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夜に飛ぶ

夜に飛ぶ


登場人物
アレン(竜王)、トルネコ、リア


「ほう、これが風のマントですか。なるほど、大人三人で使用しても充分耐えうるようですなぁ」
「うん、お兄ちゃんたちも三人で使って、ドラゴンの角っていう塔から大河を渡ったんだって」
アレンが戻ってきた時、トルネコはリアからこれまでの話を聞いていた。
そして話に出てきた風のマントに興味を持ち、見せてもらっていたのだ。
身体の調子は悪くない。アレンが魔力を尽くして治癒呪文を掛け続けてくれたおかげだ。
それでも完全に癒えたわけではなく、無理に身体を動かせば途端に痛みに襲われる。
しかし殆ど動くことができなかった時より遥かにマシな状態だった。
リアの首に残されていた爪痕も綺麗に消えている。
アレンは何も言わずに呪文を唱えていただけだがその誠意は感じたのだろう。
リアのアレンに対する信頼は増したようだ。トルネコはそれを微笑ましく思う。
「ふぅむ、これなら……おや、何処にいらっしゃっていたのですかなアレンさん?」
いつの間にか場を離れていたアレンが戻ってきたのを見て声を掛ける。
「うむ、こいつを回収してきた」
そういってアレンは懐から二つの首輪を取り出し、地に置いた。
ヒッと息を呑むリア。トルネコもそれをまじまじと見つめゴクリ、と唾を飲み込む。
「奴らの言っていたどんな魔法や爆発にも誘爆はしないというのはどうやら本当のようだ。
 あれほどの爆発の中で傷一つついておらん」
言う通り、その首輪は表面は多少煤焦げているものの歪みもせずに全く常態を保っていた。
彼が回収した二つの首輪。数時間前に光の中へと消え去ったビアンカとバズズの物である。
嫌でもそれが思い起こされるのであろう、リアの顔は蒼白となって小刻みに身体が震えていた。
「リアよ……ぬしには辛かろう。少し離れた場所で休んでいるがいい。
 これからの話は少々長くなるかも知れんのでな……」
アレンはリアを気遣い、この場を離れるように諭す。
しかし彼女は気丈にも首を横に振ると、自らの身体を抱きしめて震えを抑え込む。
「ううん。私も……ここを抜け出すならいつかは向き合わなきゃならないことだって解ります。
 弱いのはどうしようもないけれど……せめて、もう足手纏いにはなりたくないから……。
 だから、お願いです。話を聞かせてください」

強い決意を込めてアレンを見つめる。
アレンはしばらくじっとその視線を受け止めていたが、そうか、と頷くともう離そうとはしなかった。
トルネコはその様子を見て、もう一度唾を飲み込むとわざとらしく陽気な声を出した。
「いやーでもまだ我々も疲れておりますし、それについてはまた後にして休むことに専念しましょう、
 ね、アレンさん?」
「悠長な……ぬしは――む」
その言葉に抗しようとしたアレンはトルネコが真剣な表情をして地面を指差していることに気付き、押し黙る。
地には小枝によってトルネコの真意が綴られていた。

『私たちの声はハーゴンたちに盗み聞きされています』

「ふん、ならば勝手にするがいい」
アレンはそう口に出すと意気を収め、杖を手に取りて同じように文字を綴る。

『その根拠は?』

トルネコは自らの頭に嵌められているインカムを指で示したあと、再び地に文字を綴り始めた。
インカムには未知の技術が使われていて、遠くの人物と会話をすることができる。
これはハーゴンによって送り込まれた魔物が持っていたアイテムであり、通常の参加者には配られていない。
そしてそれだけの技術力があるならこの首輪にその技術が使われていることは想像に難くない。
何故ならその方が管理するものにとって都合がいいからだ。
こちら側の音声を主催側に送ることで脱出の企てをする者の動向を把握し、場合によっては爆破する。
そうすることができるならこの儀式の成功は磐石となり、そしてハーゴンたちにはそれが可能なのだ。
トルネコの答えにアレンはむう、と唸る。
(と、なると脱出、首輪の解除に類する事柄は筆談によって行う必要があるか……。
 緊急を要する時にはいささか不便な制約がついたものだ……)
入れ替わり杖を地に走らせ、アレンは自分の考えを述べる。

