トップ 差分 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

THE BATTLE ROYALE

THE BATTLE ROYALE


登場人物
アリス、カンダタ、クリフト、ククール、トロデ、マリア、ハッサン、テリー、レックス、バーサーカー、ヒミコ


テリーの鋭い斬撃をナイフで受け止め、拳で、蹴りで、ぶっ飛ばす。
幾度かそれを繰り返すがテリーは一向にダメージを受けた様子を見せない。
その顔を覆う般若の面にも何度か攻撃を加えたが、それはまるで鋼鉄で出来ているかのように
ビクともしなかった。
焦れたようにハッサンは叫ぶ。
「畜生、テリー! いつまでこんなこと続ける気だよ!?」
「お前たちが死ぬまでだ」
「? 意識があるのか!?」
今まで殺意以外の意志をぶつけて来なかったテリーから意味のある言葉が飛びでたことに驚愕する。
「俺はこの面に乗っ取られたわけじゃない。この面から湧き出る殺意、怨念、憎悪に身を任せているだけだ」
「それを乗っ取られてるって言うんだよ!!」
「違う。この面の意志と俺の意志は相反しない。俺は俺の目的の為にこの面を被った。
 素晴らしいぞ、ハッサン。あれほど強い忌避を感じていたお前への攻撃も全く躊躇いがない。
 俺はお前を、そこにいる全員を一片の迷いなく殺すことが出来る。憎むことが出来る。
 フフフ……これだ。これこそが俺の求めていた力だ!」
「お前は、ミレーユがそれを望んでいないって解ってて!!」
「俺はそれを望んでいる!! 姉さんがどう思おうと、どんな形であれ俺は姉さんに生きていて欲しいんだ!!」
「この、馬鹿野郎がぁ!!」
再び、剣とナイフが火花を散らす。二合、三合と打ち合い、再び両者は間合いを取った。
その時、トロデが叫ぶ。
「ハッサン、受け取れぃ!」
トロデが投げた小袋をテリーに隙が見えないように受け取る。
「なんだよ、コレ?」
「聖者の灰じゃ! 本来、錬金釜と共に使用して呪いの武具を聖なる武具に変える効果を持つ!
 灰単体の効果は未知数じゃがそれでも幾らかの効果は期待できる! 賭けになるが使ってみい!」
「無駄だ!」
テリーは再び斬り込んでくる。
ハッサンは袋から灰を掴み取ると、テリーに向かって振り撒いた!
その瞬間、テリーの剣から炎が迸って降り注ぐ灰を薙ぎ払う。
「火炎斬り!」
炎に包まれた灰は燃え尽きてテリーにまで届かない。
「無駄だと言った……何!?」

その時、ハッサンの身体が発光し、テリーの目を灼いた。
「オメー相手に簡単にいくとは思ってねぇよ! おら、まぶしい光ぃ!!」
眼が眩み、テリーの動きが一瞬止まる。
そして再び撒かれた聖者の灰は今度こそテリーの身体に降りかかった。
灰はテリーの身体を覆う黒いオーラに触れるや否や、まるでその力を吸収するように煌き、
黒いオーラを減衰させていく。そして同時にマホカンタも効果がきれ、光の壁は消滅した。
「な、なんだこれは!? ハッサン、何をした!」
「へ、トロデのおっさんの言うとおり効果はあったようだな!」
「クソォおおお!!」
苦し紛れに放ったテリーの袈裟斬りをハッサンはその首の僧房筋で受け止める。
「……大防御。どうした、テリー。剣筋が鈍ってるぜ!」
ハッサンは腰を深く落とし、真っすぐに相手を突いた!
渾身の力を込めた正拳突きが正確に般若の面を捉える。
面は鋭い音を立てて亀裂が入った。
 
 
「ギィア!」
「ちぃ!」
幾度目かのバーサーカーの猛襲をやり過ごし、ククールは肩で息をする。
ハッサンが前線を抜けたことで明らかに負担が大きい。
(くそ、アイツは疲れってものを知らないのか、全く攻撃が衰えない!
 このままじゃあ次の攻撃は凌ぎきれないな)
だが自分が抜かれれば、目の前の魔物は後ろにいる仲間に襲い掛かるだろう。
テリーを相手にしたまま、後ろから襲われたのでは一たまりもない。
(勝負に出るしか……ない!)
ボウガンの矢は残り4本。一発も無駄に出来ない。
(遠距離から射掛けたのでは奴の反射速度とあの剣に叩き落される。
 鉄球を回避し、接近した上で剣を振るわせてその隙を突くしかない!)
ククールは矢を番えて駆ける。
そこに思惑通り鉄球の攻撃がきた。
(まずこれを避ける!)
大きく避けるわけにはいかない。その分だけ相手に余裕を生むからだ。

