞬の休みも無い拳打の嵐が続いた。

日は傾き始めていた。影法師が長い。
果たして、どれだけの時間が経ったのだろう。
二人が向き合った時、まだ明るかった空はすっかり赤くなり夕闇が訪れようとしていた。
それでもアリーナもアトラスも今だ動き続ける。時に近付き、離れ、交差し引っ付き。
大人と子供以上も体格に差があるというのに、拳打の応酬は続けられていた。

アリーナはこれを待っていた。(ほぼ)回避に専念し膠着状態に持ち込む。
巨人の注意を引き付け消耗させる、その狙いは見事に的中した。

そして戦い続ける内、武器を捨て向き合ったときに感じた感覚、その正体も分かった。
それは、充実感、戦うことの喜び―その予感。
思えば、アトラスもアリーナも、自分の肉体をここまで酷使して戦い抜いたことは無かった。
それも互いに生身と生身で。
<小細工抜きの肉体の勝負で、限界まで戦いたい!>
少なからず以前から、二人ともそんなことを願っていた。
激しい闘いは幾度も経験したことがあるが、そういった戦いには未だ出会ったことが無かった。

―その願いがついに叶ったのだ!
その感覚に、いつの間にやら死の恐怖も、
肉親のように慕った者の死による怒りと悲しみも、すっかり霞んでいたのだ。

アリーナは過ぎ去りし日を思い出す。
サントハイム城から出ること叶わず、戦いに憧れていた日々。一人技を研磨した日々。
今、望み憧れ続けていた戦いをしているのだ…!

だがしかし、そんなことを回想するのはもはやアリーナの体力が限界に達していることを示していた。
集中力が落ち始めているのだ。
このいつまでも続くかと思われた拳打の嵐は、唐突に終焉を迎えた。
(あ…)
今の今まで紙一重でかわしてきた拳が回避できなかった。来る、と思ったが体が鈍い。
激しい衝撃がアリーナを襲った。
咄嗟に身をよじり、衝撃の方向をずらし、緩和し、ダメージを最小限にとどめようとしたが駄目だった。
木っ端のように勢いよく吹っ飛ぶ。口から、鼻から溢れるように血が噴出す!
なんとか身を砕かれ四散することは避けられたが、内臓が完全に破壊されその血が溢れたのだ。
そのまま、ドドン、と地に叩きつけられる。体が痺れ受身を取ることも出来ない。
目の焦点が定まらなかった。地が空が家屋が回る。何も見えない。
(しまった…!(視力よ)戻れ、戻れ、戻れ!早く!あいつを見つけなければ!)
今だ闘志は失わない。しかし、見えない、見えない。
眼球が言うことを聞かない。追撃が来る…!動かない体で必死にもがく。
(映った!)
ようやっと視力が回復した。眼前に今まさに拳を振り下ろさんとするアトラス。
(うぅおおおおおおおおおっ!!!!!)
「がぼがぼがぼがぼがぼぉっ!!!!!」
もはやアリーナの喉は声を出すことも叶わず血を吐き出すのみであった。
ダァァンッ!!!
両の拳で地を打つ。体は動かない。腕力で飛び上がった。

ドァァァァンッ!!!
直後、同じ場所を再び拳が打つ。アトラスの両腕。人肉の感触はない。
(逃げられた!)―あの体で、瀕死の体でありながら、まだ戦えるというのか!!!
驚嘆しながら不屈の闘志に畏敬すら覚える。
そのアトラスの背後で闘気がゆらめいた。

(おぉおおおおおおおおっ!!!!!)
もう、私は助からない。先の一撃は致命傷だった。放っておいても私の命の火は消えるだろう。
だが、まだ燃えている。ならば、燃え尽きる前に残った命を燃やし尽くす……
この一撃で―――!