『承知。そして首輪の解除に関することだがこれには強大な呪詛が込められている。
 その呪詛があらゆる呪文、特技などを弾くようにしてあるのだろう。
 おそらく最初の会場に張られていた結界と同種のものだ』
 
 
アレンはザックから一つの鏡を取り出した。
「そ、それはラーの鏡? あ――ムグ」
それを見て思わず口に出してしまったトルネコは慌てて口を押さえる。
しかしアレンは慌てずに掌をかざし、抑える動作をする。

『騒ぐな、その程度なら問題はなかろう。それよりもこの鏡で呪詛を具現化する』

そして鏡を正面に構え、地に置かれた首輪を映し出した。

「「ッ!?」」

真実を曝け出すという鏡に映し出されたのは首輪から溢れる黒い瘴気。禍々しいまでの邪悪なオーラ。
周囲の気温が一気に下がり、もはや冷気と呼べる空気が漂う。
トルネコはその場にへたり込み、リアは怯えアレンの影になるように隠れた。
キュッと強くアレンのローブの裾を握り締める。
闇は炎のようにゆらめき、時折髑髏にも見える模様が形作られているようにも見えた。
リアの顔から色が失われているのを見てアレンは鏡を仕舞う。
それと同時に首輪から溢れていた瘴気は徐々に薄れていき、再び元の首輪へと戻った。
ふぅ、と大きく息をついてトルネコは安堵する。
リアも震えは止まり、アレンのローブを掴んでいた手をおずおずと離した。

『こんな凶悪な呪いは見たことがありません。今まで数々の呪いの武具をこの目にしてきましたが
 ここまでどうしようもないと思った物は初めてですよ』

トルネコが地に綴る感想にアレンも頷き、同じく杖を動かす。
平静な表情を保っていたが、その額には汗の粒が無数に浮かんでいた。

『見ての通り強大な呪詛だ。ワシが解呪しようと思えば大掛かりな儀式の準備をし、
 幾日も呪文を唱えることになるだろう。しかもこの首輪一つにな。いや、それでも無理かもしれん。
 我々に時間はない。別の方法を考える必要がある』

アレンは腕を組み考え込む。トルネコも側で唸っていた。

(ハーゴンめ……どうやってこの力を得た? この呪詛に込められている力は生半可なものではない。
 奴を見た限り強い魔力を持ってはいるものの唯の人間に見えた。ここまでの力を操れるものか?)
これは神に匹敵する力。
神――邪神。アレンはハーゴンの座る玉座を思い出す。
玉座に装飾されていた邪神像。
(シドー、か……奴がハーゴンに力を貸しているとでも言うのか? 復活前にそんなことが……)
考えが煮詰まり、ふと目を上げると地面に文字を綴っているトルネコに気が付く。

『これがハーゴンの意図したことかは解りませんがとにかくラーの鏡によって呪いを具現化させることはできるのです。
 それをニフラムのような破邪の力、いえ、それ以上のあらゆる闇を振り払う太陽の如き破邪力を
 秘めた技で消し飛ばしてしまえばいい。何かそのような力に心当たりはございませんか?』

下手な力では通用しないであろうし、何よりも無理に取り外そうとしていると判断され爆発する危険がある。
物理的な力ではなく、ただ闇を浄化する光の力が必要だった。
(太陽の力、か……)
アレンの脳裏に浮かんだのは光の玉だった。
400年以上もの昔、アレフガルドとは別の世界から現れた勇者ロトが携えていたという伝説の玉。
かつてラダトームから自分が奪った。世界を支配する為、人間に絶望を与える為。
そして……それ以上に何故か懐かしさを感じた為だった。
玉の光を眺めると母親に包まれているかのような安らぎを感じるのだ。
この玉こそは自分が所有すべきもの。何故かそう確信できた。
だからこそ奪った。
だがその玉はこの手にはない。その存在も感じない。
ゆっくりと首を横に振るアレンにトルネコは落胆したようだった。
彼は気づかない。自分の持つビアンカのザック。
そこにこそ太陽の力を秘めしアイテムが隠されていることに。
無理もなく、今はその道具はただの鏡にすぎなかった。
だが落胆したのもそれも一時のこと、再び顔を上げると彼は提案した。
「アリアハンへ行きましょう」
「何?」