致死の鉄球をギリギリで回避する。その際に左耳が削ぎ落とされ、血飛沫が飛び散るが気にしている暇はない。
(鉄球が奴の下に舞い戻る前に決着をつける!)
一発目の矢がボウガンから解き放たれる。
そして瞬時に矢を番えて二発目を放った。
時間差で放たれた二本の矢をバーサーカーははかぶさの剣で迎撃する。
ククールの背後で鉄球が着弾する音がした。
猶予はもう半秒もない。ククールは再び瞬速で矢を番える。
バーサーカーは最初の斬撃で一発目の矢を、続く斬り返しで二発目を叩き落した。
(こいつで終わりだ!)
そしてククールが止めの矢を放つ。
鉄球の帰還は間に合わない。手に持つ剣も二連撃を放ち硬直している。
バーサーカーにこの三発目の矢を防ぐ手段はない……筈だった。
バチィン、と弾ける様な音がして矢はバーサーカーの顔面に命中し、首を仰け反らせる。
「ぃよし!」
勝利を確信したククールの顔は一瞬後に青褪めた。
ぐるん、とバーサーカーの顔が縦に廻り、元に戻る。
その口には……矢がしっかりと歯で受け止められていた。
「んな馬鹿な!?」
普通のボウガンならいざ知らず、このビッグボウガンの矢を歯で受け止めるなど常識で考えられない。
受け止めた瞬間に歯と顎を砕いて口腔を貫くはずだ。
しかしバーサーカーの強靭な顎はその衝撃に耐えたのだ。
代償として何本かの歯が砕け、顎にヒビが入ったがバーサーカーは気にも留めなかった。
そして硬直から抜け出した右手を振り上げられ、はかぶさの剣がククールを襲う。
最初の斬撃はかろうじて胸部に赤い筋を一つ残すだけで済んだ。
しかし瞬時に続く二回目の残撃は……ククールの左腕を斬り飛ばした。
「ぐっぅああああああああああああああああああああああああああ」
痛みにのたうち、バーサーカーから逃れようと無様に地面を転がる。
しかしバーサーカーは容赦なく鉄球を持つ左腕を振りかぶった。鉄球は既に帰還している。

そして――振り下ろされた。

「ククールさん!」

しかし鉄球は飛ばなかった。破壊の鉄球を繋ぐ鎖になにかが絡み付いている。
それは加勢に来たマリアが振るう棘の鞭だった。
「ギゥア!」
「きゃああ!」
しかしバーサーカーの膂力の前にマリアは振り回され、地面に倒される。
そこに致命の刃が振り下ろされる……が、横合いから矢の一撃を受け、剣は地に落ちた。
「ぎゃお?」
「俺の、目の前で……レディを傷つけようとは……いい度胸だぜ」
「ぎぃあああ!!」
バーサーカーは地に落ちた剣を拾おうともせず、鞭が絡みついたままの破壊の鉄球を放り捨て、
ただ狩りを邪魔された怒りだけを持ってククールに襲い掛かった。
「待、……ってたぜ!」
ククールは未だ血を噴出している左腕の痛みを無視し、飛び掛ってくるバーサーカーに蹴りを放った。
バーサーカーは爪でその蹴りを受け止めようとするが、ククールの足は逆にその腕を絡め取るように
変化し、大腿部とふくらはぎの間に腕を挟みこむと突進の勢いを利用して地面へ引き倒した。
その瞬間ククールは体重をかけてバーサーカーの右腕を折る。
「ギィオオオ!」
これには流石のバーサーカーも苦悶の声を上げ、残った左腕でククールを払おうとする。
しかしククールも右膝で左腕を押さえつけ、バーサーカーの動きを完全に拘束した。
「悪いな。例えお前が絶世の美女だったとしてもこの場は情けをかけるわけにはいかないんだ。
 だが……せめて俺のとっておきをくれてやる!」
バーサーカーに馬乗りになった状態でククールは祈りを込めて十字を切った。
聖なるオーラがククールの右手に生まれ輝き叫ぶ。
攻撃の隙が大きく、今の今まで使えなかったククールの最大戦闘技。

