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[No.90]
 双竜激突――そして[1]
【登場人物】
サマンサ、ローラ、ゴン、ヒミコ、テリー

「ふふ、これで二人きりじゃのう」
楽しげに笑うヒミコの声にサマンサはうんざりと溜息をついた。
「いいでしょう、前と同じように焼き尽くして差し上げます」
そう言ってサマンサが手を掲げるとそこに赤光が生まれる。
それを見てヒミコもニヤリ、と哂った。
「ほう、それはこういう風にかえ?」
「!?」

ぼごりっ

ヒミコの左肩が異常に隆起したかと思うと竜の頭が飛び出てきた。
その顎から灼熱が漏れ出る。
その動作は――サマンサが呪文を唱えるより早かった。
轟、と空気を焼いて一直線に火線が伸びる。
「クッ、メラミ!!」
なんとか呪文の詠唱が間に合い、迫る炎に火球をぶつけ防御する。
空間が爆裂し、吹き荒れる熱風からサマンサは身を護るように身体を竦めた。
その瞬間、爆煙の中から竜の頭が現れパクリ、と口を裂いた。
「しま――」
避ける間もなくサマンサは竜の牙によって右肩の肉を喰い千切られてしまう。
「ぁあああああ!!」
鮮血が舞い、サマンサは地面を転げまわる。
煙が晴れ、ヒミコがその姿を現した。
既に両の肩から竜を具現させ、ニヤニヤとのたうつサマンサを見ている。
「クックック、美味じゃ。わらわの飢えた心がそなたの血によって満たされていくのが判るぞ……。
 だが足りぬ。次は……その白い手足のどれかを頂こうかのう!?」
双頭の竜が高速でサマンサに迫る。そしてヒミコの両腕もまた竜の頭へと変化し、合わせて四つの首が
連なり襲い掛かった。
サマンサは激痛を堪え、なんとか一頭目、二頭目の竜を回避するが、三頭目の竜に撥ね飛ばされ宙を舞う。
「そなたの弱点はその身の脆弱さよ! 遠方からの呪文は強力なれど接近戦においては無力。
 あのでいじーとか申す女戦士やありすの援護がなければわらわに抗すること敵わぬわ!」
地面に叩きつけられたサマンサを最後四頭目の竜が襲う。

そしてその白い右腕を銜えようとした瞬間、サマンサの姿が忽然と消え去り、空振りした。
「何?」
姿を消す呪文、レムオル。攻撃を回避しながらもサマンサはこの呪文を唱えていた。
消えている間は他の呪文を唱えることはできないが完全に近い隠密行動が可能になる。
「ふん、姿を消して呪文を唱えられる場まで逃げるつもりか、だが……無駄じゃ」
ヒミコの首が竜へと変化していき、その身体もまた巨大化し鱗に包まれる。
5つの首を持つ巨竜、やまたのおろちへと完全に変化すると、大きく息を吸い込んだ。
煉獄の炎が5つの首から全方位に放射され周囲一体を焦がす。
レムオルは姿が見えなくなるだけでその存在を消してしまうわけではない。
当然のこと炎の影響を受けることになる。
「きゃああ!」
虱潰しに巻かれた炎によってサマンサは燻りだされてしまう。
レムオルの効果が解け、サマンサの姿が現出する。
「そこじゃ!」
5つの首がサマンサに肉薄する。
しかしサマンサはヒミコが自分を補足し、迫るまでの僅かな時間に次の呪文を完成させていた。
「マヒャド!」
「ぐぬ!?」
広範囲に放射された冷波は一帯の炎を鎮火させ、おろちの足を止めた。
そしてさらにサマンサは呪文を唱える。
(今の私ではやはりやまたのおろちを相手に勝つことは出来ない。
 姿が醜くなるので敬遠してきましたが……仕方がない!)
「ドラゴラム!」
「なんじゃと!?」
サマンサが唱えたのは竜化の呪文。
その身体は光の粒子となって分解し、更に別の姿へと再構成されていく。
「おのれ!」
おろちはその光のシルエットに向かって激しい炎を浴びせかけるが、
そのシルエットもまた炎を吐き出し、中空で火炎がぶつかりあった。
相殺され、炎が弾け散る。
その向こうにおろちが見たものは……自身と同等の巨体を持った一匹のドラゴンだった。
「それでわらわと互角になったつもりかえ?」

「少なくともこれで倒せなければ私に手段は残されていないでしょうね。
 まぁお付き合いください」
「短い付き合いになるがな!」
「奇遇ですね、私もそのつもりです!」
おろちは身体を捻るとその長い尾を遠心力と共にサマンサに向けて繰り出した!
高速で打ち込まれた尻尾をサマンサはその顎で咥え受け止めると、思いきり首を振って投げ飛ばす!
「おおお!?」
その巨体が成す術も無く宙を舞い、側にあった巨岩を砕きつつ地面に叩きつけられる。
「ゴハァッ」
とどめを刺すべくサマンサは駆け、その鋭き爪を叩き込もうとした時。
その巨体に見合わぬ素早さで身を起こしたおろちの首の一つがその爪を牙で受け止める。
そして残り4つの牙がサマンサの鱗を引き裂いた。
「がぁあああ!」
激痛に吼えたところを痛烈な尾の一撃で吹っ飛ばされる。
ゴロゴロと転がり、身を立て直したところに火炎が浴びせかけられた。
肉の焦げる臭いが鼻腔を突くが、サマンサは痛みに構わず炎の中を突き進んだ。
まさに肉弾となっておろちの腹部に体当たりを食らわせる。
「ゲボォ」
火炎の代わりに輝く粘液を五つの口から吐き出し、おろちは膝を突く。

そして、それからもまた互いの爪が、牙が、尾が、炎が、互いの肉を裂き、喰い千切り、打ち、焼いた。
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