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[No.81]
 女の戦い[1]
【登場人物】
フローラ、ゼシカ

「ゼシカさん、とおっしゃいましたわね?」
「そうよ、アレフさんたちは追わせないわ」

毅然と立つゼシカを前にしてフローラはふぅ、と溜息をついた。
「仕方ありません、先に始末させて頂きますわ」
「お嬢様然としたなりの割には、大きな口をきくのね。さっきの私の呪文を見てもわかるでしょ?
 私は最上級呪文を扱えるレベルなのよ?」
「どれだけの威力の呪文であろうと当たらなければ意味はありませんわ」
「だったら!」
ゼシカは早口に呪文を唱え始める。先程と同じメラゾーマ。
しかし当てる気はない、今度もまた牽制のつもりだった。
相手が自分を脆弱な魔法使いと思っているなら好都合、フローラが呪文を避けている隙に
鍛え上げた格闘術で押さえ込むというのがゼシカの戦術だった。
「メラゾーマ!」
フローラの目の前に着弾するように放つ。
そしてそれを追うようにゼシカも駆ける、が信じられないものを見た。
なんとフローラもそれに合わせるように前に駆け出している。
(しまった! 何やってるのあの女!?)
当たらないようにわざわざ外した業火球に自分から当たりにいっているフローラを見てゼシカは毒づく。
(殺しちゃう!)
しかしその心配は杞憂に終わる。そして同時に窮地が待っていた。
「マホカンタ!」
言葉と共にフローラの前に光の壁が現れ、メラゾーマを跳ね返した。
人ひとりを焼き尽くすのに充分な熱量が今度は自分に向かって来るのを見てゼシカは驚愕する。
すぐに回避行動に移るが、そこに追撃がきた。
「メラゾーマ!」…メラゾーマ!』
「!?」
フローラがゼシカのお株を奪うかのようにメラゾーマを唱える。
山彦の帽子の効果で二重奏となり、合計で3つの灼熱がゼシカに襲い掛かった。

「ーーーーーーーーッッ!」

轟音が一切の音を掻き消し、ゼシカの姿は炎の中に消え、紅蓮の破壊が周囲に撒き散らされる。
たちこめる熱気と土煙に向かってフローラは不敵に微笑んだ。

「ウフフ……最上級呪文三発同時はお気に召しまして?
 以前、愛しい人の側にいる為にと数年ほど修行を致しまして……結局無駄に終わったと思っていたのですが
 人生なにが役に立つのかわからないものですわね……」
「ええ……全くだわ」
「!?」

土煙が晴れたそこには全身を焦がしながらも五体無事にゼシカが立っている。
「格闘の修行をしていて良かったとこれほど思ったことはないわね」
ゼシカの格闘の腕はクイーン・オブ・グラップラーと呼ばれるほどにまで成長していた。
彼女はそれによって得た技の一つ、真空波を繰り出すことにより空気流のバリアーを作り出し
メラゾーマの炎の直撃を防いでいたのだ。
だがやはり3発分のエネルギーは荷が重く、ゼシカの左腕は重度の火傷で動かなくなっていた。
もう同じ防御方法は使えないだろう。
魔法は跳ね返される。防御はできない。
「なら、攻撃は最大の防御!」
向かってくるゼシカを見てフローラは慌てて毒針を取り出す。
「遅い!」
「きゃあっ!」
しかし一瞬で手を蹴り上げられ、毒針はあらぬ方向へ飛んでいった。
フローラはそれでも平手を見舞おうとしたが、ゼシカはその腕を取り、捻り上げると
地面に倒し、うつぶせに組み伏せた。
「観念しなさい!」
「だ、誰が〜〜」
この期に及んでも戦意を失わないフローラにゼシカは声を荒げる。

「こんなゲームに乗って何になるのよ! よしんば優勝したとしてあの男が約束を守る保障なんてどこにもないじゃない!
 殺し合いを強制するような奴なのよ!?」

「う……ふふふふふ、あなたには……わからないでしょうね。常に絶望と共に生きてきたものの気持ちは。
 愛する人が華やかな場所にいるのに、自分の居場所はそこにはない。遠くからみじめにそこを見つめるだけ。
 死さえ頭にあったあの絶望の淵から全てをやりなおすチャンスを与えられたのですよ?
 飛びつかない手はないでしょう? 例え誰を犠牲にしても私はこの機会を逃さない!
 必ずあの人の愛を手に入れてみせる!!」

そのフローラの告白にゼシカは顔を歪める。
「哀しいよ、それって……」
「同情するのなら死んで頂けません!? バイキルト!」
「しまっ」
瞬間的に倍以上に増幅された腕力によってゼシカは振りほどかれはじき飛ばされる。
受身を取って態勢を立て直すが、フローラを見ると既に黒い金属の筒を構えこちらに向けていた。
背筋に悪寒が走り、咄嗟に横っ飛びに避ける。

パンッ、パンッ、パンッ、

乾いた炸裂音とともに二度地面が弾け、三度目はゼシカの左肩が弾けた。
「うああぁッッ」
左肩を押さえ、ゴロゴロと転がる。
(なにあれ!? 攻撃が見えない!)
「うふふ、憎憎しい、その豊満な体……私のように焼け爛れてもらいましょうか?
 ベギラゴン!」…ベギラゴン!』
フローラの両の掌から二頭の火龍がゼシカに向かって放たれる。
メラゾーマと違い広範囲に広がる熱波は例え真空波を撃てたとしても防ぎきれるものではない。
「でも……こんなところで死んでるようじゃ兄さんやエイトたちに申し開きできないのよ!」
ゼシカのテンションがその高い魔力をさらに上昇させる。
「マヒャドッッ!」
ゼシカの放つ氷嵐は二頭の火龍を飲み込み、幾千の火の粉へと切り刻む。
「そんな、マヒャド一つでベギラゴン二発を相殺した!?」
「追撃のピンクタイフーン!!」
ゼシカの身体から巻き起こる桃色旋風が花吹雪とともにフローラを巻き込んだ。
フローラはそれによって動きと視界を遮られてしまう。
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女の戦い[1]
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