「グランドクロス!!」

「ギャォ ――― 」
超至近距離から放たれた聖なる極光は、バーサーカーに断末魔を上げさせる間もなく
その身体を完全に分解し、消滅させた。

(むう、ククールめ。大分重傷を受けたようじゃがなんとか勝ったようじゃな)
気絶したククールに駆け寄っていくマリアを見てトロデは彼の勝利を確信する。
マリアは回復呪文の光を当て、介抱している。後は任せるしかない。
「ハッサン、向こうはケリがついたぞ! 心配するな!」
「おう!」
ハッサンはその報に力強く頷くと、再びテリーと向き合う。
「あとはお前だけだ、テリー。いい加減に目を覚ましやがれ」
「黙れ。俺はお前たちを皆殺しにするまで止まるわけにはいかないんだ」
テリーの被る般若の面は左目の部分が欠け、素顔の一部が覗いている。
しかし一時的に減退していた黒の気は再び力を盛り返しており、呪いは未だ強くテリーを覆っていた。
「ううむ、やはり聖者の灰といえどそれだけでは一時的に呪詛を緩和するのみか。
 呪いを消し去るにはやはり呪具を完全に破壊するか、錬金釜を使わなければ……」
「その必要はないよ」
「な……グボォッ」
突然聞こえた声に振り向くと、トロデの腹部には柄のみの剣を握った拳がめり込んでいた。
「な、おぬし……」
柄の突起が腹部の皮膚を裂き、紫の鮮血と肉を露出させる。
トロデはその場に倒れ、うずくまる。気絶はしなかったが激痛でまともに動くことができない。
「後で殺してあげる、今は……」
トロデを倒した少年、レックスはハッサンとテリーの方を向くと掌を翳す。
その時、戦っていたハッサンとテリーもその存在に気付いた。
「な、レックス? ! トロデのおっさん!!」
「あいつは姉さんを殺した……!」
テリーはハッサンの脇を抜けると剣を振りかざして突進する。
ハッサンもまた一呼吸遅れて走り出す。
しかし……全ては遅かった。

「ギガデイン!!」

甲高い声と共に青銀の稲妻が迸る。

それと同時に少年の指に嵌っていた指輪が澄んだ音を立てて砕け散った。
「くぅああああああっ」
「ぐぅおおおおおおっ」
至近に迫っていたテリーも、その背後にいたハッサンもまともに電撃を浴びて倒れる。
衝撃でテリーの面はさらに亀裂が走り、砕け散って左半面が露出する。
ビクン、ビクンと痙攣し、全身を焦がしたその二人の姿……明らかな致命傷だった。
その二人の姿を見て、トロデはうずくまりながらも嘆く。
「おおお、ハッサンよ……テリーよぉ……なんということじゃ」
「あれあれ、まだ生きてるね。しぶといなぁ」
レックスは酷薄な笑みを浮かべると二人に止めを刺そうと近付いてく。
動くことも出来ないトロデは黙ってそれを見続けるしかなかった。
(幼子と思い、手足を縛るまではしなかったワシのミスじゃ……。
 許せ、ハッサン……テリーよ……)
そしてレックスがテリーの握っていたさざなみの剣を取り上げた時、彼は、立ち上がった。
ハッサン。彼はもはや長くはない命の最期の力を振り絞って立ち上がっていた。
「へぇ、ギガデインを喰らって立ち上がるなんて凄い体力だね。驚いちゃった」
「レ……ックス。呪いの力は……半減してるはずだ……目ぇ覚ませ!
 お前は……本当は……こんなことが出来る奴じゃねぇはずだろう……」
「うん、でもこうなっちゃったからには仕方ないんだ。もう後戻り出来ないなら前に進むしかない。
 そして全てをなかったことにしてタバサと暮らすんだ。それしかないんだよ」
「違う! お前は、まだ……ミレーユだって……」
「違わないよ」
ずぶり、と鈍い音と共にさざなみの剣がハッサンの心臓を貫く。
ごぶり、と喉から血を溢れさせて、ハッサンはその場に崩れ落ちた。
「畜生……俺は、何も……できないで……畜、生……」
それが、ハッサンの最期の言葉だった。
レックスはハッサンの死体を一瞥すると今度はテリーに向き直った。
剣を、振り上げる。
「お姉さんと同じ場所に送ってあげるよ。やっぱり姉弟は仲良くしなきゃね」
そして振り下ろす瞬間、レックスは振り向いて呪文を唱えた。
「フバーハ!」
レックスの前面に生まれ出る光の幕が炎の波を追い返す。