「リアちゃんもアレンさんも行く宛てはないのでしょう。なら人の集まる場所にいきましょう。
 そこでなら今よりも情報が集まるかもしれません。それにアリスさん、という方がその辺りに居るはずなのです。
 私はその方に危険を知らせたい。バズズは死にましたがハーゴンの部下はまだ残っていますからね」
それがトルネコの当初の目的だった。
放送で呼ばれなかった以上アリスはまだ生存しているはずである。
アレンはその提案を吟味する。
正直まだ動きたくはない。人が集まるということはゲームに乗った者もまた集まるということ。
このダメージの残る身体ではいざという時にリアを護りきれるとは言い切れなかった。
(だが……儀式の進行は予想以上に早い。僅かな逡巡が命取りともなりかねん……か)
「私も、行きたいです。マリアお姉ちゃんがいるかもしれないし……」
決意を込めて声を絞り出すリアをアレンはゆっくりと見やる。
「覚悟は、あるのだな」
コクン、と頷く。
それでアレンの腹も決まった。決然と立ち上がり――よろめいた。
かろうじて踏み止まり、側に木に手を突く。
「アレンさん!」
「よい。少しダメージが残っているだけだ。大事はない」
駆け寄るリアを制し、アレンは姿勢を正す。
「アレンさん、あなた私たちには回復呪文をかけてくれましたが……その、ご自分には?」
「竜族は人間のように脆弱ではない。いらぬ心配だ」
アレンは自身の魔力は全てリアとトルネコの治癒に注ぎ込んでいた。
よって彼自身はこの数時間の休息による自然回復しかしていない。
人間などより遥かに強靭な肉体を持つ竜王といえど、それだけで万全の状態となれる筈もなかった。
だが表面上は平静を装い、アレンは立つ。
「行くぞ、時間が惜しい」
先に立って歩き出そうとした時、リアはザックから小さな小瓶を取り出すとアレンに差し出した。
中には黄金に輝く液体とそれに苗木のようなものが浮いていた。
「……これは?」
「そ、それは世界樹の雫!」
初めて見る薬品に怪訝な顔を浮かべると、横からトルネコが声を上げた。
「知っておるのかトルネコ?」

「はい、死者をも蘇生させるという世界樹の葉。その元たる世界樹から抽出したエキスです。
 これを振りまけば、その場にいる者全員の傷をどんなに深くともたちどころに癒すことができます。
 我々の世界ではとても貴重な薬ですよ!」
「ほう」
アレンは小瓶を受け取るとその液体をまじまじと見る。
なるほど、中の木片や液体からはとても強い生命の波動を感じる。
「これをワシに使えというのか」
「ビ、ビアンカさんにも……最初に見た男の人にも使えなかったけど……。
 お兄ちゃんにも、アレンお兄ちゃんにも使えなかったけど……!
 今なら、アレンさんなら使えますよね? 助けられますよね? だから……お願い」
アレンとリアはしばし見詰め合い……アレンはフッと微笑した。
「感謝しよう、小さき娘よ。だがこれは今使うべき時ではない」
そういってリアの小さな手に小瓶を戻す。
「それほどの効能を持つ薬ならば本当に必要とする者に使ってやるがいい。
 ここで軽々に使い、後に死に行く者を見ても何もできぬでは悔いが残ろう」
アレンの脳裏にはつい半日前の、塔の下での出来事が思い返されていた。
何も出来ず、ただ言葉を聞くだけしかできなかったあの時が。
「何度も言うがワシのことなら心配はいらぬ。何、その薬を使う時があればその時は相伴に与ろう」
「そう……ですか」
リアはまだ不安そうであったがアレンの言葉からマリアのことを考え、
もし重傷を負っていたらと思うと反論することはできずに渋々と小瓶をザックに戻した。
「では行くとしよう。この場からなら洞窟を通った方が早くに着くだろう」
「あ、待ってください。それよりも早く着く方法があるんです!」
「ぬ?」
今度はトルネコがザックをゴソゴソと探り、何かを取り出した。
「これです、キメラの翼。これがあればアリアハンに着くのは容易ですよ」
「トルネコ、おぬしはアリアハンに行ったことがあるのか?」
「いえ、これはリアちゃんに使ってもらうのです」
その言葉にリアはきょとん、とする。
「私、ですか? でも私もアリアハンには……」
トルネコは指を立てるとチッチッと舌を鳴らす。
「承知しています。あなたの最初に立った場所は塔の頂上。そこであなたはどうやって移動しましたか?」

