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[No.77]
 明星よ、見よ[1]
【登場人物】
エイト、キーファ、アリーナ、アトラス

ベリアルとの激戦から数刻後…、レーベの村。
エイトとアリーナは村内を探索していた。
一方、最後の一撃を放ったキーファはと言うと、ベリアルを倒したすぐ側でそのまま待っている。
キーファは先に到着して何もなかったことを知っているし、何より立って歩くのが億劫に感じたのだ。
なんとか呪文により傷こそ閉じたものの、失った血液、体力、疲労はどうしようもない物だった。
自身の状態はさておき、探索の結果は二人に伝えたが、それでも二人は自分の目で確認したかった。
もしかしたら、もしかしたら何か手がかりは無いものかと……。

しかし、確かに何もない。
人がいないこと、相次ぐ激戦のため施設のいくらかが倒壊していること、この二つを除けばごく普通のありふれた村そのものであった。
一応、家屋の中も確認したが、人っ子一人どころか獣の類すら見つけることは叶わなかった。
その異常に背筋が薄ら寒くなる。
家屋の中の様子は、まるで今しがたまで人がいたようで、にもかかわらず、どこにも全く生き物の気配がしないというのはあまりに異常であった。
―これがハーゴンの魔力によるものなのか。
二人はこの事実に、不覚にも怒りより恐れを抱いてしまった。
それに気付いたのかお互いが顔を見合わせる。
その表情から、共に思ったことが同じであるということが伺い知れた。
―なんて弱気な。
そんな自分自身に憤る。
「戻りましょう」
エイトが口火を切った。
こんな風に感じてしまうのは、自分たちが消耗しているためだ。
そのためこんな弱気になるのだ、そう考えたからだ。

戻ってみると、キーファはうつらうつらとした様子であった。
先程まで力尽き気絶していたのだ、エイトもアリーナも無理もないことだと思う。
それでも、キーファは近くに二人を認めると目を覚まし明るく話しかけた。
「やぁ、わりぃわりぃ。つい陽射しもポカポカと気持ちいいもんだから、うっかりしてたよ」
と、誤魔化す。そして、
「村の様子はどうだった?」
と、続ける。その声にはいくらか良い答えを期待した、希望的な響きがあった。
『何もないから待つ』と言ったとはいえ、何かあればいい。そう思っているのはキーファも同じだった。
その様子に努めて明るくアリーナが答える。両手を上げたジェスチャーも加えながら、
「ダメね〜、ほんとに何もないわ」
やんなっちゃう、といった調子で答える。
「…そっか」
キーファも努めて暗くならず、はにかみながら答えた。
勝利を収めたとはいえ、全員が全員疲労しすぎていた。

ぽり、ぽりと乾物をかじる。
申し訳ないとは思いながら酒を咽喉に流し込む。
それで、ようやく生き返ったような気がした。
そういえば朝から歩き通しの戦い通しで、ろくに食事もしてなかったじゃないかとエイトは苦笑する。
出来れば、支給品だけで難をしのぎたかったが、パンだけでは消耗した体力を回復するのにあまりに心許なかった。
そのため、村にあった備蓄の一部を拝借しているのである。
この時もうまくキーファが場をとりもった。
無論、キーファとてそんな野盗のような真似はしたくない。
しかし、蒼白な面持ちの二人の様子に、そうしなければいけないと感じたのだ。
道化を演じるのは苦手じゃない。
案外それは、普段からアルスとマリベルと、二人の兄貴分として面倒をみてきた経験からかもしれない。
(実は面倒を見ているつもりで見られていることも多かったが)

……ひょんなことから二人を思い出し、ふっと遠くをキーファは見やる。
過ぎたことは悔いても仕方が無い。
既に同郷の仲間二人がこの世にいないであろうこと、それは確信に変わっていた。
(しかし、お前達の無念は晴らすぞ。)
ランドのことも思い決意を改める。そして、キーファは語った。
このゲームに仕込まれた恐るべき陰謀を。

「私達みんなが生贄ですって!?」
「破壊神の復活……!」
会場内で見たあの男の邪悪な雰囲気。この狂気とも言えるゲームの内容。確かに全てが合点がいった。
エイトも、アリーナも、元よりこのゲームに乗る気は無かったが、それを聞いてはますますであった。
<<この危機を他の参加者にも知らせなければいけない!>>
一同の意見は一つにまとまった。

が、ひとまず、しばらくはこの村を拠点として休息を取ることとなる。
キーファもアリーナも著しく体力を消耗していたし、
エイトも、体力の消耗こそ小さいものの立て続けに呪文を使い続け、精神力の限界であった。
移動をするにしても、今しばらくは時間が必要だった。
それに、自分達と同じようにここを目指して訪れる人を期待してでもある。
人の集いそうな拠点となる場所は、地図を確認すれば、あとはここ以外は遥か南東の城のみ。
移動をしては逆に会えなくなる可能性の方が高い。人と出会うにはここを動かない方が得策であった。
無論、先の魔物のように忌むべき訪問者も考えられたが、まさか今しがた戦ったばかりである。
立て続けにあのような魔物が訪れることは無いであろう。
それ程の者で無ければ、たとえ敵意のある者が襲ってきたとしてこちらは3人。
滅多なことが起こる筈が無い、そう踏んだのであるが……。

ウォオオオオオオオ!
ザックの中身を広げ回復していた(幸か不幸か武器に恵まれなかったアリーナの支給品は回復用のアイテムだった)一行に雄叫びが聞こえる。
大地の震えはここまで届いた。
―近い!
一番窓の近くにいたのはエイトだった。ガッと窓に食いつき声のした方を見る。
爆発するかのように家屋が爆(は)ぜる!踏みつけられた地面が揺れた。
咆哮は空気を震わせ、エイトの頬をビリビリと振るわせた。
まるで炎、猛り狂う火炎。天変地異が舞い降りたのかとすら錯覚するその中心に、赤い巨人がいた。

アトラスは猛った、怒り狂った!悲しみに、親しんだ兄の死に!
レーベの村についてすぐ、横たわる黒い影を発見した。
しかし、それをそれとは認めたくなかった。
肩口から胸、腹まで裂け真っ黒に焼け焦げたそれ。余りに無惨に変わり果てた姿……。
だが、紛れもなく兄の姿そのものだった。
エイトに、アリーナに、キーファによって倒されたベリアルの骸だった。

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!
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