しかしそれでもいくらかの火炎は幕を突き破り、レックスの肌を炙った。
「く、一体誰?」
視線の先にいたのは、いつの間にかいかずちの杖を拾い上げていたマリアだった。
「おじさま、逃げてください!」
「む……う、そうしたいのじゃが身体が動かん……マリア王女。
 どうせワシは助からん……この上はおぬしだけでも逃げるのじゃ。ククールも同じ気持ちじゃろう」
「弱気になってはいけませんわ、おじさま。ならばこの場でレックス君を無力化します!」
マリアはトロデを庇うようにレックスの前に立ちはだかる。
トロデは魔物になったことで人間の身体よりも多少頑丈になっていたが、
それでも腹部の傷は深く今しばらくは動くことは出来ない。
ククールはマリアの呪文と応急処置によって止血だけは終わっているが、未だ予断を許さない重傷だ。
ハッサンは既に息絶え、テリーも最早長くはない。
そんな絶望的な状況で脂汗を垂らしながらもマリアは敢然と立っていた。
「へぇ、そうだね。そういえばお姉さんには何度も眠らされちゃったっけ……」
ニヤリと笑うとレックスは剣を翳し、光の壁を生み出す。
それを見てマリアの顔はいっそう蒼醒めた。
「これで呪文は僕には効かない。さぁ、どうやって僕を無力化するつもりなのかな?」
「そ、それは……」
「もちろん悪い子には折檻です!!」
「「!?」」
近くの丘の向こうから突如として聞こえてきた声に驚き、みな一斉にその場所を見た。
馬の嘶きが聞こえ、蹄の音が鳴り響き、そして……それは現れた。
小さな丘を軽々と飛び越える白馬。その背に乗っているのは覆面を被った変態と、旅装の少女だった。
近くまで来ると二人は馬から飛び降りて、レックスと対峙する。
「な、なんなの?」

「なんだかんだと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」'

少女が、覆面が、交互に口上をあげ始める。

「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の正義を貫く」
「ラブリィー、チャーミィーな主人公!」

「アリス!」 「カンダタ!」

「世界を駆けるロトの勇者の行く手には!」
「光溢れる、白い明日が待ってるぜ!」

「ヒヒ〜〜〜ン」

最期に白馬がいななき、彼女達の口上は終わったらしい。
アリスと名乗った少女は周囲の惨状を確認し、眉を顰めた。
「な、なんですの?」
急に現れて場違いな名乗りを上げる少女達にマリアは狼狽する。
(しかもロトですって? あんな少女が?)
まさか大男の方ではないと思いたい。
アリスは悲しそうな顔でレックスに尋ねる。
「この惨状は君がやったんですか?」
レックスは少しビックリしていたようだったが、その質問に薄く笑みを浮かべると楽しそうに答えた。
「うん、半分くらいはそうだよ。そっちに倒れてる二人のお兄さんは僕がやっちゃった。
 向こうにいるお兄さんは別の魔物と戦ってやられたみたいだね。ま、すぐに殺すつもりだったけど」
アリスはレックスが指差した方向をチラリ、と見る。
そして今度はマリアに尋ねた。
「あなたはこのゲームに乗っているんですか? 魔物を庇うようにしていますが」
「な、おじさまは魔物ではありません! 呪いによって姿を変えられているだけです!」
マリアは慌てて抗弁する。その必死さを見て――
「なるほど」
アリスは素直に頷く。
嘘を言っているようには見えないし、何よりも何故か彼女に親近感が持てた。

「カルロスやサブリナと同様の呪いですか。カンダタ!」
「へい!」
「向こうに倒れている人と魔物をファルシオンに乗せなさい! そしてあなた……」
「マリアです」
「マリアさんはファルシオン、あの白馬を引いてアリアハンまで……」
テキパキと指示を出すアリスを慌てたように遮る声がある。
「ちょっと、何を勝手に話を進めているのさ。僕を無視しないでよ!
 ここにいる全員、僕が殺すんだ!」
斬りかかってきたレックスを手に持つブーメランで受け止める。
「何故です!? そんなことをしてもあのハーゴンが喜ぶだけでしょう!
 倒すべきはハーゴンであり、私たちが殺しあうべきではありません!!」
アリスは力任せにレックスをはじき飛ばす。
体重差で劣るレックスは軽々と飛ばされるが、空中で体勢を整え、危なげなく着地した。
「アリスさん、と仰いましたわね。あの少年、レックス君は皆殺しの剣の呪いに囚われているんです!」
その言葉にアリスはレックスの右手に握られている剣の柄を見る。
確かに禍々しい邪気がそこから漏れ出ているのが解った。
「そうさ、僕は呪いに苦しめられている可哀相な子供なんだ。そんな子供と戦える? お姉さん」
からかうように笑うレックスを無視してアリスはマリアに質問する。
「呪いを解く方法は?」
「解りません。あの剣の柄を完全に破壊するか……神父さまと同じ解呪の力を持つアイテムか
 呪文くらいしか……」
「サマンサならシャナクが使えますけど、都合よくここに現れてくれるはずはないでしょうね……」
その時、ククールとトロデをファルシオンに乗せ終えたカンダタがやってきた。
「姐さん、準備できました。それとこれを……」
カンダタは拾った隼の剣をアリスに渡す。自身は破壊の鉄球を携えていた。
「ええ、ありがとう。マリアさん、あなたは彼らを連れてここを離れてください。
 後は私たちが何とかします」
その言葉にマリアはいくらか逡巡していたようだが、意を決すると深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。宜しくお願いします」
手綱を取るとアリアハンの方に向けて駆け出す。
(あの青い服の武器を持った男がいる可能性がありますけど、おじさまとククールさんの治療するには
 町の方がよりよいのは事実。ここは仕方ありません)

