トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

Fire of Dragon's heart

Fire of Dragon's heart


登場人物
竜王(DQ1)、マリア(DQ2)


─庇ってくれた彼の背中を見送って、私は走った。
泥にまみれ、血反吐にまみれ、地に臥した竜の元へと。
辺り一面瓦礫だらけで、空気はどこか澱んでいる。
胸を突くようで、少々走っただけで咳き込んでしまった。
耳を澄ませれば甲高く響く剣戟の響き。
だけど違う、探す音はこれじゃない。
─いた。
微かに聞こえた、喉の奥から唸る声。
音の主は、紅の中にいた。

「竜王…」

姿を確認して駆け寄るが、傍に寄れば寄るほど驚くほど血の臭いが濃くなった。
思い出す、アレンとランドの旅路の中で、幾度と無く感じたそれ。
これほど強く香ったときは、いつだって命の危機が傍に迫っていた。
何度嗅いでも、鉄錆のようなその臭いは慣れることはなかった。
思い出すのだ、故郷陥落のあの日を。
目の前で命果てた、父のことを。
臭気と、この雰囲気に中てられて少々頭がふらつくが、泣き言は言っていられなかった。

「……ォ…ォォ…」

目の前で毒薬を飲み干し、更にこうも傷つくまで戦い抜き。
その毒は全身に廻り、自由を奪っていても。
尚も彼は生きている。
しかし、殆ど死んでいる。
命の灯は、微かに灯されるのみだった。

「……マ…リ、ア……」

名を呼ばれたそのとき、竜王の身体が変貌を見せた。
その巨躯は収縮を始め、宿で見た姿である人間体へと戻っていく。
竜の零した血反吐の中に、ぽつりと蹲る弱弱しき姿へと。
その口は毒の痺れの為か、たどたどしい。
血溜りに足を踏み入れると、足元がなんだか恐ろしく冷たく感じた。
その形相は、痛恨の悔みを表していて。
何やら口を動かしているが、か細い声は消え入りそうである。
膝を突き、耳を微かな息吹しか漏らさぬ口へ寄せた。

「………捨、て…おけ……」

聞こえたのは、その一言のみ。

─惜しむならば、ワシはお前の手がこの血で穢れることをこそ惜しむ。
 ワシは…お前の裁きに値せぬ男だ─

このまま見捨てろと言うのか。
このまま独り、放っておけと言うのか。

(私は、あのときは確かに疑った。確かに彼が裁かれるのをあの時望んでいた)

宿屋でローラ姫様と、トルネコさんが冷たくなっているのを見て、疑った。
そして、討とうとすら思った。
ひょっとしたら、あの時に彼が何を話そうと裁く気でいたのかもしれなかった。
しかし彼は悔いていた。
彼は嘆いていた。
だから、自ら毒を飲み干した。
その腕に死を抱いたまま、闘いを挑んだ。
こうも傷つき血と泥にまみれ、悔やみながら朽ちようとした。
そしてこうも、悔恨の念を抱いていた。

(…私は、何故彼を疑っていたのでしょう)

今、こうして杖を構えたまま彼の近くに居る。
何故、この杖を下ろせなかったのだろうか。
どうして、彼を追い詰めてしまったのだろう。
今の私は悟ったつもりだ。
彼は悪く無かったことを。
精一杯、二人のことを守ろうとしたことを。
信じることができなかったあのときの自分を、恥じた。
同時に、両の腕はだらりと下りる。

(このひとは、こんなにまっすぐだったのに)

そう。
巨躯に輝いていた瞳を見つめたそのときに。
私は何となく解った気がする。
このひとは、アレンを信じていた。
アレンもこのひとを信じていた。
だから瞳に秘めた輝きは同じなんだ。
私もアレンの瞳と似ていると言われたから、すぐに解った。

(アレンと同じで、まっすぐだったのに)

私は今まで信じてあげられなかった。
自ら毒を呷るまで。
ここに赴くほどの覚悟を見せられるまで。

「……ごめんなさい…!!」
「……!」
「私は、あのとき…信じて…あげられなかった…」

知らぬうちに涙が零れていた。
血溜まりに雫は落ち、混ざり、消える。
血と涙は弾きあうこともなく、溶けた。
私達も、相容れよう。
相容れなければならない。
アレンがそれを、望んだから。
それが彼の遺志だから。
驚きのためか、眼を見開いた竜王の手もまた血に塗れている。
私はその少々節くれだった手を、そっと握った。

「キアリー」
「なッ…!!」

謝罪と共に、解毒呪文を放った。
ふわりと待った黄金の粒子が、竜王の身体に覆いかぶさり、やがて吸い込まれていく。

「マリ、あ…グッ、な…ぜ……」

涙は拭わなかった。
手が、裾が、血に浸かることも厭ってられない。
彼を救いたい、ただ今は救いたかった。

「私は…貴方に生きて欲しい」

言葉に詰まる。
ここまで彼を追い詰めたのは自分だ。
─誰が口に出来ようか。
彼に生きて欲しいのは、アレンの事を聞く為ばかりではない。
ただ、似ていたからだなんて。
彼の中にアレンを見出したからだなんて言えるはずもない。
私はただ、謝ることしかできなかった。

「……本当に……ごめんなさい……」
「…詫び、るな……ワシ…は…」

竜王の弁解は、首を横に振って止める。
彼は、悪くない。
悪いのは疑った私だったのだ。
また涙が落ちる。
─駄目ですね、私ったら。
アリスに笑われてしまいますよ、しゃんとなさい。
袖をごしごし顔に擦りつけ、涙の筋を拭い去った。

「貴方に生きて…見せて欲しいのです」
「…それ、は…」
「アレンの生きた、証を…」

それは遺志。
キーファが継いだように、アレンの遺志。
彼は、確かに生きている。
竜王の中で、生きているから。
彼を本当に死なせないためにも。
涙は止まらなかったが、私は笑うことができた。
復讐も、憎しみも今は忘れ、希望を抱くため。

「それに…貴方を罰するのは、助かってからでも遅くはないでしょう?」
「…ふ、フフ…ハハ…ゲホッ!…ハハハ……言う奴よ。ロトの血族というものは」
「…だから、一緒に…立ち上がりましょう…」

(アレン。私、貴方を守りたい。この人と貴方を…守りたい)

竜と王女。
二人の心の喪失は大きい。
が、互いが互いを支えあう。
そして、戦場へと再び向かうのだろう。
亡き者の遺志は貫かれる。
強き思いを抱え、今再び、竜は最後の火を灯さん。   


【E-4/アリアハン城跡地:中央/真昼〜】

【竜王@DQ1】
[状態]:HP1/10(治療中)瀕死 MP微量 全身打撲 胸に大きな傷 毒(治療中)人間形態
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:この儀式を阻止する 死者たちへの贖罪 マルチェロとの決着をつける

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP4/5 MP1/4(消費中) 脇腹に傷(治療済)
[装備]:いかずちの杖 布の服 風のマント 宿帳(トルネコの考察がまとめられている)
[道具]:支給品一式  引き寄せの杖(2) 小さなメダル アリアハン城の呪文書×5(何か書いてある) 天馬覚醒の呪文書  
[思考]:竜王と共にトルネコとローラの仇を討つ 儀式の阻止 アリスを支えたい
    一段落した後宿に戻りローラたちを弔う 闘いを終えて、アレンの最期のことを問う


<<BACK [ 本編一覧 ] NEXT>>


-Aqua System 2007-