バァァーーーーーンッッ!!!!!(バァァン…バァァン…バァァン…)
爆音が響く。小山一つ吹き飛んだのでないかと思うような地響き。
アトラスの巨体があった。その後ろにアリーナの姿がある。
力強く左手を引き絞り、まっすぐに右の拳を突き出した姿。
その姿は、アトラスの真後ろにいながら、その正面から確認できた。
向こうを見渡せる風穴が空いていたのだ。
アトラスの左わき腹を中心に腹部の三分の一程が、吹き飛んでいた。
「お……お………」
ダメージによる声を初めてあげる。空いた穴からぼとぼとと臓物と血が滴り落ちる。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ……。」
が、まだ戦える。致命傷には遠い。アトラスはアリーナに振り返った。
アリーナは動かない。渾身の一撃を放った直後の隙。
(勝った……!!!)
アトラスは拳を突き出した。

しかし、その拳がアリーナに打たれることは無かった。
突き出す拳に対してあまりに反応が無い。ぴたと拳を止めると、そのままアトラスは腕を引き下げた。
(……死んでいる)
アリーナの瞳に生者の輝きは無かった。

最後の最後まで止めを刺せなかった。相手は最後の瞬間まで戦いに生命を投じ、果てた。
アトラスにそれを奪うことは出来なかったのだ。
「ウッオオオオオオオオオーーーーン!」
雄叫び。悔しくて喚いた。
止めをさせなかったことに。この女を殺してしまったことに。
兄の仇は憎かった。だけど、この女と戦ってた時に感じた感覚―それは楽しさと充実感だった!
アトラスはアリーナを見やる。
そう言えば、こいつの名も知らない。だが、思う。なんという戦士なのだと。
そして、死んだ兄のことも思うのだ。これ程の戦士ならば、兄もきっと……。

戦いは終わった。
緊張が解けたためか、途端に睡魔が襲ってくる。
そうだ、兄の死を―あの腰の抜けてしまったバズズから―聞いて、ずっと暴れ通しだった。
混濁とし始めた意識の中、アトラスは思う。
(ベリアル……、やっぱりベリアルは凄いや……。
 二体も倒して、こんな奴と戦うんだもんなぁ……。
 アトラス、ベリアルの戦った後でようやく勝てたのに、最後は逃げられて。
 自力で倒せたのはたったの一体だもんなぁ……。
 ベリアル……ベリアル……)
激しい怒りが通り過ぎると、途端―もう、あの兄のように慕った金色の魔物には会うことは出来ない―
という寂しさが訪れた。
涙が浮かぶ。すっと巨体が下に滑り始めた。ずしり、と地を揺らし両膝が着く。砂埃が舞った。
ぐらり、と上体が揺れ、前のめりに倒れ始めた。
どどーんと盛大な地響きが起こり、埃を巻き上げながらアトラスは倒れ伏した。
巨人は眠りについた。

西の空に宵の明星がきらめく。地には、動きを止めた一人と一体。
それはまるで、かんしゃくを起こして暴れたきかん坊が、
暴れに暴れ疲れ果て、母の胸で眠る様を想起させた。
何故なら、巨人が倒れ伏す二度の地響きにも負けず、
拳を突き出したアリーナの姿はその姿勢を保っていたのだから。


【B-2/レーべの村/夕方(放送直前)】

【エイト@DQ8主人公】
[状態]:気絶 左肩にダメージ MP1/4(回復中)
[装備]:メタルキングの槍
[道具]:支給品一式 首輪 メルビンの支給品一式(不明二つ)
[思考]:仲間(トロデ優先)を捜し、ゲームには乗らない
     危機を参加者に伝える

【キーファ@DQ7】
[状態]:気絶 HP2/5程度 (回復中)
[装備]:メタルキングの剣 星降る腕輪
[道具]:ランドの物を含め、不明2
[思考]:ランドの妹(リア)を守る 仲間の死を悟る

【アトラス@DQ2】
[状態]:腹部損傷 睡眠中 HP3/5程度
[装備]:風のアミュレット
[道具]:超万能ぐすり 支給品一式
[思考]:不明

※メガトンハンマー、鎖帷子は近くに放置されています。

【アリーナ@DQ4 死亡】
【残り29人】


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-Aqua System 2007-