マリアは倒れたハッサン、テリーの方を見て少し目を閉じると、手綱を引いて走り出した。
(ハッサンさん、テリーさん、このような企ては必ず止めて見せます。だから……せめて安らかに……)
 
 
馬を引いてこの場を離れるマリアを見て、レックスは呪文を唱える。
「逃がさないよ! 竜の吐息よ、この掌に宿れ ――ベギラマ!!」
レックスの掌から焦熱波が迸り、マリアへと疾走る。
しかしその間にアリスが立ちはだかり、また呪文を唱えた。
「竜の吐息よ、この掌に宿れ ――ベギラマ!」
全く同じ呪文が全く同じ威力でぶつかり合い、互いの威力を相殺する。
「邪魔しないでよ!」
「いいえ、邪魔させてもらいます。カンダタ、援護を!」
「了解っす!」
破壊の鉄球が唸りをあげ、レックスを強襲する。
レックスはそれを横飛びに回避するが、そこにアリスが走りこんでいた。
「二人がかりなんてズルイよ!」
「競技ならいざ知らず、仲間と共に悪を討つのはズルではありません!」
二人の勇者が振るう刃が撃ち鳴り、周囲の空気を震わす。
(この子、強い! でも、このままなら!)
(うわぁ、このお姉さん強いよ! このままじゃ……)
レックスは状況の劣勢に、逃走を考え始める。
しかし即席の連携といえど、アリスとカンダタはレックスにその余裕を与えなかった。
結果、レックスはよく戦ったといえる。
しかし呪文を詠唱する暇も与えられず、アリスとカンダタの連携の前についに力尽きた。
キン、と金属音が鳴ってさざなみの剣が跳ね飛ばされる。
武器を失ったレックスは力なくその場にぺたん、と尻餅をついた。
力なく俯く。

「僕を、どうするの?」
「安心してください、どうもしません。戦意が無くなればそれで充分、一緒に行きましょう」

その言葉にレックスとカンダタは驚愕する。

「本気なの! 僕をそのままにしておいたらまた誰か殺すよ!?」
「姐さん、どういうつもりですかい? せめて手足縛って猿轡くらいは……」
一気にまくし立てる二人にゆっくりと首を横に振る。
そしてアリスは優しい声でレックスに告げた。

「君は、もう呪われていないでしょう?」

心臓を、貫かれた、気がした。

ブルブルと震えながら、レックスはその言葉を否定する。
「ち、違うよ……僕は呪われてるんだ。だから今までたくさんの人を殺して……、
 もう、戻れないんだよ」
アリスは諭すように語り掛ける。
「確かにその剣を手にした時はそうだったかも知れません。
 でもその剣が折れたとき、君はその呪縛から抜け出せていたのではないですか?」
「違う! だったら僕は勇者としてハーゴンと戦おうとしていた筈だよ!
 でも僕はそれからも人を……もう僕は戻れないんだよ!!」
「いいえ、そんなことはありません」
アリスには確信があった。
レックスと剣を撃ちあい、生死を賭けた戦闘の中で悟った真実。
彼の剣は、それに込められた意思は邪悪なものではなかった。
アリスが感じ取ったレックスの思念。それは、後悔と懺悔、そして恐怖。
彼の精神は呪いが弱まった時に既にそれを無効化していた。
そして彼は自分の行いを全て呪いに責任転嫁をして、罪の意識から逃れようとしていたのだ。
レックスは強い。しかし、その心は年相応な弱さを持っていた。
だから本当の自分を心の奥底に閉じ込め、呪われた自分というもう一人の存在を生み出した。
その根幹にある思いは一つ。

死にたくない(タバサに逢いたい)

その思いが、彼に自分自身さえも欺かせた。
もう戻れない、そう暗示をかけて彼は真実の心を覆い隠した。

彼は呪われてなどいなかった。既に解放されていたのだ。

「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! そんなの嘘だ!
 僕は呪われてなきゃいけないんだ! じゃないと、じゃないと……」