「あ!?」
トルネコの考えを悟り、リアは声を上げる。
アレンはまだピンとこない。
「どういうことだ?」
「まぁまぁ、まずはナジミの塔頂へと移動しましょう。さ、リアちゃん」
「はい」
リアはキメラの翼を受け取ると空高く放り投げた。
翼は無数の羽となって散ると、風を巻き起こしアレンたちを包み込む。

そして光となって天空へと舞い上がった。

強風に閉じていた目を開くとそこはもう塔の頂きだった。
広い石畳の中央には一つの住居が存在している。
「それで、どうするのだ? あの家に何かあるとでもいうのか?」
「いえいえ、そうではありません。リアちゃん、あれを出してください」
急かすアレンにトルネコは首を横に振ると、リアを促す。
そしてリアが取り出したのは―― 一つの大きな青いマントだった。
トルネコはアレンに風のマントの説明をする。
「なるほどな、邪魔の入らぬ空を行こうというのか。確かにそれなら程なくしてアリアハンへと入れよう」
「ええ、そしてマントはアレンさんに使ってもらったほうがいいでしょう。
 空を飛ぶということに関しては我々より遥かに通じているでしょうから」
「うむ」
アレンはリアからマントを受け取るとその身に纏った。
「人身で空を飛ぶというのも新鮮な体験だな」
そして塔頂の淵まで歩き、アリアハンを見る。
「僅かだが城と町に灯火がある。何者かがいるな」
アレンの言葉にトルネコも頷いた。
「直接アリアハンに降りるのは止めた方がいいですな。狙い撃ちされては一溜まりもありません。
 この月夜では我々を視認するのもそう苦労することもないでしょうし…… 一度、そうですな。
 アリアハンから少し離れた……北側の平原に降り、そこから徒歩にて入ることにしましょう」
「解った。リアよ……」
アレンは手を差し出す。その手をリアはギュッと握り締めた。

「離すでないぞ」
リアが頷くのも確認せずにアレンは床を蹴った。
慌ててトルネコもアレンの身体にしがみつく。
マントは風を孕むと大きく膨らみ――そして流れに乗った。

そして夜に飛ぶ。


【E-3/アリアハン内海 上空/夜〜夜中】

【トルネコ@DQ4】
[状態]:HP3/5 軽い火傷 打撲
[装備]:氷の刃 無線インカム
[道具]:まほうのカガミ 引き寄せの杖(4) 飛びつきの杖(4) 
    支給品一式×3ワイヤー(焦げて強度は弱くなっている)
[思考]:アリアハンへ向かう アリスや他の参加者に危機を伝える

【アレン(竜王)@DQ1】
[状態]:HP2/5 MP0
[装備]:竜神王の剣 まふうじの杖 風のマント
[道具]:プラチナソード ロトの盾 ラーの鏡 首輪×2
[思考]:アリアハンへ向かう この儀式を阻止する アレンの遺志を継ぐ

【リア@DQ2サマルトリア王女】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:世界樹の雫 支給品一式
[思考]:アリアハンへ向かう マリアに会って風のマントを返す


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