レックスは涙をボロボロと流して必死に否定する。
そんな彼をアリスはゆっくりと抱きしめた。
「レックスくん。人は間違いをするものです。私だって何度間違ったか知れません。
 ここにいるカンダタもかつては大悪党だったのです。でも今は正義の為にここにいます。
 君は、もう戻れないといった。でもそんなことはありません。手遅れなんてありません」
レックスはもう応えない。ただ嗚咽を繰り返すのみだ。
カンダタは何も言わずにじっと立っていた。
「人は生きている限り償えます。君が犯してしまった罪はとても重いものかもしれない。
 一生かかっても許してもらえないかもしれない。ずっと責められ続けるかもしれない。
 でも、戻れないなんて事は無い。償う心がある限り、私たちは正しい道に戻れるのです」
アリスはレックスを胸から離すとその瞳を見つめる。
「君は、間違ってしまいました。でも、やり直せます。
 私も、このカンダタも手伝います。…… 一緒に、行きましょう?」
レックスはしゃくりあげながら、アリスを見た。
「ヒック、……いいのかなぁ? ヒック、ヒック、僕は、本当に……戻れる、のかな?」
「ええ、きっと」
アリスは力強く頷く。
カラン、とレックスの手から皆殺しの剣の柄が零れ落ちる。

このとき、本当の意味でレックスは呪いから解き放たれた。

どれだけの時間が経ったか。
レックスはしばらくアリスの胸で泣き続けた後、両手でグシャグシャになった顔を拭う。
そしてしっかりとアリスを見た。
「ありがとうお姉さん……僕、何ができるか解らないけど、まずあの人たちに謝ります。
 そしてハーゴンと戦います。そして……そして、僕は……」

アリスは嬉しそうにその言葉にうん、うん、と頷く。
カンダタも微笑ましくその光景を眺めていた。
そして、レックスは、何かを、言おうとして――――
 
 
暗い……暗い……暗い……ここはどこだ。
俺は一体何をしている。
そうだ、俺はハッサンと戦っていて……姉さんの仇が……。

薄っすらと目を開ける。まず目に入ったのは月だった。
視界が白く染まり、眩しい。
仰向けの状態からごろん、と転がりうつぶせになる。その際に全身を激痛が走った。
ぼんやりとした視界が痛みでハッキリとする。
側にはハッサンが倒れていた。

……死んでいた。

誰に、とは思わなかった。自分が犯人でない以上、殺した相手は決まっている。
ゆっくりと辺りを見回した。
見分けられないほど遠くではなく、手の届くほど近くでもない。
そんな場所に三人の男女がいた。二人は知らない奴だった。
しかし、最後の一人。忘れられるはずも無い。
姉さんの、ハッサンの……そして自分の仇。
彼の右半面に張り付いている般若の面の残骸が殺意を伝えてくる。
自分はもう死ぬ。ならば、せめて一矢報いなければ。

奴を、殺さなければ。

彼……テリーはザックからボウガンを取り出すと矢を番えた。
ボロボロの腕が震えて、上手く狙いを定めることが出来ない。
そうしている間にも彼の命はポロポロと零れ落ちていく。
ただでさえ、ぼんやりとしていた視界が更にぼやけていく。

意識が朦朧として、今にも死の淵から足を踏み外しそうだ。
彼の力はどんどんと削ぎ落とされ、すでに狙いをつけられるような状態ではなかった。
そして……彼の命の灯が消えるその瞬間。
テリーの視界に色が戻った。腕に力が戻った。それは燃え尽きるろうそくの最期の燃焼。

彼は……引鉄を――引いた。

飛び出した矢は一直線に疾走り、レックスの胸を背後から刺し貫いた。
何かを口にしようとしていたレックスは言葉の代わりに口から血を零し、倒れた。
一瞬、アリスは何事が起こったのか理解できなかった。そして事態を悟ると慌てて呪文を唱える。
「レックスくん、レックスくん、しっかりしなさい! 君は生きなければいけません!!」
必死に呼びかけ、傷口に治癒の光を当て続ける。

致命傷、だった。

カンダタは雄叫びをあげ、矢の飛んできた方向に駆け出していった。
ボウガンを構えていたテリーを見つけ、引き摺り起こし、拳を振りかぶって……そして止まった。
既に、死んでいたから。
カンダタはテリーを地に下ろすと、やるせなく、地面に拳を突き立てた。

「い、やだよ……お姉さん、死にたく、ない……僕は……まだ、償って……ない……」
「大丈夫、助けます! 死なせるものですか!」
アリスはそういって呪文を唱え続ける。頭では無駄だとわかっていても。
彼女はその行動を止めようとはしなかった。
「死にたくないよ……お、父さん……母……さ、タバサ……僕は……」
「大丈夫、大丈夫、絶対に大丈夫です」

何度繰り返しただろう。

どれだけの時間が経っただろう。

気付いた時には ――ー 

            ――― もう、声は……聞こえなくなっていた。
 
 
 
一陣の風が吹き、マリアは振り返った。
あのロトを名乗った少女は大丈夫だろうか。
奇妙な親近感を感じたあの不思議な少女は。
その時、馬上から声が降ってきた。
「ぐ、ここ、は? 俺は……ぐあ!」
「ククールさん、目が覚めましたか? 今はある人に助けられて馬でアリアハンに向かっているところです」
ククールは自分の身体を見て、状況を大体把握したようだ。
呪文を唱え、自分の傷を癒し始める。そして自分の前、馬の鬣に絡まっているトロデを見つける。
ぐったりとしていてピクリとも動かない。
「く、トロデ王も結構な重傷のようだな」
「はい、なんとか止血までは終わりましたけど早く安全な場所で治療しないと」
といってもククールもマリアも魔力に余裕がなくなってきている。
このままでは……危ないかもしれない。
「ハッサンは?」
「………」
マリアは静かに首を振る。
それで全てを悟ったようにククールは天を仰いだ。
「馬鹿、野郎……」
その時、進行方向に一人の神官服の男が現れた。
「誰です?」
「あやしいものではありません。私はアリスさんの仲間です!」
「彼女の?」
その実直そうな青年はマリアたちに駆け寄ると回復呪文を唱え始めた。
「私も治癒呪文はいくらかの心得があります。手伝わせてください」
「助かります! これでアリアハンまで持つでしょう、ありがとうございます」

深々と頭を下げるマリアに神官、クリフトは手を振って見せる。
「いえ、困った時はお互いさま。さぁ急ぎましょう、早く安全な場所へ行かなくては」
クリフトはマリアの代わりに手綱を引くと、歩き始めた。
(くく、この満身創痍の集団。すぐに殺そうかと思いましたが、やはり念を入れておかなくては。
 この女性などはまだ余力があるようですからね。信用させて、元気なものから順に消していきましょう)
心の中で彼は哂う。
その後姿をククールは目を細めて見つめていた。
(なんだ、胡散臭い野郎だ……だが回復呪文をかけてくれたのは事実。しばらくは様子を見るか……)
それぞれの思惑の中、彼らは進む。
そして、町の門が見えてきた。
 
 
低く嗚咽する声が風に流れている。
カンダタはレックスを抱きしめたままのアリスに何も言えず、側に立ち尽くしていた。
ここを離れなければいけない。
しかし今のアリスに声を掛けることは躊躇われた。
死んでいった者たちの埋葬でもしよう。
そう考え、カンダタはゆっくりと周囲を見渡した。

――それに気付いたのは偶然だった。

平原の、草を掻き分けて何かが移動している。
しかしそこには何も見えない。
草はひとりでに左右に分かれていっているのか。
しかしその方向はゆっくりと、しかし確実にアリスの方に近付いていた。
カンダタの背筋に悪寒が走る。
その時思い出した。きえさりそうという不思議な草の存在を。
何も、考えなかった。
ただ、飛び出して「それ」とアリスの間に躍り出た。

「姐さん!!」
 
 
アリスが振り向く。
その時には既にカンダタの右肩には不可視の牙が喰い込んでいた。
鮮血が噴出す。
「ぐぎゃぁあああああああああああ」
「カンダタァ!!」
カンダタが絶叫をあげる。
アリスは呪文を唱えるとカンダタを銜えている見えない何かに向かって放った。

「姿を現しなさい、妖怪! メラ!」

小さな火の玉はその何か、に命中してその姿を浮かび上がらせる。
それは5つの首を持つ巨大な竜。

「あなたは……ヒミコ。いやさ、やまたのおろち!!」
「くくくくく、高みの見物を決め込んでみれば思わぬところで思わぬ獲物と出会えたものよ……。
 うれしや、うれしや」
「カンダタを離しなさい!」
アリスは隼の剣を構えるとおろちの首の一つに斬りかかった。
しかしおろちは銜えたカンダタをアリスの目の前に動かす。さながら盾にするように。
アリスが攻撃を躊躇ったその瞬間に別の首がアリスに体当たりをかまし、撥ね飛ばす。
「あぁああ!」
「ぐ、あ、姐さん!!」
カンダタは見た。
アリスが血を流して宙を舞っているのを。
それは、カンダタが人質に取られたせいで起こった事態。

彼女の力になるのが望みだった。
理不尽な命令をされても嬉しかった。
姐さんの力になれていることが嬉しかった。

それが、今は、枷に、なっている。

「ふ、ざ、け、ん、なぁああああ!!!」

カンダタは全身に力を漲らせ、右肩に食い込んでいる顎を外そうとする。
しかし右腕に力が入らず、ビクとも動かない。
ならば、とカンダタは逆に左腕で竜の首を絞め始めた。
ビキ、っと骨にヒビが入る音がする。
「な、何をしておるか! 虫けら風情が、調子に……」
「調子に乗ってんなぁ……テメェだぁっ!!」
バキィっと言う音が響き、カンダタの肉と、骨と、竜の顎は砕け散った。
激痛におろちの残りの頭が咆哮をあげる。
そして支えを失ったカンダタは地面に落下した。
「へ、へへ……ざまぁみやがれ……」
そう呟いた後、カンダタの喉から血が溢れた。
ゴボゴボ、と嫌な音を立てて覆面が赤く染まっていく。
薄れいく意識の中、カンダタはアリスの幻影を見た。
カンダタを見て泣き叫んでいる。そんなのは有り得るはずないのに……。
しかしせっかくの末期の夢。堪能するにやぶさかであろうはずもない。
泣きじゃくるアリスに向かってカンダタは笑った。
――へへ、姐さん。何泣いてるんですかい……
――どうです? みてくれましか今の
――あんなでかい竜の頭をぶっ潰したんですぜ……
――格好よかったでしょ? あっしぁ、姐さんのためなら……
 
 
「馬鹿、格好よすぎなんですよ……子分が……私より目立つんじゃありません……」
アリスはカンダタに向かって苦言を吐く。泣きながら、もう答えないカンダタに。
ゆらり、と月明かりが遮られ、アリスに影が落ちた。
アリスはゆっくりと立ち上がりその影を生み出した存在へと振り向く。
「ゆ、油断したわ……だが……この好機、退きはせぬ、退きはせぬぞぉ!
 アリスよ、我が憎き仇よ。ゲームなどはどうでもよい。我が命もどうでもよい。
 ただ、おぬしを喰らう為にわらわはここに在るのじゃ!! わらわの糧となれぃ!!」

一つ欠けた四匹の竜が一斉にアリスへと向かって襲い掛かる。

「やまたのおろち。私からカンダタを奪ったこと、許せません!!
 再び冥府へと送り返してあげます!!」
アリスは襲い来る竜に臆することなく、悪意の真っ只中へと飛び込んでいった。
 
 
長かった戦いは最終局面を迎えようとしていた。


【D-4/アリアハン北の平原→アリアハンへ/夜】

【トロデ@DQ8】
[状態]:HP1/5 意識朦朧 腹部に深い裂傷(止血) 服はボロボロ 全身に軽度の切り傷 馬上
[装備]:白馬ファルシオン
[道具]:支給品一式(不明の品が1?) 大錬金釜 ミレーユの通常支給品
[思考]:??? レックスの呪いを解く方法を探す 打倒ハーゴン

【マリア@DQ2ムーンブルク王女】
[状態]:HP3/5 MP1/3 服はボロボロ 全身に軽度の切り傷 徒歩
[装備]:いかずちの杖
[道具]:支給品一式(不明の品が1〜2?) ※小さなメダル 毒薬瓶
[思考]:トロデの治療 アリアハンに向かう 打倒ハーゴン 竜王(アレン)を倒す

【ククール@DQ8】
[状態]:HP1/6 MP1/2 右腕に火傷(半分回復) 疲労 左腕切断(止血) 左耳喪失 馬上
[装備]:ビッグボウガン(矢 0)
[道具]:天馬の手綱 インテリめがね アリアハン城の呪文書×6(何か書いてある)
[思考]:自分の治療 クリフトを怪しんでいる マルチェロを止める 竜王(アレン)と話す

【クリフト@DQ4】
[状態]:左足に火傷(ある程度治癒) 背中に火傷(ある程度治癒) MP1/2程度  手綱を引いている
[装備]:なし
[道具]:祝福サギの杖[7]
[思考]:マリアたちと同行し、油断させて殺す アリスとカンダタを利用し、自分の護衛をさせる
     自分が優勝し、アリーナを復活させてもらって元の世界へ帰る

【D-4/アリアハン北の平原/夜】

【ヒミコ@DQ3】
[状態]:HP3/5 頭が一つ潰れている
[装備]:なし
[道具]:ホットストーン
[思考]:アリスを喰らう 幾人か喰らい傷を癒す サマンサを喰らう

【アリス@DQ3女勇者】
[状態]:HP3/5 MP2/3
[装備]:炎のブーメラン  隼の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:ヒミコを倒す

※棘の鞭、ミラーシールドはバーサーカーの居た場所に放置されています。
※レックスの道具(さざなみの剣 折れた皆殺しの剣 王者のマント)
 ハッサンの道具(聖なるナイフ まだらくも糸 魔物のエサ)
 テリーの道具(ボウガン 鉄の矢(29) イーグルダガー)
 カンダタの道具(破壊の鉄球 ロトのしるし(聖なる守り))
 以上はそれぞれの場所に放置されています。

【バーサーカー@DQ2 死亡】
【レックス@DQ5王子 死亡】
【ハッサン@DQ6 死亡】
【テリー@DQ6 死亡】
【カンダタ@DQ3 死亡】
【残り20名】


<<BACK [ 本編一覧 ] NEXT>>


-Aqua System 2007-